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七冊目

「あ、あのっ…!今のってどうやったんですか!?」





そんな声を上げたのは、この王都でも老舗と呼ばれる大商会の跡取り息子であるティモシー・ハウエルくんでした。


「ぼ、僕今まで色んなお茶を飲んできましたけど、こんな香りが立ってて柔らかい味の紅茶って初めてで…っ!」


興奮した様子のティモシーは机から身を乗りだし、目をキラキラと輝かせながらほっぺを赤く染めて可愛いね。ちなアルヴィナ氏はとても迷惑そう。しかし他の面々も先程の魔法が気になるのか、止める素振りはない。


現に私の隣に居るタナーくんもとても気になるらしく、さっきから無表情ながらもめっっっちゃソワソワしている。おやつを待てさせられているわんちゃんかな?



「ふふ、どうやら皆興味津々みたいだね?」

「さすがアルヴィナね。今日もとても美味しいわ。」

「…どうも」



そんな周りを余所に、このお二人は優雅にティータイムを楽しんでいらっしゃるご様子。うーむ、泰然としておられる。


「で? アルヴィナ、教えてあげないの?」

「…別に教えなくても見たら大体分かるのでは?ただ魔法でやったというだけで、お茶を淹れる手順は何も変わりませんから」

「もう、それが普通は出来ないんじゃない。」

「ただの勉強不足では?」



「──ということだそうだよ?」




いやいやいや、

どういうことだってばよ。



おそらく目の前の3人以外の心は全員同じだっただろう。


だってそもそもアルヴィナ氏が先程やって見せたのはこうである。


①魔法で創った水の玉を浮かす

②水の玉を沸騰させる

③そこへ茶葉を入れてジャンピングさせる

④カップに注ぐ


以上。

いや何も分からないが???


まあ確かにこうしてみると普通に紅茶を淹れる手順と同じように見えるんだけれど、でも明らかに普通じゃない手順があったよね?こちとら①の時点で既に度肝を抜かれてるんですケド!?


というかこれ全部空中に浮かした状態でやってるんですわ。なんならアルヴィナ氏は指先をちょいちょいやってるくらいで、動いてすらいないっていうね。は?天才かよ。推すわ。



大体この世界の魔法って呪文を詠唱することでイメージが固まって威力が上がるっていう仕様だから、頑張れば無詠唱とかもできるらしいんだけれど、基本は呪文を唱えて攻撃魔法バーーン!みたいなのが普通。だからみんな「えっ魔法ってそんなこと出来るの!?」って感じでめちゃくちゃビックリしているんですよ。もちろん私もそう。



「メ、メイナード先輩の属性って何なんですか…?」

「水と風と光だよ。」

「ひ、光もですか!?凄い…」



ちなみに今答えたのはジュリアン殿下である。


当のアルヴィナ氏からは「何でお前が答えるんだ」とばかりに抗議の視線が飛んでいますが、ジュリアン殿下に気にする素振りは見えない。


というかアルヴィナ氏も光属性持ちなのか…、ますますヒロインっぽい…。



「もうジュリアンったら、あまり人の属性を無闇に話すべきではありませんわ。」

「ごめんごめん。まあでもアルヴィナには卒業後も世話になる予定だからね。早めに誰が後ろにいるのか知らせておいてあげないと。」

「……それもそうですわね。」



あ、あ~~!なるほどね!?

これはアルヴィナ氏はめちゃめちゃ有能だけど、もうウチのもんだからお前ら余計な手出しはするんじゃねぇぞ?ってアレね!? いや第二王子めっちゃ牽制してくるじゃん…。にこやかな微笑みが輪を掛けてこっっっわ!!


というかジュリアン殿下ってこんなキャラだったっけ?もっと人懐っこいわんこ系キャラだったような…。一体いつから爽やか系腹黒キャラに転向したんです…?




あの後渋々ながらもしてくれたアルヴィナ氏の説明によると、 



一つ、魔法とは己の魔力を各属性に変化させたものである


一つ、詠唱とはイメージと事象を同一化させる為のものである


一つ、魔法を強化するには各専門知識が必要不可欠である 



とのこと。


あー何となく分かるかも。あれでしょ、現代の物理法則やら科学知識だとかを持ってると魔法の威力が段違いに上がるやつ。なろう系小説とかだとよくあるパターンですよね。


え、じゃあ何でお前はやらなかったのかって?うるせぇっ!そもそもこちとら平民だから元々の魔力量が少ないんじゃいっ!態々言わせんなやチクショウっ!!



………ってあれ?



