第一三一二話、カタストロフ
無人機がおかしい。
攻撃隊が戻ってくるという話は、航空機を扱う空母を中心に、末端の整備員にまで伝えられた。
実際、誰かに命令されたわけではないが各空母の整備長や航空指揮官らは、格納庫で準備していた無人機に異常がないか調べさせた。
一部でささやかれている敵の細工であれば、それでわかるのではないか。それで調べてみるのだが、ただ外から見ただけでは何の反応を示さなかった。
が、ごく少数だが、実際にエンジンを動かすところまでやったところ、突然動き出したり、装填された実弾を発射する機が現れ、格納庫内で大騒ぎになった。駐機されている機が誘爆したりと、大惨事になる艦も現れた。
それらの第一報が連合艦隊旗艦にもたらされた時、事故なのか自動コアが乗っ取られたのかは不明で、ただ○○空母の格納庫で爆発、もしくは火災など、理由はわからないが、起きた事実だけの報告が相次いだ。
「これもまた異常事態か」
小沢 治三郎連合艦隊司令長官は呟いた。そして原因が無人機の暴走と明確な答えが出る前に、無人攻撃隊が地球艦隊に戻ってきた。
それらは明確に戦闘機動――攻撃隊形に広がり出した。ただ母艦に戻ってきたならあり得ない挙動だった。
この動きに、機動艦隊司令部は、無人機が敵の手にあると確信した。
「ただちに転移退避を……!」
「まだだ。攻撃させろ」
無駄撃ちを誘ってから転移離脱をさせるよう小沢は命じた。空振りをさせれば、たとえ空中にあっても以後の攻撃能力を失うことができる。
まもなく外周の護衛艦艇の高角砲の射程に、無人攻撃隊が到達する。そろそろ攻撃の頃合いだ。
有人型彩雲偵察機が、無人機の先鋒部隊から誘導弾を順次発射した報告が届く。護衛の航空戦艦や巡洋艦、駆逐艦からも投弾の通信が相次ぎ、小沢は頷いた。
「転移離脱、始め!」
地球艦隊は、誘導弾が殺到する中、順次転移を使用した。対艦誘導弾は目標を見失い、いずれ何もない海面にぶつかって自滅するだろう。
瞬間移動を行った小沢機動艦隊。多数の空母と護衛部隊もまた、被害を受ける前に誘導弾の魔の手から逃れた。
空を見上げれ、向かってきていた無人機の大群も誘導弾も見えない。
「ここにきて、無人機が使えなくなるとは」
危機を脱し、小沢が一息つくと、草鹿 龍之介連合艦隊参謀長は表情を崩すことなく言った。
「やはり敵に乗っ取られたと見るべき、なんでしょうな」
「攻撃をされたということは、そういうことなのだろう」
ムンドゥス帝国が何か仕掛けてきたと見て、間違いないだろう。
「無人機を操れるのなら、もっと早く使ってきてもおかしくないが……」
「これまではそういう事例はありませんでした」
草鹿も自身の記憶を辿る。
「この土壇場になって、なりふりを構っていられなくなった……というところでしょうか」
「まさに切り札というところか」
小沢は唸った。
「このタイミングなのも、本来は普段使いできるものではないのかもしれないな」
そう言ったところで、外が騒がしくなった。
「航空機、空母直上に出現!」
見張りの張り上げた声が緊迫感を生んだ。空母の真上に航空機、そう聞いて、草鹿はハッとした。
「そうか、転移離脱装置!」
地球側航空機には、被弾損傷、燃料切れなどに備えて、自分の母艦へ転移することで帰投できる転移装置が積まれている。
これによりパイロットの生存性の確保と共に、燃料をギリギリまで使っての作戦行動が可能になったのだが、それはつまり転移離脱した母艦のもとに、敵となった無人機が瞬時に追いつくことを意味する。
そして、無人機群の攻撃は始まった。
前を行く数百機は一発目の投弾をしてしまった。が数千の攻撃隊は、まだまだ対艦誘導弾を搭載している機が、ごまんといたのである。
「再度の転移離脱を――!」
「無駄だ! 対空戦闘!」
小沢は叫んだ。
「高角砲、一式障壁弾! 各種対空砲火、撃ち方始め! 敵は無人機だ。友軍の姿をしていても遠慮なく叩き落とせっ!」
「敵弾、空母に――!」
見張り員の絶叫。母艦の上空に現れた無人の流星改二艦上攻撃機、アヴェンジャー雷撃機、シーウルフ攻撃機が次々に対艦誘導弾を放った。
ようやく艦隊側から対空機銃、光弾砲が空へと打ち上げられはじめた時、初弾が空母に命中した。
「『大鶴』被弾!」
「『翔鶴』『瑞鶴』にも被弾!!」
第三艦隊の主力を形成していた主力空母が次々に爆発の炎を上げる。
「『飛龍』爆沈!」
「『翠鷹』被弾!』
「『蒼鷹』、艦体分断!」
「『隼鷹』爆発! 転覆!」
滝のように押し寄せる被害報告。小沢の顔はこれ以上ないほど真っ青だった。連合艦隊の主力空母群が、こうも簡単にやられていく。
「『紅鶴』より、我、操舵不能の信号!」
轟く轟音。また1隻空母が爆沈したのだ。
「『白鳳』轟沈!」
「各護衛艦艇、撃ち方始めました!」
一式障壁弾が炸裂し、飛び込んでくる誘導弾を爆発させて防ぐ。護衛の防空巡洋艦、駆逐艦も火山のごとく真っ赤になりながら激しい対空砲火を打ち上げるが、いささか遅かった。
小沢は臍を噛む。異世界帝国の空母群は、日本海軍の奇襲攻撃隊に先制され、一挙に壊滅を繰り返したが、その指揮官たちもこのような思いをしたのだろうか。
奇襲攻撃隊ではないが、母艦への帰還装置が奇しくも同様の奇襲を許すことになった。当然、地球艦隊にこの攻撃に対するマニュアルは存在していない。




