第65章:最初の交差
トーナメントは始まった。
正確には、一秒だけ。
千穂の指の間で魔力の矢がまだ形を成している最中に、悠太は最初の一歩を横へ踏み出していた。花は、動きを見る前に聞こうとするように目を閉じた。結衣は小さな結界を張った。最初から完全ではない形で。
その時、タツが口を開いた。
「失礼いたします」
全員が動きを止めた。
命令ではなかった。
だから余計に厄介だった。
丁寧な中断だった。
杖を下ろしたばかりの香奈が、ゆっくりと彼の方へ振り向いた。
「何かしら?」
タツはわずかに頭を下げた。手には開かれたファイルがあり、その表情は、事務手続きの秩序のためなら死ぬ覚悟すらある者のものだった。
「恐れながら、水島様。まだトーナメントの全体表が発表されておりません」
沈黙は長く続かなかった。
全員が理解するには、それで十分だった。
加藤は香奈を見た。
笑ってはいなかった。
だが、笑う寸前だった。
「浮かれたな」
何人かの生徒が少しだけ目を見開いた。
その言葉に驚いたのではない。
加藤がそれを声に出す勇気を持っていたことに驚いたのだ。
香奈は横目で彼を見た。
一秒間、訂正しようとしているように見えた。
その後、彼女は笑った。
大きくはない。
ほんのわずかに。
だが、それだけで訓練場全体が、見てはいけないものを見たような気分になった。
「大人だって、時には胸が弾むものよ」
悠太は瞬きをした。
健太が口を開いた。
結衣が、彼がそれを使う前に足を踏んだ。
「予防」と彼女が呟いた。
バクがゆっくりと手を上げた。
「水島様が目撃者の前で人間性を認めたことを、歴史的記録として残したいです」
香奈は彼を見た。
「獅子堂」
「歴史的記録は撤回します。感情的な噂として残します」
側面から神崎が言った。
「そんなものは存在しない」
「だから噂なんだよ」
タツはさらに少し頭を下げた。
「開始のご指示の前に止めなかった私の失態です」
香奈は彼に視線を戻した。
今度は、その小さな笑みが完全には消えていなかった。
「いいえ、タツ。私の失態よ」
訓練場はさらに静かになった。
香奈は杖を地面につけた。
「試合が見たかったの」
タツがわずかに目を上げた。
驚いてはいないようだった。
ただ、少しだけ硬さが抜けていた。
「承知いたしました」
「だからといって、二度も手順を飛ばすつもりはないわ」
「もちろんでございます」
加藤が鼻から息を漏らした。
「残念だな。一瞬、このトーナメントは事務的即興力も測るのかと思った」
香奈は彼へ視線を戻した。
「その役職を保ちたいなら、続けないことね」
「自分の役職は気に入ってる」
「なら、それにふさわしくしなさい」
バクが側面から悠太の方へ身を傾けた。とはいえ、その声は全員に聞こえるほど大きかった。
「これは重要だぞ、諸君。伝説級の指導者でさえ、医療監視下で十代が殴り合うことに胸を躍らせる時がある」
香奈は振り向かなかった。
「バク」
「失礼。競技形式における若年層の戦術的発達です」
神崎が彼を見た。
「その訂正も役に立っていない」
「でも、少しだけ違法っぽさが減った」
香奈は杖をわずかに上げた。
「タツ。表を」
タツはファイルを整えた。
「はい」
訓練場は再び整った。
観戦用の結界の後ろにいた生徒たちは、ざわめきを止めた。颯太は境界に少しだけ近づいたが、越えはしなかった。彼の目は、場とタツのファイルを行き来していた。まだ告げられていない名前の一つ一つが、違う形で彼を痛ませるかもしれないとでもいうように。
香奈が先に口を開いた。
「すでに説明した通り、五組のペアがあります。各ペアは得点フェーズで二試合を行います。得点上位二組が決勝へ進みます」
