第69章:道と壁
「準備しなさい」
訓練場の音は、もう最初の頃とは違っていた。
第一試合の前にあったのは期待だった。第二試合の前にあったのは好奇心だった。第三試合の前にあったのは圧力だった。
今あるのは計算だった。
全員が、違う目で見ていた。
誰が速いか。誰が強く殴るか。誰の術式が派手か。
もう、それだけを見ている者はいなかった。三試合を終えたあとでは、認めたくない者でさえ、不快な事実を理解していた。
このトーナメントが測っているのは力ではない。
判断だった。
花と結衣が先に場へ入った。
花はゆっくり歩いていた。目は開いていたが、その視線は同時に多すぎるものを見ていた。地面。健太の手。石田の手首。場の端。結衣が最初の結界を置くだろう場所。
結衣は、まだ手を上げないまま彼女の隣を歩いた。
第一試合で彼女が何をしたかを知っている今、その沈黙はほとんど脅しだった。
石田は閉じた本を小脇に抱えて入った。
健太は両手を開いたり閉じたりしながら入った。火がまだそこにあるかを確認しているようでありながら、まだ外へ出るよう誘ってはいなかった。
バクが首を傾けた。
「見ろよ。もう馬鹿なことをしそうな十代には見えない」
神崎が横目で彼を見た。
「それは不正確だ」
「たしかに。文脈つきで馬鹿なことをしそうな十代に見える」
「そちらの方が正確だ」
「ありがとう。俺も成長してる」
香奈が杖で地面を叩いた。
「ルールは同じ。五分。共同無力化、場外への強制、降参、または指導員判断で勝敗を決める。味方に実害の危険が生じた場合は減点」
健太は結衣を見た。
「お前の結界を燃やすつもりはない」
結衣はわずかに眉を上げた。
「許可を求められた覚えはない」
「戦術的宣言だ」
花が健太を見た。
「戦術的な言葉を使った感情的宣言ね」
健太は口を開いた。
石田が先に言った。
「返すな」
「でも――」
「返すな」
健太は口を閉じた。
場外で、芽衣が笑った。
「今の、こっちにいても痛かったわ」
隣の原田が言った。
「効果的な予防介入だった」
「点数をあげないで」
「採点ではない」
「あなたの言葉は全部採点に聞こえるのよ」
タツはファイルを確認した。もう確認する必要はなかったが、その所作も秩序の一部だった。そして今、その秩序だけが、トーナメントが別の何かに変わるのを防いでいるように見えた。
香奈が杖を上げた。
花が息をした。
結衣が指を開いた。
石田は本を場外へ置いた。
健太は鼻から息を吐いた。
香奈が杖を下ろした。
「第四試合。始め」
健太が炎を灯すより早く、結衣が最初の結界を張った。
壁ではなかった。
檻でもなかった。
低いパネルだった。ほとんど地面に沿うように置かれ、健太と石田の間に、まるで大した意味などないかのように置かれていた。
健太はそれを見た。
「それ、真ん中にあるんだけど」
結衣は表情を変えずに答えた。
「そう」
健太は手を上げた。
指に小さな炎が現れる。
石田は反対側へ低い鎖を動かした。
花は少しだけ目を開いた。
「燃やさないで」
結衣は聞き返さなかった。
パネルが傾いた。
健太が入口を閉じるために置こうとしていた炎は、結界に触れる前に死ぬしかなかった。危険だったからではない。そのまま進めば、石田の角度へ跳ね返るからだった。
健太は火を消した。
「もう嫌いだ」
「早いな」と石田が言った。
「何も言ってない」
「強く思っていた」
花が一歩踏み出した。
健太へではない。
健太と石田の間の線へ。
結衣は小さなパネルをもう一枚上げた。今度は石田の右側だった。進路を閉じるのではなく、花が進んでほしい方向へ誘っていた。
石田はその誘いを見た。
受けなかった。
手首から鎖が伸び、床に道を描いた。ゆるく曲がり、遅く、まるで問いを描くように。
健太はそれを目で追った。
「そっちか?」
「違う」と石田が言った。
「じゃあ何のために?」
「そうだと思わせるためだ」
健太は笑った。
「ああ。鎖で嘘をつくのか。それは好きだ」
花が言った。
「左」
