第54章:赤い男
もう、一人ではなかった。
その一秒だけで、十分だった。
陽菜は荒い息をした。斧はまだ手の中にあり、口の中には血の味がこびりついていた。肩が痛む。頬が熱い。腕はいつもより重かった。
けれど、芽衣がいた。
石田がいた。
悠太がいた。
それで罠が出口に変わるわけではない。
それでも、少しだけ閉じ方が弱くなった。
白い影たちが同時に動いた。
走らない。
叫ばない。
ただ、再び円を閉じ始めた。まるで他の三人が来たことなど何も変えていないかのように。あるいは、赤い男が望んでいた通りに変わったかのように。
「殺すな」
石田が言った。
芽衣は扇をさらに開いた。
「それ、かなり私のやり方を制限するんだけど」
「人間だ」
「わかってるわよ。だから余計に機嫌が悪いの」
悠太は白い者たちを見た。
指先の周りに、魔力がかすかに揺れていた。まだどんな形を取るべきか迷っているように、現れては消える薄い震えだった。
「狩人みたいには戦ってない」
「残滓みたいにもね」
陽菜が言った。
「うん」
悠太は呟いた。
「それより下手だ」
白い影が一体、彼へ飛びかかった。
悠太は横へ一歩ずれた。
大きすぎない。
必要な分だけ。
開いた手が顔の前を通り過ぎた。首か顎を掴もうとしていた。悠太はそれを避け、身体を回しながら前腕で相手の肩を押した。
強くは打たなかった。
それでも白い影はバランスを失い、地面に倒れた。
悠太は眉を寄せた。
「かなり下手だ」
影はすぐに起き上がり始めた。
石田が鎖を放つ。
左手から出た鎖が短く速い弧を描き、白い影が完全に立ち上がる前にその手首へ巻きついた。右手から出たもう一本が足首を捕らえる。
石田は引いた。
壊すほど強くはない。
もう一度倒すのに必要な分だけ。
影は膝から地面に落ちた。
また立ち上がろうとする。
鎖が張った。
身体が震え始めた。
力を込めている震えではない。
内側で何かが壊れているような震えだった。
石田はすぐに張りを緩めた。
「魔力の反応がおかしい」
芽衣は別の影を風の斬撃でそらした。肌には触れず、衣の脇だけを裂く。布が破れ、風の衝撃で身体が回転し、仰向けに倒れた。
「訳して」
「長く拘束しすぎると、俺の鎖が魔力を削る」
「それがあんたの鎖でしょ」
「残滓相手ならな」
石田は言った。
「人間相手じゃない」
捕らえられていた影がもがいた。
鎖がわずかに緩む。
石田は歯を食いしばった。
「しかも、魔力の組み上がり方がおかしい人間相手なら、なおさらだ」
悠太は後退し、石田の近くに立った。
「つまり長く拘束できない」
「ああ」
「強く殴ることもできない」
「ああ」
芽衣は閉じた扇で白い手を受け止め、短い突風で相手を押し返した。
「素晴らしい戦いね。こっちを傷つけようとしてくる人間を傷つけない戦い。大好き」
一体の影が芽衣の背後に現れた。
陽菜が一歩踏み込み、斧を上げ、柄で打った。
刃ではなかった。
衝撃で影は木に叩きつけられた。
影は座り込むように倒れた。
陽菜は芽衣を見た。
「文句に集中しすぎないで」
「文句を言うことで集中してるの」
赤い男は開けた場所の中央から見ていた。
後退していない。
進んでもいない。
仮面は彼らへ向けられたまま、滑らかで、読み取れない。まだ燃えている蝋燭が汚れた石の周りで揺れ、闇のせいで赤い衣はより暗く、ほとんど茶色く、ほとんど黒く見えた。
「四つ」
彼は言った。
誰も答えなかった。
「開かれた目が四つ」
悠太は彼を見た。
「厳密には八つだけど」
陽菜は鼻から息を吐いた。
笑いではなかった。
けれど、それに近かった。
赤い男が首を傾ける。
「境界を守ろうとする時、心はいつも笑いを持ち出す」