健太が手を上げた。
香奈は見る必要すらなかった。
「有本」
「同点だったら?」
タツが答えた。
「減点、術式制御、連携能力、そして指導員の判断が考慮されます」
健太は手を下ろした。
「つまり、大人が決めるってことですね」
バクは自分の胸に手を当てた。
「なんて恐ろしい。若者が権力構造に気づいてしまった」
優奈が彼を見る。
「助けになってないわ」
「俺なりに助けてる」
「そこが心配なのよ」
タツはファイルから読み上げた。
「第一試合。天音悠太・和田千穂組、対、仙台花・高島結衣組」
四人はすでに知っていた。
それでも、もう一度聞くと変わった。
悠太は、千穂の名前が自分の名前の隣に置かれるのを感じた。まだ背負い方のわからない責任のようだった。千穂は彼を見なかったが、指の間の魔力の弦を張った。
花はゆっくり息をした。
結衣は肩を下げた。力を抜くためではない。恐怖で世界を閉じ込めるところから試合を始めないためだった。
タツは続けた。
「第二試合。石田太郎・有本健太組、対、白銀芽衣・原田迅組」
健太が芽衣の方へ向いた。
芽衣も健太の方へ向いた。
原田は振り向かなかった。おそらく最初から見ていたのだ。
石田は本に指を挟んでページを印したまま、閉じた。
「まあ」と健太が言った。「それは大惨事になるな」
芽衣が笑った。
「今回は珍しく意見が合うわね」
健太は眉をひそめた。
「お前と意見が合うのは嫌だ」
「私もよ。でも、大惨事がそこまで明確に現れたなら、認めるしかないでしょ」
原田が声を張らずに言った。
「問題は大惨事ではない」
芽衣が彼を見る。
「じゃあ何?」
「誰がそれを制御できると思っているかだ」
石田がわずかに目を上げた。
健太は少しだけ目を伏せた。
側面で、バクが嬉しそうに両手を合わせた。
「監視下の火災と存在論的な鎖、対、戦術的離婚と家庭問題つきの刃。いいな、このトーナメント、生きる力が湧いてくる」
香澄は口元を隠す程度に扇を開いた。
「下品なのに正確な説明ね」
芽衣は彼女を指した。
「私のチームを説明しないで」
「まだしていないわ」
「同じように聞こえた」
タツは読み続けた。
「第三試合。月野陽菜・村海斗組、対、天音悠太・和田千穂組」
悠太は陽菜を見た。
陽菜も彼を見返した。
海斗は千穂を見た。
千穂は場を見ていた。耐えることを知っている二人を相手に、悠太が何度自分の射線を台無しにできるか、もう数えているかのようだった。
「素敵だな」と悠太が言った。「最初の試合を生き延びたら、次は月野に斧で脅されるわけだ」
陽菜は柄に手を置いた。
「斧では脅さない」
「変だな。今ちょっと安心した」
「あなたが“助けすぎたくないふり”をしている時、私にはわかるって脅してるの」
悠太は口を開いた。
閉じた。
海斗は千穂を見た。
「俺たちは、あまり空間を渡さない」
千穂は彼の視線を受け止めた。
「なら、それでも見つけるしかないですね」
海斗はうなずいた。
「それは正しい」
「礼儀で言ったんじゃありません」
「わかっている」
加藤はその組み合わせを注意深く見ていた。
「いいな」
優奈が彼を見る。
「天音が、最初の試合で学ぶことを二つの物理的な前線に対して使わないといけないから?」
「千穂が早く覚えなければ、村と月野は射線を一つも譲らないからだ」
「それもあるわね」
加藤はコーヒーを飲んだ。
「今のは暗に言っていた」
「言っていない」
「言えたかもしれない」
タツは次を読んだ。
「第四試合。仙台花・高島結衣組、対、石田太郎・有本健太組」
結衣は動かなかった。
花は瞬きをした。
