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永遠の残滓  作者: Mateo
80/85

第80章:死者の残響

バクは速度を上げることなく前へ進んだ。

ツルハシの先端が数歩ごとに床をかすめ、コンクリートの上に乾いた音を残す。見ているのはヒビキだけではない。視線は廊下全体を走っていた。壁の亀裂、天井に固定された配管、床の金属板、そして、この場所で起きた二度の戦闘ですでに衝撃を受けた柱。

どこから何が返ってきてもおかしくない。

ヒビキは反対側で動かずに立っていた。

最初の数分とは明らかに違う。

先ほどまでのバクは、届く場所ならどこでも殴っていた。壁で敵の進路を削り、床で身体を固定し、柱すら打撃点として使っていた。

今は違う。

武器を身体の近くに置き、無駄な動きを一切しない。

左の壁が震えた。

バクは見なかった。

一瞬遅れて、そこから衝撃が来る。

身体をひねり、ツルハシの柄で受けた。

力が両腕を走り、半歩だけ押される。

だが、足は床から離れない。

次の振動。

今度は下。

床が蓄えていた衝撃を返すより先に、バクは横へ跳んだ。

直前まで脚があった場所で、床材が砕ける。

ヒビキがその動きに合わせて前へ出た。

バクは見ていた。

大きく振りかぶらない。

距離を詰め、そのまま肩を胸へ叩き込む。

ヒビキが下がる。

バクは離れない。

柄尻を腹部へ。

二撃目を脇腹へ。

三撃目を防ごうとヒビキが腕を上げる。

バクは途中で軌道を変え、肘を顔面へ打ち込んだ。

ヒビキがよろめく。

壁へ投げ飛ばすこともできた。

やらない。

肩口の服を掴み、自分の方へ引いた。

膝。

ヒビキの身体から息が抜ける。

バクは手を離す。

反撃される前に距離を取った。

今の一連の攻撃で、周囲の構造物には何一つ触れていない。

ヒビキが顔を上げる。

戦いが始まってから初めて、バクは周囲に一度も力を与えず、連続して攻撃を通した。

頭上の配管が震えた。

バクは攻撃が来る前に音を拾う。

しゃがむ。

猛烈な圧力が頭上を走り抜け、反対側の壁へぶつかった。

バクは身体を起こす。

あの配管には触れていない。

今の戦いでも。

ここへ戻ってきてからも。

一瞬だけ上を見る。

それから、廊下に散らばる死体へ視線を移した。

理解した。

周囲に残っている攻撃は、すべて自分のものではない。

ヒビキはバクが来てからこの場所を仕込んだわけではない。

もっと前からだ。

________________________________________

次の衝撃は、死体の近くにある柱から来た。

それまでより強い。

バクはツルハシを上げたが、衝撃は防御ごと押し込み、体勢を崩した。

反対側の壁が続いて鳴る。

今度は固定する暇がない。

脇腹へ力が入り、床へ投げ出された。

一度転がる。

ブーツが、死んだ狩人の武器へぶつかった。

バクは止まった。

金属製の棒。

中央付近で折れている。

さっき攻撃が出た壁を見る。

コンクリートには深い跡が残っていた。

高さも、棒を振るったときの軌道とほぼ一致する。

バクはゆっくり起き上がった。

説明される必要はなかった。

ここで死んだ狩人たちは戦った。

攻撃を外して壁を殴った。

突進を止めるため床へ力を流した。

柱を背に攻撃を受け止めた。

その一つ一つが、ここに残っていた。

そして今もヒビキは使っている。

右側の柱が震える。

バクは避けた。

衝撃が廊下を横切る。

今までと力の質が違った。

より一点に集中している。

別の死体へ目を向ける。

男の右手には強化グローブが残っていた。

拳の部分は潰れている。

バクはヒビキを見る。

残滓は、力の残された構造物の間をゆっくり歩き始めていた。

近づく必要はない。

一歩移動するたびに、この巨大な仕掛けの別の部分を起動できる場所へ移っているようだった。

背後の壁が応える。

バクはしゃがむ。

衝撃が頭上を通る。

その直後、床が震えた。

完全には避け切れない。

足元から力を受け、身体が浮く。

肩から落ちた。

立ち上がるより先に、金属板から三撃目。

背中へ入る。

肺から空気が抜けた。

身体が数メートル滑る。

ヒビキはそのまま前へ出る。

動きに無駄がない。

バクは横へ唾を吐いた。

床に小さな黒い染みが落ちる。

血。

手の甲で口元を拭った。

それから立ち上がる。

ヒビキが数秒見ていた。

「まだ使える」

バクは死体を見たまま答えない。

「攻撃だ。あいつらが最後に残したもの」

バクはゆっくりツルハシを上げた。