「違う」
悠太が言った。
「ただ、自信満々に変なことを言う人がいると出る時もある」
芽衣がわずかに笑った。
「今のは新しい」
「即興だから」
「続けて」
石田がさらに二本の鎖を放った。
一本は左から回り込もうとしていた白い影の腕を捕らえる。もう一本は別の影の前の地面に打ち込まれ、進路を塞ぐ線になった。
牢ではない。
境界だった。
石田はもう、長く拘束しようとはしていなかった。
捕らえる。
引く。
放す。
捕らえる。
逸らす。
放す。
鎖は短く、正確で、乾いた動きで走った。
手首。
足首。
肩。
回転。
転倒。
その身体の病んだ魔力が震えすぎる前に。
悠太はそれに気づいた。
「壊れる前に放してる」
「そうしようとしてる」
「しようとしてる?」
石田は鎖を張り、芽衣にぶつかる寸前だった白い影を横へ逸らした。
「どこからがやりすぎなのかわからない」
その言葉は、どんな警告よりも悪かった。
石田は、自分のわからないことをあまり口にしない。
芽衣は一歩前へ出て、扇を開き、斜めに二つの風の斬撃を放った。
深くはない。
残滓相手に使うような鋭さでもない。
広く、圧で押すものだった。刃よりも押し返す力に近い。一つは白い影の袖を裂き、身体を回転させた。もう一つは二人の前の地面を叩き、土を巻き上げた。
白い影たちは一瞬止まった。
そしてまた進んだ。
「防御がない」
悠太が言った。
「それはもう見たわ」
芽衣が返す。
「違う。自分を守る方法を知らないってこと。残滓相手みたいに攻撃したら、殺す」
白い影が地面を這い、悠太の足首を掴もうとした。
悠太は後ろへ跳んだ。
「朝食前に人を殺すのは避けたいし」
「朝食、食べてないだろ」
石田が言った。
「だから“前に”って言ったんだよ」
陽菜は赤い男から目を離さなかった。
白い影たちは近くの危険だった。
だが彼が中心だった。
軸。
この開けた場所の呼吸。
命令はしていない。
「攻撃しろ」も、「止まれ」も、「囲め」も言わない。
必要がなかった。
白い者たちは、それぞれが自分の頭の中にすでにあるものに従うことを決めたかのように動いていた。
操られているより悪かった。
操り人形には、少なくとも糸がある。
これは違う。
これは意志に見えた。
歪んでいる。
けれど、意志だった。
「動かしてるわけじゃない」
悠太が言った。
赤い男は仮面を彼へ向けた。
「そうだ」
悠太は白い手を避け、両手で手首を取り、相手の勢いを利用して横へ倒した。落ち方はひどかった。ひどすぎた。
悠太はすぐに手を離した。
「命令もしてない」
「そうだ」
石田は横目で悠太を見た。
「天音」
「一秒」
「一秒もない」
芽衣は白い影の上にある枝を切った。枝は二人の間に落ち、相手に方向を変えさせた。
「この件は石田に同意。すごく珍しいことだから、急いで」
悠太は速く息をした。
白い者たちを見る。
赤い男を見る。
彼が何かを言う前に動く一体の形を見る。まだ誰も使おうとしていない道を塞ぐ一体の動きを見る。全員が、目ではなく、もっと低い場所で、もっと深い場所で彼へ向いているのを見る。
「声に従ってるんじゃない」
悠太が言った。
赤い男は答えなかった。
悠太は続けた。
「あんたが望んでると、彼らが思ってることに従ってる」
陽菜の指が斧に食い込んだ。
芽衣の笑みが消えた。
石田が鎖を握りしめた。
赤い男は静かに笑った。
「生まれたばかりの者は、声を探す」
「生まれたばかりじゃない」
陽菜が言った。
「お前にとってはな」
「誰にとっても違う」
「そこが我々の違いだ」
赤い男は白い影たちへ片手を上げた。
「お前たちはまだ、人間の身体を境界だと思っている」