健太は早すぎるほどの速度で笑った。
石田がそれを見る。
「その顔をするな」
「どの顔だよ」
「結界に火を使う想像をした顔だ」
健太は笑みを消した。
「何もしてない」
「まだな」
花は結衣を見た。
「動きが多くなりそう」
結衣はうなずいた。
「それに火」
「それに鎖」
「それに火」
「火って二回言った」
「二倍心配だから」
健太は両手を上げた。
「全部聞こえてるんだけど」
結衣は彼を見た。
「そこも問題の一部よ」
バクが神崎へ身を傾けた。
「結界少女が予防的恐怖を発見したぞ。美しい」
神崎は生徒たちから目を離さなかった。
「麻痺しなければ有用だ」
「いつも詩を台無しにする細部を持ってくるな」
「詩は火事を止めない」
「でも記憶には残りやすい」
タツは最後の行へ移った。
「第五試合。白銀芽衣・原田迅組、対、月野陽菜・村海斗組」
訓練場の反応は、別の質を帯びた。
大きくなったわけではない。
より細くなった。
いくつかの視線が、互いに切り合ったようだった。
芽衣は陽菜を見た。
陽菜は目を逸らさなかった。
原田は海斗を見た。
海斗はわずかに姿勢を正した。
悠太は、その試合がまだ始まっていないのに、もう多すぎるものを抱えている気がした。
先に口を開いたのは芽衣だった。
「その顔やめて」
陽菜は首を傾けた。
「どの顔?」
「これが大事だと思ってる顔」
陽菜は笑わなかった。
「大事だよ」
芽衣は扇を握った。
「トーナメントよ」
「うん」
「久山じゃない」
その言葉は、他より低く落ちた。
悠太は颯太を見た。
颯太は久山を経験していない。それでも、芽衣の言い方から、場所が傷になることもあるのだと理解した。
陽菜は静かに答えた。
「わかってる」
「じゃあ、そういうこと全部考えてるみたいに見ないで」
「芽衣のことを考えてる」
芽衣は顔をしかめた。
「それが一番嫌」
感情の見えない声で、原田が言った。
「試合前の意思疎通は不十分に見える」
芽衣は彼へ向いた。
「あなたは黙ってて」
「確認した」
海斗は陽菜を見た。
「必要がなければ、二人の間には入らない」
陽菜は彼を見た。
「ありがとう」
「でも必要なら入る」
「なら壁になる前に言って」
海斗はうなずいた。
「言う」
バクは満足そうにため息をついた。
「感情的緊張、悪い意思疎通、そして刃物。若かった頃を思い出すな」
香澄が彼を見た。
「あなたは若かったことなんてないわ。警告として生まれてきたのよ」
「俺の幼少期が説明された」
神崎が割って入る。
「何も説明されていない」
「俺の神秘性を守ってくれてありがとう、正人」
タツはファイルを閉じた。
「以上が得点フェーズの表です。順番は固定されます。負傷、重大な減点、または水島様の直接判断がない限り変更はありません」
香奈は全員を見た。
「決勝は得点フェーズ終了後に発表します」
悠太が手を上げた。
香奈は彼を見た。
「天音」
「つまり、各ペアが二回戦って、そのあと上位二組が決勝に行くんですね」
「その通り」
「で、世界がいつも通りに振る舞うなら、その前に何かがうまくいかなくなる」
訓練場は半秒ほど静かになった。
悪い冗談だったからではない。
あまりにも起こり得ることだったからだ。
加藤は悠太を見た。
悠太は少し後悔した。
珍しく、バクは笑わなかった。
口を開いたのは神崎だった。
「そのために監視がある」
「今の、少し安心できました」と悠太が言った。
「安心させるためではない」
「戻った」
香奈は杖で地面を一度叩いた。
「今度こそ」
タツは側面へ退いた。
悠太は千穂と一緒に場の端へ戻った。
花と結衣も反対側で同じように構えた。
