第53章:白を纏う者たち
白い影たちは、一斉には襲ってこなかった。
それが、陽菜を最初に不安にさせた。
獣のようには動いていない。
残滓のようにも動いていない。
命令を待つ人間のように動いていた。
開けた場所は、少しずつ暗くなっていた。まだ火の残っている蝋燭もあったが、その光では身体と影をはっきり分けるには足りなかった。白い装束は木々のあいだに現れては消え、ゆっくりと、静かに、彼女を囲む不完全な円を作っていた。
陽菜は斧を構え続けた。
大きく。
重く。
備えて。
勝つためではない。
耐えるために。
十分。
それだけだった。
芽衣が戻るまでの十分。
悠太と石田が目を覚ますまでの十分。
会話の中なら、十分など何でもない。
罠の中では、一生にも等しかった。
赤い男は、開けた場所の中央にいた。汚れた石のそばで、じっと立っている。急いでいるようには見えない。不安がっているようにも見えない。命令を出しているようにさえ見えなかった。
それが、なおさら悪かった。
白い影たちは、彼を見ていないようで見ていた。
声を聞かなくても、彼が何を望んでいるのかわかるかのように。
そのうちの一人が、陽菜へ一歩踏み出した。
次に、もう一人。
さらに、もう一人。
陽菜は後退し、背中に幹の感触を得るまで下がった。
いい。
少なくとも背後からは来られない。
全員には。
「狩人じゃない」
陽菜が言った。
赤い男は、わずかに首を傾けた。
「違う」
「残滓でもない」
「違う」
陽菜は歯を食いしばった。
「じゃあ何なの」
白い影が右から飛びかかってきた。
陽菜は斧を回し、柄で受け止めた。衝撃が木の柄を震わせ、腕の奥まで響いた。きれいな力ではなかった。技でもなかった。扱い方を知らない身体を、魔力が無理やり押しているだけだった。
影は弾かれ、よろめき、膝をついた。
陽菜はその頭を打つこともできた。
そうしなかった。
柄の先で押し飛ばし、地面に叩き倒した。
白い影は、ほとんどすぐに起き上がり始めた。
「人間だ」
赤い男が言った。
別の影が左から襲ってきた。
陽菜は身を低くし、攻撃を頭上に通した。それから片足を軸に回転し、斧の平たい面で相手の脇腹を打った。
乾いた音がした。
人間の音だった。
あまりにも人間の音だった。
影は石にぶつかり、不自然な形に身体を曲げて倒れた。
陽菜の胃が締めつけられる。
残滓だったなら、もっと楽だった。
怪物だったなら、それも同じだった。
けれど、その布の下には人間の手があった。
人間の呼吸があった。
切れば血を流す身体があった。
そして陽菜には、そのうちどれだけがまだ目覚めているのかわからなかった。
白い影は地面に片手をついた。
指が震えていた。
それから、また立ち上がった。
「人間ってだけじゃ説明にならない」
陽菜が言った。
赤い男は、わずかに両腕を開いた。
「新しい人間だ」
陽菜は男を見た。
「何」
「以前の見方を捨てた人間だ」
白い影の一人が何かを呟いた。
陽菜には聞き取れなかった。
すると、別の影がそれを繰り返した。今度は、もっと近くで。
「目は、一度しか開かれない」
その言葉に、首筋が凍った。
同じ紙。
同じ思想。
同じくだらない言葉が、別の声で語られている。
木々のあいだから、三人目の白い影が言った。
「目は、一度しか開かれない」
陽菜は斧を上げた。
「その言い方、気に入らない」
「誰も最初に生まれる時を好みはしない」
赤い男が言った。
「だから泣くのだ」
怒りが喉元まで上がってくるのを感じた。
「森で女の子をさらうことを、出産と比べないで」
「さらってはいない」
「本気でそこを議論するつもり?」
「彼女は来た」
陽菜は一歩、男へ近づいた。
白い影が二人、即座に動き、間に立ちはだかった。
