第55章:森の目
森が目を開けた。
それは、簡単な言葉で説明できるような出来事ではなかった。
木々のあいだから瞳が現れたわけではない。
樹皮からまぶたが生えたわけでもない。
枝の上に顔が浮かび、こちらを見下ろしていたわけでもない。
それでも、四人は感じた。
視線を。
一つ。
また一つ。
そして、多すぎるほどの視線を。
左から。
上から。
背後から。
誰もいないはずの場所から。
陽菜は斧を握る指に力を込め、どうにか身体を支えた。肩は焼けるように痛み、口の中には血の味が残り、開けた場所に満ちる圧力は、彼女に頭を下げさせようとしているようだった。
けれど、下げなかった。
芽衣は右側にいた。扇を開き、足を土に食い込ませている。彼女の周りで風が回っていたが、自由ではなかった。切れ切れで、不規則で、まるでその視線が溜まっている場所を通ることを、空気さえ恐れているようだった。
石田は左側にいた。木々のあいだに何本もの鎖を張っている。それらは白い者たちに触れていなかった。直接は。幹、石、根のあいだを交差し、封じる線、否定された道、即席の境界を作っていた。
悠太は一歩後ろにいた。
隠れたいからではない。
見ていたからだ。
赤い男が進んだ。
一歩。
足元の土が軋んだ。
その身体はもう、人間の形に完全には従っていなかった。片方の肩がもう片方より高い。片腕は長すぎるように見える。指は、生きた手にあってはならない角度で曲がっていた。額から片目にかけて割れた仮面の奥で、瞬きしない赤い光が見えていた。
残滓ではない。
それが、やはり一番気味が悪かった。
男だった。
まだ。
人間の身体に、抱えきれないほどの闇を押し込んだ男。
「見ろ」
彼は言った。
その言葉が、開けた場所を打った。
陽菜は額の中央で何かが開こうとするのを感じた。
外からではない。
内側から。
彼女の中の、小さく埋もれていた何かが、従おうとしているようだった。
陽菜は斧を上げた。
「嫌だ」
刃が見えない圧力とぶつかり、それをわずかに裂いた。壊すには足りない。だが、息をするには十分だった。
芽衣が扇を回し、地面へ向けて突風を放った。
風が土と枯葉、消えた蝋燭の灰を巻き上げた。一瞬、空気が埃で満ちる。
森の視線が揺らいだ。
陽菜はそれを感じた。
悠太も感じた。
「効いた」
彼が言った。
「何が効いたの?」芽衣は赤い男から目を離さずに聞いた。
「自分の目だけで見てるわけじゃない」
石田が鎖を張った。
「それはもうわかってた」
「違う。線が必要なんだ」
赤い男が首を傾けた。
割れた仮面の奥で、赤い目が光る。
「興味深い」
悠太は唾を飲み込んだ。
「正しいこと言ったら敵が興味持つの、すごく嫌なんだけど」
白い影が一体、二本の鎖のあいだを動こうとした。
石田は捕まえなかった。
手首を動かした。
鎖がずれ、白い影の前の地面を叩いて、足を止めさせる。別の線が木から下りてきて、横の道を塞いだ。
白い影は立ち止まった。
止まりたいからではない。
通れる道がなくなったからだ。
「視線の線だ」と悠太が言った。「白い奴らが見ると、あいつも見る。見えなくなれば、角度を失う」
芽衣が片眉を上げた。
「じゃあ倒す必要はないってこと?」
「見えなくすればいい」
陽菜は理解した。
白い者たちを壊す必要はない。
切る必要もない。
傷つける必要もない。
少しのあいだ、彼らの世界を閉じればいい。
それだけだった。
「芽衣」
「わかってる」
芽衣は扇を交差させ、低い突風を二つ放った。斬撃ではない。三体の白い影の前に埃を巻き上げる広い押し風だった。身体はぎこちなく後退し、顔の布に手をやる。
叫ばない。
文句も言わない。
だが、迷っていた。
