八冊目
「ちょっとマジでありえないんだけどっ!!!」
あー……やっぱそうなりますよねぇ。
アリス氏の怒り狂ったキンキン声が部屋に響く中、こっそりとタメ息を吐く。
「てゆーかアシェル説得下手すぎでしょっ!生徒会の書記はあたしなんですけど! ?本当マジで何なの?バグ? てゆーかそもそもあたしに声が掛からない時点で既におかしいだろっ!もお~~っこれじゃジュリアンの攻略が進められないじゃんっっ!!」 ──ダンッッ!
ヒィ、恐すぎるっぴ…
怒れるアリス氏の視界から逃れるべく部屋の隅っこで気配を消す私。というか、ジュリアンルートまだ諦めてなかったんかい。てっきりアシェルルートで確定したものかと…。
でもなあ、正直ジュリアンルートを進めるのであれば生徒会に入れないっていうのは結構な痛手なんだよなあ。生徒会でのイベントって割とあったし。
とはいえアリス氏が生徒会メンバーに選ばれなかったのはアリス氏のせいであって、どう考えても自業自得なので断じて私のせいではないということをここに主張していきたい。だって私ちゃんとアドバイスしてましたしぃ!
とはいえ一応はまだ頑張れば挽回出来る可能性もゼロではない。 ゼロではね。
なんてことをツラツラ考えていると、
「ちょっとミア!あんた聞いてんのっ!?」
「ヒェッ」
「なんかアドバイスとかないワケ!?それがあんたの仕事でしょっ!!」
「は、はいぃ……っ!」
ふえぇ…肩に爪が食い込んでるよお。
結局あの後アルヴィナ氏とはお話出来なかったし、現在はこうしてアリス氏から脅迫めいたアドバイスの強要を迫られている私、かわいそすぎません???
でもアドバイスしちゃう。
だって私サポート役なんだもの…
というか何かこれアレですね。前世で仕事を無茶振りされて、ムカつくけど中途半端はもっと嫌だからって結局最後までキッチリこなして自分で自分の首を締めてしまうアレに似ている。
ヤダ…、これが前世からの社畜の業…ってコト!? つらぁ。
まあ気を取り直して、
アリス氏がここからジュリアンルートを巻き返すのは正直かなり厳しい。ならばどうするのか?
そう、答えは『金の力』である。
乙女ゲームらしからぬと言うなかれ。ある意味これもまた世の真理である。
◇◇◇◇
【ハッピークローバー】
これは〈キミ学〉に出てくるアイテムショップであり、もちろんこの世界にも存在している。
このお店は名前のように可愛らしいアクセサリーや雑貨、ちょっとしたお菓子なんかを取り扱っている巷で女子に人気のお店である。
商品のラインナップとしては、【魅力UPのネックレス】や【集中力UPのイヤリング】、【体力UPのバングル】なんかが人気で、あとは【運UPの髪飾り】なんかも売れ筋の商品らしい。
どのアクセサリーもゲームの中ではちゃんとその効果を発揮していたので、多分この世界でも期待はできると思う。
値段はそれなりにするんだけれど、しかしそこは大半の生徒が貴族階級である名門学園。普通に学生たちの間で流行っているから驚きだよね。
一応この世界では“よく効くおまじないグッズ”扱いである。そうだね、女子がみんな一度は試してみるやつだね。
あとはお店の一押しであるクローバー型の【ハッピークッキー】っていうのがあって、これは食べると一定時間ステータスの上昇値が上がるっていう効果が付いている。
これをイベントや授業の前に食べると、それに対応した数値が上がりやすくなるから便利なんだよね~。私はそんなに使わなかったけれど、効率重視の人たちなんかは必需品レベルだったんじゃないかな?
ただこれが現実となると、原材料に一体何を使っているのか一切不明な謎アイテムでもある。 えっ合法だよね?大丈夫だよね?