ヒビキの視線が一つの死体へ向く。

「まだ戦ってる」

空気が変わった。

バクはツルハシの先端を床へ突き立てる。

守るためではない。

一瞬、そこへ置いただけだった。

「違う」

ヒビキが見る。

バクは顔を上げた。

「お前が使ってるだけだ」

ツルハシをコンクリートから引き抜く。

そして、また前へ出た。

________________________________________

ヒビキが二つの残響を同時に起動する。

左から一つ。

背後の配管からもう一つ。

両方は受けられない。

バクは最初を避けるため右へ動き、二つ目を受けるため武器を回した。

それこそ、ヒビキの狙いだった。

踏み込んだ床板が震える。

バクが下を見る。

遅い。

衝撃が脚を下から貫いた。

足場を失う。

完全に立て直す前に、ヒビキが正面へ入っていた。

顔への一撃。

バクは身体ごと回し、力を逃がす。

続けて腹部。

受けた。

そしてヒビキの腕を抱え込む。

残滓が引こうとする。

離さない。

一瞬だけ、戦いは廊下から切り離された。

壁も。

配管も。

意味を失う。

ヒビキが近すぎる。

バクは引き寄せた。

マスクの前面を鼻へ叩き込む。

ヒビキが下がる。

だが腕は掴んだまま。

腹部へ短い拳。

もう一つ。

振りかぶる空間などない。

それでもバクは全身を使い、わずかな距離で力を作る。

ヒビキが一撃を防ぐ。

次は肋骨の下。

バクが手首を返し、ツルハシの後部で殴る。

金属がこめかみに入る。

ヒビキの身体が傾く。

バクは首元を掴んだ。

床へ叩きつけることもできる。

やらない。

自分の間合いから逃げられない程度に押すだけ。

胴体へ膝。

肘。

柄。

ヒビキが拳を返す。

バクが逸らす。

さらに短い一撃。

ヒビキが身体を折る。

もう互角の打ち合いではなかった。

この距離では、ヒビキはほとんど空間を作れない。

バクの方が強い。

その体格から想像するより速い。

そして、その二つをどう使えばいいか分かっている。

ヒビキが離れようとする。

バクが詰める。

背後の壁を振動が走った。

バクは聞いた。

これ以上は続けられない。

ヒビキを放し、横へ身を落とす。

直後、壁が二人の間へ巨大な力を吐き出した。

ヒビキも避ける。

バクは転がって立ち上がった。

ヒビキは数メートル先へ着地する。

鼻の下に黒い線ができていた。

呼吸も変わっている。

さっきほど余裕はない。

バクは右肩を回した。

痛む。

まだ動く。

だが、積み重なった衝撃が確実に効いてきていた。

ヒビキも、もう簡単には近づこうとしない。

二人とも学んだ。

________________________________________

そこから数分、戦いは遅くなった。

危険が減ったわけではない。

バクは追わなくなった。

見る。

待つ。

ヒビキがどこかを振動させる。

バクが反応する。

すぐ衝撃が来ることもあれば、来ないこともあった。

一度、配管が震えた。

バクは構える。

何もない。

三秒後。

同じ金属系統につながった別の板から衝撃が出た。

腕で一部を受ける。

二撃目より先に動く。

バクは、振動した場所そのものではなく、その先を見るようになっていた。

天井の配管は網のようにつながっている。

金属板は支持部材で結ばれている。

柱は同じコンクリート構造の一部。

ヒビキは空中を自由に衝撃を飛ばしているわけではない。

何かを通している。

バクは、一本の縦配管が床まで伸びている場所へ下がった。

ヒビキが残響を起こす。

待つ。

金属が震える。

衝撃が来るより先に、バクはツルハシを振り、二本の配管の継ぎ目を打った。

力任せではない。

正確に。

固定金具が割れる。

上側の配管が数センチ落ち、そのままぶら下がった。

振動が金属を走る。

切れた部分まで来る。

外れた配管だけが激しく震えた。

そこで衝撃は死んだ。

バクは配管を見る。

次にヒビキ。

表情は変わらない。

だが、同じものを見ていた。

バクが動き始める。

今度はヒビキへではない。

別の接続部へ。

ツルハシの先で短く打つ。

ボルトが飛ぶ。

一枚の板が壁から半分外れた。

ヒビキが別の残響を起動する。

板が震える。

主構造には伝わらない。

バクはすでに次へ。

地下を壊しているわけではなかった。

分解している。

小さな点。

接合部。

支持金具。

つながり。

一つ切るたび、ヒビキが攻撃に使える場所が減る。

残滓はすぐ理解した。

バクの背後の壁が震える。