石田も同時に鎖を動かし、木々のあいだに網を作った。光る線が開けた場所をいくつもの断片に切り分ける。皮膚には触れない。魔力も削らない。ただ、道を遮る。
悠太が一歩前へ出た。
「陽菜、左からの視界が消えたら攻撃して」
「加藤みたいに命令しないで」
「そんなに老けて聞こえるつもりはなかった」
「聞こえた」
「あとで傷つくことにする」
赤い男が手を上げた。
白い者たちが頭を垂れる。
舞い上がっていた埃が空中で止まった。
落ちない。
動き続けもしない。
ありえない一瞬のあいだ、視線に固定されたように宙に留まった。
芽衣が目を見開いた。
「それは嫌」
「世界が固体のふりをやめる時、それを好む者はいない」
赤い男が言った。
「そういう返しをされるのも嫌」
埃が彼らへ向かって撃ち出された。
芽衣が最初に反応した。
扇を完全に開き、土の雲が顔に届く前に風をぶつける。突風がそれを上へ逸らしたが、圧力の一部はそれでも抜けてきた。
陽菜は皮膚に細かな傷を感じた。
刃ではない。
汚れた何かを含んだ空気だった。
石田が交差した鎖で悠太を庇う。
鎖が震えた。
「これは普通の魔力じゃない」
「違う」と悠太が言った。「力を持った知覚だ」
芽衣が横目で彼を見る。
「それ、説明になってない」
「今出せるのはこれだけ」
赤い男がまた進んだ。
足は必要以上に引きずられていた。
右腕は遅れて動く。身体がまだ自分のものだと思い出す必要があるかのように。だが、彼が手を上げると、近くの枝が彼の方へ曲がるほど圧力が増した。
陽菜は前へ出た。
斧が斜めに落ちる。
赤い男は身体を回した。
速さで避けたのではない。
すでに知っていたから避けた。
刃は赤い衣をかすめ、その後ろの石を割った。
陽菜は握りを変え、もう一度攻撃した。
男は身体を傾けた。
また早すぎる。
悠太は歯を食いしばった。
「別の角度から動き出しを見てる」
「なら、その角度を塞いで」
陽菜が言った。
「やってる」
膝をついた白い影が、陽菜へ顔を上げた。
悠太はそれを見た。
そして、陽菜が攻撃する前に赤い男が身体を合わせるのも見た。
「あれ」
石田は聞き返さなかった。
鎖が、布に覆われた顔の前へ落ちた。
触れない。
だが、視界を塞ぐ。
陽菜が再び攻撃した。
今度は、赤い男の反応が遅れた。
斧が肩をかすめる。
深い傷ではない。
それでも衣が裂け、普通の血にしては濃すぎる黒いものが土へ飛んだ。
赤い男が後退した。
仮面の下から音が漏れる。
痛みではない。
正確には。
驚きだった。
芽衣が笑った。
「そこね」
陽菜は笑わなかった。
「血が出る」
「生きているものはすべて血を流す」
赤い男が言った。
「なら、まだ壊せるものがある」
赤い目が光る。
「いつまでも狩人の考え方だな」
「そっちはいつまでも湿気った古い本みたいな話し方ね」
悠太が片手を上げた。
「今の良かった」
「集中して」
「集中してる。いい台詞もちゃんと評価してるだけ」
赤い男が腕を広げた。
白い者たちがまた囁き始める。
「見える」
「見える」
「見える」
淡い糸が再び張った。
より強く。
赤い男の身体が軋んだ。
今度は全員に聞こえた。
湿った音。
内側からの音。
生きた肉の中で枝が折れるような音。
芽衣の笑みが消えた。
「あれ、本人にも良くないんじゃない」
悠太は赤い目を見た。
割れた仮面を。
長すぎる指を。
衣が内側から震えている様子を。
「支えきれてない」
石田が素早く彼を見た。
「確かか?」
「いや」
「最高だな」
「でも見ればわかる」
赤い男は一体の白い影へ手を上げた。
その影が膝をつく。
続いて別の一体。
さらにもう一体。
攻撃されているわけではない。
名付けられない何かを、抜き取られている。
「使いすぎてる」と悠太が言った。
