第一三一三話、過ぎ去りし嵐
味方機によって攻撃される。その立場に立たされた兵の心境は、なんともやりきれないものだった。
しかし地球艦隊の対空砲火は熾烈だった。何故なら、大半の艦艇が魔核で制御される無人艦であったからだ。
無人兵器に感情はない。識別が友軍のものであっても、制御艦から上空の航空機と飛来する誘導弾を迎撃せよと命じられれば、構わず攻撃したのである。
そしてそれは、緊急プロトコルで帝国側に制御された無人機も同じだった。友軍指定だった艦艇がすべて『敵』にひっくり返った結果、自機が発進した母艦であっても攻撃を行った。
最初の攻撃で、空母100隻前後が被弾、エセックス級空母の『レキシントン』『エンタープライズ』含め、英米独の空母と日本空母合わせて、80隻が沈没ないし戦闘不能な大被害を受けた。
さらに第二陣が、残る空母へ攻撃を開始。護衛空母を含めた約60隻が新たに被弾し、第一陣の攻撃で大破した艦艇にトドメが刺された。
護衛空母は装甲が薄く、ただの一発の直撃で一気に艦体を引き裂かれ、爆沈していった。
「どれくらい、残ったのか……?」
連合艦隊司令長官、小沢 治三郎中将は、混沌とした戦場を眺める。赤い艦腹をさらして沈んでいく艦があれば、どす黒い煙をもうもうと吐き出している大型艦――すでに元が何だったのかわからない――が漂っている。防空巡洋艦が12.7センチ高角砲を上空に撃ちながら、ダイブしてくる烈風やコルセアに弾幕を張る。
光の防御膜が開き、真っ正面から突っ込んだ無人烈風が爆発四散する。コルセアが5インチロケット弾を発射する。
それらは宇治型防空巡洋艦の艦上の高角砲や対空砲に着弾し火花を散らす。
上空は敵となった無人機だらけだった。こちらはエアカバーがない。転移離脱した機動艦隊に、転移で追尾してきた無人機に制空権を取られ、爆撃にさらされている。
転移で逃げることはできない。少なくとも、空母が残っている状態では。地球軍の空母艦載機には、転移離脱装置があって、母艦にセットされているので、空母が健在な限り、無人機は転移でどこまでも追尾してくるのである。
――いっそ空母を切り捨てて、離脱する手はある。
母艦ではない艦艇の転移離脱には、無人機は転移で追いかけられない。航空機の航続距離外に退避できれば、一応、敵を振り切ることは可能だ。
だが――
「空母がなくなった艦隊にどうしろというのだ……?」
皇帝旗艦『ヘーゲモニアー』に、水上艦隊は歯がたたなかった。それならば航空機で、という話ではなかったのか。
だがその肝心の航空機が、敵に支配されたことでそれも頓挫した。皇帝の超戦艦を葬ることはかなわず、それどころか逆に地球艦隊は空母とその航空機をも失うのだ。
「敵機、護衛部隊を攻撃!」
新たな報告が飛び込む。めぼしい空母を片付けたと判断したか、無人機は残る地球艦隊へその矛を向けてきた。
――誰も『敵機』に違和感をいだいていないのだな。
小沢は自嘲する。飛んできているのは、自分たちの空母が収容していた機で、まごうことなく味方のはずだった。
機銃の弾幕を高速で通過した陣風艦上戦闘機が、海面近くに下りて、秋月型駆逐艦に対してロケット弾と20ミリ光弾機銃を撃ち込む。反撃の30ミリ光弾機銃を浴びて、陣風がスピンしながら海面に叩きつけられる。
だが放たれたロケット弾は艦首の長10センチ砲を破壊し、艦橋を光弾機銃で蜂の巣にした。
「『霜月』被弾!」
防空駆逐艦が速度を維持したまま、しかし針路がズレていく。小沢はそれを見つめ、さらに大きな音にそちらへ注意を向けた。
敷島型航空戦艦――連合艦隊旗艦『出雲』と同型の航空戦艦が巨大な黒煙を噴き上げ爆沈したのだ。
「戦艦『宮妻』が爆発!」
第二艦隊に配備された航空戦艦群にも、敵弾が突き刺さる。伊藤 整一中将の旗艦『高千穂』の悲報はないので、まだ奮戦しているが、すでに何隻が火を噴き、そしてまた1隻が転覆した。
「『名栗』、沈没!」
空母を仕留めて、甘った対艦誘導弾を戦艦や巡洋艦に向けてきているのだろう。
その時、小沢は自分の迂闊さに気づき、思わず額を叩いた。くそ、何故もっと早く気づかなかった――
「旗艦より通信。機動艦隊残存艦は、ただちに転移で離脱せよ」
「長官!?」
草鹿 龍之介連合艦隊参謀長が目を剥いた。
「しかし、転移離脱しても、無人機は転移で追いかけてきますが――」
「すでに上の連中の母艦の大半が沈んだ」
小沢は冷めた声を発した。
「即時転移で追尾できる機体は、今、上を飛んでいる奴より少ない」
もうすでに転移で帰投できる空母は残っていない可能性すらある。
「さらに言えば、そいつらはもう投弾済みだ。このまま視界不良で状況も不透明な状態で戦うよりも転移で仕切り直したほうがマシだ。急げ!」
命令はただちに伝達された。必死の防空戦が続く中、個別転移できる艦はそれぞれ、できない艦は、日本海軍の秩父型転移巡洋艦がまとめて転移させた。
無人機の猛攻が続く中、地球艦隊は戦線を離脱する。誘導弾が虚しく海上をかき乱すが、攻撃対象が消えていき、攻撃隊の動きも緩慢になっていく。
そしてついに、海の上に地球艦は、船腹をさらす沈没艦か、船だったものの残骸が漂流する以外になくなった。
・ ・ ・
「――とまあ、転移しそこねてしまったな」
空母『海竜』、その艦橋にいた艦長の初芝 康藏大佐は何とも言えない顔で天井を見上げた。
「何隻、残っている? 航海長?」
「マ式ソナーによれば、9隻ですね」
「たった9隻か。間に合ったのがそれだけか」
軍帽を被り直す。海中航行が可能な潜水空母である『海竜』である。敵の空襲がある場合、転移でなければ潜航するのが、潜水型空母の対応だ。それで難を逃れた空母が、海竜のほか8隻だという。
「艦隊は転移で離脱したが、空母は我々だけしか残っておらんかもしれんな」
「艦長」
「とりあえず、潜水航行で離脱。連中も海の中では手出しできん。ゆっくり行くさ」
どのみち、こちらも浮上しないと転移できないのだから。