「なるほどな…。つまり火に風を送ればよく燃えるように、土から水を抜けば砂のようになる…といったような知識を持つことで、より効率良く魔法が使えるということか。」

「そうですね」

「しかしそうすると先程メイナード嬢が水を沸騰させたのはどういう原理なのだろうか。確かキミは火の属性は持っていないのだろう?」



現在はキーランがアルヴィナ氏を質問責めにしている。

キーランは軍人家系出身であるにも関わらず文官を目指しているというキャラで、そのせいで家族仲はちょっと微妙…というか普通に反対されている。

しかし己の信念を貫く為にストイックに努力し続ける、外見はクール系なのに中身は熱い漢なのである。ちなみにちょっと天然も入っている。


まあ言うて軍人家系出身ですんでね、中身はむしろ脳筋寄りまである。加えて天然。だがそれがいい。むしろそのギャップがたまらんのですよ。ムフフ。


おっと話が逸れた。


いや今一瞬『もしかしてアルヴィナ氏も前世持ち!?』って思ったんだけれど、でもキーランとの話し合いを見てるとそうでも無さげ…?

流石に魔法のある世界とはいえ、多少の自然科学は研究されていたということか。



「ふむ、つまり使用する水にも拘りがあると。」

「別に、普通に軟水で淹れてるだけだけど」

「軟水?」

「あー…、クセの少ない水?」

「クセ、とは?」

「確かカルシウムとかマグネシウムだっけ…?が少ないやつ」

「カルシウム、とは?」

「あー…骨?」

「骨?骨を水に入れるのか?」

「は?いれないけど」

「?????」




──いや絶対転生者じゃん!?!?

アルヴィナ氏絶対前世の知識あるでしょ!?!?!?


だって『()()』て!

この世界で聞いたことないよ!


……っああそうか!ここは中世()()()()()風の世界だもんね!

そしたら水は大体『()()』になるよね!?なるほどそういうこと!?!?



と私の心が突然のブッ込みに嵐の如く荒ぶっている中、どうやらキーランには上手く伝わらなかったらしく(そりゃそうだ)、アルヴィナ氏は説明を投げ捨てた模様。


徐にカップを2つ用意して、「これで飲み比べでもしてみたら」と雑にキーランに渡していた。

おそらく中身は『軟水』と『硬水』が入っていると思われる。え、なにそれ私もやりたい。


というかアルヴィナ氏とちょっと二人っきりでお話がしたいんですが。え、ダメ?ダメです?そこを何とかっ!


だって絶対転生者ですよね!? というかアルヴィナ氏は〈キミ学〉の知識ってどれくらいあるんだろう…。誰か狙ってたりするんだろうか?え、絶対サポートしたい。めっちゃ手助けしてあげたい。寧ろ頼られたい。



そしてあわよくば仲良くなりたい(強い願望)。



いやぁ合法的に推しに貢献できる世界、最高ですなあ!! これはサポート役としての腕がなりますわっっ!




◇◇◇◇




──コンコンコン



結局その場にいた全員で水の飲み比べをしながらキャッキャしていると、突然ノックの音が部屋に響いた。


タナーくんがスッと外を確認しジュリアン殿下に確認をとると、カチャリとドアが開かれる。



「突然の訪問申し訳ございません。ジュリアン第二王子殿下、いえ生徒会の皆様にご相談がございまして…」



そう言って部屋に入ってきたのは、アリス氏が絶賛攻略中である枢機卿の息子 アシェルだった。


「おや、これは珍しい。一体どうしたのかな?」


意外な人物の突然の訪問であっても、ジュリアン殿下のにこやかな笑顔に変わりはない。


まあこの世界の王家と教会は別に対立したりはしていないので、変に警戒する必要もないんだろうけれど。

ただ怪我や病気の治療の大部分を教会が担っているのというのもあって、その力は割と強いんだけれど王家は王家で物理的に(魔力量的にも)強いので、今のところどちらかに力が偏ることもなく上手く均衡がとれているのだとか何とか。


まあルートによっては教会が王家を捩じ伏せようとするルートもあるんだけれどね。


そんなことはさておき、アシェルは一体何を相談しに来たんだろうね?



「実は提案なのですが、生徒会メンバーにこの度《聖女》の称号を与えられたアリス嬢を加えられてみては如何かと思いまして。」



──おっとォ???



「おや、理由はなんだい?」


「ええ。アリス嬢は《聖女》と認められたとはいえまだ学生の身。私は幼い頃より教会で修練を積んできましたが、彼女にはまだ経験が足りません。そこで常に学園の為に尽力している生徒会の皆様と共に過ごすことができれば、それが彼女の修練の一助にもなり、また皆さまの助けにもなるのではないかと。」



………いや、それ別に生徒会じゃなくてもよくね?

というかそもそも生徒会関係なくね?


どうやらそう思ったのは私だけではなかったらしい。


「その《聖女》の修練の場が生徒会である必要性は特に感じないかな。」


いいぞ殿下、もっと言ってやってくれ。


「ですが《聖女》とはこの国にとっても必要不可欠な存在です。彼女が成長できるよう、安全な場を整え支えていくのもまた、この国の務めだとは思いませんか?」


「なるほどね…」



いやまあね?確かに腕のいいお医者様は大事だと思うよ?だからこそこの地位も実力もあるメンバーが揃っている生徒会なら安心して《聖女》を任せられるって言うのもまあ…ギリね?ギリ分かるような気がしなくもないけどさあ…


やっぱり生徒会しゃなくてもよくない???