ま、まあとにかく、これらのアイテムを使えば攻略時間が短縮できて、ジュリアンルートの攻略をギリ巻き返せるかもしれないってワケですわ。
とはいえ買うには元手がいる。ゲームの中だと選択肢に冒険パートとかもあったから、基本はダンジョンの戦利品を売ったり冒険者になって依頼を受けてお金を稼ぐっていうのが一般的だったかな。ただお金稼ぎに精を出し過ぎると、キャラたちとの交流時間が減って好感度が上がりにくくなるからバランス調整が大変って感じ。
アリス氏は元々ジュリアン殿下やアシェルといった座学を中心とした勉強さえ頑張っていれば割と普通に攻略できる相手しか狙っていなかったから、特に教えてなかったんだよね。
まあその結果が今な訳なんですが…。
「はあっ!?そんな便利な店があるなら何で最初から言わなかったのよ!」
「す、すみませぇん…っ」
「チッ マジでありえないから。…ねぇサッサと案内してくんない?あたしも暇じゃないんだけど」
「えっ、で、でも、あの……結構お値段しますよ…?」
え、アリス氏って確か平民ですよね?お金あるの?さすがに貸すのは絶対嫌ですが???
「はあ?あんたバカにしてんの?そんなのお爺様に言えばすぐに出してくれるし」
「あ、そ、そうなんですね~…」
あ~そういえば前にアリス氏を調べようとしたときにお嬢様が言ってたかも。
定期報告で「こんなヤベェ奴がいるんですよ!」って送ったら、お嬢様がめちゃくちゃ調べてくれたんですよねえ。多分あの時のお嬢様は絶対手ぇ叩いて笑いながら報告書を読んでくれたと思う。ほら、お嬢様こういう話大好きだから…。
それでその報告書によると、アリス氏は【リグビー商会】っていう所の娘さんで、どうやら現在の会頭である母方の祖父がやり手で急成長させた商会らしい。
なんでもアリス氏の両親は実は二人ともいないらしく、今は叔父夫婦が彼女の面倒を見ているんだとか。そしてそれを不憫に思ったのか、末の娘であった母親を大層可愛がっていた会頭は、その娘であるアリス氏もそれはもう溺愛して甘やかしているんだそうな。
……うん、とても納得。
ついでに、その会頭様が近々貴族籍を買い取ろうとしている、なんて噂もあるらしいですヨ。つまりここにきて、『元平民の貴族の娘』が爆誕する可能性がワンチャン出てきたということでして。 …なるほどね?
まあ気になる情報ではあるんだけれどここは一旦置いておいて、とりあえずアリス氏は会頭というでかい財布があるので支払いの心配は無用、と。
ケッ!孫娘だからって甘やかすんじゃねーですよ!だからこんな性格がクソブスの娘が爆誕するんでしょーがっ!
なんて世の中の理不尽さに悪態を吐きつつも、私はアリス氏に引き摺られてお助けアイテムを買うべく街へと繰り出すのであった──。
・
・
・
「ふ~ん、とりあえずコレとコレと……あ、あとついでにソレも。あっそこのクッキーはあるだけ全部ね。あたし急いでるから早くしてよ」
うっっっっわ… (ドン引き)
えっアリス氏って思ってたよりもお金持ち?
いやにしてもさあ、後ろでクッキー買おうとキラキラした目で並んでる子たちが大勢いる中でよく買い占められるね?どんだけ毛深い心臓してるんだ。この後ろからの「は?何あいつ」視線に動じないとかマジか。
「沢山のお買い上げありがとうございます~。よろしければこちらお得意様にお渡ししているのでよろしければどうぞ~」
「ふぅん、何コレ」
「特別チケットです~。ではではまたのお越しをお待ちしております~」
あっ店員さんも別に注意したりとかはないんだ…。
まあ『お一人様○個まで』とか決められてた訳でもないし、売れ残るよりは例え一人が買い占めようが売れた方が良いに決まってますよね。うん。
にしたって大分感じ悪いけどなあっ!