結衣は、鎖が終わろうとしているように見えた場所に、薄いパネルを立てた。
石田は驚かなかった。
花にとっては、その方が驚かれるより厄介だった。
鎖は届く前に方向を変えた。
健太はその新しい終点に炎を置いた。
小さく。
低く。
正確に。
結衣が手を閉じた。
炎の進行を切るためにパネルが現れる。
だが、炎は進まなかった。
そこで死んだ。
まるで、そのパネルを結衣に張らせることだけが目的だったかのように。
花はそれを見た。
「私たちに描かせている」
結衣が瞬きをした。
「何を?」
「私たちに、彼らが望む場所へ壁を置かせている」
健太はそれを聞いて笑った。
「それ、俺たちが勝ってるみたいに聞こえるな」
石田は視線を外さなかった。
「声に出すな」
「なんで?」
花が言った。
「今、わかったから」
結衣がパネルを下ろした。
場がまた変わった。
健太の笑みが消えた。
「あ」
「そうだ」と石田が言った。「その“あ”だ」
側面で、優奈が腕を組んだ。
「花は読むのが早いわね」
加藤はうなずいた。
「結衣の反応も早い。あの二人は、修正するのに多く話す必要がない」
バクが彼らへ身を傾けた。
「それは、存在するために会話が必要な者たちには不公平だな」
神崎は見もせずに答えた。
「誰も必要としていない」
「俺は必要だ」
「そこが問題の一部だ」
戦いは張り詰めた。
花と結衣は暴力的に攻めてはいなかった。
形で攻めていた。
結衣のパネルは一枚ごとに出口を切り、角度を変え、健太に選ばせた。彼の火は入口を閉じるのか、それとも石田の邪魔になる前に消えるのか。
花は多くを話さなかった。
必要なことだけだった。
「低く」
結衣がパネルを下げる。
「開けて」
結衣が扉を残す。
「全部じゃない」
結衣は場を完全には閉じない。
健太は鎖の横に炎を置こうとした。
結衣のパネルが回り、その横を角に変えた。
炎は役に立たなくなった。
石田は花を囲むために鎖を伸ばそうとした。
花は半歩下がった。避けるためではない。石田に、自分を追うか健太を覆うか選ばせるためだった。
結衣は健太の足元の周りに二枚の低いパネルを張った。
閉じ込めたわけではない。
足場を奪っただけだった。
健太は下を見た。
「また足かよ」
「効率的だから」と結衣が言った。
「嫌いだ」
「それで効率が下がるわけではない」
花が石田へ動く。
石田が鎖を上げる。
結衣は鎖と火の間の空間を、傾いたパネルで閉じた。
初めて、健太は本当に分断された。
遠いわけではない。
分けられた。
その方が悪かった。
神崎が手を上げた。
「一」
健太は歯を食いしばった。
指を炎が這い上がる。
大きくはない。
まだ。
石田は彼を見た。
「壁を燃やすな」
健太はわずかに顔を向けた。
「じゃあ何を?」
石田は低い鎖を張った。
「扉を燃やせ」
健太が理解するまで、半秒かかった。
結衣は完全な檻を作っていなかった。
出口を残していた。
健太に出口を与えたいからではない。
罠に形を持たせるために必要だったからだ。
健太はその扉を見た。
大きな穴ではない。
石田が助けに来ようとした時、花が動けるように、パネルが完全には閉じていない場所だった。
健太は結界へ火を投げなかった。
扉に置いた。
小さな炎。
馬鹿げたほど小さな炎。
だが、正しい場所にあった。
結衣は選ばなければならなかった。
罠を維持すれば、出口は花のためにも閉じる。
出口を開ければ、健太が足場を取り戻す。
花も同時に見た。
「開けて」
結衣は開けた。
健太は足を動かした。
「二」と神崎が言った。
だがカウントはすでに死にかけていた。
石田は鎖を引き、健太が身体の向きを整えるのに必要な場所へ置いた。健太はそれに触れなかった。触れる必要はなかった。
目印として使った。
三つ目のカウントが来る半歩前に、彼は囲いから抜けた。
神崎は手を下ろした。
「続行」
健太は大きく息をした。
「それが機能したのが嫌だ」
石田は場を見ていた。
「なら覚えておけ」
「嫌だから?」
「機能したからだ」
「両方役に立つ」
