十冊目
『キミも持ってるんでしょ。ここじゃない、別の世界の記憶』
こ、これは……そうだよね?
つまりそういうことですよね!?
やっぱりアルヴィナ氏も───!
「メイナード様もやっぱり前s「それ あんまり言わない方がいいよ」───え?」
そ、それとは?
えぇと前世のこと、だよね。
「〝記憶持ち〟っていうのはこの国では【精霊の囁き】って呼ばれる現象で、極稀にはあるらしいけどさすがに別の世界の記憶を持ってるなんてことないから。 あとここに“前世”っていう概念はないよ」
「は、 」
え、そうなの?
あ~…そっか。前世って日本では割と聞き馴染みがあるけれど、確か“輪廻転生”からくる概念だから仏教とかヒンドゥー教が由来な訳で…。つまりこの中世ヨーロッパをモデルにしているゲームということは、宗教的にはキリスト教の『人生は一度きりのものである』っていう死生観が反映されているってこと?
そもそもこの世界でいう〝記憶持ち〟というのは、何か見たり聞いたりしたときに〝デジャブを感じる〟といった程度のものらしく、それが【精霊の囁き】で教えて貰えたのだという解釈になっているのだとか。つまり、前の人生をそっくりそのまま覚えていることなんてないし、考えもしないのだろう。
なので前世を覚えている上にここではない別の世界の記憶を持っているというのは、それはもうえらいこっちゃだという訳ですわ。
つまり【精霊の囁き】なら、その知識を教えてくれたのはきっと精霊だよ。精霊に好かれてて良かったねで終わる話なんだけれど、別の世界の記憶を使ってあまりに突飛な行動をしたりなんかすると、危ない薬でもやっているかはたまた魔物憑きを疑われて捕まる可能性が高いんだとか。
その上下手に有用な知識を持っているなんてバレたら、誘拐・監禁なんて序の口で最悪拷問からの研究材料コースまっしぐらだそうな。何それ怖すぎるンゴ…。
「面倒なのに捕まりたくなかったら、あんまり言いふらさない方がいいんじゃない」
ア、アルヴィナ氏…っ!忠告がありがたすぎる…、やっぱりあんたが女神やでっ!!
だから最後にボソッと言った「こっちに迷惑かけられても面倒だし」っていう言葉は聞かなかったことにするネ!
あれ、でもそうするとアルヴィナ氏の方こそ大丈夫なんだろうか。軟水と硬水とかめちゃめちゃ前世の知識でしたが。
……いや大丈夫だったわ。既にジュリアン殿下というこの国で最上位の権力をお持ちの王族を味方につけてましたわ。 その上ジュリアン陣営にガッツリ周りを囲まれてましたね。鉄壁ガードすぎる。さすヴィナ。
「き、気をつけましゅ…。あ、ところでなんですけどアルヴィナ氏って〈キミ学〉って知ってたりします?」
色々とキャパオーバーで思わず素の喋り方が出てしまったけれど、アルヴィナ氏は普通にスルーしてくれました。うぅ…優しさが沁みる。優しさだよね?
