第59章:最初の実習
昼食は、昼食の味がしなかった。
悠太は食べた。
加藤に食べろと言われたからだ。
颯太も食べた。
加藤が食べろと言ったなら、食事が何かの訓練の一部に変わる前に従った方が安全だ、と悠太に言われたからだ。
陽菜は黙って食べた。
芽衣は空腹ではないふりをして、結局、悠太の米を奪った。
石田は食べながら本を読んでいた。それを悠太は、食事と本と人類に対する侮辱だと思った。
「それ、絶対に楽じゃないだろ」と悠太が言った。
石田はページをめくった。
「楽だ」
「箸を二本の指で持って、本を三本の指で持ってるんだぞ」
「効率だ」
「それは効率じゃない。病気だ」
芽衣が悠太の盆からまた少し米を取った。
「放っておきなさい。それが彼の社交方法なのよ」
「俺の飯を盗むのも、お前の社交方法?」
「そう」
悠太は自分の盆を見た。
「怪物に囲まれてる」
颯太が一瞬、動きを止めた。
ほんの少しだけ。
でも十分だった。
悠太はそれに気づいた。
芽衣も。
その言葉は、考える前に出てしまっていた。
この本部では、時々、言葉に牙が生える。
悠太は箸を下ろした。
「ごめん」
颯太は首を横に振った。
「大丈夫です」
でも、大丈夫ではなかった。
大きなことではない。
食卓を壊すほどのことでもない。
ただ、そこにあった。
陽菜はコップを盆の上に置いた。
「少し助けになるかわからないけど、ここにいる人間はだいたい半分くらい怪物みたいなものよ」
颯太は彼女を見た。
陽菜は肩をすくめた。
「特にうるさいのもいるし」
芽衣は箸で悠太を指した。
「彼は環境音の分類ね」
「ありがとう」と悠太は言った。「たぶん」
颯太が小さく笑った。
小さな笑いだった。
でも本物だった。
空気が戻っていく。
前とまったく同じではない。
けれど、少し良くなった。
昼食のあと、廊下に内部用の鐘が鳴った。
普段の授業の鐘ではなかった。
もっと低く。
もっと乾いていた。
生徒たちは互いに顔を見合わせ始めた。
食堂の反対側から、村海斗が現れた。その後ろには原田がいる。
「何が起きたか知ってるやついるか?」と海斗が聞いた。
悠太は手を上げた。
「三つ説がある」
「役に立つのは?」
「ない」
原田は扉の方を見た。
「主訓練場に呼ばれてる」
有本健太が、訓練着を半分開けたまま、寝癖の残った髪でやってきた。
「休憩を潰されたなら、何か燃やす」
その後ろから来ていた結衣がため息をついた。
「またそれ?」
「大事なものとは言ってない。小さいものだよ。椅子とか。概念とか」
千穂が彼を見た。
「概念ってどうやって燃やすの?」
健太は口を開いた。
閉じた。
「時間をくれ」
花はほとんど最後に現れた。表情は真剣で、目は少し疲れていた。彼女は全員を見回した。まるで、誰かが話す前から、すでに多すぎる声を聞いているかのようだった。
「訓練場に向かっている人が多い」と花が言った。
悠太は盆を置いた。
「公式っぽいな」
芽衣が立ち上がる。
「最近、公式っぽいことは全部悪い知らせになるわ」
颯太は悠太を見た。
「いつもそうなんですか?」
悠太は一秒考えた。
「いや」
颯太は少し安心したように見えた。
「時々、もっと悪いところから始まる」と石田が本を閉じながら付け加えた。
颯太の安心が消えた。
「気にしなくていいよ」と悠太が言った。「石田は、慰めることを、文法の整った死亡統計を出すことだと思ってるから」
石田は彼を見た。
「正確さも優しさの一形態になり得る」
「お前の場合は違う」
彼らは一緒に訓練場へ向かった。
進むにつれ、別の廊下からさらに生徒たちが合流していった。一年生。二年生。悠太が顔だけしか知らない上級生も何人か。全員が訓練着を着ていて、まだ何かを噛んでいる者もいれば、これが抜き打ち訓練なのか、緊急集会なのか、その両方なのか理解しようとしている者もいた。
主訓練場は開いていた。
空は灰色だった。
雨が降りそうというほどではない。
だが、励ますつもりもなさそうだった。
前方には香奈が立っていた。
右側にタツ。
少し後ろに加藤と優奈。
そして横には、きっちり並んでいるようでいて実際には並んでいない、今朝到着した四人の狩人がいた。
香奈は最後の生徒の集団が訓練場に入るまで待った。
それから、杖で床を軽く叩いた。
ざわめきが小さくなる。
やがて消えた。
「今日から訓練体制を変更する」
誰も話さなかった。
ただ、いくつもの視線が加藤へ向いた。
加藤は眉を寄せた。