他の者たちは観戦用の結界の後ろにいたが、本当に外側にいるように感じている者は誰もいなかった。颯太は最前列にいた。石田、健太、芽衣、原田、陽菜、海斗も違う種類の注意で見ていた。彼らはただ一つの試合を見ているのではなかった。
この後、自分たち全員がやらなければならないことの、最初の例を見ていた。
加藤が場の境界に数歩近づいた。
「ルールを思い出せ。五分。致命的な術式は禁止。可視化された強化なしで頭部への攻撃は禁止。指導員が介入した場合、減点を検討する。ペアの二人が三秒間、移動または行動不能になった場合は敗北だ」
バクが手を上げた。
「そして誰かが特に馬鹿なことをした場合、俺にはそれに名前をつける権利がある」
香奈は彼を見なかった。
「その権利はない」
「では願望として保留します」
「それも重要ではないわ」
「俺の願望は制度的に重要視されることが少ない」
千穂は深く息をした。
指の間の魔力の弦が張り詰め、形を取っていく。
最初から完全な弓ではなかった。
それは線だった。
意図だった。
その後、弧が現れた。
矢が現れた。
悠太はそれを一瞬だけ見た。
「もう見ない」と彼は言った。
千穂は振り向かなかった。
「それでいい」
「見たら、たぶん感動して何か台無しにするから」
「それもある」
「信頼関係が築けてきて嬉しい」
「生存余地を築いてるの」
「似てる」
「似てない」
反対側では、結衣が両手を上げた。
透明な結界が彼女の前に現れる。
だが壁ではなかった。
低く傾いた一枚のパネル。
防御というより、不完全な判断に近かった。
花は目を閉じた。
長くは閉じなかった。
騒音を整理するのに必要なだけ。
目を開けると、彼女は言った。
「全部じゃない」
結衣はうなずいた。
「全部じゃない」
悠太はそれを聞いた。
完全には理解できなかった。
だが、嫌な感じがした。
香奈は二度目に杖を上げた。
今度は誰も止めなかった。
「始め」
千穂の矢が形を終えた。
悠太は走らなかった。
それが最初の問題だった。
身体は走りたがっていた。
最初の衝動は前へ出ることだった。空間を取る。結衣に結界を張らせる。花が読める前に邪魔をする。
だが彼は横へ一歩踏み出した。
約束した通りに。
理解した通りに。
あるいは、理解したと証明したかった通りに。
千穂は彼の動きを感じ、撃たなかった。
射線はあった。
一秒にも満たない間だけ。
その後、悠太は彼女に近すぎる位置で止まった。
前ではない。
だが、角度を濁らせるには十分な距離だった。
矢は弓に残った。
結衣がパネルを上げる。
花が言った。
「左」
結界が動いた。
大きくはない。
千穂が半秒早く決めていれば撃っていたであろう場所を、ちょうど塞ぐ程度に。
加藤が目を閉じた。
「そこだ」
優奈は場を見た。
「千穂には射線があった」
「そして撃たなかった」
「天音が近くにいたから」
「世界が快適になるのを待ったからだ」と加藤が言った。
バクが首を傾けた。
「少年が新しい技を発明したな。“混乱気味に少しだけ邪魔をしない”」
加藤は彼を見なかった。
「試してるんだ」
「ひどい愛情を込めて言った」
場の中で、悠太は千穂が矢を放っていないことに遅れて気づいた。
「俺、塞いだ?」
「違う」
「それ、はいって聞こえた」
「濁した」
「それはもっと悪く聞こえる」
「その方が正確だから」
悠太は息をした。
「どこにいてほしいか言って」
千穂は弦をわずかに引いた。
「そこが問題なの。あなたが自分の存在場所を遅れて決めるなら、私には決められない」
「とても正しい。とても刺さる」
「動いて」
悠太は動いた。
今度は右へ。