「何それ」
「あっやっぱりそうですよね。いや実はこの世界って──」
危うく研究材料になりかけた私としては、貴重な情報を教えてくれたアルヴィナ氏にせめてものお礼がしたい。
そんな気持ちから、ならば次は自分の番だと私はアルヴィナ氏に〈キミ学〉についての説明をするのであった。尚その中にアリス氏への愚痴が多分に含まれていたのはご愛敬である。
◇◇◇◇
「それってそのヒロインとかサポートキャラは転生者っていう設定だったの?」
「え?いやそんな設定は無かったですけど、」
「なら同じじゃないでしょ」
「た、確かに?えぇ…でも、」
「…なら此処はパラレルワールドとか平行世界的なやつなんじゃないの。知らないけど」
「な、なるほど……?」
アルヴィナ氏に〈キミ学〉についての説明を粗方終えるとそんなお言葉を頂きました。なるほど平行世界。
でも言われてみれば確かに平行世界と言われた方がしっくりくるような気もする。だって元となる世界観やキャラ設定なんかは確かに同じなんだけれど、所々で違和感というか、イレギュラーがあって完全に同じとは言い切れなくなっている気がする。
というかそもそも〈キミ学〉にヒロイン候補が二人いる時点で既に大分おかしいからなあ。それにこの間のお茶会みたいに私が知らないイベントが発生したりなんかもしているし…。
う~ん、流石現役Sクラスのアルヴィナ氏。頭いいな。
「そもそも元がゲームの世界だったとしても、別にその通りに動く必要なんてないでしょ」
「え、そうかな…?」
「逆に何で態々キャラクターの真似事なんてしてるのか意味がわからない」
「えぇ…?」
「無意味」
「そこまで言う???」
なんてやり取りを続けていると、ガチャリと部屋の扉が開いて入り口からこの国では珍しい褐色肌の青年が入ってきた。
ん?
んんん????
あれ、この人どっかで───?
「ぅえ゛っっっ!?」
…ってこの人あれじゃん!あのヴァルハルトじゃん!?
えっなんでココに居るの!?!?
「……何だお前。ここでヴィーと二人で何してる」
は?いやそれはコッチのセリフですが???
ねぇ、マジでなんでヴァルハルトがココに居るの…?
───説明しようっ!
何故私がこんなに驚いているのかと言うと、この【ヴァルハルト・ユドゥロ】というキャラはヒロインの幼馴染み枠であり、ヒロインよりも2歳年上で普段は冒険者として活動している という設定の男なのである!
そう、〝冒険者〟
つまりこの学園の中で見掛ける筈はないのだ!しかし今目の前には学園の制服を着たヴァルハルトの姿!なんでだ! あと2歳年上なら仮に通っていたとしてもとっくに卒業していないとおかしいのでは!?!?
ハァッ ハァッ
え、マジでなんなの?一旦説明挟んだのに何も分からないんですけど。
するとそんな私を見て何かを察してくれたのか、アルヴィナ氏がヴァルハルトを紹介してくれました。はい好き。
「これはヴァルハルト。一応幼馴染み。こっちはミア」
「ど、どうも…」
「……フン」
いや何か言えよ!
「…ヴィー早く行こう」
「え、ちょっとアルヴィナ氏はまd「ぁあ゛?」……ぴぇ」
ヒィン…ヴァルハルトってこんなキャラだったっけ?
いや一見無口でクールなキャラではあったけれど、同じ孤児院の仲間と一緒に冒険者パーティーを組んだり、そのリーダーとして仲間だけじゃなくて孤児院の人たちのことも大切にしているっていう実は情に厚いキャラだったはず…。
こんな誰にでも噛みつきそうな狂犬キャラじゃなかったと思うんですけど(震え声)
まあ何にせよヴァルハルトはどうやら戻りの遅いアルヴィナ氏を心配して迎えに来たらしい。生徒会メンバーたちが解散した辺りで既に迎えには来ていたらしいのだけれど、私とこの部屋に入って行った為外で待っていたが中々出てこないので突入してきたと。
いや、言うてまだ10分も経ってないが???
なんだこいつ私のこと不審者か何かだとでも思ってんのか。そうですね、その通りですね。自分の行いを振り返ると何も言い返せないですねチクショウっっ!!
