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二冊目

「あ、あたしはアリスね。ヨロシク~」




そう言って手をヒラヒラさせながら挨拶を返されるも、「2次元が3次元になるとこんな感じになるんだ~。へーウケるw」と言って不躾にジロジロと眺めてくる視線に思わず顔が引き攣りそうになる。


そんなおそらくは私だけが気まずさを感じている中、彼女は何も気にせずペラペラと喋り続けている。


「てかミアが同室で本当良かった~。まあ正直いなくてもそんな問題はないと思うんだけど、たまに好感度が気になったときとか態々探しに行かないといけないとか正直ダルいじゃん? それにほらあたしって結構繊細なとこあるから、同室が知らない子だとたぶん音とか気になっちゃうと思うんだよね~」


「は、はあ……」


いや私も初対面なんだか?

というかこの子私のこと完全にNPCだと思ってません?私だってこの世界に生きる一人の人間なんですけど???



「あっそうだ!ねえミアってもうジュリアンに会った?」

「うぇっ!? い、いえ……」

「え~マジ?実はあたし入学式の前に会ったんだけど、あれはマジでヤバいよ。いや本当冗談抜きで!マジで超~~イケメンだった!」

「へ、へえ~…」


突然ガバリと顔を近づけられてギョッとするも、アリス氏はそんな私を気にすることなく喋り続けている。


「しかもしかも!あたしその時になんかガッツリ目が合っちゃったんだよね。いやあたしはさ?別にそこまで気になったわけじゃないんだけど、なんかむこうからめっちゃ見られてて! えっ何で?って思ったんだけど、さすがに聞けないじゃん?だからとりあえず笑って誤魔化したんだけど、マジでなんだったんだろう…。 ねえミアこれってなんでだと思う?」

「えと……た、たまたまでは?」

「え~確かにそうかもなんだけど、でもでも!マジでそういうのじゃなくて! いや私もたまたまかな?とは思ったんだよ?でも明らかにジュリアンあたしのこと見てたし、なんか目も全然逸らしてくれないの! しかも何かこう、うっとりっていうの?いや全然わかんないよ!わかんないんだけど、何かそんな感じで見つめられてマジ焦っちゃったんだよね。 もう本当なんだったんだろ…」

「えぁ、あ、うん……はい?」



(いや、これ何の話…???)



こいつテンション高いな…と思いながら聞いていたんですけど、これアレですね。会話してるように見せ掛けて、自分の求めてる答えしか聞いてくれないタイプのアレですわ。

いたわー。なんか既視感あると思ったけれど、前世の学校にも会社にもどっちにもいたわー。しかもこれ絶対「えー!?もしかしたらジュリアン王子ってアリスさんに一目惚れしちゃったんじゃないんですかあ!?」って言わせたいやつ~!絶対言いたくねえ~~!!



ちなみにジュリアンとは、あのオープニングシーンでアリス氏と見つめ合っていた青年のことである。


私は後ろ姿しか見えなかったんだけれど、ゲームでは金髪にターコイズブルーの瞳でタレ目がキュートな甘いマスクの美青年として描かれていた。この作品のメインヒーロー枠となる第二王子殿下である。

どうやら彼はこの現実の世界でもすこぶるイケメンらしい。というかもうね、彼は笑顔がかわいいんよ、笑顔が。私も何度キュンキュンさせられたことか。


あと当たり前だけれど第二王子殿下を呼び捨てにするのは不敬オブ不敬、正に不敬の極みである。アリス氏は悔い改めた方がいいよ、マジで。

 


ハァ……何かこの一瞬でどっと疲れたな。


アリス氏は喋るだけ喋って気が済んだのか、既に私には興味を失くして自分の髪型を手鏡でチェックしている。たぶんこの人マジで私のことちょっと便利なNPCくらいにしか思ってないな…。いや別にいいんだけどさ。


早くもこの同室生活に不安しかないんだが。

何度もタメ息を吐きそうになるのを何とか堪えつつ、荷物を片付けながらチラリと彼女を横目で窺ってみる。


フワフワのピンクブラウンの髪に、夏の空を思わせるスカイブルーの瞳。その大きな丸い瞳に、ちょこんとバランスよく配置された顔のパーツは前世のアイドル並かそれ以上にかわいいと思う。そのやや童顔な顔も、小柄で華奢な体躯もこれぞ正にヒロイン!といった感じで、間違いなく美少女ではある。※但し性格に難有り。


そんなことを考えていると、ふと頭の中に懐かしいゲーム画面が浮かんできた。


乙女ゲームはものにもよるけれど、没入感を高めるためにヒロインのビジュアルをハッキリと描かないものも結構ある。実際〈キミ学〉もそうだったし。とはいえ全く描かれていないというわけでもなくて、身体の一部やデフォルメされた3頭身のキャラクターなんかは度々登場していた。


