第66章:三秒
「一」と神崎が言った。
その言葉は大きく響いたわけではない。
その必要はなかった。
悠太は背中が触れる前に、後ろの結界を感じた。大きな壁ではなかった。完全な檻でもなかった。もっと悪いものだった。
正確な場所に置かれた、小さな一枚。
反射的に後ろへ下がろうとして、肩が透明な縁にぶつかった。痛めるほどの衝撃ではない。だが、とてもはっきりと告げてきた。
そっちではない、と。
千穂は左足を回そうとした。
二枚目の結界がそれを阻んだ。
完全に捕まえているわけではない。鎖のように拘束しているわけでもない。ただ、最初の動きを奪っていた。そして三秒の戦いでは、最初の動きを奪うことは、ほとんどすべてを奪うのと同じだった。
「二」と神崎が言った。
悠太は歯を食いしばった。
千穂の矢はすでに放たれていた。
花は、矢が彼女に動かせようとした場所へは動かなかった。反対側へ半歩ずれた。最初から結衣が開けておいた空間へ。
矢は地面に当たり、砂埃を上げ、場の境界でほどけた。
悠太は遅れて理解した。
花は矢を避けたのではない。
矢に、偽物の役割を果たさせたのだ。
「千穂」
「わかってる」
怖がっている声ではなかった。
怒っている声だった。
その方がよかった。
あるいは、もっと悪かった。
千穂は魔力の弦を解き、弓を完成させる前に次の線を作った。短く、曲がった、低すぎる線。本物の射撃ではない。道具だった。
悠太は理解した。
出る必要はない。
彼女が一枚を壊すための空間を作る必要がある。
彼は二人の間を切る結界へ身体を向け、肘に魔力を込めた。多くはない。壊すためではなく、押すための量だった。強すぎれば指導員が介入する。弱すぎれば意味がない。
千穂が同時に撃った。
不完全な矢が三枚目の結界の根元を打つ。
悠太は反対側から押した。
板が震えた。
一瞬、細い亀裂が走った。
悠太は笑った。
早すぎた。
「今じゃない」と花が言った。
結衣が手を閉じた。
結界は強化されなかった。
傾いた。
それですべてが変わった。
悠太の押す力は上へ滑った。千穂の矢は地面へ逸れた。亀裂は、最初から存在しなかったかのように閉じていった。
結衣は二人を受け止めようとしたのではない。
間違った方向へ押させたのだ。
「三」と神崎が言った。
訓練場が静かになった。
香奈が杖を上げる。
「勝者、仙台花・高島結衣組」
一秒間、誰も拍手しなかった。
勝利が明確でなかったからではない。
大きな一撃もなく、派手な術式もなく、場が爆発することもなく、戦いが終わるのを全員が見たばかりだったからだ。
三秒。
三枚の小さな結界。
開いているように見えた一本の射線。
そして、閉じ込められていると気づくのが遅れた二人。
悠太は腕を下ろした。
千穂は指の間で弓をほどいた。
場の反対側で、結衣は今になって呼吸が必要だったことを思い出したかのように息を吐いた。花は一瞬、自分の手を見つめた。思っていたほど震えていないことに驚いているようだった。
「勝った」と結衣が言った。
それは祝福には聞こえなかった。
確認に聞こえた。
花はゆっくりとうなずいた。
「うん」
それから、悠太と千穂を見た。
「ごめん」
悠太は瞬きをした。
「勝ったことを?」
「罠のこと」
千穂が彼女を見た。
「試合でしょ」
「うん。でも、やっぱり」
側面からバクが手を上げた。
「仙台に祝辞を送りたい。小規模な戦術的暴力を実行したあとに謝罪するその姿勢。実に上品。実に不穏」
香奈は彼を見なかった。
「獅子堂」
「褒めてます」
「そこが問題の一部よ」
加藤が場の端へ近づいた。
「出ろ」
悠太は後ろの結界を二本の指で触れた。