そんな私の心の荒ぶりなど露知らず、アルヴィナ氏はヴァルハルトを放置したまま話しを続けていた。あ、いいんだ。
「で、サポート役だっけ?それいつまで続けるの」
「え?」
「別にやりたいなら止めないけど」
「い、いや、別にやりたい訳では…」
「じゃあ何でやってるの」
「…だって私はそういう役割だったし、サポート役ならヒロインを支えなきゃと…」
正直さっきから提案を無視されて拗ねたヴァルハルトがアルヴィナ氏をバックハグして頭をスリスリしてる状況にツッコミたくて仕方ないのだけれど、それをすると最悪(私が)鼻血を吹いて倒れる可能性があるので取り敢えず今は我慢する。
そもそもこのサポート役というのは、お嬢様からの依頼を達成するのに丁度良かったというのもあるけれど、一度やると決めたのであれば最後までやり遂げねばという前世からの社畜の業というか何というか…。強迫観念みたいなものがあったのは確かかもしれない。
だからアリス氏の性格が大分アレだと分かってからも、サポート役として日々お世話してきたんですよ。なのにアリス氏ときたら、それに感謝するどころかいつも無理難題ばっかり言い付けてきやがるんですよ! だからサポート役を続けていたとしても応援する気持ちなんて皆無ですわ!ケッ
「嫌なら断ればいいいじゃん」
「こ、断る……?」
「…何で断る発想が出てこないのかは知らないけど、前世じゃサポートAIだって無理な頼みは普通に断ってたじゃん」
──ガツンと頭を殴られたような衝撃だった。
〝断る〟という発想が一切無かった自分には悲しみを覚えるけれど、確かにそうだ。前世お世話になってたAIちゃんだって『申し訳ありませんが、そのリクエストにはお答えできません』って普通に断ってきてたじゃん! は!?べ、べべべ別に何をお願いしたとかは今は別に関係ないよね!?
た、確かにサポート役っていうのは支えるのが仕事なんだけれど、〝相手に絶対服従しなきゃいけない〟なんてことは無いに決まっている。え、もしかして私今までそんな状態になってたの?
…これが前世からの社畜の業ってワケね。こわぁ…
でもそっか。
既にイレギュラーばっかりの別に原作でも何でもないこの〈キミ学〉の世界で、私がアリス氏をサポートしなきゃならない理由なんて別にないのか。
そうだよ、私はこの〈キミ学〉の世界に転生したと気づいてからずっと【ミア】にならなきゃと思っていたけれど、別にそんなことをする必要なんてなかったんだ。
だってミアは転生者ではなかったし、今の私はミアのゲームでのセリフだけを喋っているわけでもない。これまでも充分別人だったのに、これからも別人の私が【ミア】を模倣していくなんて正に無意味でしかないじゃん。
私は ミア だけど【ミア】じゃない。
あー…なんか心がめちゃめちゃ軽くなった気がする。
もしかしなくとも私は、この【サポート役のミア】という役割が思いの外大きな心の負担になっていたのかもしれない。その事に気付かせてくれたアルヴィナ氏は、もはや私の女神と呼んでも過言ではないのではなかろうか。
うん、間違いない。
くぅ~~~っ 流石ヴィーナタソ私の女神っ!
そんな溢れる感動と共に抱きつこうとしたけれどヴィーナタソにはサッと避けられました。ウフフ、でもそんなところもちゅき♡
しかしヴィーナタソは自分で避けた訳ではなくて、実際はバックハグしていたヴァルハルトがクルリと体の向きを変えただけ。そしてチラリと横を見れば、こちらをものすごい顔で睨んでいるヴァルハルト。
はい、すみません。調子に乗りました。
うぅ…狂犬怖すぎワロタ。
◇◇◇◇
そんなこともありつつ日々は流れ───
ついに私たちは学園生活最後の年となる3年目を迎えました!ワードンドンパフパフ!
さて、まず皆さんが気になっているのはやはりクラス分けのことでしょう。
うんうん、やっぱりそうだよね。
それでは発表しよう!
さ~て今年度のクラス分けの結果はーーー?
デデンッ!
【Sクラス】 ジュリアン殿下、カトリーナ嬢、アルヴィナ氏、キーラン!
【Aクラス】タナーくん、アシェル、私!
【Bクラス】 テオドール、ヴァルハルト!
【Dクラス】 アリス氏!
以上っ!!
