第一三一四話、同士撃ちの結果
小沢 治三郎長官指揮の空母機動艦隊が、無人機の反乱によって大打撃を被っている頃、都市戦艦と皇帝旗艦を追って位置移動を行った海氷飛行場群もまた災厄に見舞われていた。
こちらで起きたのも無人機による攻撃。空母機動艦隊と共同して放たれた攻撃隊が、裏切りによってその編隊を崩された。
こちらは小沢艦隊と違い、有人機がそれなりに含まれていた。
空母の発着艦という高難度の技能を習得するのは時間がかかるが、陸上基地航空隊は、ワイヤーをフックに引っかけて機体を無理やり停止させる技能を必要としない。海氷飛行場の滑走路の広さがあれば問題ないゆえ、空母搭乗員に比べれば人材にも余裕があったのだ。
しかし、長い戦争で人材の不足というのはあって、複数人乗りの爆撃機も、自動コアによるサポートで人員削減を図ったり、そのための改造が進められていた。
そしてその人員不足で補助として搭載した自動コアが悪さを始める。
「うわっ、何だ!?」
ハドソン爆撃機の旋回機銃が僚機を突然、攻撃した。
「機長! 操縦桿が!」
「何だこれは――!」
勝手に動き始める機体。操縦を奪われ、操縦士たちは混乱する。
「右! 右! 回避しろ!」
「動かない! あああーっ!!」
味方と衝突し、バラバラに吹き飛ぶ。四式重爆撃機『飛龍』も、編隊内で起きたイレギュラーに搭乗員たちは驚きつつ、どこからか機銃を浴びる。
「攻撃されてる!? 何だっ!?」
「後ろ! 疾風が突っ込んできます!」
「撃っていいんですか!? 味方ですが!」
「畜生!」
たちまち攻撃隊は崩れた。
有人機に乗るパイロットたちは、突然味方が攻撃してきたり、命令を無視する挙動をされて混沌に引きずり出まれた。
『何がどうなってる?』
『無人機がおかしい!』
『おい、馬鹿! そこのフライングフォートレス! 何で撃ってくるんだ!?』
『メーデー、メーデー! 操縦不能! 機体を乗っ取られた!』
無線交信も飛び交い、カオスは増していく。誰もが自分の周りで起きたことに気を取られ、全体を見る目が失われる。
厄介なのは、無人機だけでなく、有人機までもが味方の誤射を行っていることだ。これは搭載コアに支配され、搭乗員関係なしに動いてしまっていることが原因であるが。
撃たれたから撃ち返した、あるいは撃墜したという事例が頻発する。誰もが敵味方の区別がつかず、攻撃してくるものを敵として撃った。理由はわからない。ただ自分の身を守るためだった。
壮絶なる味方撃ち。単発の戦闘機の中には、敵味方の識別がつかないために、早々に攻撃隊から離脱し距離を取る者もいた。
少なくとも爆撃機の旋回機銃などで撃たれることはない。状況を見定めようとしたのだが、それらに無人戦闘機が後ろについて襲いかかった。
「なんで僚機に狙われるんだよ!?」
『ボブ、右旋回! 無人機が背後についている!』
リパブリックP-47サンダーボルトが、同じ隊の無人機に狙われ、同僚の乗る有人機が無人機を排除しようと12.7ミリ機銃を叩き込む。
奇しくも同士撃ち。実のところ、ムンドゥス皇帝が緊急プロトコルを発動させて見たかった面白い光景とはこれであった。
ともあれ、瓦解する基地航空隊。悲劇はなおも続く。無人機攻撃隊の一隊が海氷飛行場に引き返し、爆撃を開始したのだ。
有人機からの警告、乗っ取られた機からの搭乗員からの悲鳴や救援を求める声が乱舞する中、自動コアは無慈悲に味方撃ちを敢行した。
対空機関砲が火を噴く中、格納庫、管制塔や燃料タンクが破壊され、異世界氷でできた人工の島の施設が失われていく。
海氷飛行場の中には、転移で離脱するものもあったが、航空機に装備された転移離脱装置がそれを許さなかった。
ただでさえ洋上飛行に難のある陸軍パイロットたちである。有人機、無人機問わず、間違いなく海の上の飛行場に戻れるよう、漏れなく装備された離脱装置が仇となった。
退避した先に転移で現れ、無人機は海氷飛行場を攻撃した。12.7ミリ機銃の雨あられ。機銃掃射を見舞う無人機は、それら武器がなくなれば自機を誘導弾として体当たりして果てた。
航空機を運用していた海氷飛行場の大半が、無人機による同士撃ちで壊滅的大損害を受けた。
・ ・ ・
地球艦隊は、主力である二つの水上打撃群、そして空母機動艦隊を壊滅させられた。
しかし都市戦艦ならびに皇帝旗艦『ヘーゲモニアー』は健在である。まだ戦いは終わっていない。
地球艦隊残存艦は、海氷飛行場44号、45号のもとに合流した。日本海軍第五艦隊――今では数少ない有力艦隊も、補給を完了して合流したのだが、ここでも一つ事件が起きていた。
「――やられたよ。再生艦が全部根こそぎやられた」
坂上 吾郎博士は肩をすくめ、第五艦隊司令長官の神明 龍造少将に告げた。
「異世界帝国艦をそのまま再利用した艦の魔核が一斉に乗っ取られた。それでそいつらは、とっととここを去っていったよ」
「乗っ取られた?」
「どうも、こちらで制御系をいじってない奴がコントロールを受けつけなくなった」
つまりは鹵獲品をそのまま利用した魔核がやられた。一方で、こちらで改良し、機能を追加するためにシステムを書き換えたものは無事だったらしい。
「第五艦隊艦は、無事だっただろう? 勝手をはじめた艦はあったか?」
「いいえ」
神明は答えた。ここに来るまで艦隊の無人艦に異常はなく、みな制御艦の大巡『妙義』の制御下にあった。
「時間を惜しんでそのまま利用した奴が乗っ取られた」
昨日は、敵本営艦隊にぶつけ、今日はリサイクル改装してこしらえた艦隊が、再生できたものから敵に寝返った。
「何か仕込まれていたのは確実だ」
坂上博士は、とある魔核を指さした。艦艇に載せる前のものだが、本来は青や緑がかった色をした魔核が、真っ赤になっていた。
「時間に追われ、手間をかけなかったらこのザマだよ」