「もう出てもいいですか? それとも敗北にはまだ建築様式が残ってます?」
結衣が手を上げると、板はほどけた。
「もう大丈夫」
悠太が先に出た。
前に出たいからではない。
結界が消え、身体がまだその居心地の悪さをどう扱えばいいかわかっていなかったからだ。
千穂は彼の隣を歩いた。
無言で。
怒られるより、その方が悪かった。
「ごめん」と悠太が言った。
千穂は彼を見なかった。
「違う」
「早いな」
「あなただけの失敗じゃない」
悠太は待った。
千穂は指に力を込めた。
「最初、あなたの位置は邪魔だった。そのあと良くなった。最初、私は待ちすぎた。そのあと良くなった。最後は、二人とも、まだ完全に勝ち取っていない射線を信じた」
悠太は彼女を見た。
「三秒で負けた直後にしては、かなり完成度の高い分析だな」
「叫ばないようにしてるの」
「ああ。じゃあ本当に素晴らしい分析だ」
千穂はそこで初めて彼を見た。
落ち着いてはいなかった。
でも、折れてもいなかった。
「ああいう負け方は嫌い」
「俺も」
「ならいい」
「いい?」
「平気だったら、ペア変更を頼んでた」
「それは嬉しいし傷つく」
「両方できるでしょ」
加藤が二人の前に来た。
「何を学んだ?」
悠太は口を開いた。
加藤が指を一本立てる。
「綺麗な言葉はいらん」
悠太は口を閉じた。
千穂が先に答えた。
「見えている射線が、必ずしも自分たちの射線とは限らない」
加藤はわずかにうなずいた。
「いい」
悠太は息をした。
「前に立たないだけじゃ足りない」
加藤は彼を見た。
「続けろ」
悠太は千穂を見た。
それから場を見た。
「彼女のために空間を作らないといけない。ただ占有しないだけじゃなくて」
加藤の後ろで、優奈がわずかに笑った。
「それは役に立つ答えね」
加藤は悠太から視線を外さなかった。
「それでもお前は、それを学んだと証明しようとした」
悠太は顔をしかめた。
「はい」
「それもやめる必要がある」
「学ぶことって、仕事が増えるんですね」
「訓練へようこそ」
千穂は加藤を見た。
「私は完璧な射撃を待っていました」
「違う」と加藤は言った。
千穂は眉をひそめた。
「そうです」
「安全な射撃を待っていた。完璧な射撃とは違う」
千穂は動きを止めた。
加藤はカップで場を指した。
「完璧な射撃なんてない。安全な射撃もない。役に立つ射撃なら、時々ある。それを見つけた時、お前は機能した。間違えないことを探した時、相手に時間を渡した」
千穂は視線を下げた。
「はい」
「罰みたいに言うな」
彼女は目を上げた。
加藤はその視線を受け止めた。
「情報として言え」
千穂は一秒遅れた。
「はい」
今度は違う響きだった。
加藤は離れた。
「なら、無駄な敗北ではない」
悠太は、タツが側面のボードに書き込んだ得点を見た。
仙台・高島組:三点。
天音・和田組:零点。
「でも負けは負けですね」と彼は呟いた。
千穂には聞こえていた。
「うん」
「痛い」
「うん」
「次は勝とう」
千穂は彼を見た。
「次は月野さんと村さん」
悠太は訓練場の反対側を見た。
陽菜は海斗と話していた。二人とも笑っていないように見えた。それは安心材料ではなかった。
「次は、尊厳を持って死なないようにしよう」と彼は訂正した。
「その方がいい」
反対側で、花と結衣は奇妙な視線の混ざったものに迎えられた。
二人は一番うるさい存在ではなかった。
一番目立つ存在でもなかった。
だからこそ、その勝利は訓練場の何かを動かしたのかもしれない。
健太は、まるで結界に個人的に侮辱されたかのように二人を見ていた。
芽衣は感心していない顔をしていた。
芽衣の場合、それは感心しているという意味だった。
石田はもう存在しない板の配置を観察していた。
