一冊目
新シリーズです。
17話ほどの中編になる予定なので、お付き合い頂けたら幸いです。
「そうね、じゃあ先に学園に入学して様子を見てきてくれるかしら。」
よろしくね、ミア とそう言われてしまえば、私に残された返事は“はい”か“イエス”の二択しか存在しないってわけ jk。
◇◇◇◇
『王立ルミナス学園』
このエントミルズ王国では王族も通うことのある最も有名な学園であり、15才を迎えた国内の大半の貴族はこの学園に通うと言われている。なので生徒のほとんどは貴族なのだけれど、試験に合格さえすれば平民でも通うことは可能である。但し“かなり高額である学費を支払えれば”という注釈がつくため、実際のところは貴族と繋がりを持ちたい大商会の子供やかなり裕福な平民の子供が極少数入学するのが関の山と言ったところらしい。
中には学費を支払うのが厳しいという貴族家もあったりはするのだけれど、この学園の卒業生であるというのは一つのステータスであり、将来に割とガッツリ影響を及ぼしたりするので例えお金が無くとも『どうにかして嫡子だけでも通わせろ』というのがここ最近の主流なんだとか。
しかしそんなステータスとなる学園の入学試験の難易度が低いはずもなく、いくら親が通わせたくとも試験に受からなければ何の意味もない。なので貴族の親たちは必死になって幼少期から子供に教育を施すのである。
さて、そんな学園に通うようにと入学試験の僅か3ヶ月前に突如言い渡された私ですが、この度無事に合格通知が届いたそうです。
この3ヶ月の間睡眠時間を削りに削り死ぬ気で勉学に励んだ結果、目の下に立派なクマを飼う羽目になった私が、膝から崩れ落ち、滂沱の涙を流しながら昇天したことは致し方のないことだったと言えるでしょう。
「ミアなら合格すると思っていたわ、それじゃあよろしくね。あぁ、学費は侯爵家から出すから心配しなくて大丈夫よ。」
とは私がお仕えする侯爵家のお嬢様のお言葉である。
私はなぜかこの2才年下である彼女に気に入られ、今は彼女の専属メイドとして働いています。波打つ豊かな金の髪に鮮やかな青色の瞳を持つお嬢様は大層可愛いらしいのですが、仕草や振舞いには高位貴族に相応しい気位の高さもお持ちでございます。ですがその心根はとてもお優しく、それはもうお仕えし甲斐のある立派なお嬢様でございます。 「いや言うの遅すぎな?せめて一年前位には言っとけ?」なんて微塵も思っておりませんとも。ええ、はい。
ちなみになぜお嬢様がこんな無茶振りをしてきたのかと言うと、
このお嬢様ももちろん2年後には学園の試験を受けられます。しかしこの学園というものは正に縮小された貴族社会と言っても過言ではなく、学園内でも様々な派閥があり、下らない噂話から有益な情報、さらにはミスリードを誘う誤情報まで様々な情報と思惑が交錯しているのです。そんな中で生き抜くためには何が必要なのか。 学園とはただ勉学に励むだけではなく、そんな貴族社会でどう立ち回るのかという将来のシミュレーションも兼ねた重要施設なのであります。
故に入学する前から自分の手のものを使って学園内の情報、派閥、流行など様々な情報を事前に集めておくことは、情報戦を得意とする高位貴族にとっては当たり前のことだと言えるのでございます。
という建前の元、最近はまっている恋愛小説が学園ものだったが為に“実際の学園での恋愛模様とは一体どんなものかしら”と思い立ってしまったのがちょうど入学試験の3ヶ月前だった、というだけのことでございます。
そこで白羽の矢が立ったのが、容姿が周囲に埋もれやすく元々人間観察が趣味であり特技でもあった私という訳でして。そんなこんなで『お金は出してあげるから学園の色んな恋バナを集めてきてね☆』という指令が下されたのであります。
そんなお嬢様の専属メイドの一人である私の名前は【ミア】と申します。
元々侯爵家に使える従者の家系に生まれた、茶色の髪に茶色の瞳でやたらとでかい丸眼鏡をかけている、ただの平凡モブ娘でございます。