「そ、そういえば先ほどは何を貰ってたんですか?」
「……は?あ、あぁ何か次買い物する時に安くなるヤツっぽい」
「あ、そうなんですね。お得でイイですね!」
「そーね」
ポイントカード的なやつかな。というかこの世界にもそんなものあるのか…。流石日本のゲームである。
◇◇◇◇
「ホーリーランス!!っ今ですカルロス殿!」
「ハアァァっっ!!」
ギイィ─────ッ!
「お二人とも怪我はっ!?」
「ふぅ、私は大丈夫です。」
「自分も大丈夫で──っつ、」
「っすぐに治療します!『聖なる光の精霊よ──』」
「あぁ、さすが聖女様です。まるで傷だけではなく心まで癒されるようだ…」
「そ、そんな…大袈裟ですっ! でも、そう言って頂けて嬉しいです…」
「ふふ、きっとアリスの優しい心根が魔法にも反映されているのでしょうね。」
「もうっアシェルくんったら!」
からかわないでっ!と照れてアシェルの腕に触れるその様子に、男性陣は慈愛と恋情の篭った瞳で少女を見つめるのであった。
──ここは所変わり、王都の片隅にあるとある建物。
【ハッピークローバー】から帰ってきた後、クッキーを食べアクセサリーを身に付けたアリス氏は早速ジュリアン殿下の元へ行こうとしていたんだけれど、どうやらアシェルとのイベントが発生したらしく、そのままこうして学園の外まで来ているのである。
ああ、ちなみにさっきのカルロスっていうのは一緒にいる神官騎士の名前ですね。
え、私は何をしているのかって?もちろん観察ですが何か?
とにかく、今はアシェルルートのストーリーで『どうやら教会の一部の人間が何やらきな臭い事をしているらしい』という情報を掴んだ一行がこうして噂の出所の建物に来ており、そこで人に擬態した魔物に襲われ、それを今ちょうど討伐したというところですね。
「それにしても街中に魔物が入り込んでいるとは。一体何故…」
「アシェル様、ここは一度教会へ戻り報告した方が良いのでは」
「………」
「アシェル様?」
「…いえ、そうですね。とりあえず一度教会へ戻りましょう。」
「うん、そうだねアシェルくん!」
これはネタバレになるんですけど、実はこれとある魔物が黒幕なんですよ。その魔物が自分の身体の一部を使って幻覚作用のある薬を作っていて、それでその薬を使って人々を洗脳して自分たちの思い通りにしようとしているって話なんですよね。
んでさっき襲ってきた魔物はその大元の魔物が作り出した眷属、みたいな感じかな。
そしてなんと教会の一部の聖職者たちが洗脳されちゃってるって訳なんですよね~。
この世界の教会って病院も兼ねてますからねえ。それなりに権力もあるし、色んな人たちが訪れるしで都合が良かったんだろうな~。まあファンタジー作品において教会の一部が腐るというのは割とよくある話ですからね。
そしてここからの展開はというと、実はさっきの戦闘で彼らは【アルラウンの根】というアイテムをゲットしている筈なんですよ。そのアイテムこそが正に薬の正体で、それに気付いた一行はまずステラを解毒しに行くんですよね。それで正気に戻したステラから教会で洗脳されている人たちの情報を入手するっていう流れ。
その後は街に散らばる手下の魔物たちを倒したり、情報集めしながらBOSSの弱体化アイテムを入手したりとかするってワケ。
ここで分岐となるのが【ステラを正気に戻すか戻さないか】の選択なんだけれど、これ実はどっちでも攻略は出来るんですよね。
ただ正気に戻さないと情報やアイテムが足りなくて、ボス戦の難易度がめちゃめちゃ上がるって感じ。
だったら素直に戻せばいいじゃないかって?
フフフ、甘いですぞ!