陽菜は止まった。
赤い男は続けた。
「彼女は本を持って来た。紙を持って来た。まだ口にする術を知らなかっただけで、正しい問いを口の中に持って来た」
「それで帰ろうとした時、あんたたちは押さえつけた」
「子どもは生まれる時も叫ぶ」
陽菜は刃を少しだけ広げた。
魔力の重みに、金属が軋んだ。
「もう一度、妹のことをそんなふうに言ったら、その仮面を叩き割る」
赤い男は黙った。
それから笑った。
「血はいつも、真実よりも自分のほうがよく守れると信じている」
別の白い影が進み出た。
今度は走らなかった。
両腕をだらりと下げ、首を傾けたまま、まっすぐ彼女へ歩いてくる。
陽菜は待った。
影が片手を上げた。
攻撃の構えには見えなかった。
それが、彼女を迷わせた。
その誤りは、一秒にも満たなかった。
手が開き、不格好な魔力の放出が彼女へ飛んだ。
陽菜はかろうじて斧を前に出した。
放たれた魔力は金属にぶつかり、淡い光となって爆ぜた。目が焼けるようだった。狩人の技ほど強くはない。形も、方向も、制御もなかった。
それでも、彼女を木に押しつけるには十分だった。
背中が樹皮に叩きつけられた。
息が詰まる。
白い影はなおも進んでくる。
陽菜は歯を食いしばり、斧を下へ回し、柄で相手の脚を払った。
影は倒れた。
その身体が地面に触れる前に、次の影がもう迫っていた。
戦い方が下手だった。
そこが問題だった。
訓練された狩人には、リズムがある。
意思がある。
重心がある。
残滓には本能があり、飢えがあり、型がある。
彼らにはそれがない。
大きすぎる隙をさらして攻撃してくる。
足の置き方も悪い。
力のいらないところで力み、必要なところで弱い。
けれど止まらない。
ためらわない。
壊れることを恐れていない。
そして陽菜は、彼らを壊すことを恐れていた。
それは不利だった。
とても悪い不利だった。
二人目の影が、斧を持つ腕を掴もうとした。
陽菜は手首を返し、柄の先でその肩を打った。何かがずれる感触があった。
影は叫ばなかった。
一歩下がっただけだった。
腕が不自然に垂れている。
それでも、また進んできた。
陽菜は目を見開いた。
「怪我してる」
「そうだ」
「なら止めて」
「なぜ?」
「自分たちが何をしてるのかわかってないから」
赤い男は仮面を傾けた。
「逆だ」
垂れた腕の白い影が呟いた。
「見える」
反対側から、別の影が答えた。
「見える」
三人目も。
「見える」
その言葉が、冷たい流れのように開けた場所を渡っていくのを、陽菜は感じた。
普通の服従ではない。
恐怖で命令を繰り返しているのでもない。
もっと深い。
もっと病んだもの。
その言葉が彼らの中に新しい場所を見つけ、そこに居座ってしまったかのようだった。
「あんた、操ってるわけじゃないんだ」
陽菜は半分だけ理解しながら言った。
赤い男は動かなかった。
「違う」
「じゃあ何」
「呼んでいる」
「同じでしょ」
「違う」
初めて、彼の声がほんのわずかに変わった。
怒ってはいない。
声を荒げてもいない。
けれど、その下にある何かが硬くなった。
「操るとは、その者の望みに反して動かすことだ。私はそんなことはしない」
陽菜は苦い笑みを漏らした。
「そう。あんたは聖人ってわけね」
「私は開く」
「壊してる」
「目覚めさせている」
「石に押さえつけた相手の顔に血を塗りつけてる」
「最初の呼吸は、いつだって痛いものだ」
陽菜は答えなかった。
答えがなかったからではない。
また、額を何かが撫でたからだ。
今度は、より強く。
指ではなかった。
両目のあいだに、爪を押し当てられるような感覚。
入り込もうとしている。
陽菜は斧を鋭く上げた。
金属が光った。
圧力は退いた。