「なぜ俺を見る」
悠太が控えめに手を上げた。
「習慣です」
加藤は彼を指した。
「あとで話す」
悠太は手を下ろした。
「それも習慣です」
香奈は聞こえていないかのように続けた。
「これは罰ではない。競争でもない。誰が一番才能があるかを示す試験でもない」
健太が声を落とした。
「じゃあ面白くないな」
結衣が呟く。
「健太」
「評価よ」と香奈は言った。「指導員たちは、あなたたちに勝つために戦うわけではない。すぐに勝てない状況で、あなたたちがどう反応するかを見るために戦う」
訓練場の空気が重くなった。
颯太が唾を飲み込んだ。
悠太はそちらを見なかったが、その音を聞いた。
香奈は両手を杖に置いた。
「恐怖の中で誰が考えられるか。誰が邪魔をせずに守れるか。誰が前に出すぎるか。誰が後ろに残るか。手遅れになる前に誰が命令を理解できるか。それを見る」
彼女の視線が全員の上を通った。
急がず。
余計な優しさもなく。
「指導員たちは、あなたたちを倒すためにいるのではない。残滓が見つける前に、あなたたちの亀裂を見つけるためにいる」
その言葉は確かに痕を残した。
見えない。
けれど、痕だった。
香奈は四人の狩人へ少し向いた。
「初期評価を担当するのは、この四人。鏡亮、白銀香澄、獅子堂バク、神崎正人。それぞれが、あなたたちの違う部分を見る」
最初の一人が半歩前へ出た。
鏡亮は、悠太にとってそれほど説明の要らない人物だった。
颯太にとっても同じだった。
黒い外套を着て、両手をポケットに入れ、いつも悪い知らせのあとから来たような顔をしてそこに立っている。
悠太の胸に、妙な感覚が走った。
恐怖ではない。
完全には。
三郷が少しだけ開く感覚だった。きちんと閉まりきらない扉のように。
颯太は視線を落とした。
鏡は二人を見た。
笑わなかった。
だが、彼らを認識していた。
「そんな顔をするな」と鏡は言った。「俺はまだ、生きて登場することで金をもらってる」
悠太は瞬きをした。
「俺も会えて嬉しいです」
「喜べとは言ってない」
「もう遅いです」
颯太は少し頭を下げた。
「鏡さん」
鏡は彼を少し長く見た。
「宮崎」
大きくなったな、とは言わなかった。
大丈夫か、とも言わなかった。
すまなかった、とも言わなかった。
ただ、その視線は颯太に留まった。まるで何かを数え、その数が今回だけは思ったほど悪くなかったかのように。
香奈が続けた。
「鏡は現場、圧力、判断力を評価する」
鏡は手をポケットに戻した。
「言葉にすると、実際より良く聞こえるな」
何人かの生徒がざわついた。
香奈は続けた。
「白銀香澄」
芽衣は、鏡の隣に立つ明るい髪の女性をじっと見ていた。
表情が急に硬くなる。
「ない」
悠太は彼女を見た。
「何が?」
「彼女はない」
前方で、その女性が笑った。
「ずいぶん愛情深い出迎えね、芽衣」
芽衣は扇を強く閉じすぎた。
「叔母さん」
陽菜がゆっくり芽衣へ向いた。
「あれ、あなたの叔母さん?」
「残念ながら」
白銀香澄は胸に手を当てた。
「傷つくわ」
「そのくらい命中率があればよかったんだけど」
悠太は少し目を見開いた。
「ああ。本物の家族だ」
香奈はそのやり取りが広がる前に止めた。
「香澄は精度、戦闘の読み、制御を評価する」
香澄は生徒たちへ首を傾げた。
「場合によっては、基本的な感情の正直さもね」
芽衣が呟く。
「優雅さに偽装した操作」
香澄には聞こえていた。
「それもね」
香奈は続けた。
「獅子堂バク」
仮面の男が片手を上げた。
彼は無視しにくかった。
開いた上着の下の裸の上半身。
傷跡。
使い古された革の仮面。
そしてズボンに下がる短いピック。金属のフックでベルトに固定されている。
健太が何の遠慮もなく彼を指差した。
「あの人、上着の下なにも着てないぞ」
結衣がその手を下ろさせた。
「指差さない」
バクが彼らへ向いた。
「落ち着け、火の少年。シャツは社会的構築物であり、腹筋にとっての監獄だ」
健太は固まった。
「何?」
悠太が囁いた。
「答えるな。たぶん、それを餌にしてる」
バクは指を上げた。
「正解。あとコーヒーと悪い判断も餌だ」
加藤は疲れたように目を閉じた。
「バク」
「何だよ。社交してるんだ。感じ悪い形ではあるけど、社交だ」
香奈は彼がさらにひどいことを言う前に続けた。
「バクは即興、不規則な圧力、非通常状況への反応を評価する」
バクは胸に手を当てた。
「あと、恥ずかしい死に方の削減」
優奈は彼を見た。