白い影が呟いた。
「見える」
別の影が答える。
「見える」
また別の影も。
「見える」
その音は、開けた場所をめぐって繰り返され始めた。
同時ではない。
完璧な合唱でもない。
別々の口から生まれた反響のように。
「見える」
「見える」
「見える」
芽衣は扇を上げた。
「嫌な感じ」
「真実が呼吸を始める時、それを好む者はいない」
赤い男が言った。
「本当に嫌な感じ」
白い影たちが進むのをやめた。
石田は眉を寄せた。
三体が鎖に捕らえられている。
一体は手首。
一体は足首。
一体は胴。
さっきまでは、ずっともがいていた。
今は違う。
動かない。
動かなすぎる。
「引っ張ってない」
石田が言った。
悠太は鎖を見た。
「じゃあ、なんでそんな顔してるの」
石田は視線を落とした。
鎖の輝きが、身体に触れている部分から消え始めていた。
壊されているわけではない。
石田が放しているわけでもない。
白い影たちの魔力の何かが、別の場所へ流れていた。
鎖はそれに触れている。
感じている。
そして失っている。
「何かを抜かれてる」
石田が言った。
陽菜は赤い男を見た。
「何をしてる」
赤い男は両腕を広げた。
白い影たちが頭を垂れる。
全員が。
倒れている者も。
怪我をしている者も。
立っているのがやっとの者も。
「一つの目は閉じられる」
彼は言った。
声は低くなっていた。
太くなっていた。
音量ではない。
深さだった。
「多くの目は、扉を開けることができる」
空気が変わった。
風ではない。
開けた場所が息を吸ったようだった。
そして、吐き返さなかった。
白い身体から、淡い光が立ち上り始めた。
正確には光ではない。
正確には魔力でもない。
もっと細い。
もっと弱い。
もっと汚れている。
水の下に見える糸のようなものだった。
それは覆われた顔から、手から、速すぎる呼吸をする胸から出ていた。白い者たちの何人かは泣き始めた。別の者たちは布の下で笑った。一人は膝をついたが、それでも頭を赤い男へ垂れ続けた。
「吸収じゃない」
悠太が言った。
陽菜は彼を見た。
「何?」
「魔力そのものを奪ってるわけじゃない」
石田は歯を食いしばった。
「じゃあ何だ」
悠太は淡い糸を見た。
白い者たちから赤い男へ向かっている。けれど、力で引き抜かれているようには見えなかった。彼を探しているようだった。あるいは、彼への道を覚えているようだった。
「導管にしてる」
赤い男が仮面を悠太へ向けた。
初めて、本当に興味を示したように見えた。
「お前は違う見方をする」
悠太は唾を飲み込んだ。
「よく言われる」
「惜しいな」
「それも言われる」
芽衣は悠太の前に立った。彼を見ずに。
「カルト野郎といちゃつくのは後にして」
「いちゃついてない」
「ちょっとそう聞こえた」
石田が言った。
「お前まで?」
陽菜が赤い男へ一歩踏み出した。
「やめろ」
男は動かなかった。
「彼らが差し出すものを、私は止められない」
「差し出してなんかいない」
「目覚めた時からそうしている」
「嘘」
「違う。お前が服従と呼ぶものは、まだ若い信仰の形にすぎない」
淡い糸が赤い衣に触れた。
中へ入る。
それは衣を照らさなかった。
黒くした。
赤い男の身体が強張った。
最初は肩だった。
わずかに上がる。
次に首。
頭がゆっくりと横へ傾く。遅すぎる、制御されすぎた動きだった。まるで内側の何かが、許可も得ずに骨を組み替えているように。
仮面が軋んだ。
芽衣は一瞬、息を止めた。
「普通じゃない」
「報告ありがとう。すごく助かる」
悠太が言った。
「天音」
「はい。ごめん」