ぐぬぅっ!Sクラスになれなかった…っ!
うぅっ…アルヴィナ氏と一緒のクラスになりたかったよお。同じクラスでキャッキャウフフしたかったよお…っ!(号泣)
あぁ、あとアリス氏ね、奴はもうダメっすわ。
ステータスUPのアイテム手に入れたからって堕落の道を突っ走っている最中でしてね、何言っても聞きゃしねえ。
…まあその件については一旦置いておきまして。
それよりもこれまでの話で少し捕捉があるんですよ。
実はあの後わかったことなんだけれど──、
まず何でヴァルハルトが学園に通っているのかという点。
これはヴァルハルトが自ら望んだことらしく、アルヴィナ氏と一緒に学園へ通うために長年冒険者をしながらお金を貯めていたんですって。
ゲームでは孤児院の仲間たちとパーティーを組んでいたはずなんだけれど、実際はソロで活動していて、なので報酬も一人占めな分何とか学費を貯められたのだそう。
いやね、いくら報酬がいいとは言えソロでの活動はその分危険度も高い。それを乗り切るどころか、あの高額な学費を自力で貯めきってしまう所が大分頭おかしいよね。しかも、何故そこまでして学園に通おうとしていたのかですよ。なんとコレが聞いて驚くなかれ。
『は?そんなのヴィーと一緒にいるために決まってるだろ』
ですって!!
えっマジ!?そこって既にくっついてるの!?
ってなるよね。
そう、なんとこの二人、マジでデキてる。
既にトゥルーエンドを越えた何かになっているんですよ。聞いたときは顎が外れるかと思いました。
ちなみにアルヴィナ氏は「好きにすれば」とのこと。
あれ、これ本当にちゃんとくっついてるんだよね?ヴァルハルトからの一方通行じゃないよね?大丈夫?
何て思ったりもしたけれど、何気に二人は卒業後結婚予定だし、それを殿下も了承済みなのだと言う。マジかよ。
何だかんだこれからは自分の意思でアルヴィナ氏のサポートをする気マンマンだったのに(流石にいきなりサポート役を辞めるとアリス氏の反応が怖い)、すでにヒロインがゴールインしていた件について。展開が早すぎてついていけないよ…
一応〈キミ学〉のヴァルハルトルートでのトゥルーエンドって、二人で冒険者パーティーを組んで世界を旅するっていうエンドなんだけれど、この世界での二人は旅に出ることはなさそう。ちょっと嬉しい。
この辺はヴァルハルトルートで明かされることなんだけれど、実はヴァルハルトって獣人と人族のハーフなんですよね。いや獣人なんておったんかい!というツッコミはとりあえず置いておいて、まぁなので己のルーツを探る旅にヒロインが同行するという流れである。
しかし現実はヴァルハルトは冒険者を続けるけれど、アルヴィナ氏は卒業後は王宮で働くことが決まっているらしいので同行することはない。そしてアルヴィナ氏にベタ惚れであるヴァルハルトがアルヴィナ氏から離れる訳もなく、こちらも旅に出ることはない。
……いやマジで、この世界って本当にただ〈キミ学〉と似た世界ってだけなんだなぁって。
これ、アリス氏ってこの先一体 どうなるんだろうね。
■ミア'Sメモ
▪【ヴァルハルト・ユドゥロ】
▼ヒロインの幼馴染み
▼獣人国 狼族族長の息子、獣人族と人族のハーフ
▼属性:土、風、闇
・シルバーアッシュの髪に琥珀色の瞳、褐色肌。
・元々愛情深い性質だったが、その愛情が孤児院の仲間に分散されることなくアルヴィナに一点集中したため、アルヴィナに対しての執着心がどえらいことになっている。
現在のアリス氏への好感度:─── ※存在を認識していないため計測不能
ミア「いや私のアルヴィナ氏への愛だって負けてないg、アッいや嘘ですすみません調子乗りました唸らないで…っ!」




