85.初恋
12月21日。今日は2学期最後の登校日だ。早いと思われるかもしれないが、カレンダーの都合上、こうせざるを得なかったのだとか。
しかし、ただ終業式を行うだけではない。期末テストの返却という、高校生にとっての一大イベントがあるのだから。
「かーっ!氷川さんには勝てねえなぁ」
「まだまだね、志田くん。学年1位の座は譲らないわ」
「トバっちぃ…二人の会話がハイレベルすぎて着いてけないよぉ……」
「そういう雛だって順位上がったんでしょ?一学期は赤点ギリギリだったんだから、よく頑張ったと思うんだけど」
学年トップと2位は変わらず。流石は綾乃、今回はほぼ満点だったようだ。春馬も悔しがってるけど、実際はかなり僅差。一瞬でも気を抜けばたちまち順位は入れ替わるだろう。
俺はまた中の上くらいの順位で、雛も赤点ギリギリから赤点を必ず回避できるくらいには成長している。俺たちのこの成績は全部綾乃のおかげだけど。春馬は相変わらず何言ってるか分からん。
今はこうやって成績で一喜一憂できるけど、学年が上がればそうもいかなくなる。既に進路指導のあれやこれやは始まっているし、綾乃と同じ大学に行くためにはもっと成績を良くしなければならない。
つまり、来年のクリスマスは浮かれ気分じゃいられないってことだ。その分今年は楽しまなくちゃな。
「真田さんと相川さんがクリスマス会を計画してるみたいだけど、綾乃はどうする?」
「行っても良いのだけど……優心と二人きりの時間も欲しいわね」
「…………そういうこと言う癖、直ったんじゃなかったのか」
「直ったなんて一言も言ってないし、そもそも直すつもりも無いわ。優心が私のことしか考えられなくなるまでは…ね?」
「…さいですか」
うちの彼女、いつからこんなにお茶目になったんでしょう。慣れないくせにウインクなんかしちゃって。そういうところも可愛いと思うけど。
ナチュラルにイチャつくのをやめろ、と春馬にうんざりされるのも久々。そういえばここ教室だったな。気づいていなかったのも、だいぶ問題ではあるのだろうが。
それはさておき、クリスマス会には出られるのだが、俺は申し訳ないと思いつつも断る。以前から考えていた、とある目的のためだ。
少しばかり準備に手間取ってしまったが、ギリギリまで隠しておかなければならないので購入も直前にしたいからだ。
みんなは残念がっていたけど、俺にとっては一世一代の勝負…と言うと変かもしれないが、それだけ大事なことなんだ。
もちろん綾乃にも話していないので訝しまれてしまったが、当日のお楽しみ、と誤魔化して事なきを得た。
そうして日にちはあっという間に流れ、迎えたクリスマス当日。
12月25日の朝は、これでもかというほどの快晴。ただし、とてつもない乾燥と数年に一度クラスの大寒波のおまけ付きだが。
綾乃は早いうちにクリスマス会へ向かった。会と言っても郊外にある遊園地に遊びに行くそうなので、正直俺も行けばよかったと若干後悔している。
でも仕方がない。スケジュール自体は前から組んでいたものだし、今さら変えるわけにもいかないからね。さっさと用事を済ませて綾乃の帰りを待つとしますか。
「それはいいんだけどさ、なんで私また呼ばれたの?お義姉様がいないクリスマスが寂しいから?」
「その気持ちもあるにはあるけど、優奈に相談に乗って欲しくて」
「何回目〜?しょっちゅうチャットで聞いてるし、私いっつも言ってるよね。最後は自分で決めろって」
「もちろん。でも女子の好みは女子にしか分からないと思ってさ」
「古くさい。前時代的な考え。そもそも綾乃お義姉様をそこらの女子と一緒にするのが間違ってる」
「数ヶ月前に再会したばかりの妹の態度じゃないだろ」
綾乃の帰りを待つ間、俺は優奈を呼んで相談に乗ってもらっていた。以前からチャットでやり取りはしていたけど、文字だけじゃどうにも感情が伝わりづらい。
なので、こうして直接話すことにしたのだ。
当の優奈はあまり気乗りしていないようだけど、最後の一言には同感だ。俺だって綾乃のことは特別だと思ってるし、流行りに乗るようなタイプの人間じゃないことも理解している。
だからこそ、似たような性格をしている優奈に相談したんだ。二人とも、気分という一過性のものよりも、自分の考えを優先するからね。要するに、合理的な考え方をしている、ということだ。
「………で、お兄ちゃんが考えてるのは、一生想い出に残るような贈り物、だったよね?」
「綾乃に忘れられないクリスマスにするって言っちゃったからね。それ自体は後悔してないしプランも組み上がってるけど、やっぱり最後にもう一押し欲しいなって」
「それで贈り物かぁ。…もう指輪とかにすれば?お金あるんだし」
「そんな軽い気持ちで渡していい物じゃないだろ。綾乃の指の大きさも分からないしな」
そう、俺がずっと悩んでいたのは、平たく言えばクリスマスプレゼントだ。行く場所自体はもう決まってるけど、それだけじゃ足りないような気がしたんだ。
何かサプライズになるような物がいいと思って、最初は優奈の言ったように指輪にしようとした。
ただ、俺たちはまだ結婚できる年齢じゃない。プロポーズはその時まで取っておきたいんだ。
「ならさ、私以外の意見も聞いてみれば?いつもの先輩二人はいないみたいだけど、一人だけ心当たりがあるんだ」
「確かに…たまには違う人の話も聞いてみたいな。ちなみに俺が知ってる人か?」
「絶対知ってるとは思うけど、顔見ても分かんないかもねー」
顔を見ても分からない?どういうことなのかさっぱりだ……。
と思っていたのが30分前の話。俺たちは、近所にある人気のない公園に来ていた。
「あっ、いたいた。ごめんねー、忙しいのに呼んじゃって」
「優奈の頼みだかんな。それに……………………久しぶりだな、ユウ」
「その話し方……まさか、京香姉ちゃん………?」
いつだったか、ジョージが言っていた。この学校には三大美少女がいると。
綾乃、優奈、そして最後の一人が、堀田 京香。
俺の幼馴染みで———初恋の人だ。




