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永遠の残滓  作者: Mateo
57/58

第57章:新入生

加藤は彼らに、ほとんど二時間話させた。

菓子パンは役に立った。

悠太が思っていた以上に。

最初、加藤が彼らを部屋へ連れていき、背後で扉を閉めた時、悠太はかなり本気で自分たちが死ぬと思った。

文字通りではない。

たぶん。

加藤はすべてを黙って聞いた。

久山。

月野家。

澪。

《開眼の会》。

赤い男。

白い服を着た人々。

森での戦い。

そして、自分の中に押し込もうとしたものを身体が支えきれなくなり、内側から変形していった男の最期。

加藤はあまり遮らなかった。

ただ、辻褄が合わないところだけ質問した。

「赤い男は死んだんだな」

陽菜はうなずいた。

「はい」

「身体から圧力が消えるのを見たか」

「見ました」と石田が言った。

「民間人は目を覚ましたか」

「ほとんどは」と悠太が答えた。「何が起きたか、ちゃんとは覚えてないみたいでした」

加藤は少し考え込んだ。

「それは、後から思い出さないという意味じゃない」

誰も答えなかった。

全員が同じことを考えていたからだ。

加藤は最後の菓子パンをかじった。楽しんでいるのか心配しているのか、どちらとも言い切れない顔だった。

「それで、埋めたのか」

「はい」と芽衣が言った。

「どこに」

石田が正確な場所を説明した。

加藤は視線を逸らさずに聞いた。

そして、菓子パンをテーブルに置いた。

悠太は唾を飲み込んだ。

「じゃあ……俺たち、怒られてます?」

加藤は彼を見た。

「いや」

悠太は瞬きをした。

「え?」

「怒ってない」

「本当に?」

「天音」

「いや、長い沈黙のあとって、だいたい悪いことが来るので」

加藤はため息をついた。

「怒ってない」

四人は固まった。

まるでその言葉が罠であるかのように。

加藤は一人ずつ見た。

最初に陽菜。

次に芽衣。

次に石田。

最後に悠太。

「よくやった」

誰も話さなかった。

悠太でさえ。

加藤はテーブルに腕を置いた。

「許可なく出た。俺の名前を勝手に使った。死んでもおかしくない状況に自分たちから入った。それは全部、今でも馬鹿な行動だ」

「来た」と悠太が小さく呟いた。

「だが」と加藤は続けた。「お前たちは、他の誰も間に合わなかったかもしれない少女を見つけた。人間を道具として使っていた男を止めた。民間人を敵として扱う方が簡単だった状況で、殺さずに済ませた。そして全員戻ってきた」