原田は、敬意なのか単なる情報記録なのかわからない無表情で花を見ていた。
颯太は結界の後ろ、最前列にいた。
すぐには拍手しなかった。
まず悠太と千穂を見た。
次に花と結衣を見た。
それから、自分の手を見た。
バクがまた彼のそばに現れた。
今度は、颯太もそこまで驚かなかった。
「三秒」とバクが言った。
颯太はうなずいた。
「はい」
「短く見える」
「短くないです」
バクは仮面を傾けた。
「いい」
颯太は場を見た。
「あの二人は、強かったから勝ったわけじゃない」
「違う」
「同じ考えの最後まで、一緒に辿り着いたから勝った」
バクは一瞬、黙った。
それから、颯太を指さした。
「参加していないやつにしては、危険なくらい賢いことを言うな」
颯太は視線を下げた。
「見てますから」
「それも疲れる」
「はい」
「無駄にするな」
颯太はもう一度、場を見た。
「はい」
バクはもう一秒そこにいた。
それから声を上げた。
「注目、傷つきやすい若者たち! 今、誰も爆発せずに戦いに負ける方法を見た。俗な観客には退屈だが、構造化された苦痛を好む者には最高だ」
側面から神崎が言った。
「構造は正しかった」
バクは彼へ振り向いた。
「正人、お前が俺の言葉に乗ると、俺が道徳的な過ちを犯した気分になる」
「おそらく犯している」
香奈が杖で地面を叩いた。
「次の試合」
ざわめきがすぐに戻った。
前よりも強く。
なぜなら、全員が一つ見てしまったからだ。
トーナメントは清潔に見える。
ルールがあり、点数があり、結界があり、指導員がいて、ボードがある。
それでも、痛むのだ。
タツがファイルを確認した。
「得点フェーズ第二試合。石田太郎・有本健太組、対、白銀芽衣・原田迅組」
空気が変わった。
さっきとは違う。
第一試合には、始まりの緊張があった。
こちらには、問題の匂いがあった。
健太が場へ一歩出た。
石田がその後に続く。
芽衣は線を越える前に扇を開いた。
原田は消えた。
全員が、彼がいた場所を見た。
一秒後、彼は場の内側、反対側に現れた。歩いて入ることは任意の提案だとでも判断したように。
芽衣が彼を見る。
「本気?」
原田は瞬きをした。
「場に入った」
「何も言わずに」
「まだ始まっていない」
「そこじゃない」
「なら要点を明確にして」
芽衣はさらに扇を開いた。
「要点は、あなたが何も言わずに動いたら、私は事故であなたを斬るってこと」
「それは非効率だ」
「あなたにとってはね」
「チームにとってだ」
健太が笑った。
「このペア、俺たちより早く仲悪いな」
石田は彼を見た。
「それをまだ利点にするな」
健太は眉をひそめた。
「なんでだよ」
「他人の惨事に興奮すると、自分たちの惨事を忘れる」
バクが両手を上げた。
「美しい。存在論的な鎖が火災を教育している。昼飯はいらないな」
加藤が彼を見る。
「もう食べただろ」
「でもこれは別の部分に効く」
優奈が顔をしかめた。
「どの部分か知りたくないわ」
香奈は四人の生徒を見た。
「ルールは同じ。五分。共同無力化、場外への強制、降参、または指導員判断で勝敗を決める。味方に実害の危険が生じた場合は減点」
芽衣は原田を見た。
「動くなら言って」
原田はうなずいた。
「予告。動く」
芽衣は目を閉じた。
「殺す」
神崎が言った。
「それは致命的技術に該当する」
「比喩よ」
バクが呟いた。
「でも本音だ。誠実さに加点」
石田は健太の左側に立った。
近すぎず。
遠すぎず。
健太はそれに気づいた。
「なんでそこ?」
「近すぎると、監視されていると感じるだろう」
「監視してるだろ」
「ああ」
「言い切ると逆に安心するな」