結衣は手をわずかに下げた。
疲れたからではない。
修正のためだった。
花は健太を別の目で見た。
火としてではなく。
境界として。
「彼は燃やそうとしていない」と言った。
結衣はうなずいた。
「終点を閉じている」
「うん」
「なら、終点を残さなければいい」
健太はそれを聞いた。
「それ、俺にとって悪いことに聞こえる」
石田は鎖を円に動かした。
「火が勝手に終わると思っているならな」
健太は彼を見た。
「今の、先生みたいな言い方か?」
「違う」
「ひどく聞こえたぞ」
「集中しろ」
花が再び進む。
結衣は結界の形を変えた。
それまではパネルだった。
今度は中断だった。
小さな板が現れ、消える。健太が火をどこで終わらせるか決める前に。足の前に一枚。石田の鎖の横に一枚。花の背後に一枚。それは彼女を守るためではなく、リズムを失わず方向を変えるためだった。
花は一つ一つを言わなくなった。
結衣が彼女を読み始めた。
場が裏返った。
石田は道を示す。
健太は終点を閉じる。
だが花と結衣は、絵が完成する前に消し始めた。
「消されてる」と健太が言った。
「ああ」
「策は?」
「ある」
「教えるのか?」
「全部は教えない」
「それ嫌いなんだよ」
「いい」
石田は鎖を地面に落とした。
死んでいる。
あまりにも死んでいる。
場外で、原田がそれを見た。
「まただ」
芽衣が彼を見た。
「何が?」
「死んだ鎖」
芽衣は場へ視線を戻した。
「なら花も見るわね」
花は見た。
そしてそれが問題の一部だった。
罠が見えると、人はそれを踏まなくなる。
あるいは、踏まなくなったと思い込む。
花は指で小さく合図した。
結衣は死んだ鎖の上にパネルを張り、それを無力化した。
健太がパネルの横に炎を置いた。
結衣は反応しなかった。
その必要がなかった。
炎には出口がなかった。
花が健太へ一歩進む。
石田は別の鎖を動かした。
こちらは死んでいなかった。
生きているように見えた。
あまりにも生きているように。
花はそれを無視した。
それで石田の顎がわずかに強張った。
健太はそれを見た。
「食いつかなかったな」
「わかっている」
「それは悪いことか?」
「必ずしも」
生きた鎖は花の背後を通った。
彼女を捕まえようとはしなかった。
結衣に、閉じるべきだと思わせようとした。
結衣は閉じなかった。
花があまりにも早く理解したからだ。
「私たちの手を塞がせたいのね」と花が言った。
「なら片方は空けて」と結衣が答えた。
結衣は左手を開いた。
右手だけが動いた。
左手で支えていた結界が消えた。
それで健太に射線が開いた。
良すぎる射線が。
健太はほとんど笑いそうになった。
笑わなかった。
それが進歩だった。
「違う」と彼は呟いた。
石田が聞いた。
「いい」
「罠だ」
「ああ」
「良い線が嫌いになってきた」
「それも進歩だ」
健太が答えなかったのは、花がもう目の前にいたからだ。
彼の上ではない。
彼の判断の上に。
花は、健太が結衣の入口を閉じるために火を置かなければならない場所へ動いた。同時に、結衣が石田の背後に低いパネルを張る。
場は再び二人を割った。
だが今度、健太は外に出ようとしなかった。
石田も救いに行こうとしなかった。
二人は半秒だけ、分断を受け入れた。
そこで花が迷った。
ほんの少し。
だが迷った。
もし二人が離れることを受け入れるなら、もしかすると離れていないのかもしれない。
健太は自分の側に火を置いた。
石田は自分の側に鎖を置いた。
触れ合わない。
助け合ってもいない。
まだ。
だが、同じ考えの両端を示していた。
花は少し目を開いた。
「結衣」
「わかってる」
「違う、まだわかってない」
結衣はさらにパネルを張った。
遅すぎた。
石田の鎖が健太の火へ動いた。
触れるためではない。
二人の間の空間を閉じるために。
火は進まなかった。
鎖も攻撃しなかった。
だが、二人の間の隙間が消えた。
花と結衣は、場の狭い帯に置かれた。捕まってはいない。だが、制限された。