陽菜は少し視線を落とした。

芽衣は、どうでもいいふりをするのをやめた。

石田は真剣な顔のままだった。

悠太は冗談を言わなかった。

加藤は再び菓子パンを手に取った。

「赤い男とその連中との戦いは、お前たちには十分すぎる罰だった」

かじった。

噛んだ。

味とは別の何かを確認するように、うなずいた。

「それに、菓子パンも美味かった」

悠太は安堵して目を閉じた。

「やっぱり重要だったんですね」

「大げさに言うな」

芽衣が笑った。

「でも役には立ちました」

「立ったな」と加藤は認めた。

そして、また真面目な顔になった。

厳しいわけではない。

ただ、はっきりとしていた。

「よくやった」

部屋は静かになった。

今度の沈黙は気まずくなかった。

不思議だった。

四人の誰も、そこまでまっすぐ褒められた時にどうすればいいのかわからなかったからだ。

最初に答えたのは陽菜だった。

「ありがとうございます」

芽衣は目を逸らした。

「……はい。まあ」

石田はわずかに頭を下げた。

「了解しました」

悠太が手を上げた。

加藤は彼を見た。

「この空気を壊すつもりなら、二回考えてからにしろ」

悠太は手を下ろした。

「取っておきます」

「奇跡だな」

翌日になっても、身体はまだ重かった。

普通の戦闘のあととは違った。

身体的な疲労と、眠りの浅さと、見てしまったものを脳がまだどこに置けばいいのかわからない感覚が、変に混ざっていた。

午前の訓練は中止になった。

理屈の上では、いい知らせのはずだった。

実際には、香奈が午前中に空の訓練室へ彼らを呼んだという意味だった。

そして香奈が誰かを空の訓練室へ呼ぶ時、それが褒めるためであることは、ほとんどなかった。

悠太は最後に入った。

陽菜はすでに壁にもたれていた。肩に包帯を巻き、また真面目な話をされるくらいなら別のカルトと戦った方がましだ、という顔をしていた。

芽衣はマットの上に座り、偽物の忍耐で扇を開いたり閉じたりしていた。

石田は読書をしていた。

当然のように。

加藤は奥に立っていた。腕を組んでいる。

香奈は部屋の中央にいた。

それがまず、悠太の眉を寄せさせた。

「これ、公式っぽいですね」

「公式よ」と香奈が答えた。

「悪い知らせだ」

加藤が彼を見た。

「天音」

「空気に反応しただけです」

「黙って反応しろ」

悠太は陽菜の隣の壁にもたれた。

「また問題ですか?」

「厳密には、俺たちは問題の外に出たことがない」と石田が本から目を上げずに言った。

「ありがとう、石田。いつも希望に満ちてるね」

香奈が杖で軽く床を叩いた。

大きな音ではなかった。

だが全員が黙った。

「今日は久山の件で呼んだわけではない」

悠太は瞬きをした。

「それは怪しいですね」

芽衣が彼を見る。

「どうして?」

「大人が『その件では怒ってない』って言う時、だいたい別の件で怒ってるから」

「怒っていないわ」と香奈が言った。

悠太は力を抜いた。

「あ」

加藤が付け足した。

「まだな」

悠太はまた固まった。

「あ」

香奈は笑わなかった。

けれど、少しだけ笑いそうだった。

「新入生がいる」

その言葉が訓練室に残った。

陽菜が顔を上げた。

芽衣は扇を動かすのをやめた。

石田は、本に指を挟んだまま閉じた。

悠太は加藤を見た。

「新入生?」

「そう言っただろ」と加藤。

「はい、聞きました。処理してます」

「無理するな」

「信頼ありがとうございます」

香奈は扉の方へ向いた。

「入って」

扉が開いた。

悠太は、新しい生徒が入ってくると思っていた。

緊張した誰か。

知らない誰か。

自分とは何の関係もない誰か。

けれど入ってきた少年は、片方の肩にリュックをかけ、少し乱れた髪をしていて、悠太が理由を理解するよりも先に覚えているとわかる真面目な表情をしていた。

悠太は動けなくなった。

少年はまず香奈を見た。

次に加藤を見た。

それから他の三人を見た。

そして悠太を見つけた時、その顔が変わった。

大きな笑顔ではなかった。

けれど、本物の笑顔だった。

「久しぶり、天音」と颯太は言った。「元気だった?」

悠太は口を開けた。

何も言わなかった。

それから、素早く一歩近づいた。

「颯太?」

颯太は気まずそうに片手を上げた。

「うん」

悠太は考える前に彼を抱きしめていた。

完璧な抱擁ではなかった。

ぎこちなくて。

速くて。

衝動的すぎた。

颯太は半秒だけ固まった。

それから低く笑い、悠太の背中を軽く叩いた。

「俺も会えて嬉しいよ」

