80.最高の仲間
迎えた文化祭最終日。優勝に手をかけている優心たち2年3組の面々は、気合いのこもった表情で準備を整えていた。
文化祭実行委員である、真田 桜その人を除いては。
理由は2つ。日野に働きすぎを指摘され、どうすべきか悩んでいること。
そしてもうひとつは、実際に疲労がかなり溜まっており、体調が決して良いとは言えない状況であること。
しかし休むという選択肢は無かった。この大事な時に自分がいなくなることの影響を鑑みると、多少無理してでも学校に行くべきだと考えたからだ。
だがそれは、クラスメイト全員に見抜かれていた。
「桜、休んで」
「急にどうしたの可奈ちゃん。あたしはどこも悪くなんか…」
「そんな嘘吐かなくていいよ。いつも一緒にいるんだから、調子が良くないことくらい見れば分かるから」
「いやいや、あたしは全然大丈夫だし。これくらいどうってことないよ!」
「ね、アタシ達ってそんなに頼りない?」
雛のその言葉に、桜は思わず動揺してしまう。彼女はそんなことは微塵も思っていない。
クラスメイトのことは頼れる仲間であり、自分がいなくてもなんとかできるとさえ思っている。
だが答えは喉元で詰まってしまう。もしこの言葉を返してしまったら、優勝を取れないかもしれない。自分1人の不甲斐なさで、クラスに迷惑は掛けられない。
なら正直な想いは隠しておくべきだ。
次の言葉を聞かなければ、その気持ちは揺るがなかっただろう。
「ね、桜。あたしたちは今日まで桜がどれだけ頑張ってきたか知ってる。だからさ」
「「「後は任せて!!!」」」
「……みんなぁ……………」
「分かったっしょ?ほーら、保健室行ってゆっくり休んできなさい」
クラスは一致団結していた。彼女の頑張りを知っていたから。それが無ければ、優勝なんて夢のまた夢であったことに気付いていたから。
そのことに気付かせたのは、他でもない優心であった。
話は昨夜に遡る。
優心は帰宅後、綾乃にとある相談をしていた。
「綾乃、ひとつ聞きたいことがあるんだけどさ。真田さん、ちょっと頑張りすぎじゃないかなって思うんだけど」
「…言われてみれば、彼女の負担は相当なものだったわね。役割分担をしたとはいえ、最終的な部分は彼女に任せっぱなしにしてしまっていたわ」
「やっぱり綾乃もそう思うか。どうにかしてあげられないかなって。一応案はあるんだけど、皆んなに伝える手段がないんだよ」
「そういえば私たち、グループチャットに入ってなかったわね。私の意思でそうしているのだから仕方ないのだけれど」
俺が考えたのは、クラス全員で休むように言えばさすがに断らないだろう、というものだ。ただ問題は、今からそれを伝える手段が無いことだ。
俺は嫌われているから、綾乃は連絡先を大人数に知られたくないがために、クラスのグループチャットに参加していない。今回はそれが仇になった。
でも綾乃に相談して正解だった。すぐに解決策を出してくれたから。
「じゃあ志田君にやってもらえばいいんじゃないかしら。彼なら人望もあるし、彼から私たちに共有したという体にすれば違和感も無いでしょう?」
「確かにそうだな。なんでそんな簡単なことに気づかなかったんだろう」
「優心は物事を急ぎすぎよ。もっと冷静になって、一度立ち止まって考える癖をつけたら?」
「……綾乃はすごいな。いつも俺に大事なことを気づかせて、教えてくれる」
「それは貴方もよ。貴方がいたから、私は家族の大切さに気付いた。だから困った時はお互い様よ」
お互い様、か。俺も綾乃の助けになれてるんだな。その事実だけで心が暖まる。
綾乃を今すぐにでも抱きしめたいところだけど、先に春馬に連絡しなきゃな。
春馬は二つ返事で協力してくれた。ついでに雛も。真田さんの相方である大山さんも同じことを思っていたらしく、皆んなに強く協力を求めていたそうだ———。
再び現在に戻り、裏で協力していた日野によって保健室に連れられる桜。日野は昨日からこうなるだろうと分かっていたが、あえて桜には伝えなかった。
教師として、教育者として、自分で気付かせようと考えていたからだ。
「ま、ちょっと頑張りすぎたな。よかったな、優しいやつらがクラスメイトで」
「頑張りすぎかぁ………自分では気づけないもんですねぇ…」
「人間なんてそんなもんさ。間違って間違って、その間違いから成長する生き物なんだよ。よく分かったろ?」
「みんなに迷惑かけちゃうなぁ…」
「んなこと誰も気にしちゃいねえよ。自分の心配より真田の心配をしてるだろうな」
実際にその言葉は的を射ており、クラスメイトが口にするのは桜のことばかり。文化祭の開場まであまり時間はないが、それだけ皆が桜の頑張りを見てきたということだろう。
のちにその事実を知った桜が悶えるのは、また別のお話。
「真田もゆっくり寝てろ。あいつらなら大丈夫だよ」
「知ってます。みんな最高の仲間ですから」
リーダーを欠いた状態での最終日。優心たちはこのピンチを乗り切り、優勝を掴むことができるのだろうか。
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