バクが振り向く。

しかし、そちらではない。

正面の柱が先に応えた。

武器を上げる。

衝撃で後ろへ押される。

その次に背後の壁。

挟まれた。

バクはツルハシを床へ刺す。

前からの力。

受ける。

後ろからの力。

固定のおかげで吹き飛ばされはしない。

だが、上体が前へ折れた。

鋭い痛みが肋骨を走る。

息を吐く。

ヒビキは待たない。

床から三撃目。

ツルハシが刺さったまま。

跳べない。

引き抜くのが遅れた。

脚へ衝撃。

バクが倒れる。

ヒビキがすぐ上に来た。

腕で一撃を防ぐ。

二撃目が、すでに痛めている肩の近くへ。

腕の反応が遅れる。

ヒビキも気づく。

同じ側を狙う。

バクは身体を傾け、胴で受けた。

肋骨の痛みが増す。

左手でヒビキの手首を掴む。

ツルハシは使いにくい位置にある。

関係ない。

引き寄せる。

額を顎へ叩き込んだ。

ヒビキが下がる。

バクは転がり、武器を拾って立つ。

呼吸が重くなっていた。

ヒビキの顔にも傷が増えている。

どちらも無傷ではない。

________________________________________

バクは別のことを試し始めた。

すでに二度、衝撃を返した柱へ近づく。

表面には、最初に自分が強く殴ったときの深い亀裂が残っている。

ヒビキが見ている。

バクはツルハシを上げた。

そして柱へ触れる。

それだけ。

小さな一撃。

今までと比べれば、馬鹿らしいほど弱い。

金属音だけがコンクリートへ伝わる。

バクは歩き続ける。

ヒビキがわずかに首を傾けた。

何も起きない。

一分ほど後。

戦いが再びその柱の近くへ戻った。

ヒビキが片手を上げる。

柱が震える。

バクが構える。

衝撃。

肩へ当たる。

ほとんど動かない。

弱い。

バクの目が柱からヒビキへ移る。

ヒビキの動きが、ほんの一瞬止まった。

バクはもう一度、柱の跡を見る。

以前にはもっと強い攻撃を受けていたはず。

だが、今返ってきたのは直前の小さな打撃だった。

古いものではない。

バクは笑わなかった。

それでも、姿勢がわずかに変わる。

ヒビキが攻める。

バクは別の壁まで下がった。

柄で触れる。

小さな一撃。

次の壁。

拳で軽く叩く。

そのまま動く。

ヒビキは続けさせない。

左壁から強烈な残響。

バクがしゃがむ。

上の配管が次に応える。

防ぐ。

背後の柱から古い衝撃。

これは当たった。

バクが吹き飛ぶ。

背中から落ちる。

肺から息が抜ける。

ヒビキは残っているものを使い始めていた。

バクはツルハシを杖代わりにして上体を起こす。

周囲を見る。

まだ強い攻撃が残っている場所。

もう残っていない場所。

違いが見え始めていた。

________________________________________

ヒビキは待つのをやめた。

振動が廊下全体へ広がり始める。

一つ。

二つ。

五つ。

頭上の金属。

足元のコンクリート。

壁の金属板。

全部が震える。

一つずつ見ている時間はない。

最初の衝撃が背後から来る。

バクが振り向く。

防ぐ。

二撃目は横から。

太腿へ入る。

脚が一瞬沈む。

三撃目は上。

ツルハシを床へ突き刺す。

固定。

上からの力が身体を押し潰す。

膝が曲がる。

武器を抜く前に、床から四撃目。

全身を貫いた。

握りが外れる。

ヒビキが両手を広げる。

壁が応えた。

同時ではない。

順番に。

廊下全体が、以前の戦いを返し始める。

左から一撃。

前からもう一つ。

天井から。

バクは顔を守る。

下がる。

肩に一つ。

脇腹に一つ。

三撃目を防ぐ。

次は肋骨の下。

口の中にまた血の味。

動きながら吐き出す。

止まれない。

残響に単純な規則はない。

自分が作ったものもある。

死んだ狩人たちのものもある。

弱い攻撃。

壁を壊せるほどの攻撃。

正面から一つを受けた。

ツルハシの柄が胸へ押し込まれる。

数歩下がる。

右側に死体。

強化グローブの狩人。

近くの柱が震えた。

バクは潰れた手を見る。

衝撃が来る。

重い。

想像以上。

バクは片足を後ろへ出し、武器を上げる。

押される。

ブーツが床に二本の跡を残した。

それでも倒れない。

死んだ男を見る。

ほんの一瞬だけ、戦闘音が遠のいた。

自分の呼吸だけが聞こえる。

いい一撃だった。

本当に。

ヒビキが次の構造物を使おうと手を上げる。

バクはそちらを見る。

ここにあるものは、全部がヒビキの力ではない。

少なくとも、完全には。