石田は、白い者たちに繋がっていた鎖を解いた。
「こいつに繋がってるなら、俺の鎖は悪化させるかもしれない」
鎖は魔力の粒になってほどけた。
白い影たちは倒れなかった。
進みもしなかった。
ただ、頭を垂れ続けた。
「見える」
いくつもの声が囁いた。
赤い男は腕を下ろした。
指が長く見えた。
それほど大きな変化ではない。
けれど、見るだけで不快になるには十分だった。
衣の布が、張るはずのない場所で張っている。胴体の片側がもう片方より広く見えた。呼吸は音を持ち始め、荒く、空気の受け入れ方を忘れた身体に空気が入っているようだった。
陽菜は、開けた場所の魔力が捻じれるのを感じた。
狩人の清潔な魔力ではない。
残滓の腐った圧でもない。
その中間にあるもの。
あまりにも多くの死を中に入れてしまった、生きた何か。
「残滓じゃない」
石田が言った。
「違う」
悠太が言った。
赤い仮面が再び軋んだ。
額から片方の目の穴まで、細い亀裂が走る。
「でも、ただの人間でもない」
赤い男が顔を上げた。
仮面の割れ目の奥で、何かが光った。
目だった。
赤い目。
開いている。
開きすぎている。
「人間の身体は小さな家だ」
赤い男が言った。
声はもう同じではなかった。
まだ彼の声ではある。
けれど、その後ろに何かがあった。
一つの声の下に、いくつもの呼吸が重なっていた。
「だが、小さな家にも多くの窓を持つことはできる」
芽衣は扇を構えた。
「今の、気持ち悪いし意味もわからない」
「意味はある」
悠太が言った。
芽衣は彼を見た。
「今だけは否定しないで」
「擁護してるわけじゃない。理屈がわかったってだけ」
陽菜は赤い男から目を離さなかった。
「じゃあ早く説明して」
悠太は白い者たちを指した。
「“開く”。そこに自分の何かを残す。あるいは、彼らにそれが自分のものだと思わせる。そのあと力が必要になった時、その部分を帰り道として使う」
「網みたいなものか」
石田が言った。
「目だ」
赤い男が訂正した。
陽菜は進んだ。
「なら、閉じてやる」
斧が彼女の手の中で大きくなった。
大きく。
さっきよりも。
金属が、残った蝋燭のわずかな光を反射した。
芽衣も同時に動いた。ただし赤い男へではない。白い者たちへ向かって。
「近い奴は私が見る」
「切るな」
石田が言った。
「馬鹿じゃないわよ」
「そうは言ってない」
「顔がそう言ってた」
石田は答えなかった。
鎖が再び走った。だが今度は身体には巻きつかない。木、石、土へ打ち込まれ、白い影たちと開けた場所の中心との間に張られた線になった。
壁ではない壁。
境界。
障害物。
悠太はすぐに理解した。
「拘束してない」
芽衣は動き出そうとした白い影の足元へ風の斬撃を放った。
「鳥に触らず檻を作ってるってことね」
石田は芽衣を見た。
「その言い方はやめろ」
「詩的だったでしょ」
「違う」
陽菜はそのやり取りを聞いていなかった。
もう赤い男の前にいた。
斧が振り下ろされる。
頭へではない。
伸ばされた腕へ。
防がせる。
姿勢を崩す。
ほんの一秒でも接続を断つ。
赤い男は手を上げた。
避けない。
技で防がない。
ただ、斧の前に掌を置いた。
二人の間の空気が開いた。
陽菜は額に圧力を感じた。
目に。
喉に。
物理的な力ではない。
言葉のない命令だった。
見ろ。
刃が、男の手の数センチ前で止まった。
陽菜は怒りで叫び、さらに魔力を武器へ流した。
刃が少し進む。
ほんの少し。
赤い仮面が傾いた。
「お前の妹は何度も“嫌だ”と言った」
陽菜は歯を食いしばった。
「そして、あんたは一度も聞かなかった」
斧が空気を裂いた。
赤い男が初めて後退した。