悠太は離れたあとも、颯太が本当にそこにいるのか確認するように見ていた。

「どれくらいぶり? 一か月? もっと? 大丈夫? お母さんは? なんでここにいるの? 背伸びた?」

颯太は瞬きをした。

「質問多すぎる」

「要約してる」

芽衣は陽菜を見た。

「彼、人を抱きしめるの?」

「らしいね」と陽菜。

石田が本を完全に閉じた。

「天音」

悠太は振り向いた。

「何?」

「説明」

悠太は反応するまでに一秒かかった。

それから皆を見た。

「あ。そうだ。彼は宮崎颯太」

颯太は注目されて気まずそうに、少し頭を下げた。

「どうも」

「三郷の子だよ」と悠太は言った。「俺と鏡さんで助けた子」

三郷という名前が、空気を変えた。

壊したわけではない。

生きている彼に会えた喜びを消したわけでもない。

ただ、重さを与えた。

陽菜は颯太を見る目を変えた。

芽衣は片足にかけていた重心を戻した。

石田は静かに注意を向けた。

颯太はリュックの紐を握った。

「こんなに早くまた会うとは思わなかった」

悠太は笑った。

「俺も。でも嬉しいよ」

颯太は彼を見た。

今度は少しだけ大きく笑った。

「俺も」

その一秒だけ、訓練室は少しだけ冷たくなくなった。

その後、加藤が口を開いた。

「宮崎はこの一か月、香奈と訓練していた」

悠太はゆっくり加藤の方へ向いた。

「すみません?」

「聞こえただろ」

悠太は香奈を見た。

颯太を見た。

もう一度香奈を見た。

「一か月?」

香奈はうなずいた。

「一か月」

悠太はゆっくり颯太へ視線を下ろした。

「訓練?」

「うん」と颯太。

「魔力で?」

「うん」

悠太は、颯太に個人的に裏切られたような目で彼を見た。

「いや」

颯太は慎重に片手を上げた。

最初は何も起きなかった。

やがて、指の周りに薄い魔力の層が現れた。

強くはなかった。

安定もしていなかった。

風で消えそうな小さな火のように、少し揺れていた。

けれど、そこにあった。

魔力。

見える。

本物の。

颯太の手の上に。

悠太は口を開けた。

閉じた。

また開けた。

「いや」

芽衣が笑った。

「一か月って言ったわよね?」

颯太は気まずそうに手を下ろした。

「うん」

石田は颯太の指を注意深く見た。

「基本制御は機能している」

「悪化させる言い方やめて」と悠太が言った。

陽菜は悠太を見た。

「あんた、どれくらいかかったの?」

悠太は颯太を指差した。

「そこは問題じゃない」

奥から加藤が手を上げた。

「少し問題だ」

「みんなで乗らないでください」

芽衣は膝に肘を置いた。

「天音、十四歳の子が一か月で、あなたがかかった……」

「その文を終わらせないで」

「正確な数字は知らないわ」

「その方がいい」

石田はまた本を開いた。

「比較上、効率がいい」

悠太は彼を見た。

「楽しんでるだろ」

「いや」

「嘘」

「データを記録している」

「喜びながら」

「それはデータと関係ない」

陽菜が低く笑った。

颯太はそのやり取りを完全には理解していなかったが、肩の力が少し抜けていた。

悠太はそれに気づいた。

そして嬉しくなった。

彼の記憶にある颯太は、恐怖で目を見開いていた。

今の颯太にも、まだ恐怖はある。

けれど、ここにいる、というものに近い何かもあった。

香奈がもう一度、杖で床を叩いた。

「そこまで」

からかいはすぐに止まった。

だいたい。

芽衣は黙って笑い続けていた。

悠太は傷ついた尊厳の顔をしたが、誰にも尊重されなかった。

香奈は颯太を見た。

「話して」

颯太は唾を飲み込んだ。

「全部ですか?」

「必要なところだけ」

颯太はうなずいた。

もう必要ないのに、リュックを持ち直した。

「みんなが三郷を去ったあと、俺……普通に戻れなかった」

部屋が静かになった。

悠太はふざけた顔をやめた。

「母さんは、あの事件のせいだと思ってた。斗真とマサのこと。全部のこと」

颯太は少し視線を下げた。

「実際、そのせいでもあった。でも、それだけじゃなかった。俺は何か別のものがあるって知ってた。見たものを母さんに話したら、頭がおかしくなったと思われるだけだった」

陽菜は腕を組んだまま、何も言わなかった。

颯太は深く息をした。

「数日後、香奈さんが家に来た」

悠太は香奈を見た。

香奈は颯太から目を逸らさなかった。

「最初に母さんと話した」と彼は続けた。「俺には環境を変える必要があるって。三郷のあと、普通の学校では支えきれないかもしれないって。東京に、もっとちゃんと助けられる場所があるって」