「それは必要なかった」
「最高の真実は、たいてい必要ないものだ」
香奈はその発言を無視した。
「神崎正人」
四人目の狩人が頭を下げた。
最初、彼は何も言わなかった。
少し後ろに立っている。
はじめは、一番目立たないように見えた。
だが悠太は、それが目立たないのではないと気づいた。
うるさくないのだ。
神崎正人は、攻撃された時にそれぞれが出口まで何歩必要かを測っているような目で生徒たちを見ていた。裁いているようには見えない。それがかえって悪かった。分類しているようだった。
石田が彼を注意深く見た。
神崎も見返した。
石田は目を逸らさなかった。
悠太は少し彼へ身を寄せた。
「知ってるの?」
「知らない」
「じゃあ、なんで二人はもう退屈極まりない会話をしてるみたいなんだ?」
「明確であるために言葉を必要としない人間もいる」
「退屈な会話を楽しむやつが言いそうなことだな、それ」
香奈は紹介を締めた。
「神崎は防衛、救助、避難、封じ込めを評価する」
神崎が初めて口を開いた。
「生き残ることも訓練できる」
それ以上は言わなかった。
それで十分に思えた。
香奈は再び生徒たちを見た。
「あなたたちは班に分けられる。今日は交代しない。それぞれの班が一人の指導員と訓練する。他の者は、指示があるまで側面で観察すること」
悠太が手を上げた。
香奈は彼を見た。
「天音」
「観察するっていうのは、普通に見るって意味ですか? それとも見たあとで、正確に俺たちの自尊心を破壊するって意味ですか?」
加藤が彼女より先に答えた。
「後者だ」
「正直で助かります」
「お前を助けるためじゃない」
香奈は班を読み上げ始めた。
「鏡班。天音悠太、宮崎颯太、原田迅、仙台花」
悠太は動きを止めた。
颯太も。
原田は抑えた好奇心で鏡を見た。
花はすでに多すぎる可能性を聞いているかのように、ゆっくり息をした。
鏡に反応はなかった。
だが、その目は四人を一人ずつ見た。
「香澄班。白銀芽衣、月野陽菜、和田千穂、高島結衣」
芽衣が勢いよく顔を上げた。
「はい?」
香澄は笑った。
「聞こえたでしょう」
「ええ。そこが問題です」
陽菜が軽く肘で彼女をつついた。
「大丈夫よ」
芽衣は彼女を見た。
「それはあなたにはわからないでしょ」
「わからないけど、言うべきことっぽかったから」
千穂は結衣を見た。
結衣はすでに、家族間の緊張を生き延びるために何枚の結界が必要か計算しているようだった。
香奈は続けた。
「バク班。村海斗、有本健太、それから二年生身体強化ブロックの指定生徒」
海斗は仮面の男を見た。
バクは二本指で挨拶を返した。
「やあ、未来の筋肉痛」
海斗は目を細めた。
「嫌な予感がする」
健太は笑った。
「俺は好きだな」
別の班から結衣が言った。
「それで悪い案だと確定したね」
「神崎班。石田太郎、ならびに封じ込め・支援ブロックの指定生徒」
石田はうなずいた。
神崎は彼を観察した。
「鎖か」
石田はわずかに眉を上げた。
「はい」
「武器としてだけ考えるのをやめれば、使える」
石田は答えなかった。
だが悠太には、その言葉が彼に入ったのが見えた。
香奈はリストを閉じた。
「今日は鏡班から始める」
バクが手を上げた。
「実況しても?」
「駄目」と加藤、優奈、香奈が同時に言った。
バクは手を下ろした。
「検閲は学びの敵だ」
神崎は側面へ歩いた。
「騒音もだ」
「早すぎる裏切りだな」とバクが言った。
生徒たちは訓練場の端へ移動した。
鏡の班だけが中央に残る。
他の生徒たちは、場の周りに不揃いな半円を作った。
加藤、優奈、香奈、タツは、介入せずに全体を見渡せる少し高い側面に位置取った。香澄、バク、神崎も近くにいた。それぞれがまったく違う見方をしていた。
香澄は、姿勢の一つひとつが物語を語るかのように見ていた。
バクは、誰かが冗談にできるほど馬鹿なことをするのを待っているように見ていた。
神崎は距離を見ていた。
いつも距離を。
香澄は位置につきながら加藤の横を通った。
「ずいぶん真面目ね、銀次郎」
「仕事中だ」
「前も仕事はしていたけど、そんなに退屈じゃなかったわ」
「前のお前も、ここまで面倒じゃなかった」
「嘘つき。私はいつも面倒だったわ」
優奈がわずかに顔を向けた。
「少なくとも自覚はあるのね」
香澄は彼女へ笑った。
「安心して、霧野。努力すれば、あなたもいつか魅力を身につけられるわ」
「尊厳を保つ方を選ぶわ」
「なんて孤独な選択」