だが完全には消えなかった。
赤い男が首を傾げた。
「お前の扉は、よく閉じられている」
陽菜は荒く息をした。
「もっと試してみれば」
「だが、空ではない」
その言葉は彼女を貫いた。
恐怖によってではない。
確信によって。
男は彼女の顔を見ていなかった。
完全には。
その奥を見ていた。
彼女の内側にある何かを。
「お前の妹の中には」
男が言った。
「問いで満ちた部屋があった」
陽菜の指が柄に強く食い込んだ。
「黙れ」
「お前の中には、他人のために開き、彼女のためには閉じた扉で満ちた部屋がある」
「黙れ」
「美しい罪悪感の形だ」
陽菜は進んだ。
また考えずに。
また速すぎた。
白い影たちが同時に動いた。
一人は彼女の脚へ。
一人は斧を持つ腕へ。
一人は胸へまっすぐ。
陽菜は最初の攻撃を膝で止め、二つ目を柄で押し返し、三つ目を横から受けた。衝撃に、喉から低い声が漏れた。
後退する。
幹が背中に当たった。
白い手が彼女の手首を掴んだ。
陽菜は人間の指を感じた。
温かい。
生きている。
それが、一瞬だけ彼女を止めた。
影が顔を上げた。
布の下に、一つの目が見えた。
一つだけ。
開いている。
赤く血走っている。
けれど涙で濡れていた。
影は囁いた。
「ありがとう」
陽菜は凍りついた。
その影が、彼女の脇腹に何かを突き立てようとした。
陽菜は本能で動いた。
肘で打つ。
続けて柄で打つ。
影は後ろへ倒れ、闇に紛れた。
陽菜は乱れた息を吐いた。
「何をしたの……」
赤い男は静かに答えた。
「彼らがすでにそうであったものへの恐れを、取り除いた」
「違う」
陽菜は首を振った。
「選ぶ力を奪ったんだ」
「彼らは来ることを選んだ」
「その後は?」
沈黙はわずかだった。
だが十分だった。
陽菜は気づいた。
「その後は、もう選べないんでしょ?」
赤い男は答えなかった。
陽菜は笑った。
笑みにはならなかった。
「そこね」
白い影が走ってきた。
陽菜は避け、斧の平たい面でその背中を打った。影は顔から地面に倒れた。
「そこを言わない」
別の影が襲う。
陽菜は受ける。
「中に入れる」
また一人。
打つ。
「開く」
また一人。
避ける。
「そして、そのままこうなる」
垂れた腕の影が、また立ち上がった。
陽菜はそれを見た。
脚が震えている。
身体は止まりたがっている。
頭は違う。
「従順」
陽菜が言った。
赤い男は、低く言った。
「生まれ変わった者だ」
「従順」
「彼らを閉じ込めていた嘘から自由になった」
「あんたに従順なだけ」
赤い仮面は動かなかった。
けれど開けた場所は、さらに冷たくなったように感じた。
「生まれたばかりの者は、声を探す」
男が言った。
「それは奴隷ではない。信頼だ」
「気持ち悪い」
「人間的だ」
陽菜は地面に唾を吐いた。
「その言葉を使うな」
次の攻撃は、二方向から来た。
陽菜は両方を防げなかった。
一つ目を刃で逸らす。切らず、押し返すだけ。二つ目が肩に入った。痛みが腕を伝って落ちていく。
斧が重くなった。
悪い兆候だった。
息をする。
十分。
どれくらい経った。
三分か。
五分か。
一分か。
森には時計がなかった。
赤い男にも。
白い影たちがまた動いた。
陽菜は構えを変えた。
近距離に敵が多すぎて、斧が大きすぎる。
小さくした。
金属は乾いた音を立てて圧縮され、中くらいの大きさになった。速く、威圧感は少ない形。
白い影が飛びかかる。
陽菜は柄で腹を受け止めた。
影の身体が折れる。
それを別の影へ押し込んだ。
二人とも倒れた。
出口へ向かう、ごく小さな通路が開いた。
陽菜はそれを見た。
同時に、赤い男が二本の指を上げるのも見た。
通路は消えた。
二人の影が間に入った。
走ってはいない。