「全部は話さなかったんですね」と悠太が言った。

責めているわけではなかった。

問いかけとも少し違った。

香奈は彼を見た。

「話せなかった」

悠太はゆっくりうなずいた。

好きではなかった。

けれど、理解はできた。

そういうことが、少しずつ増えていた。

颯太は続けた。

「母さんは嫌がった。当然だけど。もう十分失ったって。街を変えることも、俺を失うのと同じだって」

誰も話さなかった。

「香奈さんは、自分の方が正しいみたいに言い返さなかった。ただ……待ってくれた。連れていくんじゃない、選択肢を渡しているだけだって。断ってもいいって」

悠太はもう一度、香奈を見た。

全部を知らない母親を前にして、あまりにも大きすぎる真実のうち、許された部分だけを話す香奈を想像するのは難しかった。

でも、想像もできた。

香奈には、誰も触れたがらない決断を背負うようなところがあった。

「そのあと、俺と話した」と颯太が言った。

声が少し変わった。

低くなった。

より彼自身の声になった。

「俺には本当のことを話してくれた。全部じゃないと思う。でも十分だった」

悠太は動かなかった。

「俺が見たものは本物だったって。怪物は存在するって。斗真とマサは普通のことで死んだんじゃないって。あなたたちは普通の生徒じゃないって」

芽衣は冗談を言わなかった。

石田は本に視線を落としたが、読んではいなかった。

陽菜は床を見た。

颯太は拳を握った。

「俺は聞いた。何かできるのかって。学べるのかって」

香奈が初めて口を開いた。

「学んでも、失ったものは戻らないと言ったわ」

颯太はうなずいた。

「俺は、それはもうわかってるって言った」

部屋は静かになった。

気まずい沈黙ではなかった。

そこにあるべき沈黙だった。

颯太は悠太へ視線を上げた。

「俺は、あなたみたいになりたくて来たわけじゃない」

悠太は瞬きをした。

「うん。それは変な方向に痛い」

颯太は少しだけ笑った。

だが、その笑みはすぐに消えた。

「また同じことが起きた時、ただ見ているだけなのは嫌だった」

悠太は笑うのをやめた。

その言葉を理解していた。

理解しすぎていた。

「うん」と彼は言った。「それはわかる」

加藤が壁から離れた。

「よし」

全員が彼を見た。

「感動的な時間は終わりだ」

「そういう言い方する必要ありました?」悠太が聞いた。

「あった」

加藤は訓練室の中央へ歩いた。

「宮崎は基本的な魔力を使える。香奈によれば、感度はいいし、最初にしては量も悪くない。ただ、圧力がかかった時にどう動くかはまだわからない」

颯太は背筋を伸ばした。

「やれます」

「やるんだ」

悠太は加藤を見た。

その流れが嫌な方向へ向かっているのがわかった。

「何をですか?」

加藤は彼を見る。

「実力を見るには、戦わせる必要がある」

悠太は両手を上げた。

「嫌です」

「やる」

「なんで嫌って言ったんだろう。どうせやるって言うのに」

「まだ希望を持ってるからだ」

「それは残酷です」

加藤は部屋の中央を指した。

「天音、お前が相手をしろ」

颯太は悠太へ向いた。

怖がってはいなかった。

驚いていた。

そして少し、安心しているようにも見えた。

悠太は自分を指差した。

「俺?」

「お前だ」

「なんで俺?」

加藤は指を一本立てた。

「石田とやらせれば縛る」

石田は否定しなかった。

「白銀とやらせれば切る」

芽衣が笑った。

「気分によります」

「だからだ」

加藤は陽菜を指した。

「月野とやらせれば怖がる」

陽菜は眉を寄せた。

「なんで私が怖がらせるんですか」

加藤は彼女を見た。

「斧を持ってる」

陽菜は自分の手元を見た。まるで今それを思い出したかのように。

「納得しました」

悠太はため息をついた。

「俺は何をすれば?」

「測れ」

「大人っぽい言葉ですね。嫌です」

「コピーは使うな」と加藤。

悠太は止まった。

「つまり、俺は自分の天然の才能だけで戦うんですか?」

加藤は彼を見た。

「だから心配している」

芽衣は笑みを隠すために顔を下げた。

失敗した。

颯太は悠太を見た。

「そんなに手加減しなくていいです」

悠太は彼を見返した。