あの残滓は、死者が最後に振り絞った力を弾薬へ変えている。

それを一つずつ消費している。

バクはツルハシを握り締める。

次は床。

跳ぶ。

次は壁。

空中で身体を捻る。

背中をかすめた。

片膝で着地。

すぐには立たない。

目の前の床を軽く叩く。

ヒビキが見る。

隣も叩く。

また軽く。

壁へ移動する。

小さく。

柱。

小さく。

ヒビキが古い残響を起動する。

バクは柄で受けた。

マスクの下、眉の近くが少し切れる。

止まらない。

別の壁。

また小さな一撃。

ヒビキが理解し始める。

________________________________________

残滓が直接攻めてきた。

これ以上、無意味な打撃で戦場を埋めさせるわけにはいかない。

距離を詰め、顔へ拳。

バクは前腕で受ける。

肩が痛む。

ヒビキは脇腹へ。

バクが下がる。

もう一撃。

さらにもう一つ。

今のヒビキは接近戦で勝とうとしているわけではない。

構造物へ触れさせないため。

バクにも分かった。

前へ出させる。

防ぐ。

下がる。

また防ぐ。

一歩ずつ、さっき自分が変えた区画から離れていく。

ヒビキは場所を取り返していると思った。

バクは待った。

次の一撃。

内側へ入る。

近すぎる。

腕を掴む。

ヒビキが離れようとする。

柄を腹へ。

一回。

二回。

三撃目は膝。

ヒビキが身体を折る。

バクは背後へ回った。

投げない。

肘を背中へ。

ヒビキが足場を失う。

その一秒。

バクは横の壁を軽く叩いた。

小さな音。

ヒビキが聞く。

すぐ振り向く。

バクはすでに離れている。

残滓は反射的に壁を起動した。

振動。

弱い衝撃。

バクの上着がわずかに揺れただけ。

二人が一瞬止まる。

もう明らかだった。

壁の亀裂を見れば、以前もっと強い衝撃を受けている。

だが、古い残響はない。

上書きされている。

バクが別のものを乗せた。

小さく。

使い物にならないものを。

ヒビキが壁を見る。

次にバク。

説明はない。

必要もない。

バクは別の柱へ向き、柄尻で軽く叩く。

ヒビキが進む。

バクがずれる。

配管へ小さな一撃。

残滓が止めようとする。

かわす。

金属板へ軽く。

戦場が変わり始める。

物理的には変わっていない。

亀裂も残る。

血も。

死体も。

昔の衝撃痕も。

それでも、ヒビキが使っていた武器のいくつかには、もう同じ力が残っていない。

廊下はまだ装填されている。

ただし、少しずつ。

バクが弾を入れ替えていた。

________________________________________

ヒビキは追うのをやめた。

廊下の中央に立つ。

バクも止まる。

二人の間には、まだ危険な残響を残した構造物がいくつもある。

だが、それ以上に変えられた場所が増えている。

一本の配管は切り離されている。

一枚の板はもう主構造へ接していない。

二つの壁には新しい小さな衝撃。

柱にも一つ。

バクの口元には血。

右肩は重い。

深く呼吸するたび肋骨が痛む。

ヒビキも無事ではない。

片側の肋骨の下が、呼吸のたびわずかに沈んでいる。

鼻の下には血。

こめかみには柄で受けた傷が開いたまま。

数秒間、どちらも攻撃しなかった。

ヒビキが周囲を見る。

まず柱。

次に壁。

それから切り離された配管。

バクもその視線を追う。

ヒビキがようやく口を開いた。

「何をした?」

バクはツルハシを低く構えたまま。

すぐには答えない。

ヒビキが柱を起動する。

構造物が震えた。

衝撃。

弱い。

バクは武器すら上げなかった。

胸へ当たる。

服がわずかに揺れただけ。

別の壁。

同じ。

小さな衝撃。

ヒビキはそこで止めた。

バクはゆっくりツルハシを持ち上げる。

「分かった」

それだけ。

ヒビキは見つめた。

あの扉の向こうから現れて以来、初めて表情に変化が出た。

恐怖ではない。

まだ。

ただ。

この廊下が、もう完全には自分のものではないという確信。

バクが一歩前へ出た。

ヒビキは腕を下げる。

それまでは、見えない武器に囲まれた者として戦っていた。

今は姿勢を変える。

低く。

正面から受けるために。

バクは進み続ける。

二人の間で、最後の一本の配管が震えた。

まだ強い衝撃を残している場所の一つ。

どちらも相手から目を逸らさない。

ヒビキも前へ出た。

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