なのでそんなデフォルメキャラから、ヒロインはこんな感じのビジュアルなんだろうな~と想像したりするのも楽しかったんだけれど。


既に若干の苦手フィルターが掛かっているからか、デフォルメキャラは髪の毛がピンクブラウンじゃなくてもっと明るいピンク色だったし、目の色も青というよりは紫に近かったし、それにそれに…と目敏く掃除のやり残し部分を指摘するお局様の如く粗を探してしまう私は心が狭いのでしょうか…。


なんか思ってたヒロインとちがう…という謎の虚無感に襲われている今現在。



──中身入りのヒロインってこんな感じなのかあ。



ちょっと、いやかなり残念に思いつつも、既に【サポート役のミア】として認知されてしまった以上関わらないという方が無理だろうな…とこれからは心を無にして本来のNPC役に徹することを心に決めました。


まあヒロインだけあってビジュはいいしな…。


生のスチルを見れるチャンスだと思えば、まだ何とか頑張れる気がする。うん。



そして私はそれを愚痴と共にお嬢様に逐一報告してやるんだ。きっとお嬢様なら手を叩いて喜んでくれるだろうし、もしかしたらボーナスだって出るかもしれない。そうとでも考えなければとてもではないけれど、やっていけそうにない。


うぅ…陰キャを陽キャと同じ部屋に閉じ込めるだなんて、マジでギルティなんだからな…っ!




◇◇◇◇




辛い現実に打ちのめされつつ、そういえば自分の役割でもある〈好感度の把握〉って一体どうやればいいんだろうとふと疑問が沸いてきた。


この世界には魔法があるし、実は私はそういった鑑定系の魔法でも持っていたりするんだろうか?とも思ったんだけれど、普通にそんなものは持っていませんでしたね。いやなんでだよ。


というかこの世界って、魔法と言っても治癒魔法とかを除けば基本は魔物を倒すための攻撃魔法しかないんですよね。よくラノベなんかで見る便利系の魔法なんてほとんど聞いたことがないレベル。 いや私が知らないだけでもしかしたら探せばあるのかもしれないですけれど。


そしてどんな魔法でも好きに使えるというわけではなくて、各々生まれ持った属性の魔法しか使うことは出来ないんですよ。大抵は2つか3つなんですけど、王族なんかは4属性持ってたりするらしいですよ。ヤバ。


あ、ちなみに私が持ってるのは風と火の属性です。

チャッカマンと扇風機の代わりくらいならなれるかな?という程度ですね。そうです、どうやら私に魔法の才能はなかったようです。…べ、別に泣いてないしっ!


…話が逸れた。


とにかく、平穏な学園ライフを送るためにもサポート役というNPCに徹するには、何とかして攻略キャラの好感度を調べなければならない。


さてどうするか…と思ったんだけれど、よく考えてみたら別にそこまで心配する必要はないかもしれない。

そもそも〈キミ学〉をガッツリやり込んだ私なら、攻略キャラのヒロインに対する話し方や発生するイベントでその時点での好感度をおおよその範囲で予測することが可能なんじゃないかと思うのだ。


……うん、いける。いけるよ!


まあその為にはヒロインであるアリス氏をストーカーの如く付け回す必要があるんですけれどね。ま、仕方ないよね、これは彼女が望んだことだからね!ワタシハワルクナイヨ!



さてここで一旦このゲームの流れを説明しておくと、まずこの〈キミ学〉では誰かのルートに入るにはただ相手の好感度を上げればいいというものではないんですよ。ルートに入る為には、それぞれの攻略キャラによって必要なパラメーターがあるのだ。


例えばメインヒーローである第二王子のジュリアンなら、まず彼は王族なので教養やマナーのパラメーターは外せない。それに学力もかなり必要になってくるし、逆にそれほど必要でないのは裁縫や料理なんかのパラメーターかな。


まあ王族と付き合うのであれば知性と品性があるのは大前提だよね、といった感じなのかもしれない。他にも必要な称号なんかもあったりするんだけれど、それはまあ追々ということで。


とりあえずこんな感じで、誰を攻略するのかによって必要なパラメーターというのは違ってくるのである。

なので最初の一年は好感度を上げるよりも、必要なパラメーターを上げておいた方が後々の攻略は楽になったりする。それにパラメーターを上げていれば自然と対象キャラとの接点も増えるし、何よりパラメーターが足りないとイベントが発生しなかったりするので注意が必要なんですよね。


そんなゲームシステムなので、〈キミ学〉に逆ハールートというものは存在しない。一応学園生活の3年間というタイムリミットがあるので、必要なパラメーターを育てるのに単純に時間が足りないのである。