「みんな後悔する前はそう言う」

「自分がどこにいるか知りたいんです」

「加藤のいる部屋にいる。それだけで悪い兆候だよ」

颯太は短く笑った。

その笑いで、悠太は少しだけ力を抜いた。

二人は中央に立った。

加藤が手振りで距離を決める。

「ルール。殺傷技は禁止。魔力で強化した頭部への攻撃も禁止。天音はコピーなし。宮崎、魔力の制御を失ったら止まれ。止まれないなら俺が止める」

颯太はうなずいた。

「はい」

「天音」

「はい?」

「一回交わるたびに冗談を言うなら、あとで走らせる」

悠太は口を開いた。

閉じた。

芽衣が片眉を上げた。

「今のは自制だったわね」

「痛かった」と悠太が言った。

加藤が手を上げる。

「始め」

最初に動いたのは颯太だった。

走り方は悪くなかった。

それに悠太は少し驚いた。

足は少し硬い。肩には力が入りすぎている。呼吸も少し先走っている。けれど、ただ殴りたいだけの人間のように突っ込んできているわけではなかった。

香奈が構えを教えたのだ。

それはわかった。

颯太は脚を魔力で強化した。

足首から膝まで、薄い層のように魔力が上がる。

そして踏み込んだ。

速い。

悠太が予想していたより速かった。

悠太はぎりぎりで一歩下がった。

颯太の拳が胸の前を通り過ぎる。

完璧な打撃ではない。

だが当たれば痛い。

「あ」と悠太は言った。「今のはほぼ攻撃だった」

「喋るな」と加藤。

「口頭評価です」

颯太が回転し、もう一発打った。

悠太は紙一重で避けた。

今度は、あまり大きく下がらなかった。

見た。

颯太の魔力は、胴より先に脚に出る。早く届きたい。距離を詰めたい。自分は役立たずじゃないと証明したい。

悠太はそれを知っていた。

たぶん、知りすぎていた。

颯太はまた攻めた。

悠太は横へ動き、手首に触れ、肩を軽く押した。

颯太はバランスを崩したが、倒れなかった。

右脚に魔力を入れて立て直し、再び向き直った。

悠太は眉を上げた。

「いいね」

颯太は歯を食いしばった。

「褒めないでください」

「ごめん。悪い」

「謝らないでください」

「指示が矛盾しすぎてる」

颯太は再び突っ込んだ。

今度は前腕に魔力の層をまとわせていた。

武器ではない。

強化だった。

粗いが、使える。

悠太は両腕で受けた。

衝撃で一歩後ろへ下がる。

芽衣が少し目を開いた。

「お」

陽菜が笑った。

「当てた」

「当たってない」と悠太。

「動かされた」

「それは違う」

石田は無表情で観察していた。

「宮崎は着弾点に魔力を集中しすぎている」

加藤がうなずく。

「効率が落ちる」

「俺、ここにいるんですけど」と颯太が息を切らしながら言った。

「だから話してるんだ」と加藤が返した。

颯太はまた攻めた。

だがその頃には、悠太は一つ理解していた。

颯太は攻撃的な人間のように戦っているわけではない。

急いでいる人間のように戦っている。

一歩ごとに同じことを言っていた。

今度は止まらない。

今度は何かをする。

今度は間に合う。

悠太は胸が締めつけられるのを感じた。

哀れみで勝たせることはできない。

それは彼への侮辱になる。

かといって、叩き潰すこともできない。

それは、まだ立ち上がり方を覚えているものを壊すことになる。

颯太が脚に魔力を込めた。

悠太は足を見る前に、肩でそれを見た。

半歩下がる。

颯太の拳が空を打った。

悠太は手首に触れ、横へ回り、肩を押した。

今度は颯太が膝をついた。

強くではない。

けれど倒れた。

颯太は片手を床についた。

「今の、ずるいです」

「違う」と悠太は答えた。「経験値・中だよ」

芽衣が笑った。

陽菜も笑った。

加藤は目を閉じた。

「その言葉が技術的には正しいのが信じられない」

颯太は立ち上がった。

息が速くなっていた。

指の周りの魔力が揺らいでいる。

香奈は注意深く見ていた。

「放出が落ちているわ」

颯太は自分の手を見た。

「まだできます」

「できないとは言っていない」

加藤は腕を組んだ。

「ただ、言われた時に聞け」

颯太はうなずいた。

そしてまた構えた。

悠太は両手を上げた。

「続ける?」

「はい」と颯太。

「よし」

