九冊目
最近アリス氏の機嫌がやたらといい。
え、こわ…
この間なんて「あれミア髪切った?ちょーいい感じゃん似合ってるよ☆」とか言われた。鳥肌がたちました。一瞬偽物かと疑うのでマジで止めて欲しい。あと髪は切ってないです。
とまあ、そんなアリス氏に戦々恐々としながら過ごしていた訳なんですが、最近ようやくその原因が判明したのでそのご報告をば。
というか今正に目の前で繰り広げられているんですが──、
「わぁ!やっぱりジュリアン様って学年首席なんですね、すっご~い! あっそうだ、あの、えっと…そのもしよかったらなんですけど、勉強って教えて貰えたりとか……ダメ、ですか?」
あーっと、これはあざとい!アリス氏渾身の上目遣いがジュリアン殿下に突き刺さっていくぅっ!
「ず、ずるいですわ!それなら私もご一緒させて頂きたいです!」
「それには勿論私もご招待して下さるのよね?」
「まあ皆さんはしたなくてよ。でもそうね、もし本当に殿下主催の勉強会が催されるのであれば、私もぜひ参加させて頂きたいですわ。」
「は?ちょっ…! で、でも皆さま成績はよろしいでしょう?あたしはほら、平民出身でまだまだ至らないことが多いですし…。それに〈聖女〉のことについても、できればジュリアン様にご指導頂ければと」
おっとアリス氏これは苦しいか!?巧みにジュリアン殿下を二人っきりのお勉強会♡に誘っていこうとするも、それを外野の令嬢たちが華麗に阻止!しかしそこは性格の悪い女アリス!咄嗟に〈聖女〉のカードを切って周りを牽制していくぅっ!さすがですアリス氏!これは汚い!
「ふふ、勉強会のお誘いは嬉しいけれど私も中々忙しくてね。申し訳ないけれど、それはまたの機会かな。」
「殿下も色々あるんだよ。悪ぃな、気を悪くしないでくれよ。」
「テオドール…、お前のその口調はもう少し何とかならないのかい?」
「へーへー。それはどうもシツレイシマシタ。」
「まったく…」
オッホ。
ねぇ皆さん聞きました!? 久々登場のテオドールボイスですよ!(大歓喜)
いや~テオドールはジュリアン殿下の護衛役ではあるんだけれど、流石に生徒会メンバーでもないのに生徒会室に居座るわけにもいかないから中々見れてなかったんだよね~!たまに見掛けたとしても遠目に殿下と歩いている所だったりしたから、声を聞くのは久々なんですよ!
う~ん相変わらずのセクシーボイス。ご馳走さまです。
ん?そんなことより早く今の状況を説明しろって?
ハハハ、まあ落ち着きたまえよ。
──そう、事の発端は学園の中庭にある東屋での出来事だった。
アリス氏が友人たち(お前友達おったんかという疑問はさておき)と一緒にお茶会を楽しんでいたところへ、突如ジュリアン殿下と護衛のテオドールが現れたのである。
彼女たちはそれはもう色めき立ち、歴戦のハンターの如く俊敏な動きで殿下たちをお茶会へと誘ったのだ。この間僅か数秒の出来事でしたね。恐ろしや…
そして先程の会話である。まあゲームの中ではこんなイベントは無かったから、本当に偶然発生した出来事なんだとは思う。
あれかな、おそらくですけどこれはアリス氏が身に付けているアイテムの効果で好感度が上がってきたってことなのかな?
心なしかジュリアン殿下の笑顔もいつもより柔らかいような気もする、多分。
というか最近のアリス氏の上機嫌の理由がコレですわ。ジュリアン殿下の好感度が上がってきて、対応やら態度が変わってきたとかそういうことなんだと思う。ハハーン、なるほどね。
と一人納得していると、すぐ隣からガサッという音がした。
「「………。」」
隣に居たのはまさかのタナーくんでした。
(えっ、な、何してるんです…?)