加藤が一歩前に出た。
「訓練を見てもいいか」
香澄は笑みを崩さず、少し優奈へ身を寄せた。
「逃げたい時、いつもああするの」
優奈は加藤を見た。
「気づいたわ」
「逃げてない」と加藤。
「逃げてるわ」と香澄。
バクが手を上げた。
「中立な観察者かつ職業的な悪影響として、感情的逃走を確認しました」
加藤は彼を見た。
「お前は中立じゃない」
「でも職業的に悪影響ではある」
優奈はまた訓練場へ視線を戻した。けれど、その仕草にはさっきより少しだけ硬さがあった。
香澄はそれに気づいた。
何も言わなかった。
それが、おそらく一番悪かった。
訓練場の中央で、鏡は外套を脱ぎ、ベンチの上に置いた。
見える武器はなかった。
それは誰の安心材料にもならなかった。
悠太、颯太、原田、花が彼の前に立つ。
距離は広かった。
近接戦には広すぎる。
安全だと感じるには近すぎる。
鏡は四人を見た。
「目的は簡単だ」
悠太が手を上げた。
「簡単な目的は好きです」
「俺の右肩に触れろ」
悠太は手を下ろした。
「もう嫌いです」
颯太は鏡の肩を見た。
原田は指を動かした。
花はゆっくり息をした。
鏡は続けた。
「五分だ。安全範囲内で術式を使っていい。俺は、お前たちを気絶させようとはしない」
「優しいですね」と悠太。
「しようとは、だ」
「優しさが減りました」
鏡は颯太を見た。
「宮崎」
颯太は背筋を伸ばした。
「はい」
「ここは三郷じゃない」
颯太は動きを止めた。
その言葉は残酷ではなかった。
柔らかくもなかった。
ただ直接的だった。
「あの時と同じように走れば、誰かがお前を庇うことになる」
颯太は拳を握った。
「了解しました」
鏡は悠太を見た。
「天音」
「わかってます」
「わかってない」
悠太は口を閉じた。
「荷物みたいに守るな。荷物扱いすれば、そいつは荷物じゃないと証明しようとする。そうなった時、本当に荷物になる」
悠太はその言葉を腹で受けた。
「了解」
鏡は原田を見た。
「誰かの背後に瞬間移動することは、作戦じゃない。位置だ」
原田は目を細めた。
「了解しました」
最後に花を見た。
「何かが見えたなら、上手く言おうとする前に言え」
花は瞬きをした。
「上手く?」
「死者は警告の質を採点しない」
花は唾を飲み込んだ。
「了解しました」
側面でバクが胸に手を当てた。
「なんて憂鬱な教育だ。感動する」
神崎が彼を見ずに言った。
「正しい」
「だから余計に憂鬱なんだ」
香奈が杖を上げた。
「始め」
最初に動いたのは原田だった。
消えた。
空気にわずかな歪みが残る。
鏡の背後に現れ、右肩へ手を伸ばした。
一瞬、完璧に見えた。
次の瞬間、原田は床に落ちた。
殴られたわけではない。
重さだった。
肩に乗った空気が石になったかのように、膝から折れた。
鏡は振り返りさえしなかった。
「位置だ」と彼は言った。「作戦じゃない」
悠太は小さく悪態をついた。
颯太が一歩出る。
悠太は止めようとして手を伸ばした。
颯太はそれを見た。
そして身体を強張らせた。
鏡も見ていた。
側面で加藤が息を吐いた。
「あれだ」
優奈は場を見た。
「天音は、宮崎が失敗するかどうか見る前に庇おうとしている」
「わかってる」
「それはミスにつながる」
「もうつながってる」
香奈は颯太を見ていた。
「宮崎はまだ、守られたいのか、守られなくても動けると証明したいのか、自分でわかっていない」
タツがうなずいた。
「そして天音は、前に立たずに寄り添う方法をまだ知らない」
バクが指を上げた。
「深いな。スーツを着た扉から出たとは思えない」
タツは彼を見なかった。
「ありがとうございます」
「褒めてない」
「受け取ります」
中央では、花が顔を上げた。
「右」
悠太が動いた。
一秒後、彼の足があった場所に鏡の圧力が落ちた。
地面がきしんだ。
悠太は目を開いた。
「よし、今のは助かった」
花は答えなかった。
どこに落ちるかを決める前の嵐を読もうとするように、鏡を見ていた。
原田は立ち上がり、再び消えた。
今度は背後ではない。
左側、少し離れた場所に現れ、注意を逸らそうとした。
颯太は脚を魔力で強化した。
悠太はそれを見た。
止めなかった。
ただ言った。
「真っ直ぐ行くな」
颯太はうなずいた。
斜めに進んだ。
完璧ではなかった。
でも良くなっていた。
悠太は反対側から動いた。
二秒間、彼らは班に見えた。
原田が鏡の上に現れ、難しい角度から落ちてくる。
花が言った。
「下」