だが直線ではない。
結衣は小さなパネルをもう一枚上げて反応した。今度は千穂の前。結界は場全体を覆っていなかった。隙間があった。道があった。誘いがあった。
悠太はそのうち一つを見つけ、入りかけた。
かけただけだった。
花が口を開いた。
「右。違う、下。彼が――」
結衣が迷った。
その半秒で十分だった。
悠太は体重を移し、隙間へ入り、単純な魔力の打撃を放った。まともに当てる気はなかった。ただ結衣に防御を上げさせたかった。
結衣はそうした。
透明な板が二人の間に現れた。
打撃はそれにぶつかり、散った。
千穂が撃った。
矢は結界の右端を抜け、花の肩を狙った。
花は遅れて身を傾けた。
だが、傾けた。
矢は彼女の袖をかすめ、場の境界でほどけた。
「惜しい」と悠太が言った。
千穂は弓を下ろさなかった。
「惜しい、では点にならない」
「でもちょっと怖がらせた」
「それも点にならない」
外側で、颯太は観戦用結界に両手を押しつけていた。
彼はその射撃を見た。
そして、その前に何が起きたのかも見た。
悠太は前に立たずに動くことはできていた。
けれど、まだ“動かないこと”と“正しく動くこと”を同じように考えていた。
鏡が加藤の横へ近づいた。
「考えるのが遅い」
「考えてはいる」と加藤は言った。「それだけでも前進だ」
「遅い思考は殺す」
「だからここにいる」
鏡は答えなかった。
その必要はなかった。
反対側で、花は呼吸を速めていた。
結衣が彼女を見た。
「喋りすぎた」
花はうなずいた。
「うん」
「私も待ちすぎた」
「うん」
二人は互いを攻撃せずに事実を言った。
それは小さかった。
そして危険だった。
花は悠太と千穂を見た。
悠太の動きは予測しづらい染みのように見えた。完璧だからではない。彼自身も、半秒前まで何をするのかわかっていないようだったからだ。
千穂は、正確であろうとする張り詰めた線のように見えた。
正確すぎる線。
そして二人の間にある空間は、まだチームではなかった。
それは許可だった。
下手に求められ。
下手に与えられた。
それでも許可だった。
「短い言葉」と結衣が言った。
花はもう一度うなずいた。
「うん」
悠太が再び進んだ。
今度は先に言った。
「左を開ける」
千穂が瞬きをした。
彼が知らせるとは思っていなかった。
その一瞬もまた、代償になった。
結衣は低い斜めの結界を張った。
花が言った。
「閉じて」
結衣は閉じた。
結界は悠太に向かったのではなかった。
悠太と千穂の間の空間へ向かった。
悠太が止まる。
「それ、嫌な感じだな」
千穂は射線を探して二歩動いた。
花が言った。
「上」
結衣は矢の前ではなく、上にパネルを張った。
千穂は撃たなかった。
矢は通ったはずだった。
だがそのパネルは、花が動いた場合に矢が逸れるであろう場所にあった。
攻撃を防いでいるのではない。
続き方を防いでいた。
千穂は一秒遅れてそれを理解した。
「守ってない」と彼女が呟いた。
悠太は分断されないぎりぎりの位置まで下がった。
「じゃあ何をしてる?」
千穂は次の矢を張った。
「整えてる」
側面で、神崎がわずかにうなずいた。
バクがそれを見た。
「あ、気に入ったな」
「防御の部分運用として正しい」
「感情が少なすぎて、ほとんど違法みたいな言い方だったぞ」
「感情は防御を改善しない」
「でも解説は改善する」
「解説ではない」
「お前の人生は窓のない部屋みたいだな」
「窓は侵入口だ」
バクは胸に手を当てた。
「こうして比喩は死んだ」
場の中で、悠太はフェイントを試みた。