察している方もいらっしゃるかとは思いますが、実は私 転生者なんですよね。
まあよくある話ですよね、はい。
◇◇◇◇
さて、ここら辺で昔話の一つでもしておきましょうか。
まず前世を思い出すことになったのは、確か私が10才くらいのある出来事がキッカケでした…
その頃には既に見習いメイドとしてちょこまかと働いていた私は、仕事の合間に人間観察をするのが趣味でした。いや最初は早く仕事を覚える為に色んな人を観察していたというのが始まりだったんですけど、気がついたらいつの間にか人間観察自体が趣味になっちゃってたんですよね。不思議です。
そんな私はある日メイドの一人と屋敷の警備をしている騎士の一人が密会している現場に遭遇しました。人目につかない木陰でひっそりと、しかし情熱的に愛を交わす二人。そしてそんな二人を鼻息荒く見つめる私。
……え、ヤダ。改めて思い返すと10才の私、小娘のクセに趣味が終わりすぎじゃありません? 誰か嘘だと言ってよ…
ま、まあそれは置いておくとして、もっとよく見ようとした私は無意識の内にその時磨いていたテラスの欄干からジリジリと身を乗り出していたらしく、案の定そのままひっくり返って地面に頭をぶつけてブラックアウト。
掃除していたのが一階のテラスで本当に良かった。これが二階だったりしたら下手したら死んでいたかもしれません。覗き見しようとして落下死とか、死んでも死にきれない。末代までの恥である。
とまあそんな感じで頭に衝撃を受けたことで前世を思い出した私なんですが、両親に怪我の経緯を説明(覗いていたことは勿論伏せておいた)したことで、件のメイドが実は政敵のスパイだった上に屋敷の物を盗んで売り捌いていたことが判明したらしく、何故かその話を聞いたお嬢様が私を気に入って専属メイドにした。という過去があります。
怪我の功名なのか何なのか。
ちなみにパッと見はまるでお人形さんのようなお嬢様なんですが、実はかなり好奇心旺盛なお方だったりします。当時まだ8才だったというのに、私を使って下世話な話から下々の噂話までありとあらゆる情報を集めさせては報告させる、という新たな趣味を開花させていらっしゃいました。
そんなお嬢様は日々イキイキとしてとても楽しそうです。8才にして既に前世で近所に住んでいた噂好きのおばちゃんくらいには耳年増になってしまったんですが、果たしてこれは大丈夫なんでしょうか…?
え、私のせい? いやいやそんなまさか……ねえ?
ついでに前世の私はと言いますと、学生時代は共通の趣味を持つ友人たちと日々熱く語り合い、社会に出てからは仕事に追われながらも細々と趣味を楽しむというごく一般的な成人女性でした。
会社は別にブラックという訳ではなかったんですが、同じ部署だった人や後輩によく尻拭いや仕事を押し付けられ、心の中で常に怨嗟の声を撒き散らしていたような記憶がうっすらと残っています。ちなみにトラックに轢かれた記憶はないです。
そして今世の世界はというと…
まず私が働いている家が侯爵家であることからもわかるように、この国は身分制度のある王制国家となっています。そしてこの世界にはなんと魔法が存在する上に魔獣もいて、当然の如くそれを討伐する騎士やら冒険者たちがいます。そして街を見下ろせば目の前に広がる中世ヨーロッパ風の街並み。
──そう、正にここは剣と魔法の冒険の世界。
これぞ〝ザ・ファンタジー〟な世界なのである!!!!
OK何度も履修したやつですね、ワクワクが止まりません。
これはどう考えても何かしらのアニメかゲームの世界に転生したのでは?と思ってしまった私に罪はないはず。だって前世の記憶がある時点で既にアレですし、日本のサブカルに触れてきた人間ならば誰しも一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
と思ったはいいものの、『じゃあここは一体何の世界なの?』という問いに関しての答えは、実は長い所見つけられていませんでした。
──なぜ過去形なのか?
