↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2話 森の精霊、竪琴奏者を丸め込む



 精霊の住処は、「巣」というには立派なものだった。

 カミーユは、葦で編んだ小さな祠のようなものを想像していたが、実際目にするとそれは立派に「家」と言えるものだった。


 普通に人が住める。贅沢を言わなければ、独り者に程よい住居と、言って差し支えないものだった。


 ただ一歩中に入ると、自然の息吹を感じさせるものばかり。


 テーブル代わりの丸太。草と蔓を編み布を被せたベッド。草で編んだ椀型のものは、カップ代わりだろうか。人が喜びそうな調度類はほぼ無い。


 森の精霊は、かれこれ一刻ほどベッドの上で眠っている。

 呼吸の度に、窓から入り込む光の粒が、精霊の体に染み込んでいく。


 カミーユは物珍しさと神々しさに、しばらくその様子を眺めていた。

 けれど、そんな不思議な様子も、20分も眺めていれば流石に飽きる。

 いまはベッドの横で、静かに竪琴を奏でていた。


 そうして数曲奏でたのち、ルーチェルに生気が宿り、目を覚ました。


「……人の子よ」


 またも威厳を演出するためか、精霊は大仰に呼び掛けた。


「先ほどは、取り乱したところを見せてしまいましたね」


「いえ!ご無事で何よりです。」


 竪琴を置き、少々ホッとした様子でカミーユは答えた。

 さっきと様子が違うな、カミーユは一瞬そう思った。


 しかし、そもそも精霊は人間の上位にいるものだ。自然の力を操ることができ、人に欠かせぬ自然の富、それこそ水の一滴すら、精霊の力で断つことも溢れさせることもできる。


 故《ゆえ》に、王族よりも頭《ず》が高い。


 それが世の常識として認識されていた。カミーユももちろん、その認識を共有する一人だった。

 その格の高い精霊なのだ。格調高く話すのは当然。先刻はよほど余裕がなかったのだろう、いまが真の姿なのだ、と何の疑問もなく考えた。 


「人の子よ。改めて、ありがとう。ただ助けてくれただけでなく、演奏によって森の力を呼び起こし、回復を早めてくれたこと。心から感謝いたしております」


「森の力? 演奏ので?」


 カミーユには全く心当たりが無い。ただ手持無沙汰ゆえに、横で竪琴を奏でていただけだ。自認としては。


「ずっと竪琴を弾いていたでしょう? そなたの音によって、不思議ですが……森の力がいつもよりも強くなった様子。それで回復が早まったのです」


 カミーユとしては、ただ弾いただけだった。それも、聴衆の前で弾くよりも軽い気持ちで「思い思いに鳴らした」だけだった。

 それだけに、意外なお告げだと思っていた。


「そんなことが……ただ、いつもより楽に弾いていただけでしたが……。それに、僕の演奏はあまり目立たない。そう自分では感じています」


 精霊は顎に手を当て、少し考えるような仕草をしたが、すぐにスッと竪琴に飛び乗り、マジマジと眺める。

 ひとしきり眺めた後、今度はカミーユの肩に飛び移り、瞳を覗き込んだ。


「……あなたは、本当にただ『目立たない演奏しかできない』と、そう感じてるの?」


「はい。もちろん昼時の食事処で演奏する折などは『うるさくないし、客の会話の邪魔をしない演奏でちょうどよい』と仰ってくれる方もいましたが、歓声を浴びることは殆どありませんでした」


「私には、ただうるさくない、というだけではないと感じます。何と言いますか……どこか包み込むような力を感じます。それが森の力を引き出したのかと」


 意外な一言に、カミーユは新鮮に驚いた。いままで引け目に感じていたことが、精霊や森にとって大きな力になるとは。そんなことは考えたことも無かった。


 精霊は肩から降り、テーブルに腰かけた。


「人の子よ。名は何と申されますか?」


「カミーユと申します」


「カミーユ。柔らかいお名前。あなたの奏でる音色にぴったりですね。わたくしは、ルーチェル。森の精霊、そして光を操る精霊、ルーチェルです」


 そう言ってルーチェルは、手のひらに光を集めた。

 そして背中の小さな翼を羽ばたかせて舞い上がり、カミーユの頭上からそれを降らせた。


「え、これは……」


「これは『光の加護』です。人の心を明るくし、喜びを湧きあがらせ、また精霊の加護があることを、人々に感じさせることができます」


「なん、と」


 カミーユはただ関心し手を合わせて感謝を述べた。


「これは、私を助けてくださったお礼です。それと……」

 

 ルーチェルは、再び光の粒を集める。

 集めた光の粒を、まるで布を広げるように竪琴に向けて放つ。


「これは、森の力を引き出して回復を早めてくださったお礼です」


 光が竪琴を包む。そして一粒ずつ竪琴に染み入っていく。


「森の力を、あなたの竪琴に移しています。この力を竪琴が吸ったならば、その音を聴いた者は、心の猛り静まり、安らぎをおぼえることでしょう」


「それは、すごい! 」


 しかし。


 ルーチェルに別の思惑があるなどとは、カミーユはこの時はまだ気付きもしなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。