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隣で「おはよう」と笑う君を見たいから  作者: 山田 太郎丸
第四章 君の隣でどこまでも歩み続ける

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86.サプライズ

 



 久しぶりに再会した京香姉ちゃんは、見違えるような美人になっていた。昔のやんちゃなイメージとは程遠い、清楚な大人の女性。ただ、口調だけは全く変わっていないことが、少し嬉しくもある。


 でもその口調のせいで、見た目との違和感が半端じゃない。俺はこれに慣れなきゃいけないのか。




「京香姉ちゃん、本当に久しぶりだな。六年ぶりとか?」


「五年だ。…この五年間、ずっとユウに謝んなきゃなんねえって、そう思いながら過ごしてきた。中学に上がって、ほんの少しだけバタバタしてただけだったんだ。その間にあんなことがあって……。ユウの一番辛いときに、アタシはそばにいてやれなかったっ…!」


「ちょっ、落ち着いてくれ!…謝りたいのは俺の方だよ。京香姉ちゃんに挨拶もせずにいなくなったんだからさ。こうしてまた京香姉ちゃんと話せて嬉しいよ」


「ほんっと、二人とも私に感謝してよね?」


「もちろんだ。改めて礼を言わせてくれ。アタシにチャンスを与えてくれたこと、ユウに謝罪をさせてくれたこと。さすがは、アタシたちの妹だ」


「……いつから私の姉は二人に増えたんだろう。私の姉は一人だけのはずなのに…」


「お前に姉は()()いないだろ」




 言った後でその言葉を後悔する。後悔なんて言うと綾乃に怒られそうだけど、どう考えても優奈にイジられる未来しか見えない。


 でも、俺たちが将来どうなるかなんて誰にも分からないし、たぶん綾乃も同じことを思ってるはずだ。


 本当はもう少し大胆にいけたらいいんだけど。家族を事故で喪っている以上、どうしても臆病になってしまう。…いや、これはただの言い訳だな。


 俺に度胸がないだけだっていうのは自分が一番分かってる。だから一歩踏み出そうと、こうして優奈に相談を持ちかけたんだから。




「それで?アタシはなんで呼び出されたんだよ。まさか受験勉強で忙しいこのシーズンに、これだけのために時間を取らされた、なんてことはないよなぁ?」


「さすがにそんなことはしないよ。いや、した可能性はあるかもしれないけどね。じゃなくて、今日はお兄ちゃんの相談事なの」


「えっと、どこから話したらいいかな…」



 それから、京香姉ちゃんに俺の近況と来てもらった事情を伝える。途中から呆れたような顔をされるのに慣れてしまったのには、なんとも言えない気持ちになったけど。


 京香姉ちゃんは少し考え込むような素振りを見せたあと、自分の首元を見つめ、何かを思いついたように目を見開く。



「これとか良いんじゃないか?」


「それは………確かにありだ。特別感が出やすいし、俺の予算でも色々なものが選べそうだ」


「決めたなら早く行かないと。お義姉様が帰ってきちゃう」


「だからお前に姉は………もういいや」




 何を言っても無駄そうだったので、それ以上の反論は諦めてプレゼントを買いに行く。京香姉ちゃんは受験勉強で忙しいそうなので、さっさと帰っていった。

 去り際に、『良い気晴らしになった』と言い残して京香姉ちゃんの顔は、どこかスッキリしているように見えた。










 ——— ——— ——— ——— ——— ——— ——— ———










 なんとか綾乃よりも先に帰宅した優心は、昼食を軽いもので済ませて綾乃の帰宅を待っていた。プレゼントは、この間購入したコートの中にしまっておき、前もって外出の痕跡も消しておく。

 それだけ、今回のサプライズは大事なものだということだ。


 出かける前に掃除を終えた優心が一息吐くと、ちょうど耳慣れた機械音が鳴る。誰が来たかは分かっているので、わざわざモニターを覗くことはしない。


 だが玄関の鍵を開けると——————




「邪魔するぞ、優心」


「…なんで春馬がここに?」


「氷川さんから聞いたぞ。一緒に出かけるんだって?なら身だしなみは俺に任せろ、ってな」


「オーケー春馬。お前は神だ」




 目の前に神が立っている。いくら見た目に気を使うようになったと言っても、春馬にはまだまだ遠く及ばない。そんな春馬が協力してくれるいうのだから、これ以上はない。


 コートを軸にコーディネートを組み立ててもらい、普段使わないワックスや香水も使って見た目を整えてもらう。


 なんだか変な感じだけど、春馬がこれで良いというのだから、俺はそれを信じるだけだ。




「ありがとな、春馬」


「良いってことよ。優心の大切な日に手を貸せるなんて、親友冥利に尽きるぜ」


「やっぱお前、最高だよ」


「志田くん、終わった?」


「おう、バッチリだ。じゃ、後は二人で楽しんでなー」




 声の主はもちろん綾乃。どうやら春馬の思い付きに巻き込まれていたようだ。


 ただ、突然来たから自分がどんな姿をしているのかも分からない。少し不安なのだが………。




「……………………………………」


「綾乃?……もしかして、似合ってないか?」


「…………………はっ。い、いえ。全然似合ってないなんてことないわよ?」


「何故に疑問形。………このやりとり前もしたような」


「気のせいよ。…むしろ、似合いすぎて見惚れちゃったわ。さ、行きましょう?」




 今日は俺がリードするつもりだったんだけどな。やっぱり綾乃には勝てないや。




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