陽菜は怒りが戻るのを感じた。だが、今度はそれを勝手に動かさなかった。
握った。
冷やした。
方向に変えた。
「じゃあ、もっと使わせる」
芽衣が彼女を見る。
「それ、完全に悪い案に聞こえるんだけど」
「耐えられないなら違う」
石田が最初に理解した。
「こっちがいろんな方向から対応を強制すれば、あいつはさらに網から引き出す」
悠太がうなずいた。
「同時に目を塞げば、残った目を無理に使うことになる」
芽衣は扇を閉じ、また開いた。
「つまり、変形カルト野郎を自分の汚い力で過負荷にするってことね」
「そう」
悠太が言った。
「それなら好き」
赤い男は彼らを見た。
赤い目がわずかに動く。
普通の目の動きではない。
多すぎる視線の中から、誰に焦点を合わせるか選んでいるようだった。
「理解したつもりか」
「違う」と悠太が言った。「邪魔できる程度には理解した」
男が指を上げる。
圧力が落ちた。
陽菜は待たなかった。
「今!」
芽衣が残っていた蝋燭へ風を放つ。
切らない。
全部消すわけでもない。
揺らし、傾け、開けた場所いっぱいに動く影を投げさせた。
石田は幹のあいだに鎖を走らせ、白い者たちの覆われた顔の前に、現れては消える線を作った。
悠太は立ち上がろうとする一体へ走り、足でその顔の前に土を蹴り上げた。
「ごめん」
「天音!」
石田が叫んだ。
「触ってない!」
「戦闘中に謝るのをやめろ!」
陽菜が攻撃した。
赤い男は三つの場所からその一撃を見た。
たぶん四つ。
斧が下りる前に、身体が動き始める。
だが芽衣が風を変えた。
土が舞い上がる。
鎖が白い影の前を横切る。
悠太が別の影を押し、顔を地面へ向けさせる。
男は一つの角度を失った。
次にもう一つ。
さらにもう一つ。
斧が届いた。
一撃は仮面に当たった。
完全には割れなかった。
だが亀裂がさらに開く。
額から口元まで。
赤い男は詰まった音を漏らし、後退した。
今度は確かに痛みだった。
白い者たちが同時に叫んだ。
大きな声ではない。
傷ついた人間の声でもない。
彼女たちの内側の何かが、その一撃に共鳴して震えたようだった。
陽菜は再び斧を上げた。
赤い男が手を上げる。
「やめろ」
その言葉は彼らに向けられたものではなかった。
白い者たちへ向けられていた。
白い影たちは動きを止めた。
そして顔を上げる。
全員が。
顔を土につけて倒れていた者も。
腕が妙な方向へ曲がっていた者も。
理由もわからず泣いていた者も。
「見える」
彼らは言った。
その音はもう囁きではなかった。
いくつもの声で作られた一つの声だった。
赤い男が手を開く。
淡い糸が太くなった。
白い影が一体、横へ倒れる。
別の一体が身体を折った。
三体目は激しく息をし始め、口元の布が肌に張りついた。
「殺す気か!」
悠太が叫んだ。
「扉を開いて死ぬ者はいない」
男が答えた。
最後の言葉で、声が割れた。
下から別の声が出ようとしたように。
陽菜は、彼の首が強張るのを見た。
指がさらに少し伸びるのを見た。
仮面の端が皮膚から浮くのを見た。緩んだからではない。内側から何かが押していたからだ。
「目覚めさせてなんかない」
陽菜が言った。
赤い目が彼女を捉えた。
「解放している」
「違う」
陽菜は一歩進んだ。
「使ってるだけだ」
赤い男は荒い息を吐いた。
「古い名は、いつも誕生を恐れる」
「目なんかじゃない」
陽菜は斧を上げた。
「人間だ」
男は静止した。
一瞬、圧力が下がった。
ほんの少し。
それでも、全員が感じるには十分だった。
悠太が陽菜を見る。
芽衣も。
石田が鎖を張る。
陽菜は続けた。
「澪は、私が目を閉じたから戻ったんじゃない」
割れた仮面が傾く。
「なら、お前は何をした?」