右肩を動かし、左脚に魔力を込めて中央へ出る。誰かの完全な模倣ではなかった。見てきたいくつものものを不器用に混ぜたものだった。鏡の体重移動。石田の我慢。悪い考えへまっすぐ歩いているように見える時の加藤の厚かましさ。
半分だけ機能した。
結衣は肩に反応した。
花は足に反応した。
「中央」
結衣は聞き返さなかった。
地面に小さな結界を張った。
悠太は遅れてそれを見て、跳び越えた。そして望んだより半秒長く空中に残った。
千穂には射線があった。
完璧ではない。
だが射線だった。
弦を張る。
そして撃たなかった。
悠太が落下中だったから。
角度を誤れば、彼に当たるかもしれなかったから。
射手の頭の中で、きれいな一撃が待つための完璧な言い訳に変わるのを、彼女は何度も見てきたから。
悠太は着地し、下手に転がり、立ち上がって振り返った。
「また塞いだ?」
千穂は顎に力を入れた。
「違う」
「千穂」
「塞いではいない。危なくした」
「ああ。ずっと悪い」
「うん」
「よし。成長が嫌いだ」
千穂は一瞬だけ弓を下げた。
「透明になってほしいわけじゃない」
悠太は彼女を見た。
「それは助かる。できないから」
「いつ動くのか知りたい」
「それは困る。俺も時々わからないから」
千穂は彼を観察した。
「なら、何をしたいのか言って。何をするのかじゃなくて」
悠太が理解するまで、一秒かかった。
同じではなかった。
「左に行く」と言って変えれば、彼女を乱す。
「射線を開けたい」と言えば、彼女は別のものを読める。
助けられる。
決められる。
悠太はうなずいた。
「それならできる」
「試して」
反対側で、花は言葉ではなく空気の変化を聞いた。
「変わる」
結衣は視線を外さなかった。
「どう?」
花は迷った。
答えが多すぎた。
悠太は進むかもしれない。
千穂は撃つかもしれない。
結衣は閉じるかもしれない。
自分は間違えるかもしれない。
花には、そのすべての可能性が同時に話す声のように聞こえた。
それから食堂を思い出した。
落ちていく期待。
結衣の言葉を思い出した。
“全部言おうとしないで。”
息を吸った。
「右、開けて」
結衣は従った。
一つ、開口を残した。
悠太はそれを見た。
千穂も見た。
「射線あり」と千穂が言った。
「開ける」と悠太が言った。
“行く”とは言わなかった。
方向を約束しなかった。
ただ意図だけだった。
千穂が弦を張る。
悠太は結衣が残した隙間へ進んだが、通り抜けはしなかった。途中で小さな魔力の衝撃を地面に放ち、花の視界を濁らせる程度の砂埃を上げた。
大した量ではなかった。
美しくもなかった。
だが、有用だった。
花が瞬きをした。
結衣は反射で結界を上げた。
完全すぎた。
一秒間、自分たちの側面まで閉じてしまった。
「閉じすぎ」と花が言った。
結衣は理解し、花が息を吐き終える前に結界に扉を開けた。
千穂が撃った。
中央ではない。
肩でもない。
開口部の端へ。
矢は結界の角を打ち、震わせた。透明な板には細い亀裂が走り、再構成されていく。
結衣は半歩下がった。
ダメージのせいではない。
驚いたからだ。
千穂は少しだけ目を開いた。
確信する前に撃った。
完璧ではなかった。
役に立った。
外側で、香澄が笑った。
「そこね」
芽衣はそれを聞き、扇を握った。
「今度は千穂もあなたの計画に採用する気?」
香澄は彼女を見なかった。
「いいえ。彼女は早く聞いたわ」
芽衣は彼女へ顔を向けた。
「誰より早く?」
香澄は扇を閉じた。
「名前は言っていないわ」
「言わなくてもわかった」
陽菜が芽衣へ少し近づいた。
「欲しがってるものを渡さないで」
「何を欲しがってるの?」
「考える前に切らせること」