半歩だけ。
だが、後退した。
芽衣はそれを見た。
「よし」
「勝ったと思うな」
石田が言った。
一体の白い影が鎖の下をくぐった。低すぎるほど低く、ほとんど這うように。芽衣は皮膚を切らずに風で押し倒した。
別の影が鎖の線を飛び越えようとした。
悠太が走った。
殴らない。
前に入った。
白い影は彼へぶつかった。
悠太はその衝撃を使って相手と一緒に回り、地面へ横倒しにした。
落ち方は悪かった。
彼は顔をしかめた。
「ごめん」
影は彼へ顔を向けた。
布の下で、声が囁いた。
「見える」
「はいはい、みんなすごく見えてるね。よかったね。でも今はそこで止まってて」
影が立ち上がろうとした。
その手の前に鎖が落ちた。
触れない。
ただ進路を塞ぐ。
石田は悠太を見た。
「刺そうとしてくる相手に謝るな」
「それでも人だ」
石田は答えなかった。
同意していたからだ。
そして、時間がなかったからだ。
赤い男が再び両腕を上げた。
淡い糸が張る。
陽菜は気づいた。
「気をつけて!」
白い者たちは進むのをやめた。
全員が同時に顔を上げた。
地面にいる者も。
泣いている者も。
まともに息ができていないように見える者も。
「見える」
彼らは言った。
赤い男が手を開いた。
開けた場所が目で満ちた。
本物の目ではない。
身体でもない。
知覚。
視線。
空気の中にある圧の点。
悠太は背後から何かに見られているのを感じて振り向いた。誰もいなかった。
芽衣は影ではない影を切った。
石田は空の一点へ鎖を張った。
陽菜は両目のあいだに視線が突き刺さるのを感じた。
赤い男が言った。
「今だ」
攻撃は、あらゆる方向から来た。
一つの衝撃ではなかった。
圧力の落下だった。
森全体が、彼らの上に手を置いたかのようだった。
芽衣は扇を十字に構え、仲間たちの周囲に風を巻き上げた。
石田は彼らの前で鎖を交差させた。
悠太は両手を上げ、形のない魔力を外へ押し出した。ほとんど本能で、ほとんど拒絶だけで。
陽菜は斧を地面へ突き立てた。
四つの力が、開けた場所の圧力とぶつかった。
足元の土が沈む。
蝋燭が一つ爆ぜた。
さらに一つ。
石田の鎖が一本砕けた。
芽衣が低く唸った。
悠太は片膝をついた。
陽菜は、斧が今にも割れそうに震えるのを感じた。
赤い男が、その圧力の中を進んでくる。
赤い衣は、彼の周りだけに風があるかのように揺れていた。
その身体はもう、まともに歩いていなかった。
高すぎる肩。
長すぎる腕。
傾いた頭。
割れた仮面から覗く、赤く、開かれた、固定された目。
残滓には見えなかった。
それが、さらに悪かった。
残滓は、去ることを知らなかった死者だ。
この男は、まだ生きている。
それなのに、彼の中の何かは内側から扉を開いていた。
「見ろ」
彼は言った。
圧力が増した。
悠太は歯を食いしばった。
「悪役が単純な言葉を選ぶ時って、本当に嫌だ」
「喋らないで」
芽衣が言った。
「気絶しないようにしてるんだよ」
「じゃあ無言でして」
石田が鎖を補強する。
「長くは持たない」
「私も」
芽衣が言った。
陽菜は赤い男を見上げた。
恐怖が戻ってきた。
だが、もう整理されていなかった。
役に立つ形ではなかった。
大きく。
重く。
本物だった。
赤い男は割れた仮面の下で笑った。
今度は、陽菜にもそれがわかった。
「四つの開かれた目」
赤い目が光る。
「閉じるまで、どれほどかかるか見てみよう」
圧力が爆ぜた。
今度は、陽菜だけが斧を上げたのではなかった。
芽衣が扇を開いた。
石田が鎖を張った。
悠太が、膝を震わせながらも一歩前へ出た。
赤い男は首を傾けた。
そして、森が目を開いた。