〝攻略は計画的に〟という訳ですな。



はてさて、アリス氏は一体誰のルートを狙うんですかねえ。

できれば観察しやすいキャラがいいんだけどなあ。私侍女科の授業受けたいし、騎士キャラ狙いで剣術の授業とか一緒に受ける羽目になったりしたら最悪だからな…。




◇◇◇◇




なんて心配をしたりもしてたんですけど、どうやらその心配は必要無かったらしい。


そもそもアリス氏とはクラスが違ったので、彼女がどの授業を選択するのか分からなかったというのも理由の一つ。


え?別に部屋で予め聞いておけばよかっただろうって?いやいや、何で態々そこまでs……ン゛ンッ まあ聞きたいのは山々だったんですけど、そもそもアリス氏ってほとんど部屋に居ないから聞けなかったんですよ。…まあ案の定攻略キャラの所へ行っていたみたいなんですけど。


というかこの最初の時期って、発生するイベントは相手から話掛けられることで起きるやつが殆どだから、それ狙いでアリス氏が攻略キャラたちの周りをやたらとウロチョロしているっていうね。完全に不審人物です、はい。


ジュリアン殿下と一緒にいる護衛兼学友のテオドール(※騎士枠の攻略キャラ)にも明らかな警戒とまではいかなくとも、大分胡乱な目で見られている。お陰様で部屋に戻ってきたアリス氏の機嫌はすこぶる悪い。


たまにキャラたちの好感度を聞かれるけれど、普通に考えて0かマイナスに突入しそうな勢いである。でもそんなこと言ったらキレられそうで怖い。くっ、今こそ唸れ私の語彙力……っ!



あ、ちなみにだろうなとは思っていたんですけど、アリス氏の()()()()はジュリアン殿下だそうです。


──そう、一番がいるということは、二番も三番もいるということである。



う~~ん、強 欲 ☆



まあね、複数人キープしといて、一番狙いが無理そうなら別のキャラに行くのもまた一つの攻略方ではあるよね。でも現実でそれをやっちゃうのは大分マズイのではないかと私は思うんですけれども、そこのところどうですかね?大丈夫そ???


でもまあそこはアリス氏の人生ですからね。私は見守ることしかできないカナ!


でもとりあえず一応はサポキャラらしく、ジュリアン殿下を狙いたいのであれば、まずは学力を上げて教養とマナーを身に付けるようにとアドバイスはしておきました。うん、エライそ私。



ここでちょっと話は戻るんですけど、さっき私アリス氏とはクラスが違うって言ったじゃないですか。実はこの学園のクラス分けって成績で振り分けられてるんですよね。


1年の時は入学試験で、2年と3年は進級試験の結果でクラスが決まるんですよ。最上位がSクラスであとはA~Eの全6クラスの構成になっているので、SクラスとEクラスでは入学時点でかなり学力に差がある状態。

そして当然の如く、王族であるジュリアン殿下はSクラスなわけでして。



あ、ちなみに私はCクラスですね。

うんうん、結構頑張ったんじゃない?


…いや本当に頑張ったからね!?

いくら前世があるって言ったってそれは異世界の知識だし、この世界のことはサッパリだったところを3ヶ月で死ぬ気で覚えたんだからね!? これCクラスでもマジで凄いんだからね!?本当だからね!?信じてね!!



─フゥ。失礼、取り乱しました。

いやね、何か遠くの方で「前世持ちなら勉強とか余裕だろーがSクラスぐらいいけよ」っていう声が聞こえたような気がしてしまってついね…。


まぁでもそれを言うなら、それは勿論もう一人の転生者である彼女にもそれは適応される訳でして。


ではそんなアリス氏の気になるクラスはというと──、



()』クラス



なんですよね。



えっ やる気あります?

本当にジュリアン狙いなんですよね???


これさぁ、もしかしなくともアリス氏って結構おb………おっと。




ま、まあ攻略できるかどうかは別として誰を狙うかは彼女の自由ですし?


いやそれにしたって攻略キャラとか関係なく、王族の側におバカさんは置いてはおかないんじゃないですかねぇ…?


うーん、前途多難…


■ミア'Sメモ


▪【ジュリアン・アルフィ・エントミルズ】

▼エントミルズ王国 第二王子

▼メインヒーロー

▼属性:火、土、風、水


・金髪、ターコイズブルーの瞳、タレ目。

・基本は明るく爽やかな親しみやすい王子。兄である第一王子をとても尊敬している。

・〈キミ学〉では人気No.1のキャラ。



現在のアリス氏への好感度:0%


ミア「あのわんこみのある笑顔がたまらんのよな」



▪【テオドール・グレイブス】

▼ジュリアンの護衛兼学友

▼伯爵家三男

▼属性:火、土、水


・夕焼け色の髪、オレンジの瞳、日に焼けた肌。

・ジュリアンの乳兄弟として育ったのもあって仲が良い。

・明朗快活、ムードメーカータイプ



現在のアリス氏への好感度:0%


ミア「兄貴~って感じが最高。美味しいお肉とかあげたい」

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