悠太は遅れて理解した。
原田のことではない。
重力が沈んだ。
彼らの上ではない。
下に。
地面が足を引っ張っているようだった。
颯太のリズムが崩れる。
悠太は修正しようとした。
原田は重い領域に触れる前に消えたが、花の近くに出すぎた。
花はぶつからないように下がった。
その小さな乱れで十分だった。
鏡が回る。
手を上げた。
圧力が悠太と颯太の間の空気を打った。
二人には触れなかった。
分断した。
颯太は片側に。
悠太は反対側に。
鏡は颯太へ向かった。
速くはない。
速い必要がなかった。
颯太は腕を上げた。
悠太は考える前に動いた。
「颯太!」
彼へ向かって走る。
原田も動いた。
花が何か言おうとした。
遅すぎた。
鏡が方向を変えた。
狙いは最初から颯太ではなかった。
悠太だった。
圧力が悠太の左肩に落ち、彼を片膝へ押し下げた。
怪我はさせない。
だが、地面に縫いつけた。
鏡は彼の前で足を止めた。
「死亡」
悠太は歯を食いしばった。
「触ってない」
「触る必要はなかった」
颯太は固まっていた。
「でも、俺の方に来てた」
「違う」と鏡は言った。「こいつが目を逸らすか見たかった」
悠太は顔を上げた。
その言葉が気に入らなかった。
正しかったからだ。
側面で加藤は腕を組んだ。
「俺の班は理解が早い」
優奈は彼を見た。
「あなたの生徒は、間違った方を見て膝をついたばかりよ」
「可能性を持って膝をついた」
「そんなものは存在しない」
「いい生徒がいれば存在する」
優奈はため息をついた。
「花が一度、警告を間に合わせた。あれは良かった」
加藤が片眉を上げた。
「それは教師としての誇りか?」
「技術的観察よ」
「誇りに聞こえた」
「始めないで、銀次郎」
香澄が彼らへ少し身を寄せた。
「生徒に興味なんてないふりを、どちらが上手くできるか競ってるのを見るのは楽しいわ」
加藤は場から目を逸らさなかった。
「俺の生徒は俺のおかげで優秀だ」
優奈は彼を見る。
「天音は先週、見えない壁にぶつかったわ」
「生き残った。質の高い教育だ」
バクが一度だけ拍手した。
「言葉の暴力を伴う父性愛。実に伝統的だ」
神崎は原田を見ていた。
「瞬間移動の生徒は修正が早い。だが経路を守っていない」
タツがうなずいた。
「危険から出ることはできる。必ずしも他人を出せるわけではありません」
「早めに修正すべきだ」と神崎。
バクは首を傾げた。
「比喩的に? それとも物理的に?」
神崎は彼を見た。
「誰が訓練するかによる」
「どんどん好きになるな」
鏡は悠太への圧力を解いた。
「続けろ」
悠太は立ち上がった。
息をした。
颯太を見た。
颯太はこちらを見返さなかった。
鏡を見ていた。
いい。
その方がいい。
花の声が少し強くなった。
「右手を上げても、見ている方向に攻撃するとは限らない」
鏡は彼女を見た。
「良くなった」
花は緊張した。
「ありがとうございます」
「褒めたわけじゃない。記録だ」
「あ……」
悠太が呟いた。
「ようこそ」
原田が悠太の隣に現れた。
「回させる必要がある」
「うん」
颯太は深く息をした。
「俺が押せます」
悠太は首を振った。
「一人では駄目だ」
颯太は眉を寄せた。
「一人でとは言ってません」
その返答で、悠太は黙った。
原田は花を見た。
「圧力の変化、落ちる前に言えるか?」
花は唇を結んだ。
「やってみる。でも全員が同時に動くと、雑音が多すぎる」
悠太は鏡を見た。
それから他の三人を見た。
「じゃあ、全員で同時に動かない」
原田がかすかに笑った。
「やっとか」
颯太が片眉を上げた。
「それ、批判ですか?」
「戻ってきた希望だ」
鏡は待っていた。
邪魔をしなかった。
攻撃されるより、それが悠太を不安にさせた。
「作戦」と悠太は小声で言った。「原田、後ろに出るな。花が危ない時は近くに出ろ。颯太、左から圧をかける。でも花が言うまで詰めるな。俺は右から行く」
颯太はうなずいた。
花は唾を飲み込んだ。
「私が下って言ったら跳んで。上って言ったらしゃがんで。止まれって言ったら……」
「止まる」と悠太。
「違う」と花。「止まれって言ったら動いて。彼が止まるのを待っているって意味」
悠太は瞬きをした。
「最悪だな」
「うん」
原田が笑った。
「好きだ」
颯太は笑わなかった。
だが、構えが変わった。
焦りが減り。
注意が増えた。
鏡がわずかに首を傾けた。
「好きにしろ」
最初に声を出したのは花だった。
「左」