「遠すぎると、お前が衝動的なことをした時に角度を塞げない」
健太は歯を食いしばった。
「衝動的なことはしない」
石田は彼を見た。
健太は二秒、その視線を受け止めた。
それから前を見た。
「……しないようにする」
「そっちの方がいい」
健太は右手を開いた。
指の上に小さな炎が現れた。
本当に小さな炎だった。
半分だけ抑え込まれた火柱ではない。
制御のふりをした脅しでもない。
短く、低い、呼吸のような火。
バクの動きが止まった。
ほんの一瞬だけ。
健太は彼を見なかった。
それも前進だった。
反対側で、芽衣が扇を回した。
「原田」
「はい」
「消えるなら、どこから戻るか言って」
「必ずしも十分前にわかるとは限らない」
「なら、何がしたいか言って」
原田は彼女を見た。
初めて、本当に興味を持ったように見えた。
「何がしたいか?」
芽衣は舌打ちした。
「感情の話じゃないわよ、馬鹿。戦闘で」
「ああ」
外側で、悠太が呟いた。
「あの補足は必要だったな」
隣の千穂が言った。
「原田にはね」
原田は場を見た。
「石田の距離を崩したい」
芽衣はうなずいた。
「いいわ。私は健太に早く火を出させたい」
健太は聞いていた。
「俺、ここにいるんだけど」
芽衣は笑った。
「だから言ったの」
石田は健太の手へわずかに視線を下げた。
「火で返すな」
「そのつもりはなかった」
「位置で返せ」
健太は鼻から息をした。
炎は大きくならなかった。
「わかった」
バクは加藤の肩に手を置いた。
「誇らしさを感じてしまって気持ち悪い」
加藤はその手を見た。
バクは手を引いた。
「昔の癖だ」
加藤は健太を見ていた。
「上から喋って台無しにするなよ」
「俺が? まさか」
神崎が言った。
「常にしている」
「誰も歴史的正確性は求めてない」
香奈が杖を上げた。
今度は中断されなかった。
「始め」
最初に消えたのは原田だった。
音はなかった。
閃光もなかった。
ただ、いなくなった。
芽衣は同時に動いたが、前へではない。
反対側へ。
扇が開かれ、細い二本の魔力の斬撃が床を走って健太へ向かった。傷つけるためではない。彼に後退するか、火を出すかを選ばせるためだった。
健太は、もう少しで後者を選びそうになった。
もう少しで。
右手が炎を握りつぶした。
火が消える。
彼は横へ一歩動いた。
美しくはない。
速くもない。
だが、位置だった。
石田はその動きを見て、手首から魔力の鎖を出した。低く、ほとんど床に沿うように。芽衣へ向かったのではない。
健太が空けた空間へ向かった。
そこに原田が現れた。
鎖が彼の足首の前を通る。
原田は踏む前に止まった。
ぎりぎりだった。
石田は笑わなかった。
「予告が遅い」と彼は言った。
原田は鎖を見た。
「記録した」
芽衣は健太の背後に現れ、振り下ろす斬撃を放った。
深くはない。
致命的でもない。
だが触れれば明確な一点になる。
健太は振り向いた。
速すぎた。
手に炎が戻る。
さっきより大きく。
「健太」と石田が言った。
一言だけ。
命令ではない。
挑発でもない。
境界だった。
健太は指を握った。
炎が小さくなった。
芽衣の斬撃は彼の肩の上を通り、皮膚は切らず布だけをかすめた。
健太は、自分の術が上がりたがる熱を感じた。
必要だからではない。
追い詰められる感覚が嫌いだったからだ。
石田は彼を縛らなかった。
救いもしなかった。
ただ、芽衣と健太の次の一歩の間に鎖を一本置いた。
線だった。
檻ではない。
健太はそれを見た。
そして初めて、それを制止とは感じなかった。
境界だと感じた。
「いい」とバクが低く言った。
誰もそれを茶化さなかった。
彼自身でさえ。
芽衣は一歩下がり、扇を回した。