(それはこちらのセリフなんですが…。僕は殿下に命じられただけです。)
(ソ、ソウナンダ)
(で?あなたは何故此処に?)
(え、えっとぉ…)
小声でヒソヒソ話していると、殿下たちが席を立ったのが視界に入った。
(…とりあえずこの場はこれで失礼します。詳しい説明は後程生徒会室の方で。)
(ァ……ハイ)
(では失礼します)
サッと身を翻してタナーくんは去って行った。
去って行く背中を見つめながら、あれ?これって私殿下たちのお茶会を影から覗き見するヤベー奴だと思われてません?という事実に気付き頭を抱える。
そして少ししてから私もその場を辞し、トボトボと重い足取りで生徒会室へと向かうのであった。
◇◇◇◇
「やあミア。キミはどうやら随分と個性的な趣味を持っているらしいね?」
開口一番、殿下の先制パンチを喰らっています。ミアです。
恐る恐る生徒会室へと足を踏み入れると、そこに待っていたのはジュリアン殿下とタナーくんだけではありませんでした。殿下の護衛としてテオドール、それに何故かカトリーナ嬢にアルヴィナ氏、さらにはキーランにティモシーまで勢揃いである。
なるほど、生徒会メンバーは全員ジュリアン陣営ってワケね。(白目)
「あ……その、」
ねえ待って?
流石にこの状況は想定してなかったんだわ。え、コレってヤバいやつ?もしかしてヤバいやつです???
だってこの状況、明らかに何らかの尋問が始まろうとしてますよね!?
いやでも言うて私、アリス氏の恋愛サポートと観察くらいしかしてないんですが!?(※ストーカーは犯罪です)
あっ。
え、もしかしてそれ?もしかして私、アリス氏を害する極悪スパイかなんかだと勘違いされてます?
…は、はあ~~~っ!?!?!?
あまりにも心外過ぎるんだが!?!?!?
「確かミアはヘリントン侯爵家のご令嬢の専属メイドをしているんだったね。」
ぐっ…!な、何故それを!?
「これはヘリントン侯爵家から命じられていた、と考えていいのかな?」
ち、違うんだ!いや違くはないかもしれないけどそうじゃないんだっ!
確かに学園の情報を探るのはお嬢様からの指示ではあるんだけれど!でもお嬢様は学園の恋愛事情を聞いてキャッキャしたいだけだし、どちらかと言えば観察はアリス氏からの依頼なんだが!? だってキャラたちの好感度を伝えるには観察しなきゃ分からないでしょうよ!?
くぅっ…もうかくなる上はお嬢様の趣味をバラしてでもここは真実を告げるしか…っ!
「おや?何か言いたいことがあるみたいだね。」
う゛ぅっ…笑っているようで笑ってない目の笑顔が怖いよおっ!しかしアリス氏のせいで私ばかりか、お嬢様にまであらぬ疑いを掛けられるのは御免蒙るっ!
そして私は洗いざらいゲロった。
それはもうスッキリさっぱりまるっと全部ね。
い、いや、喋ったのはアリス氏の恋愛事情とかその辺だけだから!お嬢様のことはほんのちょこっとしか話してないからっ!ギリセーフだと信じたい。
とりあえずアリス氏の普段の言動から予測される人物像に、誰を狙っていてどんな行動をしていたのか。ついでに先日の【ハッピークローバー】での買い物の様子までキッチリ伝えてやったぜ。そして私がしていたのは彼女が望んだサポート役であり、決して殿下や聖女様に対して害意を抱いて観察していたのではないということを熱く訴えておきました。
お前に人の心はないのかって?
いやいや、確かに私はサポート役ではあるけれど別にアリス氏の恋が成就することを願っている訳でもないので、己の進退が掛かっているのであればアリス氏を売り飛ばすことに何の躊躇もありませんとも。
うん、人徳って大事だね。
あとついでにお嬢様の趣味も暴露されてしまった件については大変申し訳なく思っています。でもお屋敷ではお嬢様の趣味はフルオープンにされていたので、許されると願いたい。
…し、しょうがないじゃないか!だったらみんなも本物の王族の圧を受けてみろよ!絶対に秒も持たないからなっ!