陽菜は喉が詰まるのを感じた。
道の上の澪を見た。
土の上の澪を見た。
自分の袖を掴む手を見た。
恐怖を。
罪悪感を。
愛を。
すべて一緒に。
「名前を呼んだ」
赤い男は答えなかった。
初めて、用意された言葉を持っていなかった。
陽菜は進む。
「あんたは人を開いてなんかいない」
斧が光った。
「名前を奪ってる」
芽衣が同時に動いた。
風が白い者たちの周囲で爆ぜ、傷つけることなく顔を覆う埃の幕を作る。
石田は木々へ鎖を放ち、白い影たちの前に光る網を張った。
悠太は二つの影のあいだを走り、一体を押し下げ、その者自身の衣から垂れていた破れた袖で目を覆った。
「ごめん。これ変だけど必要だから」
「天音!」
「傷つけてない!」
赤い男が吠えた。
叫びではない。
吠え声だった。
その声はもう、完全には人間ではなかった。
男の身体が淡い糸を乱暴に引いた。
強すぎた。
白い者たちが反り返る。
何人かが倒れる。
何人かは地面に手を突いたまま膝をついた。
赤い目がさらに開く。
開きすぎる。
仮面の亀裂が顎まで届いた。
陽菜は、開けた場所全体が震えるのを感じた。
「もっと」
赤い男が言った。
その声はいくつもの声と混ざっていた。
「もっと多くの目を」
悠太の顔色が青ざめた。
「無理だ」
芽衣が男を見る。
「何が無理なの?」
「あれ全部を一つの身体に入れるなんて無理だ」
石田は歯を食いしばった。
「なら、やめさせろ」
「本人にその気はないと思う」
赤い男は両腕を広げた。
淡い糸が針のように彼の中へ入っていく。
背中が反った。
後ろへではない。
内側へ。
まるで彼の中の何かが、全ての骨を同時に引っ張ったかのように。
その身体から出た音に、芽衣が一歩退いた。
「今のは本当に最悪」
赤い衣が張った。
肩の部分が裂ける。
その下にあったのは、普通の皮膚ではなかった。
生きた皮膚ではある。
だが、その下に暗い線が走っていた。出口を探す根のように動いている。
赤い男は話そうとした。
最初の言葉は出なかった。
二つ目も。
三つ目は、かすかな囁きだった。
「見える……」
白い者たちが繰り返す。
「見える」
「見える……」
「見える」
「見える……」
身体が再び軋んだ。
陽菜は理解した。
勝っているのではない。
昇っているのでもない。
壊れている。
内側から。
「終わりだ」
彼女は言った。
男は赤い目を彼女へ上げた。
「目が開いたままなら、何も終わらない」
「なら閉じろ」
陽菜が攻撃した。
芽衣が右側から彼女を覆う風を放つ。
石田は割り込もうとした二体の白い影を、触れずに鎖で遮った。
悠太は地面へ魔力を押し込み、三つの覆われた顔の前に土を巻き上げた。
その一瞬、赤い男は他人の目を失った。
残ったのは自分の目だけだった。
赤い。
開いた。
震える目。
陽菜は届いた。
斧は首へ向かわなかった。
胸へも向かわなかった。
仮面へ。
中心へ。
目へ。
男は止めようと手を上げた。
遅すぎた。
刃が当たる。
仮面が割れた。
音は乾いていた。
ほとんど小さかった。
壮大でもない。
綺麗でもない。
赤い半分が地面へ落ちた。
もう半分は顔にぶら下がったまま残った。
陽菜はその奥を見た。
理解するには足りない。
忘れないには十分だった。
痛みの限界まで開かれた、人間の目。
黒い血管のような線に刻まれた皮膚。
涙。
そして、恐怖の表情。
憎しみではない。
恐怖だった。
赤い男は一歩後退した。
さらに一歩。
淡い糸が彼を支えようと張る。
できなかった。
身体が折れ曲がった。
胸がわずかに沈む。
次に肩。
次に長すぎた腕。
爆発はしなかった。
開きもしなかった。
血が木々へ飛び散ることもなかった。
もっと悪かった。
古い家が内側から、一部屋ずつ崩れていくのを見るようだった。