芽衣は口を開いた。
閉じた。
反対側から原田が言った。
「有用な介入だった」
芽衣は彼を見ずに指した。
「あなたも黙って」
「確認した」
バクは千穂を興味深そうに見ていた。
「弓使いが、存在する醜い射撃は想像上の美しい射撃より役に立つと発見したな」
加藤がうなずいた。
「ああ」
バクは固まった。
「意見が合うと怖いな」
「俺もだ」
場の中で、悠太は笑った。
「今のすごく良かった」
千穂は彼を見なかった。
「試合中に喜ばないで」
「内心で喜んでる」
「顔に出てる」
「俺の顔はプライバシーを尊重しない」
花はその笑みを見た。
感情としてではない。
情報として。
悠太は、何かがうまくいき始めたと思うと笑う。
千穂は、悠太が自分を説明しすぎない時に撃つ。
問題は射線ではない。
射線を信じることが問題だった。
花は結衣を見た。
「見せて」
結衣は少し眉をひそめた。
「何を?」
「見えたと思わせて」
結衣はそれ以上聞かなかった。
それも前進だった。
悠太がまた動く。
「中央を開ける」
千穂は弦を張った。
「合わせる」
悠太はその言葉を胸の奥で小さな衝撃のように感じた。
感情的だったからではない。
実用的だったからだ。
そして初めて、誰かが彼に、どけとも邪魔するなとも言っていなかった。
動いていい。
私は読む。
そう言っていた。
だからこそ、うまくやりたくなった。
そしてそれが、また別の罠だった。
悠太は中央へ進んだ。
結衣は下がり、二枚の小さなパネルの間に、あまりにも明確な開口を残した。
千穂はそれを見た。
射線だった。
完璧ではない。
だが綺麗だった。
悠太もそれを見た。
綺麗すぎた。
一瞬、迷った。
花が一言だけ言った。
「遅い」
結衣が左手を下ろした。
右のパネルが消えた。
悠太は開口が変わるのを理解した。
「千穂、撃つな――」
千穂は撃たなかった。
今度は恐怖ではない。
判断だった。
矢は弦に残った。
悠太は通り抜ける前に止まった。
結界が、本来なら彼の膝があった場所に現れた。
空気への衝突が地面を震わせる。
そのまま進んでいれば、倒れていた。
千穂は息を吐いた。
「顔を見た」
悠太は彼女を見た。
「“これは簡単すぎる”って顔?」
「“痛みで何か学びそう”って顔」
「すごく具体的だな」
「よく使うから」
観戦用結界の向こうで、颯太は無意識に笑っていた。
悠太は完璧ではなかった。
ほど遠い。
だが、もう一人で全部をやろうとしているわけではなかった。
千穂も同じだった。
それは少し痛かった。
彼は外にいたから。
だが同時に、中にいたら理解できなかったことを教えてくれた。
見ることは、置いていかれることとは限らない。
見ることは、時に、失敗の全体像を見ることだった。
バクが音もなく彼のそばに現れた。
颯太はびくりとした。
「悪い」とバクが言った。「今回は常識より先に癖が出た」
颯太は警戒しながら彼を見た。
「大丈夫です」
バクは場を見た。
「外から見るのは痛いだろ」
颯太は答えるまで少し時間がかかった。
「はい」
「いい」
颯太は彼を見た。
バクは笑っていなかった。
あるいは完全には笑っていなかった。
仮面のせいでわかりづらい。
「それでも見ろ」と彼は言った。「痛みは、自分に文章を書かせなければ役に立つ」
颯太は何と返せばいいかわからなかった。
バクも返答を必要としていないようだった。
一秒後、男は声を張った。
「天音! 協力の価値を発見するなら、捨て犬みたいな顔をもう少し減らしてやれ! スポーツが怯える!」
香奈は目を閉じた。
「獅子堂」
「もう退いてます」
退いてはいなかった。
だが、少なくとも半歩は下がった。