健太は笑った。
「扉を燃やした」
石田が訂正した。
「道を閉じた」
「それもありだ」
結衣は出口を開こうとした。
花が手を上げた。
「そこじゃない」
結衣は止まった。
明らかな出口を開けば、石田の鎖が彼女を健太の火へ押し込む。
火を閉じれば、石田が動く。
石田を閉じれば、健太に空間ができる。
それは檻ではなかった。
悪い答えが多すぎる問題だった。
バクが側面で両腕を広げた。
「見ろ! 火災が都市計画を学んだぞ!」
神崎が言った。
「戦闘中に偽概念を叫ぶな」
「これは新興概念だ」
「雑音だ」
「雑音も群衆を導く」
「間違った出口へな」
「今のはほとんど詩的だった」
加藤は笑わなかった。
死んだ鎖を見ていた。
最初の鎖。
結衣が無力化したもの。
動いていなかった。
消えてもいなかった。
パネルの下に残っていた。
石田にしては、それは見落としには見えなかった。
花もそれに気づいた。
無視するには、遅すぎた。
「結衣、最初の鎖」
結衣が下を見た。
死んだ鎖が張った。
上がらなかった。
攻撃しなかった。
パネルの下を這い、結界の縁を道案内として使った。
結衣はパネルを上げようとした。
健太がその横に小さな炎を置いた。
結衣が上げれば、火が出口を占める。
上げなければ、鎖が届く。
「面倒くさい」と結衣が言った。
怒っているように聞こえたのは、それが一番近かった。
健太は笑った。
「今の、ほとんど悪口だったな」
「喜ばないで」
「遅い」
鎖はパネルの横から抜け、花の背後の空間の周りで閉じた。
花の周りではない。
背後の空間の周りで。
花は反射的に前へ一歩出た。
健太はすでにそこへ火を置いていた。
小さい。
低い。
警告だった。
花は止まった。
結衣は彼女を守るために二枚のパネルを上げた。
石田は二本目の鎖、生きた方を、結衣の側面へ動かした。
結衣はパターンを理解した。
「私を使って花を閉じてる」
花は答えた。
「私を使ってあなたを動かしてる」
理解は完璧だった。
そして遅かった。
神崎が手を上げた。
「一」
花は動けないわけではなかった。
結衣もそうだった。
だが、選択肢は小さすぎる空間にまで狭められていた。
花は下がれる。だが死んだ鎖が戻り道を奪っている。
進める。だが火が入口を閉じている。
結衣はもっと結界を上げられる。だがその一枚一枚が、また別の鎖の縁になる。
健太は炎を低く保った。
身体は上げたがっていた。
誇りも同じだった。
芽衣は腕を組んで場外から見ていた。
「あいつ、爆発しないわね」
原田が彼女を見た。
「それは残念なのか?」
「少し」
「それも情報だ」
「始めないで」
「二」と神崎が言った。
結衣が決断した。
すべて開いた。
少しではない。
全部。
結界が同時にほどけた。
一瞬、場が自由になった。
危険な判断だった。
だが、良い判断だった。
壁がなければ、縁もない。
縁がなければ、鎖は支えを失う。
花は同じ瞬間に動いた。
左へ。
明らかな出口ではない。
健太が閉じていなかった唯一の空間へ。そこを閉じれば、石田が自分の鎖をまたがなければならなくなる場所だった。
本物の出口だった。
健太は目を見開いた。
「くそ――」
「今だ」と石田が言った。
健太は口と手を閉じた。
花の出口を閉じるためのものに見えていた炎が消えた。
そして別の炎が、結衣の背後に現れた。
攻撃ではない。
退路を奪うために。
結衣は止まった。
花も止まった。
花が出れば、結衣が閉じ込められる。
結衣が自分を守るために結界を張れば、石田に必要な縁を返すことになる。
花は理解した。
出口は彼女のためではなかった。
一人で出るかを選ばせるためだった。
「三」と神崎が言った。
訓練場は静まり返った。
香奈が杖を上げる。
「勝者、石田太郎・有本健太組」
健太はすぐに火を消さなかった。
続けたかったからではない。
もう終わったことを完全には理解していなかったからだ。
石田が彼の肩に触れた。
「終わりだ」
健太は両手を下ろした。
炎が消えた。
「また勝った」