ここでステラを正気に戻すと、アシェルとの親密度が一気に上がっちゃうんだよね~。いやもうそれは本当にガッツリと。
つまり、
[ステラを戻す]→BOSSの討伐難易度Down↓、ステラとアシェルとの親密度UP↑。
[ステラを戻さない]→BOSSの討伐難易度UP↑、ステラとアシェルとの親密度変化無し。
っていう感じ。
さてアリス氏はどっちを選ぶのかね?
まあ言うてアリス氏のステータスってそこまで高くないからなあ。ここはステラを戻してボス戦の難易度下げておくのが無難かな。
◇◇◇◇
「アシェル…、助けてくれて本当にありがとうございます。あの、どうか、私にも何か手伝わせては頂けませんか? 私はいつだって、あなたの役に 立ちたいのです…」
微かに震える華奢な肩、伏せられた長い睫毛が滑らかな頬に影を落とす。
芯の強い女性だと思っていた彼女の弱った姿に、今度は己が守らねばと心に誓う。かつて彼女が与えてくれた温もりを、今度こそ誰にも奪わせたりはしない。
「ステラ…。元に戻って本当に良かった。でも私は、これ以上あなたが傷付く姿を見たくはないのです。どうかこのことは私に任せ、ここで待っていてくれませんか…?」
「でも!アシェル…私はっ」
「ステラ……お願いです」
「アシェル…」
そっと寄り添い抱き締めあう二人の姿は、まるでどこか神聖な絵画のようで──。
「はあ~~~!?ちょっと何なのあの女!マジでありえないんですけど!ウッッッザ!!」
だよね、知ってた。
いややけにあっさりステラを戻すなんだな~とは思ったんだよ。さてはあれだな、アリス氏ってサイトで攻略方法だけ見て面倒な部分は全部すっ飛ばした効率重視のプレイしかしないタイプか。たまにいるよね。まぁ楽しみ方は人それぞれなので別に問題はないんですけど。 でもこれワンチャンこの選択でステラとアシェルの親密度が上がるっていうのを知らなかった説ありません?
とはいえステラを戻さないルートはハードモードのBOSSとのバトルを楽しむ脳筋推奨ルートだからね。選ばなくて正解である。
確かにステラとアシェルの親密度は上がったけれど、別にアリス氏の好感度が下がった訳ではないので、そこは気にしなくても大丈夫なんですけどね。
いやあれか、アリス氏はそもそも自分の男が別の女といちゃついてるのが許せないタイプか。 ぽい~~~!!
う~ん、安定の心の狭さ。
そこは別に大目に見てやれよと思わないでもないんだけれど。だってステラってアシェルにとってはお姉ちゃんみたいな存在だし。ほら、教会に引き取られて家族から離された寂しさを埋めてくれた存在ってやつですよ! はあ~エモ。
まあだからさ、とりあえずアリス氏はその人を呪い殺しそうな顔を先ずはどうにかした方がいいと思うな、私は。
───カランカラン
「──おや、お客様はこの間の。んふふ、お待ちしてましたよ~。さあどうぞ店の奥までいらして下さいな」
…パタン。
■ミア'Sメモ
══ハッピークローバー売れ筋ランキング!══
☆★☆第1位☆★☆
【ハートチャームのネックレス】
これであなたも人気者!?揺れるハートで気になるあの子の視線を釘付けにしちゃお☆《魅力UP》
☆★第2位★☆
【揺れる三日月型イヤリング】
真剣なあなたの横顔にあの子もドキッ!?素敵な魅力は内面からだよね☆《集中力UP》
☆第3位★
【輝く太陽のバングル】
キラメク汗と輝く笑顔は誰にも負けないっ!キミと一緒ならどこでも行けちゃうんだから☆《体力UP》
★第4位★
【煌めく星の髪飾り】
輝く星が願いを叶えてくれる☆彡この星の輝きがわたしを元気にしてくれるの!《運UP》
◇ たくさんお買い上げのお客様には特別なアイテムもあるよ☆いっぱい買ってもっと素敵なあなたになっちゃお♡ ◇