声で命令を受けたわけでもない。
ただ、わかっていた。
陽菜は寒気を覚えた。
「操ってない。でも結局、従ってる」
「心臓も血を操ってはいない」
男が言った。
「ただ鼓動しているだけだ」
「いつも心臓の側でいられるなんて、便利ね」
「誰かがそうでなければならない」
陽菜は斧を回した。
「じゃあ、その仮面なしで鼓動できるか見てみようか」
進んだ。
今度は、ただの怒りではなかった。
決断だった。
刃で地面を叩き、短い魔力の波を放つ。大きな技ではない。壊すためでもない。土を巻き上げ、光を消し、陣形を崩すためだけのもの。
半分は成功した。
三人の影が後退した。
二人が倒れた。
一人は進み続けた。
赤い男は土埃の向こうに消えた。
陽菜は彼へ飛び込んだ。
白い手が土埃の下から伸び、彼女の足首を掴んだ。
陽菜は膝から崩れた。
目の前に、別の影が現れる。
斧を上げる時間はなかった。
頬を殴打が横切った。
世界が傾いた。
陽菜は片手を地面についた。
口の中に血の味。
斧がさらに少し縮んだ。
息をする。
勝たない。
耐える。
白い声が、耳元で囁いた。
「扉は、一度しか開かれない」
陽菜は振り向き、額でぶつかった。
不格好な一撃だった。
必死で。
人間的だった。
影が後退する。
陽菜は半身を起こし、正面から来た別の影を肩で押し返した。白い身体が蝋燭に倒れ込み、その火を消した。
また一つ、炎が死んだ。
さらに一つ。
開けた場所が黒く閉じていく。
陽菜は、だんだん見えなくなっていた。
だが白い者たちは、その暗闇の中でよりよく動いているように見えた。
あるいは、恐怖が彼らを近く感じさせているだけかもしれなかった。
赤い男が土埃の中から再び現れた。
土はついていなかった。
汚れ一つない。
それが、妙に腹立たしかった。
「疲れてきたな」
男が言った。
「あんたは喋りすぎ」
「観察だ」
「こっちもね」
男は数メートル先で止まった。
近すぎた。
白い影たちは、陽菜の背後で半円を作っていた。
出口へ続く道は向こう側。
遠い。
「お前の妹は、不完全に目覚めた」
赤い男が言った。
陽菜は柄を握りしめた。
「あの子の話をするな」
「中断された」
「救われた」
「閉じられた」
「救われた」
赤い男は、ゆっくりと片手を上げた。
「それでも、彼女の一部はまだ聞いている」
陽菜の胸の中が空になった。
「嘘」
「今呼ぶのは残酷だろう」
「嘘」
「だが、可能だ」
陽菜は動かなかった。
それが本当の打撃だった。
身体ではない。
不格好な魔力の放出でもない。
口の中の血でもない。
それだった。
家の中で、呼吸しようとしている澪。
自分を取り戻そうとしている澪。
それでもなお、あの男の何かが彼女の中に残っているという考え。
赤い男は、それを知っていた。
「そこがお前のひびだ」
圧力が戻ってきた。
今度は、額に触れなかった。
罪悪感から入り込んできた。
映像ではなかった。
正確には違う。
半開きの扉の感覚だった。
台所に座る、幼い澪。
陽菜が出ていくのを見ている澪。
道を数歩だけ追ってくる澪。
どうしてお姉ちゃんはよくて、私は駄目なの、と問いかける澪。
森の中の澪。
石の上の澪。
嫌だと言う澪。
斧が手の中で震えるのを、陽菜は感じた。
「違う」
赤い男は声を低くした。
「すべての目が、血で開くわけではない」
圧力がさらに深くなる。
「ある者には、ずっと避けてきた場所を誰かが見るだけでいい」
陽菜は斧を地面に突き立てた。
「違うって言った」
魔力が腕を駆け上がる。
きれいではない。
優雅でもない。
怒りそのものだった。
刃が一気に広がった。こんなに狭い場所で扱うには大きすぎるほどに。金属が二人の白い影を打ち、左右へ吹き飛ばした。蝋燭が一つ、蝋と小さな火を弾けさせた。地面に短い亀裂が走る。