「ああ」
「大きい爆発なしで」
「ああ」
健太は自分の手を見た。
「心配になってきた」
「それも進歩だ」
「進歩が嫌いだ」
「最近よく使っている」
「出てくるのが多すぎるんだよ」
反対側で、花は地面へ視線を落とした。
結衣は最後に残っていた魔力の板をほどいた。
「読むのが遅れた」と花が言った。
結衣は首を横に振った。
「私が閉じすぎた」
「違う」
結衣は彼女を見た。
花は息をした。
「閉じ方はよかった。彼らの方が、どこを開けておくかをうまく選んだ」
結衣はもう一度、場を見た。
道はもうなかった。
炎もなかった。
鎖も消えていた。
それでも一秒だけ、それらが見えた気がした。
「なら次は、閉じた場所より先に、開いた場所を見ないといけない」
花はうなずいた。
「うん」
側面から、神崎が声を張らずに言った。
「最後の調整は良かった」
結衣は彼を見た。
「負けました」
「そうだ」
「それは良い調整には聞こえません」
「良い調整だった。遅かった」
花は小さく笑った。
嬉しい笑いではない。
だが本物だった。
「今日はみんな、その言葉を使うね」
バクが手を上げた。
「Tシャツを作ろう。“遅かったが、正しかった”」
香奈は彼を見なかった。
「却下」
「売上の用途もまだ言ってません」
「却下」
「なんて冷たい政府だ」
加藤が石田と健太へ近づいた。
「前よりは良い」
健太は彼を指した。
「それ、“まだ悪くない”より上ですよね」
「慣れるな」
「何も生かしてくれない」
石田は鎖を回収した。
「彼女たちの結界の使い方を理解するのに時間がかかりました」
「だが理解した」と加藤が言った。
「はい」
「その前に負けかけた」
石田はうなずいた。
「はい」
加藤は健太を見た。
「お前は二回、火を上げかけた」
健太は視線を落とした。
「でも上げませんでした」
「だから勝った」
健太は待った。
加藤はコーヒーを飲んだ。
「それも数に入る」
健太は少し目を開いた。
「それ、褒めてます?」
バクが加藤の後ろに現れた。
「冬用のコートを着た褒め言葉だな。見分けにくいが、何かを温める」
加藤は彼を見た。
「違う」
「ほら、照れた」
「違う」
健太は少しだけ笑った。
大きくはない。
だが、十分だった。
タツがボードへ近づいた。
チョークの音が、再び訓練場を整えた。
石田・有本組:六点。
仙台・高島組:三点。
天音・和田組:三点。
白銀・原田組:零点。
月野・村組:零点。
得点表は、もう単純には見えなかった。
警告のように見えた。
芽衣は腕を組んだまま、それを見た。
「なんて寛大なトーナメント。今度は観客つきで遅れる機会をくれるのね」
原田は場を観察した。
「まだ数学的な可能性はある」
芽衣は彼へ向いた。
「葬式みたいな声で希望を渡さないで」
「希望は保証されていない。ただ可能性だ」
「それがもっと悪いのよ」
陽菜は斧の柄に手を置いた。
海斗はその隣に立った。
今度は、どこに立たないべきかを考えているようには見えなかった。
彼女とどこで決めるべきかを考えているように見えた。
悠太は千穂を見た。
「この試合、変なことになりそうだな」
千穂は芽衣を見た。
それから陽菜を見た。
「個人的な試合になる」
「変より悪いな」
「うん」
颯太は空気が変わるのを感じた。
なぜかはわからなかった。
第五試合はまだ始まっていない。
場に入ろうとしている四人の生徒がいるだけだった。
だが、何かが違っていた。
芽衣と陽菜は、打撃がただの打撃で済むには互いを知りすぎていた。
海斗と原田は正反対に見えた。一人はあまりにも存在しすぎていて、もう一人はあまりにも不在だった。
そして話していない者も含めて、全員が理解しているようだった。
トーナメントは、より繊細な場所へ近づいている。
タツがファイルを上げた。
「得点フェーズ第五試合。白銀芽衣・原田迅組、対、月野陽菜・村海斗組」
訓練場は再び張り詰めた。
まだ誰も知らなかった。
だが、それがこのトーナメント最後の試合になる。