颯太が進む。
真っ直ぐではない。
斜めに。
鏡が二本の指を動かした。
「下」と花が言った。
悠太と颯太は、圧力が地面を潰す直前に跳んだ。
原田は消えた。
攻撃しなかった。
花の背後に現れ、二つ目の圧力が近くに落ちた瞬間、彼女の腕を取った。
半メートルだけ動かした。
それだけだった。
だが、十分だった。
加藤はタツを見た。
「今のは新しいな」
タツがうなずく。
「攻撃ではなく、仲間を退避させるために術式を使いました」
「良い」と優奈が言った。
加藤は少しだけ笑った。
「俺の班だ」
「全員あなたのものじゃない」
「戦術的に養子にしてる」
優奈は彼を見た。
「駄目」
香澄は腰に手を当てた。
「銀次郎は昔からそうよ。傷ついた人を一人渡すと、二日後には『見ているだけだ』って言い始めるの」
加藤は彼女を見なかった。
「俺はそんな人間じゃない」
優奈が言った。
「完全にそういう人間よ」
加藤は口を開いた。
閉じた。
バクが神崎へ身を寄せた。
「今のは連携攻撃か? 訓練扱いでいい?」
神崎は加藤を見た。
「効果的だった」
「機能してる大人っていいな。正確に傷つけ合う」
訓練場では、悠太がその隙を使った。
鏡の右側へ近づく。
颯太は左から圧をかける。
原田は花の近くに残った。
花が言った。
「上」
悠太はしゃがんだ。
圧力が背中の上を、見えない手が空気を払うように通り過ぎた。
颯太もしゃがむ。一秒遅かったが、倒れずには済んだ。
悠太は手を伸ばした。
鏡の右肩が近い。
近すぎるほど近い。
初めて、届くかもしれないと思った。
その時、鏡が一歩後ろへ下がった。
逃げるためではない。
全員のちょうど中心を踏むためだった。
重力が変わった。
落ちたのではない。
回った。
悠太は身体が左へ持っていかれそうになるのを感じた。
颯太は前にバランスを崩す。
原田は瞬間移動しようとしたが、圧力で到達点が歪んだ。片膝をついた状態で、斜めに現れる。
花は片手を頭へ当てた。
線が多すぎる。
変化が多すぎる。
速すぎる。
悠太は、颯太が一番重い場所へ落ちかけているのを見た。
今回は、彼の方へ走らなかった。
「原田!」
原田が顔を上げた。
理解した。
消えた。
颯太の隣に現れ、重い線の外へ押し出した。
颯太は床を転がり、荒く息をした。
悠太は進み続けた。
颯太の方ではなく。
鏡の方へ。
一瞬、鏡が悠太を見た。
悠太は隙を見た。
小さい。
だが本物だった。
手を伸ばす。
届かなかった。
圧力が手首に落ち、腕を下へ押し込んだ。
強くはない。
正確だった。
鏡はすでに半歩離れていた。
「良くなった」と彼は言った。
悠太は息を切らした。
「今の、褒め言葉に聞こえました」
「記録だ」
「ここにいる大人、全員カウンセリングが必要ですよ」
外からバクが手を上げた。
「俺、一回行ったことあるぞ! 先に泣いたのはカウンセラーだった。棄権勝ちだ」
神崎は一秒、目を閉じた。
「説明になるようで、ならないことが多すぎる」
鏡が手を上げた。
「そこまで」
四人の生徒が止まった。
悠太は片手を膝に置いていた。
颯太は床に座り、息を荒くしていた。
原田はズボンの埃を払った。
花は立っていたが、顎に力が入っていた。
「もう?」と悠太が聞いた。
「必要なものは見た」
颯太が顔を上げる。
「でも、まだ続けられます」
「それを測っていたわけじゃない」と鏡は言った。
その言葉は、どんな圧力より重く落ちた。
香奈が数歩前へ出たが、介入はしなかった。
加藤、優奈、タツ、他の指導員たちも、聞こえる距離まで近づいた。
鏡は四人の生徒を見た。
「悪くない」
悠太は息を吐いた。
「それ、良い感じに聞こえました」
「まだ終わってない」
「良い感じの時って、絶対に終わりませんよね」
鏡はその言葉を無視した。
「反射はある。使える術式もある。本能もある。それは役に立つ」
花の肩が少し下がった。
原田の表情は変わらなかった。
颯太は真剣すぎるほど真剣に聞いていた。
悠太は身構えた。
次が来るとわかっていたからだ。
鏡は訓練場を指した。
「だが、チームがない」
誰も話さなかった。
「最初の一分間、それぞれが自分の場所から戦いを解決しようとした。原田は角度を探した。花は見えすぎて、遅く伝えた。颯太は、止まっていることが負けであるかのように走った。天音は、宮崎が動けると信じる前に守ろうとした」
颯太は視線を落とした。
悠太も。
鏡は続けた。
「一緒に戦っていたんじゃない。近くで戦っていただけだ」