圧力が切れた。
陽菜は水面から顔を出したように息を吸った。
赤い男は黙った。
それから、柔らかく言った。
「惜しいな」
陽菜は顔を上げた。
「何が」
「美しい扉だった」
白い影が背後から彼女を打った。
もう幹は背中を守っていなかった。
陽菜は前に出すぎていた。
衝撃に膝が折れた。
別の影が腕を掴む。
さらに別の影が肩を掴む。
陽菜は斧を回そうとした。だが武器は今、大きすぎた。刃が石に引っかかる。外すのに半秒を失った。
半秒で十分だった。
白い手が彼女の顔を掴んだ。
指が額に触れた。
赤い男の指ではなかった。
けれど、感覚は同じだった。
もっと悪い。
自分が何をしているのか理解していない者から来るものだったからだ。
陽菜は布の下に目を見た。
泣いている。
笑っている。
空っぽの目。
「見える」
影が囁いた。
陽菜は柄でその鼻を折った。
影が倒れる。
彼女も、ほとんど倒れかけた。
斧が一瞬、小さな形に戻った。
肩の痛みが指先まで落ちていく。
悪い。
かなり悪い。
赤い男が最初の一歩を踏み出した。
たった一歩。
開けた場所が息を呑んだように感じた。
「戻ってくるまで、もたない」
陽菜は小さくなった斧を上げた。
「じゃあ、早く飽きてもらわないとね」
「殺したいわけではない」
「それは安心」
「理解したい」
「そっちのほうが嫌なんだけど」
男は、もう一歩進んだ。
白い影たちがわずかに道を空ける。まるで森そのものが、彼のために場所を作っているようだった。
陽菜は後退しようとした。
できなかった。
背後には身体があった。
影があった。
呼吸があった。
ほとんど閉じた円があった。
赤い男が手を伸ばした。
斧へではない。
彼女の顔へ。
陽菜は武器に魔力を集めた。
少しだけ。
できる分だけ。
刃は応えた。
だが遅かった。
白い影が左から跳んだ。
陽菜はそれを見た。
同時に、赤い男の手が近づいてくるのも見た。
両方は防げない。
彼女は手のほうへ向いた。
白い影が先に届いた。
間に合わない。
陽菜はそう理解した。
その瞬間、攻撃は届かなかった。
風の斬撃が、二人のあいだの空間を切り裂いた。
白い装束が肩から胸にかけて裂け、影は足で土を引きずりながら後方へ倒れた。
陽菜は顔を上げた。
芽衣が木々のあいだに立っていた。扇を開き、氷のような表情を浮かべて。
「一人で行くなって言ったでしょ」
陽菜は一度、息をした。
痛かった。
「遅い」
「馬鹿二人を起こしてきたのよ」
芽衣の肩越しに魔力の鎖が走り、立ち上がろうとしていた白い影の腕に巻きついた。
影は引っ張った。
鎖は緩まなかった。
芽衣の後ろに、石田が現れた。表情は硬く、目は開けた場所に釘づけになっている。
「残滓には見えない」
石田が言った。
「違う」
陽菜が答えた。
さらに一歩後ろから、悠太が木々のあいだから出てきた。
髪はまだ寝起きのまま乱れていた。
けれど、その目は完全に覚めていた。
彼は白い装束を見た。
蝋燭を見た。
汚れた石を見た。
血を流している陽菜を見た。
そして、赤い男を見た。
「えーっと」
悠太は、指先にかすかに魔力をまとわせながら両手を上げた。
「これは間違いなく、静かな夜を過ごす計画には入ってなかったな」
赤い男は、新たに現れた三人を眺めた。
それから陽菜を見た。
仮面の下で、その声はどこか満足げに響いた。
「目が増えた」
白い影たちが、また動き始めた。
芽衣は扇をさらに開いた。
石田は鎖を張った。
悠太が一歩前へ出た。
陽菜は斧を握り直した。
もう、一人ではなかった。
陽菜たちはもう一人ではないが、白い影たちの正体と赤い男の狙いはなお不明であり