「アハハッ! キミそんな面白いことしてたの?恋愛のアドバイスだっけ?ねえ、私を落とす為のアドバイスは一体何だったのかな?」
「ちょっとジュリアン…」
「だって気になるじゃない? ふふ、大丈夫だよリーナ。私は君以外の誰にも落とされることはないよ。」
だから安心して?とカトリーナ嬢に微笑みかける殿下に、プイッと顔を背けながら「べ、別にそんなこと心配していませんわっ!」と耳を赤くしながら答えるカトリーナ嬢。
…ふぅん、ツンデレネコチャンじゃん。は?突然供給してくるじゃん。最高かよ。もっとくれ。
って言ってる場合か!
えぇと…、とりあえず誤解は解けたってコトでいい、んですよね?大丈夫だよね?
「とりあえずミアが侯爵家からの間謀ではないことは分かったよ。まあ王家としても〈聖女〉を害されてしまうのは困るからね。それにしても…」
「今回の聖女様は随分と多情な方のようですわね。」
「ふふっ どうやらそのようだね。キーランにティモシーも……どうやら心当たりがありそうだ。」
「……はい」
「……あ、あります」
二人とも顔が真っ青である。
でもそれは自分がアリス氏に誑かされそうになっていたから、という理由だけではなさそう。でも確かに、いくら〈聖女〉とはいえ平民の娘があろうことか王族にまで手を出そうとしていた(しかも別の男も同時進行)と知れば、そのあまりの強欲さにドン引きもするでしょうよ。さもありなん。
「今回の聖女様はイカれてんな~」
「しかし今はまだ実害が出ている訳でもないのがなんともね。元々素行調査はしていたけれど、さすがに複数の男に同時に懸想したからといって罪に問う訳にもいかないからね。」
「詐欺師としては訴えられそうな気もするけどな。」
「不愉快ですわ」
ジュリアン殿下の表情は変わらないけれど、他のメンバーは呆れたり嫌悪したりと様々である。
「それにしてもステータスを上げるアイテムか…、ちょっと気になるね。リーナとアルヴィナはそのお店のことは知ってる?」
「私は存じ上げませんわ。アルヴィナは 「さあ」ですわよね。」
「ふむ、そちらも少し調べてみようか。さて──」
どうやら私はお咎め無しで許されたようです。
まあアリス氏のサポートをしていたということで心証は悪くなってしまったけれど、「まあそんだけ性格か悪けりゃ、下手に逆らうよりも大人しく従ってた方が平民のあんたは無難だろうよ。」というテオドールの有難いお言葉のお陰で一命を取り止めました。ありがとう、ありがとう…っ!
と一旦落ち着いたところで、今日の所はこれで解散らしい。
何とか私とお嬢様の誤解は解けたようだけれど、今後はジュリアン殿下にもアリス氏の報告をせねばならないという事実に今から胃が痛いです。
でもお嬢様への娯楽の提供を止められなかったことには感謝申し上げたい所存。
◇◇◇◇
「アルヴィナはこの後どうしますの?」
「ミラージュ先生に頼まれたレポートの提出」
「またですの?いい加減あの教師にはアルヴィナを解放するように抗議しなければいけませんわね!」
「アルヴィナの使う魔法は特殊だからね。王家としては魔法学の発展の為にも二人には頑張ってもらいたいかな。」
「わかってますわ……でも最近はアルヴィナとお茶会をする時間も取れませんのよ?ミラージュ先生ばかりずるいですわ!」
「リーナは本当にアルヴィナと仲が良いね。でももう少し私にも構って欲しいな…?」
「なっ…!? し、仕方ありませんわね!それならこの後中庭を一緒に散策にして差しあげてもよろしくてよ!」
「ふふ、ありがたき幸せ。ではレディ、お手をどうぞ」
などとイチャコラしながら去って行く二人を見送り、他のメンバーもそれぞれ散って行きました。
正直ドッと疲れたので今すぐ部屋に戻って休みたい所ではあるけれど、私はそれをグッと堪えてアルヴィナ氏の後を追いかけることにした。
い、いや別に推しと二人きりで話して仲良くなりとかそういうんじゃないですし!?ただアルヴィナ氏も絶対前世持ちだと思うから、ちょっと探りを入れてみようかと思ってるだけですし!?