その言葉は、必要以上に痛かった。
侮辱に聞こえなかったからだ。
診断に聞こえたからだ。
鏡は原田を見た。
「お前の術式は、敵が予想しない場所へ現れるためだけのものじゃない。いるべきではない場所から誰かを出すためにも使える」
原田はうなずいた。
「理解するのが遅れました」
「だが理解した」
次に花を見た。
「お前は、彼らより多く見えている」
花は緊張した。
「いつもではありません」
「十分だ。だが警告が迷いに聞こえれば、周りは従えばいいのか、慰めればいいのかわからない」
花は口を開いた。
閉じた。
鏡は声を柔らかくしなかった。
「叫ぶ必要はない。決める必要がある」
花は視線を落とした。
「はい」
鏡は颯太を見た。
「最初に届かないからといって、お前は無能ではない」
颯太は拳を握った。
「わかってます」
「違う。繰り返しているだけだ。まだわかっていない」
颯太は答えなかった。
鏡は沈黙を一秒だけ置いた。
そして悠太を見た。
「それからお前」
悠太は顔をしかめた。
「俺の番には間が入ると思ってました」
「誰かが動けると信じずに守ろうとするなら、それは助けているんじゃない」
悠太は唾を飲み込んだ。
鏡は続けた。
「善意で包んだ恐怖を使っているだけだ」
訓練場が静かになった。
悠太は、その言葉が痛む場所を正確に見つけたのを感じた。
鏡が間違っていたからではない。
間違っていなかったからだ。
颯太が悠太を見た。
悠太はすぐに見返せなかった。
側面で、加藤は何も言わなかった。
それは珍しかった。
優奈が彼を見る。
「庇わないの?」
加藤は悠太から目を離さなかった。
「庇わない」
「どうして?」
「鏡が正しいからだ」
優奈は答えなかった。
香澄は腰に手を当てた。
「それ、痛かったでしょうね」
「かなりな」と加藤。
バクが指を上げた。
「歴史的瞬間だ。銀次郎が他の大人の有用性を認めた。誰か記録してる? してない? なんという記録上の悲劇」
神崎は颯太を見ていた。
「あの子は、言われても折れなかった」
タツがうなずく。
「はい。でも覚えるでしょう」
「良い」と神崎は言った。
バクは彼を見た。
「お前、時々、墓石に刻まれた一文みたいだな」
「墓石は明確だ」
「ほら、それだよ」
中央で、鏡は一歩下がった。
「もう一度だ」
悠太が顔を上げる。
「必要なものは見たって言いませんでした?」
「言った」
「じゃあ、なんでもう一度?」
鏡は彼を見た。
「今度はお前たちも見たからだ」
花は深く息をした。
原田は彼女の前ではなく、横に立った。
颯太は立ち上がった。
悠太は彼を見た。
今回は、大丈夫かとは聞かなかった。
手も差し出さなかった。
前にも立たなかった。
ただ言った。
「準備は?」
颯太は訓練着の埃を払った。
「できてないです」
悠太は笑った。
「嘘よりいい答えだ」
颯太は鏡へ視線を上げた。
「でも動けます」
悠太はうなずいた。
「じゃあ、動こう」
鏡はその小さな変化を見ていた。
笑わなかった。
だが、その表情が少しだけ緩んだ。
香奈もそれを見た。
「あれよ」と小さく言った。
加藤は彼女を見た。
「何が」
「あれ」
優奈は、悠太と颯太が互いを塞がずに位置取るのを見ていた。
「まだ足りないものは多いわ」
「ええ」と香奈。
タツは、今度は目を場に固定して呼吸している花を見た。
「でも今は、何を見るべきかを知っています」
加藤は腕を組んだ。
「俺の生徒は覚えが早い」
優奈はため息をついた。
「またそれ?」
「何がだ」
「全員あなたのものじゃない」
加藤は場を指した。
「天音は俺の生徒だ。颯太は俺の監督下にある。原田は都合がいい時だけ俺の話を聞く。花は沈黙で俺の権威を尊重している」
「それは生徒を持つことじゃない。近くにいるというだけで所有権を捏造しているのよ」
香澄が笑った。
「放っておきなさい、霧野。年齢よ。背中が痛み始めると、他人の誇りを集め始める男もいるの」
加藤は彼女を見た。
「俺の背中は問題ない」
香澄は面白そうに、わずかに視線を下げた。
「賭ける?」
加藤はあまりにも素早く場を指した。
「実習が始まる」
優奈は彼を見た。
「また戦術的撤退ね」
「集中している」
「そう」
バクは神崎へ身を寄せた。
「何の緊張を見せられているのか知らないが、歴史と悪い判断がありそうだ」
神崎は場から目を離さなかった。
「大抵のことには歴史と悪い判断がある」
バクはうなずいた。