颯太は変えた。

大きくではない。

けれど変えた。

もう正面には来なかった。

右へフェイントを入れ、そのあと左から入ろうとした。

悠太は引っかかりかけた。

ほとんど。

素早く身体を回し、前腕で受ける必要があった。

拳が肋骨をかすめた。

「今のは本当に良かった」と悠太が言った。

颯太は答えなかった。

また攻める。

悠太は下がる。

颯太が進む。

悠太はまた下がる。

陽菜は眉を寄せた。

「進ませてる?」

石田はわずかに首を振った。

「消耗させている」

颯太は攻め続けた。

一歩ごとに魔力が乗っていた。

打撃にも。

量は悪くない。

だが、持っていることと、失ってもいいことを同じだと思っているような使い方だった。

悠太は待った。

一撃。

二撃。

三撃。

四撃目で、颯太の魔力が揺れた。

半秒。

それだけ。

悠太は前へ出た。

颯太は予想していなかった。

それまで悠太は下がり続けていたからだ。

それが誤りだった。

悠太は間合いに入り、重心を落とし、足を払って、体勢を戻す前に腕を取った。

颯太は床に倒れた。

仰向けに。

荒く息をしていた。

悠太は隣に膝をつき、片手を上げた。

「経験値・中の勝ち」

颯太は天井を見た。

それから悠太を見る。

「それ、響きがひどいです」

「俺のブランド」

加藤が一度手を叩いた。

「そこまで」

悠太は颯太が起きるのを手伝った。

颯太はその手を取った。

怒ってはいなかった。

悔しそうではあった。

でも怒ってはいなかった。

「もっとやれると思ってました」

悠太は肩をすくめた。

「けっこう良かったよ」

「負けました」

「それもそう」

颯太は彼を見る。

悠太はため息をついた。

「魔力を使える。それだけでもすごい。でも戦う時、早く届こうとしすぎる」

颯太は視線を下げた。

「置いていかれたくないんです」

その言葉は、隠す前に出ていた。

悠太は冗談を言わなかった。

「わかる」

颯太は唇を結んだ。

「何かが起きた時、また誰かが来るのを待つだけなのは嫌なんです」

悠太は三郷を思い出した。

あの道を。

絶望を。

震えていた颯太を。

斗真とマサを。

誰かが遅れて到着した、あらゆる場所を。

「それは一か月で直るものじゃない」と彼は言った。

颯太は顔を上げた。

悠太は少し笑った。

「でも、始めることはできる」

颯太は少し時間を置いてから、うなずいた。

加藤が近づいてきた。

「魔力は使える」と彼は言った。

颯太は背筋を伸ばした。

「それは、いいことですか?」

「ああ」

颯太は息をついたように見えた。

加藤は続けた。

「そして、魔力を使えることが準備完了だと思っている」

颯太は強張った。

「そうは思ってません」

加藤は彼を見た。

「思っている」

颯太は口を開いた。

何も言わなかった。

加藤の声は残酷ではなかった。

だからこそ、反論しにくかった。

「だからここにいる」と加藤は続けた。「その違いを学ぶためだ」

香奈は両手を杖に置いた。

「あなたは任務には出ない」

颯太は彼女へ向いた。

「でも——」

「いいえ」

香奈の言葉は静かだった。

終わりだった。

「まだよ」

颯太は視線を下げた。

「じゃあ、俺は何のためにここにいるんですか」

香奈が答える前に、加藤が答えた。

「次に暗闇から何かがお前を見た時、誰かが来るのを待たなくて済むようにするためだ」

颯太は動かなかった。

その言葉は、ゆっくりと彼の中へ入っていった。

慰めではない。

硬い約束として。

世界を良くするわけではないが、それでも世界の前に立てるようにする種類の約束として。

「わかりました」

颯太は言った。

悠太は彼を見た。

この時の颯太は、三郷から連れ出した少年には見えなかった。

治った人間にも見えなかった。

治ってはいなかった。

それでも立っていた。

それが大事だった。

芽衣が手を上げた。

「真面目な質問」

加藤は彼女を見た。

「驚いたな」

「天音は今、 mentor なの?」

悠太は彼女へ振り向いた。

「やめて」

陽菜が笑った。

「でも合ってるでしょ。颯太は彼を信頼してる」

「それもやめて」

石田は本を開いた。