まぁそれは勿論その答えが見つかっちゃったから、なんですよねえ…。
今私の目の前では薄紅色の花弁が舞い散る中、一組の男女が見つめ合っている。
柔らかそうなピンクブラウンの髪を風に靡かせた少女が 落ちてくる花弁を手の平で受け止めてそっと微笑み、その光景に一人の青年が思わずといったように足を止めた。そしてふと顔を上げた少女と青年の視線がぶつかり──…
(あ、これキミ学のオープニングだわ)
そこでカチリと記憶が繋がった。
◇◇◇◇
前世で何だかんだとナンバリングが続いていた王道乙女ゲームの最新作【キミと織り成す輝き学園 ~season5】。略して〈キミ学〉。
元々は高校時代にドはまりしていたんだけれど、それ以降はやっていなくて大人になってたまたま駅で最新作の広告を見かけてつい懐かしくなって買っちゃったんだよねえ。
内容はシリーズを通して、中世ヨーロッパ風の剣あり魔法ありのファンタジーな世界を舞台にした学園恋愛シミュレーションゲームなんだけれど、出てくるキャラクターがどの子も魅力的でいいんだよね~。最新作も相変わらずどれもキュンキュンさせるストーリーで、仕事で渇ききった心を潤す良質な乙女ゲーでしたわ。高校生時代とはまた違う、社会人になったからこそ分かる感情や葛藤に苦悩、それらを全部含めた彼らの織り成すストーリーがまた眩しいのなんのって。あれは大人になってから久々にやり込んだゲームでしたね…。
そんなゲームのオープニングシーンを見て、ここが〈キミ学〉の世界だったと気づいてしまった訳なんですが、ついでにもう一つ気付いたことがありまして、
どうやら私、ヒロインに攻略対象の好感度やらアドバイスなんかを伝える所謂お助けキャラ、やたらとでかい眼鏡が特徴のサポートキャラクターの【ミア】だったみたいです。
いや、マ?
ある意味二度目の衝撃の事実発覚により暫くは呆然となっていた私なんですが…
よく考えたら別にこの乙女ゲーム、〈キミ学〉こと【キミと織り成す輝き学園】は別に死亡フラグとか国外追放、修道院で生涯幽閉とかのバッドエンドって一切ないんですよね。シリーズを通して、ただただヒロインと攻略キャラたちが織り成す恋愛模様をキュンキュンしながら見守るだけのライトなノベルゲームなのである。
便宜上バッドエンドと呼ばれているものも、単純に攻略キャラと結ばれないってだけでそもそも悪役令嬢だって存在しない。(※但しライバル令嬢はいる)
あ、な~んだ。じゃあ別に何も心配する必要なんてなくない?
むしろヒロインちゃんと攻略キャラたちのキャッキャウフフを間近で観察しても許されるのでは!? だって私サポートキャラですしおすし!
なぁんて思っていられたのは、割り振られた寮の自室の扉を開けるまででしたね。はい。
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「えっ……もしかしてあんたミア!?え、絶対ミアだよね!? やっっば、うそじゃんキャラデザまんまなんですけどw! てか眼鏡本当にデカすぎだから!意味わかんないしw ヤバいマジうけるんですけどwww」
扉を開けた先に居たのは、先程のオープニングシーンで見かけたピンクブラウンの髪の少女。
こちらを指差し、手を叩いて笑う姿にはどこか既視感がある。頭の片隅に浮かぶ前世で陰キャをバカにして笑う陽キャの姿……う゛っ 頭が…っ!
ハァ……このヒロイン、絶対に転生者ですやん。
しかも学校のカースト上位にいそうな陽キャタイプという、私とは相容れない存在の人ですやん。同室とかそれなんて無理ゲー。
あ~~~~正直全然関わりたくない。
もしやここは下手に素性を明かすよりも、サポート役の【ミア】に成りきってた方が精神衛生上安全、か……?
──『はじめまして、私はミアです!こう見えて結構情報通なんですよ。気になることがあったらなんでも聞いて下さいね!』──
ふと甦る【ミア】の初登場シーンでのあのセリフ。
そうして私はこのヒロインと同室であることに軽く絶望しつつも、ゲームの中の【ミア】と同じセリフを返したのであった。
…ハァ。既に先行きに不安しかない。
■ミア'Sメモ
▪【キミと織り成す輝き学園☆】 通称〈キミ学〉
中世ヨーロッパ風の世界を舞台とした、学生たちが織り成す魔法ありバトルありの学園恋愛シミュレーションゲーム。
▪【ミア】
▼主人公のサポートキャラ
▼侯爵家のメイド
▼属性:風、火
・茶色の髪、茶色の瞳。常におさげスタイルでやたらとでかい眼鏡を掛けている。
・前世ありの転生者。〈キミ学〉は全ルート攻略済み&スチルコンプ率100%。
※オープニング遭遇時
ミア「え?これからはムービーで生で見られる…ってコト!? 最高かよ」