「賢くて憂鬱。危険な組み合わせだ」
鏡が手を上げた。
二度目の実習が始まった。
今度は、原田が最初に消えなかった。
花が、圧力が落ちる前に話した。
「左、低い」
颯太が動いた。
悠太も。
颯太へ向かってではない。
颯太と一緒に。
原田は花の背後に現れた。遅れて救うためではなく、彼女の視界の角度を変えるためだった。
花は彼の肩に軽く触れた。
「上」
原田は彼女と一緒に半歩横へ消えた。
悠太が入る。
颯太がフェイントをかける。
鏡の圧力が二人の間に落ちた。
だが今度は、分断されなかった。
どちらも、相手の場所を奪おうとしていなかったからだ。
悠太は腕を引かれる力を感じた。
颯太が下を抜ける。
肩には届かなかった。
だが、鏡を振り向かせた。
ほんの少し。
原田が反対側に現れる。
花が言った。
「今」
悠太は手を伸ばした。
指先が鏡のシャツの布をかすめた。
肩ではない。
けれど近かった。
鏡が動いた。
重力が落ちる。
四人は後ろへ下がり、息を切らした。
だが、誰も倒れなかった。
鏡は手を下ろした。
「そこまで」
悠太が顔を上げた。
「今のは良かったですか?」
鏡は彼を見た。
「ああ」
悠太は待った。
「悪いことは続かないんですか?」
「大量にある。だが今ではない」
悠太は目を閉じた。
「最初の部分だけ受け取って、数秒そこに住みます」
颯太は息を切らしていたが、少しだけ笑っていた。
花は片手を胸に当てていた。
原田は、あと少しで届きかけた場所を見ていた。
鏡は四人を指した。
「違いを覚えろ。一度目は、俺の肩に触れようとしていた。二度目は、他の誰かが動けるようにしようとしていた」
誰も話さなかった。
「そちらの方が、チームに近い」
もうチームだ、とは言わなかった。
それが大事だった。
嘘になるからだ。
だが「近い」だけで、悠太には何かが少しだけ変わったように感じられた。
香奈が杖で床を叩いた。
「この班は今日はここまで」
鏡は外套を拾った。
「明日もやる」
悠太は目を開けた。
「明日も?」
「ああ」
「もっと重力を増やして?」
鏡は外套を着た。
「おそらく」
「慰めを期待して聞きました」
「悪い癖だ」
颯太が悠太へ少し身を寄せた。
「いつもああいう返しなんですか?」
「うん。石田みたいなものだよ。外套が多いだけで」
訓練場の反対側から、石田が顔を上げた。
「聞こえたぞ」
「お前、この場面に出てないだろ」と悠太。
「正確さは距離に依存しない」
バクが二回拍手した。
「素晴らしい。友情、連携、そして重力が十代を嫌っていることを学んだ。充実した午後だ」
香奈は彼を見た。
「シシドウ」
「前向きに言ってる」
「それが余計に心配なの」
神崎は自分の班を見た。
石田はすでに真剣な顔で立っていた。
彼の後ろの生徒たちは、少し自信がなさそうだった。
「次は俺たちだ」と神崎が言った。
脅しには聞こえなかった。
だからこそ、より悪く聞こえた。
バク班の健太は腕を伸ばした。
「俺たちの訓練は、もっと喋りが少ないといいな」
バクがゆっくり彼へ向いた。
仮面がまっすぐ健太へ向く。
「ああ、火の少年」
その声はまだ楽しそうだった。
楽しそうすぎた。
「俺とは、たくさん喋ることになる」
健太は笑った。
「怖くないですね」
バクはすぐには答えなかった。
一秒間、ただ短いピックのフックに触れていた。
笑みは仮面の奥に隠れていた。
あるいは、もう消えていた。
「それも測る」
健太の笑みが少し消えた。
悠太は遠くからその変化を見た。
そして一つ理解した。
鏡は圧力だった。
香澄は刃だった。
神崎は構造だった。
バクは騒音だった。
けれど、その騒音の下に別のものがあった。
まだ出てきていない何かが。
加藤も彼を見ていた。
香奈も。
悠太は、もしかするとそれこそが、この訓練の本当の目的なのだと思った。
誰が勝てるかを知ることではない。
恐怖が内側から押し始めた時、自分のどの部分が現れるのかを知ること。
彼は颯太を見た。
颯太はまだ息を切らしていた。
でも立っていた。
原田が花に何かを言った。
花は首を横に振った。
それから、疲れているように見えながらも、答えた。
悠太はわずかに笑った。
準備はできていない。
それはもうわかっていた。
でも香奈が指導員たちを紹介してから初めて、たぶんそれは重要ではないのだと理解した。
重要なのは、自分たちがどのように準備できていないのかを、正確に知ることだった。
誰かに先に見つけられる前に。