などと謎の言い訳を心の中で並べながら後を追っていると、前方で角を曲がる姿が見えたので見失わないように慌てて追いかける。
するとなんということでしょう──
角を曲がった先に既にアルヴィナ氏の姿はなく、慌てたところでポンと後ろから肩に乗せられたのは、それはそれは滑らかな白魚の手でございました。
「何か用」
「ミ°」
ば、ばれてーら……
「あ、あの私、メイナード様と二人でお話がしてみたくて…」
「なんで」
「なんでと言われますと…。えーっとその、あっ!あれです、この間『軟水』と『硬水』の話をされてたじゃないですか!?そ、それをもっと詳しく聞いてみたくて!」
「………」
「だ、ダメですかね…?」
「……こっちに来て」
「!」
美女に手招きされたら軽率について行っちゃう。いや私の方から追いかけていたので全然いいのだけれど。あっ髪の毛からすごいい匂いしゅるぅ…っ!
そして着いたのはどこかの資料室っぽい部屋である。どうやらあまり使われていない部屋らしく、本棚にはうっすらと埃が積もっていた。
「で?何が聞きたいの」
気怠そうに机に凭れながら問いかける姿がまたね、退廃的な色気っていうの?すごくドキドキします。ふえぇ…
…というかコレ、何て聞いたらいいんだろうか。どストレートに「前世の記憶ありますよね?」とか聞いておいて、もし違った場合私の立場が終わるのでは? アルヴィナ氏は王子陣営だし、ワンチャン危険思想の持ち主ってことで排除されたりしません?怖すぎるんだが???
「え、えと…メイナード様のその知識はどこで学ばれたものなんでしょうか?」
「聞いてどうするの」
「あ、そのお嬢様に!私がお仕えしている侯爵家のお嬢様にもぜひあの水で淹れたお茶を飲んで頂きたくて!」
「ふぅん」
「や、やっぱり硬水よりも軟水で淹れた方が美味しいですよね!香りだけじゃなくて色も透明感があって綺麗ですし、口当たりもまろやかになると言いますか何と言いますか…!」
ハッ!つい緊張と謎の高揚感で勢いよく話してしまった。ひ、引かれたりしてないかな…?えっヤダ推しに引かれてたらめっちゃショックなんですけど…。
くそっ、これだからオタクは!推しを前にするとすぐ暴走する。自重しなさいっ!(戒め)
我に返って恐る恐るアルヴィナ氏の顔を見てみると、目にハイライトはあまり入っていない(どちらかというと死んでいる、なんで?)けれど、傾げた首から流れるコーラルピンクの髪がまた美しくて思わず見惚れてしまった。
ふおぉ…っ!新規スチルありがとうございます!いっぱいちゅき♡
「ねえ」
やや低めの落ち着いたアルトの声が脳に染み渡る…
「私、硬水の話なんてしてないけど」
あ゛
「あー…なるほど?そういうこと」
「そ、そういうこと…とは?」
「……キミも持ってるんでしょ。
ここじゃない、別の世界の記憶」
■ミア'Sメモ
▪【アリス氏お茶会メンバー】
・男爵令嬢A…商会との繋ぎ狙い。 友好度20%
・子爵令嬢B…聖女の友人枠狙い。 友好度15%
・伯爵令嬢C…商会の利権と聖女の利用価値目的。家が落ち目。 友好度3%
ミア「誰か一人が抜けると一斉にそいつの悪口言い始めるの怖すぎるンゴ…」




