86.サプライズ
久しぶりに再会した京香姉ちゃんは、見違えるような美人になっていた。昔のやんちゃなイメージとは程遠い、清楚な大人の女性。ただ、口調だけは全く変わっていないことが、少し嬉しくもある。
でもその口調のせいで、見た目との違和感が半端じゃない。俺はこれに慣れなきゃいけないのか。
「京香姉ちゃん、本当に久しぶりだな。六年ぶりとか?」
「五年だ。…この五年間、ずっとユウに謝んなきゃなんねえって、そう思いながら過ごしてきた。中学に上がって、ほんの少しだけバタバタしてただけだったんだ。その間にあんなことがあって……。ユウの一番辛いときに、アタシはそばにいてやれなかったっ…!」
「ちょっ、落ち着いてくれ!…謝りたいのは俺の方だよ。京香姉ちゃんに挨拶もせずにいなくなったんだからさ。こうしてまた京香姉ちゃんと話せて嬉しいよ」
「ほんっと、二人とも私に感謝してよね?」
「もちろんだ。改めて礼を言わせてくれ。アタシにチャンスを与えてくれたこと、ユウに謝罪をさせてくれたこと。さすがは、アタシたちの妹だ」
「……いつから私の姉は二人に増えたんだろう。私の姉は一人だけのはずなのに…」
「お前に姉はまだいないだろ」
言った後でその言葉を後悔する。後悔なんて言うと綾乃に怒られそうだけど、どう考えても優奈にイジられる未来しか見えない。
でも、俺たちが将来どうなるかなんて誰にも分からないし、たぶん綾乃も同じことを思ってるはずだ。
本当はもう少し大胆にいけたらいいんだけど。家族を事故で喪っている以上、どうしても臆病になってしまう。…いや、これはただの言い訳だな。
俺に度胸がないだけだっていうのは自分が一番分かってる。だから一歩踏み出そうと、こうして優奈に相談を持ちかけたんだから。
「それで?アタシはなんで呼び出されたんだよ。まさか受験勉強で忙しいこのシーズンに、これだけのために時間を取らされた、なんてことはないよなぁ?」
「さすがにそんなことはしないよ。いや、した可能性はあるかもしれないけどね。じゃなくて、今日はお兄ちゃんの相談事なの」
「えっと、どこから話したらいいかな…」
それから、京香姉ちゃんに俺の近況と来てもらった事情を伝える。途中から呆れたような顔をされるのに慣れてしまったのには、なんとも言えない気持ちになったけど。
京香姉ちゃんは少し考え込むような素振りを見せたあと、自分の首元を見つめ、何かを思いついたように目を見開く。
「これとか良いんじゃないか?」
「それは………確かにありだ。特別感が出やすいし、俺の予算でも色々なものが選べそうだ」
「決めたなら早く行かないと。お義姉様が帰ってきちゃう」
「だからお前に姉は………もういいや」
何を言っても無駄そうだったので、それ以上の反論は諦めてプレゼントを買いに行く。京香姉ちゃんは受験勉強で忙しいそうなので、さっさと帰っていった。
去り際に、『良い気晴らしになった』と言い残して京香姉ちゃんの顔は、どこかスッキリしているように見えた。
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なんとか綾乃よりも先に帰宅した優心は、昼食を軽いもので済ませて綾乃の帰宅を待っていた。プレゼントは、この間購入したコートの中にしまっておき、前もって外出の痕跡も消しておく。
それだけ、今回のサプライズは大事なものだということだ。
出かける前に掃除を終えた優心が一息吐くと、ちょうど耳慣れた機械音が鳴る。誰が来たかは分かっているので、わざわざモニターを覗くことはしない。
だが玄関の鍵を開けると——————
「邪魔するぞ、優心」
「…なんで春馬がここに?」
「氷川さんから聞いたぞ。一緒に出かけるんだって?なら身だしなみは俺に任せろ、ってな」
「オーケー春馬。お前は神だ」
目の前に神が立っている。いくら見た目に気を使うようになったと言っても、春馬にはまだまだ遠く及ばない。そんな春馬が協力してくれるいうのだから、これ以上はない。
コートを軸にコーディネートを組み立ててもらい、普段使わないワックスや香水も使って見た目を整えてもらう。
なんだか変な感じだけど、春馬がこれで良いというのだから、俺はそれを信じるだけだ。
「ありがとな、春馬」
「良いってことよ。優心の大切な日に手を貸せるなんて、親友冥利に尽きるぜ」
「やっぱお前、最高だよ」
「志田くん、終わった?」
「おう、バッチリだ。じゃ、後は二人で楽しんでなー」
声の主はもちろん綾乃。どうやら春馬の思い付きに巻き込まれていたようだ。
ただ、突然来たから自分がどんな姿をしているのかも分からない。少し不安なのだが………。
「……………………………………」
「綾乃?……もしかして、似合ってないか?」
「…………………はっ。い、いえ。全然似合ってないなんてことないわよ?」
「何故に疑問形。………このやりとり前もしたような」
「気のせいよ。…むしろ、似合いすぎて見惚れちゃったわ。さ、行きましょう?」
今日は俺がリードするつもりだったんだけどな。やっぱり綾乃には勝てないや。