場の中で、悠太は息をした。
「右を開ける」
千穂はうなずいた。
「あまりにも綺麗に見えたら撃たない」
「正解」
「汚くても可能なら撃つ」
「それに俺が障害物として含まれていそうで不安なんだけど」
「変数として含まれてる」
「好きじゃないけど、専門的に聞こえる」
花は変化を聞いた。
結衣も。
戦いは、邪魔しないようにしている二人と、閉じ込めすぎないようにしている二人のものではなくなっていた。
今は、二つの考えが動き方を覚えているところだった。
だからこそ、難しくなった。
そして正直になった。
悠太は右へ出た。
全速ではない。
直線でもない。
彼の不可視の魔力が足元にわずかに広がり、砂埃を偽の方向へ押した。結衣は悠太ではなく、砂埃の動きを追った。
花は見た。
「砂じゃない。足」
結衣が修正した。
低い結界を張る。
悠太は跳んだが、今度は抜けるためではなかった。
先に落ちるためだった。
千穂が撃った。
矢は不格好だった。
早すぎた。
低すぎた。
美しさはなかった。
だが存在した。
悠太が落ちながら、その腕の下を通り、結衣の結界の下端に当たった。
板が割れた。
完全には壊れなかった。
だが形を失った。
悠太は地面に手をつき、身体を中央へ変えた。
初めて、結衣の防御が半秒遅れた。
花は少しだけ目を開いた。
恐怖ではない。
認識だった。
「もう一つ」と千穂が言った。
悠太は笑った。
「中央を開ける」
千穂はすでに弦を張っていた。
結衣が二枚のパネルを上げる。
花は何も言わなかった。
それが、悠太を不安にさせた。
花は最初、言葉が多すぎた。
その後、少なく言うことを覚えた。
今は何も言わない。
外側で、神崎がわずかに姿勢を正した。
加藤がそれを見た。
「何だ?」
神崎は視線を外さなかった。
「仙台が反応を止めた」
バクが首を傾けた。
「それは悪いことか?」
「違う。彼らにとってはもっと悪い」
優奈が場を見た。
「あの二人に、理解したと思わせるのを待っている」
香澄がわずかに笑った。
「静かに残酷ね」
バクは花を指した。
「ますます気に入った。謝るみたいに怖い」
花にはそれが聞こえていなかった。
あるいは聞こえていたのかもしれない。
どちらでもよかった。
彼女は悠太を見ていた。
彼の身体ではない。
彼の身体が、自分はうまくやったと信じる、その瞬間を見ていた。
悠太が進む。
千穂は弦で彼を追う。
結衣は花へ向かう斜めの射線を開けておいた。
大きすぎない。
完璧ではない。
千穂が信じられる程度に不完全だった。
悠太にもそれが見えた。
今度は綺麗すぎるようには見えなかった。
勝ち取ったように見えた。
それが危険だった。
「開ける」と悠太が言った。
「取った」と千穂が答えた。
彼は横へ動いた。
前ではない。
横へ。
初めて、自分の位置が邪魔になっていないと感じた。
自分がいるべき場所にいると感じた。
千穂が矢を放つ。
魔力の矢はパネルの間を低く、速く抜けた。花の身体ではなく、その右側の地面を狙っていた。彼女を境界へ動かすための位置だった。
悠太は笑った。
今回は千穂の前にいなかったから。
射線を塞いでいなかったから。
一人で決めなかったから。
その時、花が目を開いた。
「今」
結衣の結界は、矢の前には現れなかった。
悠太の後ろに現れた。
もう一枚が、千穂の左足のそばに生まれた。
三枚目が斜めに現れ、二人の間の空間を切った。
矢は進んだ。
だが、彼らは進めなかった。
その時になって、悠太は理解した。
その射線を開いたのは、自分たちではなかった。
見せられていたのだ。
神崎が手を上げた。
「一」




