十一冊目
さて学園も3年目となれば、ゲームもラストスパートといった感じでイベントも目白押しとなる。
それぞれのルートでのストーリーも最終局面になるし、3年目といえば学園の卒業試験でもあるみんな大好き《ダンジョン攻略》のイベントもあるんだよねぇ。
ダンジョン攻略はな~。まあゲーム的にはこの時点で好感度は大体足りているから、どちらかと言えばキャラの深堀だとかスチル集めの意味合いの方が大きいんだよね。 ぶっちゃけこの試験はダンジョンを攻略するのが目的なんじゃなくて、“三日間をダンジョンの中で過ごす”っていうのが目的の試験だからね。そりゃあ夜の野営でイチャこらしたり、モンスターの攻撃から庇ってもらってキャッ♡なんて展開だってあるわけですよ。ムフフ。
でもこの世界の現実的に言うと、この試験は『みんなの絆を深めましょう』なイベントじゃなくて、『戦いへの心構えをしておきましょう』なんですよねえ。
貴族とか優秀な平民、つまりこの学園に通う生徒たちは将来的に領地だとか国を守る為に戦う可能性が高いんですよ。とは言っても戦争とかそういうのではなくて、ほら、この世界って魔物がいるじゃない?それが街を襲ってきたりなんかした時に、力のある人たちは先頭に立って戦わなきゃなんですよ。
とはいえ人には向きも不向きもある。
だからこの《ダンジョン攻略》の中で、自分に合った戦い方を見つけましょうねということらしいですよ。そりゃ将来は文官になって戦闘の場には出ないような人もいるだろうけれど、まあ後方支援とか人脈作りだって立派な戦い方の一つだしね。最低限場馴れはしておきなさいよという所なんだと思う。あとチームでの連携の練習とかかな。
とまあそんな感じで現実は現実で忙しいけれど、ゲーム攻略的にはステータス上げや好感度上げが大体終わっている分ゆったりとイベントを楽しめるってワケですわ。
……但しこれは、あくまで攻略対象を一人に絞っていた場合、という注釈が付くんですケドネ。
◇◇◇◇
「あ~やっとアシェルのイベント終わった~~!てかこのアクセとクッキーマジで有能すぎw これならミアももっと早く教えとけっつーの。てかやっぱアシェルの最後のセリフはマっっジで良かったよね~!もうキュンキュンしすぎてヤバいんだけどw あとは~最近ようやくジュリアンの好感度も上がってきたし、卒業までに絶対落とさなきゃだから………ヤバ めっちゃ忙しいじゃん!あ~もうバグのせいでずっと上手くいかなかったのマジ最悪。本当運営、ってかこの世界の神?マジでクソなんだけど」
…いやクソなのはおm、ン゛ンッ!
あ、あ~アリス氏ってばまだジュリアン殿下のこと諦めてなかったんだね!本当にしつこいね!
というか生徒会に入れなかったのはバグでも何でもなくて、ただ単純に入れる条件が“優秀な生徒であること”だったからなだけだと思うんですよね。寧ろ当然の帰結でしかないというか…。
あとついでに多分なんですけど、好感度が上がらなかった理由ってバグでも何でもなく、ジュリアン殿下とカトリーナ嬢が実は既にトゥルーエンドを迎えていたからなのでは?と私は睨んでいるんですよ…。
おそらくなんですけど、私の予想ではアルヴィナ氏がカトリーナ嬢とジュリアン殿下の蟠りを解いたのではないかと思われ。まあ果たしてアルヴィナ氏にそのつもりがあったのかどうかは定かではないんですが。
──聞いて下さいよ!
だってあの3人の関係性が、どう考えてもカトリーナ嬢とヒロインの親友ルートからのジュリアンとの友情エンドそのまんまなんですもんっっ!!
マジでどうなってんだ!
ヴァルハルトといい、ジュリアン殿下といいアルヴィナ氏の攻略スピードが早すぎるよっ!全然サポートできない!!(床ダン)
だがそれがいい。いやむしろそこがいい! そんなアルヴィナ氏に惚れる痺れる憧れますうぅっ!!
はぁ~~やっぱうちの女神しか勝ちませんわ。
…ってちょっと待って?
今アリス氏、アシェルルートクリアしたって言ってませんでした?
お、おぉ……マジか。
いや別にいいよ?いいんだけどさー…
まあ別に折角の生スチルを見逃したのが残念だとかそんなことは全く全然これっぽっちも…、これっ ぽっちも……
チックショウッ!見逃したっっ!!
クソッ やらかした…っ!
いや別にこれはアリス氏をサポートしたかったとかそういうことではなくてですね。ただ単純に生スチルを見逃したという事実が私のコンプ魂というかオタク心をですね………ハァ まあいいか。
とりあえずアリス氏がアシェルルートを完走したということは、これでジュリアン殿下が攻略できなかったとしてもアシェルのトゥルーエンドには行ける、ということになるのかな?