というか、これ言い出したのって絶対アリス氏でしょ。アシェルが言い出したとは思えないんですけど。


そもそも心配なら教会側から護衛付けろ?というか光魔法の威力上げたいなら信仰力上げなきゃなんだから、滝行でもしとけ???



この生徒会という聖域(サンクチュアリ)を侵されまいとする私の心の中は大荒れである。こんなことを考えてしまう私は心が狭いのでしょうか…。いやこれはアリス氏の人間性のせいだな。うん、ワタシワルクナイ。



「あ、あの…っ!」



そして突如現れる(おそらく)諸悪の根源。



「あ、あたし《聖女》としてってだけじゃなくて、人としてもっと皆さんの役に立ちたいんです!」



バーンッ!と突然扉を開け放ったかと思いきや、一直線にジュリアン殿下の執務机の前まで進み、両手を組んで瞳をうるうるさせながら訴えるアリス氏。いや無作法すぎるのよ。



「もちろん《聖女》としての修練はちゃんとやります!でもそれだけじゃなくて!あたしには皆さんの…いえ、この学園の為にもっと何か出来ることがあると思うんです!」



肩を震わせながらも一心にジュリアン殿下を見つめ訴えるその姿は、相手の感情を揺さぶるには十分な姿だった。



「それにきっと、あたしが自由でいられるのはこの学生の間だけだと思うんです…。あっもちろん《聖女》が嫌だとかそういうことじゃないんです!《聖女》に選ばれたのはとっても誇らしいし、嬉しく思っています。 でもこの学生でいられる間に少しでもみんなと多くの思い出も作りたくて…。わ、わがままですよね…。でもみんなと一緒ならきっと素敵な思い出が沢山作れると思うんです…」



そう言ってどこか哀しげな笑顔で微笑むアリス氏は大変庇護欲を唆りそうですね。セリフも実にヒロインらしく、思わず頷いてあげたくなる愛らしさがあります。まぁ中身を知らなければ、ですけど。


現にチラリと周りを見渡してみれは、私調べにより好感度が70%を越えているであろうアシェルは頬を赤く染めて熱心にアリス氏を見つめていますな。

さらにそこそこ好感度のあるティモシーとキーランも、アリス氏の笑顔に見惚れているように見える。


そしてアリス氏が熱心に見つめるジュリアン殿下はと言うと──、



「残念だけど生徒会は学園運営の為の組織だからね。《聖女》の修練の場ではないし、思い出作りの為の活動でもないよ。」



あ~~っと流石ジュリアン殿下!いつもと何一つ変わらない笑顔ですぅ!そこに痺れる憧れるぅっ!!


一切の動揺もなく、バッサリと二人の提案を断りましたね。


あ、ちなみにカトリーナ嬢とアルヴィナ氏 (あとついでにタナーくん)は二人をゴミを見るような目で見つめていますね。「ンだこいつら邪魔くせぇ」と目が語っていますね、はい。


まあ確かに礼儀もなってなきゃ、言葉遣いもダメダメだもんなぁアリス氏。そりゃあ本物のお貴族様たちからしたら顰蹙ものですわ。


というか後から聞いた話なんですが、ああやって何だかんだと理由を付けては生徒会へ入ろうとする輩は割と多いそうです。なるほど慣れていらっしゃった。


そんなウンザリしていた所へ更なる追撃をかましてしまったと。間違いなくジュリアン殿下のアリス氏への好感度は下がったことでしょう。

しかしそこそこ好感度のあったティモシーとキーランは寧ろ上がったっぽいんですけどね。なんでや。



結局二人はその後も暫くウダウダ言ってはいたものの、最終的にはタナーくんの手によって無事につまみ出されていました。


にしてもあの反応を見るに、アルヴィナ氏もやっぱりアリス氏の存在って知らなかったんだよね?突然の乱入に嫌そうな顔はしていたけれど、それ以上は特に反応はしていなかったし。


まあアリス氏はジュリアン殿下しか見てなかったから気づいてなかったっぽいけれど…





ねえこれ二人がお互いの存在に気づいたら一体どうなっちゃうの~~!?!?


■ミア'Sメモ


▪【キーラン・レンフィールド

▼侯爵家四男(軍人家系)

▼属性:水、土、風


・紺色の髪、グレーの瞳にシルバーフレームの眼鏡。

・軍人家系の中一人だけ文官を目指しているので家族仲は微妙。

・本質は実のところ脳筋で頑固。隠れ天然枠でもある。



アリス氏への現在の好感度:25%



キーラン「真面目なのはいいことだ。」 ↑♡ ─ほわん

ミア「美人なのにバカワイイとか狙ってんのか?最高だわこんチクショウ」


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