男は息を吸おうとした。
吸えなかった。
赤い目が最後にもう一度開いた。
開きすぎるほど。
まるで彼自身でさえ、見てはいけないものを見たかのように。
「いや……」
彼は呟いた。
その言葉は小さかった。
人間のものだった。
迷子の声だった。
そして、赤い光が消えた。
身体が膝から落ちる。
頭が下がる。
淡い糸が切れた。
一本ずつ。
白い者たちが、開けた場所のあちこちで倒れていった。
全員が同時ではない。
一人。
次に一人。
それから三人。
横向きに倒れる者もいた。
座り込む者もいた。
額を土につける者もいた。
森は静かになった。
穏やかな静けさではなかった。
疲れ切った静けさだった。
長いあいだ叫び続けていた何かが、ようやく黙る方法を思い出したような静けさ。
芽衣は扇を下ろさなかった。
石田は鎖を張ったままだった。
悠太は白い身体たちを見ながら、荒く呼吸していた。
陽菜は赤い男の前に立ち続けた。
その身体はもう動かなかった。
割れた仮面は、消えた蝋燭のそばで土の上に転がっていた。
数秒のあいだ、誰も話さなかった。
やがて悠太が低い声で言った。
「終わった……?」
石田はすぐには答えなかった。
白い者たちを見る。
男を見る。
鎖を見る。
「圧力は消えた」
芽衣が倒れている一人へ歩み寄った。
「息はしてる」
悠太も別の一人へ近づいた。
しゃがむ。
最初は触れなかった。
それから首元に二本の指を添えた。
「こっちも」
陽菜は一秒だけ目を閉じた。
本当に一秒だけ。
開くと、森は森に戻っていた。
木々。
土。
消えた蝋燭。
意識のない人々。
死んだ男。
そのどれもが平穏ではなかった。
それでも、少なくとももう見てはいなかった。
芽衣が陽菜のそばへ来た。
「大丈夫?」
陽菜は赤い男の身体を見た。
澪を思った。
冷たい手。
怖いと言った声。
「大丈夫じゃない」
芽衣は何も言わなかった。
陽菜はゆっくり息をした。
「でも歩ける」
「それを聞いたわけじゃない」
「わかってる」
石田が二人の近くへ来た。
「この人たちが目を覚ます前に、森から出した方がいい」
悠太が周囲を見回す。
「もし前みたいに目を覚ましたら?」
誰も答えなかった。
重要ではないからではない。
答えは開けた場所のあちこちに転がっていた。
もし前のように目覚めるなら、また拘束しなければならない。
もし普通に目覚めるなら、彼らに恐怖を説明しなければならない。本人たちが覚えてすらいないかもしれない恐怖を。
そして、もし目覚めなかったら——
陽菜はその考えを最後まで行かせなかった。
白い影が一体、動いた。
全員が身構えた。
芽衣が扇を上げる。
石田が鎖を用意する。
悠太が一歩前に出る。
陽菜が斧を上げる。
その影は低く呻いた。
「見える」とは言わなかった。
立ち上がろうともしなかった。
赤い男を探しもしなかった。
ただ震えた。
そして、壊れた声で尋ねた。
「ここ……どこ……?」
陽菜は胸の奥で何かが緩むのを感じた。
安堵ではない。
まだ違う。
けれど、別の亀裂だった。
空気が入ってくる亀裂。
その人影はもう一度呟いた。
「私は……どこにいるの……?」
悠太が陽菜を見た。
石田は鎖をわずかに下ろした。
芽衣は扇を下ろさなかったが、表情が変わった。
陽菜は死んだ赤い男を見た。
それから、倒れている人々を見た。
そして、家へ戻る道を見た。
澪のいる場所へ。
「ここから出す」
彼女は言った。
その声は疲れていた。
壊れていた。
けれど、揺れてはいなかった。
「それから、妹のところへ戻る」
誰も反対しなかった。
地面に落ちた赤い仮面の半分が、上を向いていた。
空っぽだった。
森が再び目を開くことはなかった。