いやまあ確実にジュリアン殿下は無理だとは思いますケドネ。
最近分かってきたんだけれど、あの人あんなに人懐っこそうな笑顔しておきながら実はかなりの腹黒っぽいんですよね。笑顔の下で結構えげつない策略とか巡らせてそうというか何と言うか…。いやでも王族だもんな、そりゃ一筋縄ではいきませんか…ハハッ。
あ~でもそれにしてもアシェルのトゥルーエンドかあ~…。
あれもねえ……イイんだよねぇ!
アシェルルートのストーリーは前に大まかには話していたと思うんだけれど、ステラが洗脳されてその原因が魔物を素にした薬だったっていうヤツね。
まあ最終的にはBOSSである大元の魔物を倒してクリアになるんだけれど、でもその原因の魔物がいなくなったとはいえ薬の影響がすぐに消えて無くなる訳ではないんですよ。だからアシェルとヒロインはそんな苦しむ人たちや困っている人たちを癒すために、卒業後は二人で“巡礼の旅”に出ようっていう約束をするっていうラストなんですよ!
いやぁこれのどこが良いって、やっぱりアシェルの最後のシーンのセリフがね!もう最高なんですわ!
教会のステンドグラスから光が降り注ぐ中、アシェルがヒロインの手を取りながら跪いてこう言うんですよ。
『○○、貴女は私に新しい道を示してくれました。私は、この街だけではなく世界中で苦しむ人たちをこの手で救いたい。でもそれは私一人ではできないのです。…情けない男とお思いでしょうか。ですが、私はもう貴女がいなければ息の仕方さえもわからないのです…。 お願いです○○。どうか、どうか、私と一緒に来てくれませんか…?これから先も あなたと共にいる権利を私にくださいませんか…?』
そう言ってヒロインの手のひらにちゅーするんですよねえっ!!
かぁ~~~っ!!最高かよっ!?!?
だってみなさん知ってます?手のひらへのちゅーって〝懇願〟って意味があるんですよ!!
この世界では〈聖人〉として認められてて、めちゃめちゃ偉い人な上に普段はどこか浮世離れした雰囲気を持つあのアシェルがですよ! 跪いて懇願するほどヒロインを望んでるってさあ!しかもこのときのスチル、ちょっとアシェルが涙目で捨てられた仔犬みたいな顔してるんだぜ!? そんなのもうっもうっ…!
きゅうぅぅ~~~~ん♡♡♡!!!
ってなるに決まってるんだよなあっ!!!!
あ゛~~~母性本能が止まらん…。よちよちしてぇ~~!!
ん?でも待てよ。
アリス氏が「アシェルルート終わった~!」って言ってたってことは、あのアシェルのセリフにYESで答えたってことだよね。
え…、あの女その上でこの後ジュリアンの攻略しようとしてるんです…?
ちょ、おまっ あのイベントの後でよくそんな真似ができるな!? さては貴様 †心を失いし者† か…っ!
うわぁ… 現実をゲームだと思って生きるのってマジでろくなことにならないんだなぁ。
わ、私も気をつけよう…。
◇◇◇◇
「ねえ聞きました?最近妙な病が流行っているんですって。」
「えぇ聞きましたわ。あぁ嫌だ、どうせまた市井から広がったのでしょう?」
「それに原因もまだよく分かっていないとか。」
「ああ。だから最近はアシェル様もお忙しくしていらっしゃいますのね。」
「ええ、なんでも教会のシスターにも同じ病に罹ってしまった方がいらっしゃるのですって。」
「まあ怖いわ。ですがそんなときこそ聖女様の出番ではなくて?」
「あの聖女様に病の治療なんて本当に出来るのかしら」
「あら、でもあの方は殿方の心を癒して差し上げるのはとてもお上手じゃない」
「フフッ!まるで商売女だわ」
「まあっ汚ならしいこと」
「仕方ありませんわ。だってあの方は確か市井出身だったでしょう?」
「あぁだからですのね。どうりで品がないと思ってましたわ」
「ええ、言葉遣いもマナーも見ていられませんもの」
「本当に」
「ねえ」
「ンフフ」「アハハ」
クスクス…キャラキャラ… と愉しそうに語らう優雅で華やかなご令嬢たち。
いやこンっっっっわ
ねえ知ってました?今の人たち、この間アリス氏と一緒にお茶会してた人たちなんですよ。君たちこの間は中良さそうにお喋りしてたじゃないか…っ!いや~やっぱり貴族令嬢だろうと女子って怖いネ。
いやそれよりも実は最近、さっきの令嬢たちの話題にも上がっていた謎の病…〝ある日突然眠ったまま起きなくなる〟っていう人が何人も出ているらしいんですよ。
その人たちは特に普段から病気を患っていたという訳でもなく、どの人も普通に健康体だったんだとか。
とはいえまだ被害はそこまで多くはなくて、今の所患者は増えてはいないから伝染病の可能性は低いだろうということで現状は様子見らしいですよ。