「悪くないわね、火」
「火って呼ぶな」
「じゃあ、そんなに点きやすそうに見えないことね」
健太は笑った。
炎が少し上がった。
石田が彼を見る。
健太はもう一度手を閉じた。
「嫌いだ、あいつ」
「それは技術的反応を必要としない」と石田が言った。
「学んでるだけで、聖人になってるわけじゃない」
原田が消えた。
石田は右へ首を向けた。
見えたからではない。
芽衣がほんの一ミリ、そちらを見たからだ。
原田が再び現れる前に、鎖が出た。
だが原田はそこには現れなかった。
上に現れた。
一秒にも満たない時間。
石田の背後へ落ちるには十分だった。
「上!」と健太が言った。
遅かった。
だが言った。
石田は重心を下げた。
原田は彼の背後に着地し、膝の側面へ低い蹴りを放った。
石田は捕まえようとはしなかった。
それでは遅い。
すでに床にあった鎖が、健太の方へ張った。
健太は半分だけ理解した。
だが半分で十分だった。
一歩後ろへ下がり、鎖には触れずにその位置を目印として自分の体重を引いた。その動きが空間を開けた。石田はその空間へ回り込み、原田の蹴りはズボンの端をかすめた。
同時に、芽衣が健太の前に現れた。
「一人ね」と彼女が言った。
健太は彼女を見た。
「は?」
「置いていかれたわよ」
その攻撃は肉体的なものではなかった。
もっと悪いものだった。
健太は火で返したい衝動を感じた。
石田は手が塞がっている。
原田は背後。
芽衣は前。
鎖の線は彼を支えていない。
守っていない。
止めてもいない。
ただ、そこにあった。
道として。
健太はその線を踏んだ。
いや、上ではない。
横に。
左手に炎が生まれた。小さく、低く、自分と芽衣の間の地面へ向けられた炎。
芽衣を攻撃したのではない。
入口を切った。
芽衣は止まらざるを得なかった。
その目が細くなる。
「ああ」
健太は笑った。
「ああ、何だよ」
「賢いことをした。腹が立つ」
「俺もちょっと腹立った」
外側で、結衣が呟いた。
「制御だった」
花はうなずいた。
「それと怒り」
「でも追わなかった」
颯太はそれを、自分の訓練の一部のように聞いていた。
バクは叫ばなかった。
まだ。
それが訓練場を余計に張り詰めさせた。
原田は芽衣の隣に再び現れた。
「予想以上に機能している」
芽衣は彼を見た。
「相手を励ますようなこと言わないで」
「情報だ」
「情報も裏切りになり得るの」
原田は瞬きをした。
「記録した」
石田は健太の隣へ戻った。
「よくやった」
健太は彼を見なかった。
「褒め言葉には聞こえなかった」
「評価だ」
「もっと悪い」
「改善可能だ」
「それはお前らしい」
芽衣は両方の扇を上げた。
その刃の縁に沿って、魔力が細く研ぎ澄まされていく。
原田は指を軽く曲げ、また消える準備をした。
石田は二本の鎖を展開した。
健太は両手を開いた。
小さな炎が二つ。
同じ大きさ。
制御されていた。
芽衣が笑った。
「今度こそ」
原田が消えた。
だが今回は、消える前に言った。
「左を崩す」
芽衣は右へ出た。
健太は石田を見た。
石田は何をしろとも言わなかった。
それが難しかった。
沈黙はほんの一瞬だった。
健太が理解するには、それで十分だった。
制御されないことと、自分で決めることは、まったく別物なのだと。
原田が石田の左に現れた。
芽衣は右から斬った。
二つの前線。
二つの速度。
二つの失敗の可能性。
健太は火を上げた。
石田は鎖を上げた。
そして一秒間、二人ともわからなかった。
互いを守っているのか。
それとも、互いにぶつかっているのか。
バクは仮面の奥で笑った。
「ああ」と彼は言った。「ここからが、ひどいやつだ」