「非公式な指導関係は、初期適応に役立つ可能性がある」

悠太は彼を指差した。

「お前が一番ひどい裏切り者だよ。真面目な言葉で言うから」

颯太は悠太を見た。

「mentor とは言ってません」

「ありがとう」

「信頼してるって言っただけです」

悠太は黙った。

芽衣が危険な笑みを浮かべた。

「そっちの方が悪いわね」

「かなり悪い」と陽菜。

悠太は片手で顔を覆った。

「みんなして俺を老けさせてる」

加藤は腕を組んだ。

「ようこそ」

「あなたのクラブには入りたくないです」

「誰も入りたくない」

香奈は颯太を見た。

「今日からあなたは加藤の監督下に入る」

颯太の目が少し開いた。

加藤の目も少し開いた。

「なんだって?」と加藤が言った。

香奈は彼を見た。

「不満は聞こえなかったけれど」

「今のが不満だ」

「あまり上手ではなかったわね」

悠太は颯太へ一歩近づいた。

「大丈夫。生き残れるよ」

颯太は加藤を見た。

加藤は、大丈夫と簡単に言える相手には見えなかった。

「本当に?」

悠太は一秒考えた。

「俺たちは生き残ってる」

「同じ意味じゃないですよね」

「うん。でも期待値を現実的に保つ助けにはなる」

加藤がため息をついた。

「天音」

「はい」

「走ってこい」

悠太は固まった。

「なんでですか?」

「期待値がどうとかいう冗談のせいだ」

「でも良かったでしょう」

「だから十周で済ませてやる」

芽衣が笑い始めた。

陽菜も。

颯太でさえ口を押さえた。

悠太は全員を指差した。

「これは集団いじめです」

石田がページをめくった。

「社会適応だ」

「賢そうな言葉を俺に向けるな」

颯太が悠太へ一歩近づいた。

「俺も走ります」

悠太は彼を見た。

「しなくていいよ」

颯太は肩をすくめた。

「信頼してるとは言いましたけど、頭がいいとは言ってません」

悠太は笑った。

今度は隠さなかった。

「よし。じゃあ第一の教え」

颯太は顔を上げた。

「何ですか?」

悠太は、香奈と一緒に出口へ向かい始めていた加藤を指差した。

「加藤が十周って言う時、だいたい十二周って意味だ」

加藤は振り返らずに言った。

「今ので十五周だ」

悠太は目を閉じた。

颯太は彼を見る。

「それも教えの一部ですか?」

「そう」

悠太は走路の方へ歩き始めた。

「第二の教えは、俺が加藤の仕組みを理解してるって言った時は絶対に信じるな」

颯太は彼についていった。

陽菜は二人を見送った。

芽衣がその隣に立つ。

「彼がここにいるの、変な感じになりそうね」

陽菜はうなずいた。

「うん」

石田が本を閉じた。

「だが、悪くはない」

芽衣は彼を見た。

「それ、楽観?」

「予備評価だ」

陽菜は笑った。

走路では、悠太がすでに文句を言っていた。

颯太はその隣を走っていた。まだ少し硬く、まだ自分がどこにいるのか完全にはわかっていないようだったが、目は前を向いていた。

引きずられている者の目ではなかった。

歩くと決めた者の目だった。

悠太が何かを言った。

颯太が答えた。

それから二人は笑った。

加藤は扉のところから、しばらく二人を見ていた。

香奈も同じように見ていた。

「本当にこれでいいのか?」加藤が聞いた。

香奈は杖を両手で持った。

「わからないわ」

加藤は彼女を見た。

香奈は少年たちから目を離さなかった。

「でも、もう一つのことは確かよ」

「もう一つ?」

「三郷に一人で残す方が、もっと悪かった」

加藤は答えなかった。

それも理解していたからだ。

走路で、颯太がわずかにつまずいた。

悠太は倒れる前に腕を掴んで支えた。

颯太が何か言った。

悠太は不当な非難から身を守るように両手を上げた。

遠くで陽菜が笑った。

芽衣は首を横に振った。

石田は再び本を開いた。

本部はいつも通りの音を立て続けていた。

足音。

声。

訓練。

文句を言う生徒たち。

聞こえていないふりをする教師たち。

そのすべての真ん中で、三郷の少年が、自分を一度見つけてしまった世界の中を初めて走っていた。

今度は、一人ではなかった。

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