まぁなんでそれが学園で噂になっているのかというと、この病の症状が出た人が学園の生徒の中にも何人かいるんですよね。しかもどうやらこの症状、女子生徒にしか出ていないんだとか。
その上原因も何も分かっていないものだから、〈聖人〉であるアシェルがあちこち奔走しているのだそうなんですけど…。
実は、どうやらステラもこの病に罹患しているっぽいんですよねえ。
えっこんなイベントあったっけ?と思ったんですけど、流石にキャラのストーリー攻略後にこんな目立った事件はなかった、と思う。
でもアリス氏もマネーパワーでアクセやクッキーを大量に使った分、結構“巻き”で攻略を終わらせちゃったからなぁ。もしやその弊害か…?なんて思ったり思わなかったり。
というかアシェルからアリス氏に調査とか治療の協力依頼がきていたんだけれど、アリス氏「アシェルごめんなさい、今はあたしちょっと忙しくて…。でもステラならきっと大丈夫だよ!そのうち目を覚ますよ!」って言って普通に断ってましたからね。急募:人の心
まあ多分そのことがどこかから漏れて、みんな〈聖女〉とは?ってなっているんだと思うんですよね。それにアリス氏の素行の悪さというか、高位貴族のイケメンたちに媚を売りまくっているっていうのは、学園内では普通に有名な話だからなあ…。
う~~ん、自業自得!
◇◇◇◇
「そういえばもうすぐダンジョン攻略があるけれど、みんなはもうパーティーは組んだのかな?」
所変わりここは生徒会室。
謎の病の心配はあれど、学園は概ね平和である。
「アルヴィナはどうしますの?」
「まあ、ヴァルがうるさいし…」
「そうですわよね。」
やはりというか、アルヴィナ氏はヴァルハルトと組むらしい。カトリーナ嬢が「知ってた」と言わんばかりの表情になったところで、ジュリアン殿下がさらに続ける。
「まあアルヴィナはそうだろうね。というか二人で大丈夫なの?……いや大丈夫か」
「そういえばヴァルハルトはこの間、冒険者ランクがAに上がったと言っていましたわね。」
「えっ!?もしかしてそのヴァルハルトさんって〝影狼〟って呼ばれている、あのヴァルハルトさんですか!?」
「うん、そうだね。意外とこの学園の生徒だということは知られていないんだよね。」
ジュリアン殿下が苦笑しながら言うには、ヴァルハルトは剣術や戦闘系の授業には殆ど参加せずちょくちょく冒険者活動に出掛けている為、その実力が生徒たちの間で広まることが殆どないのだそうな。
……確かに学園でヴァルハルトの噂なんて聞いたことなかったもんなぁ。
どうりでその存在に気が付かなかった訳である。
「キーランたちはもう決まったのかい?」
「はい。自分は家から『この者たちと組むように』と通達が来ておりました。」
「ああ、君のご家族はまだ諦めていないのか。」
「…そのようです」
あーこれあれだ。軍人家系のレンフィールド侯爵家がキーランが文官の道へと進もうとするのを邪魔してちょっかい掛けてくるあれですわ。
まあこれも何だかんだヒロインと乗り越えて、最終的には侯爵家からも認められて終わるんですけどね。
あれ?でも今回はアルヴィナ氏もアリス氏も一緒にはダンジョン攻略へは行かないと思うんだけれど、果たしてどうなるんだろう…。私的にはキーランの文官を目指している割に脳筋なところとか全然好きなので、キーランにはぜひとも一人でも頑張って欲しい所存。
「タナーとミアはどうだい?」
「僕はまだ決まっておりません。」
「私もいくつかお誘いは頂いているのですが、まだ決めかねております。」
そう、実は私もパーティーのお誘いはいくつか受けているんですよ!でもどいつもこいつも「こいつに雑用押し付けたろ」という魂胆が透けて見えているので保留中である。ケッ、平民だからって足元見やがって!
「ならタナーは私たちと来るかい?」
「よろしいのですか?」
「ああ構わないよ。いいよね、リーナ。」
「私は構いませんわ。」
にこやかに答えるお二人だけれど、どこか含みを感じる笑顔である。
タナーくんもそう思ったのか、「ちなみに他にはどなたがいらっしゃるのでしょうか…」と恐る恐る尋ねている。
「ああ、メンバーは私とリーナ、それに私の護衛であるテオドール。それともう一人───────〝聖女殿〟だよ。」
「は?」
は?
……いや、マジ???
えっ、そこにアリス氏入ってきちゃうの!?
だ、大丈夫???ストレスで禿げたりしません?主にタナーくん。
う、うわあ…
が、頑張れタナーくん 私はキミの健闘を祈っているよ!




