第一三〇九話、航空隊の出撃
転移装置よりも、転移ガード装置の方が守りが手薄ではないか――。
マ式通信の終わりに神明 龍造少将が言ったことを、現部隊の遠木 迅中佐は考えてみる。傍らで通信を聞いていた新島中尉が口を開いた。
「どういうことです?」
「神明さんが助言をしてくれたんだ」
遠木は答える。
「確かに、このウルブス・ムンドゥスを東京湾に行かせないためには、転移装置を止めるか、司令部を制圧しなくてはならない。しかし――」
「それらの敵の守りは固い。ええ、制限時間を抱えているこちらとしては、非常に厄介なことですが」
急いでいずれかの目的を果たさないと、都市戦艦の自爆でお陀仏だ。あと数時間の艦内の戦闘を生き残っても、撤退命令がでなければこの都市戦艦と運命を共にすることになるのである。
「だが、転移ガードを発揮している装置は、無防備ではないしにしろ、敵もそれほど守りを重視していない。……そうだな?」
「まあ、そこを壊されたところで、転移が止められるわけではありませんし、帝都を吹き飛ばすという敵の作戦には支障はありません。……あくまでそれだけでしたら」
「そこが問題だ」
遠木は宙を睨んだ。
「転移ガードが外れれば、外部から転移させられるようになる。そうなれば、さっきは失敗したが、こちらからの転移でこのウルブス・ムンドゥスを東京湾に近づけさせるのを阻むことができる」
「その通りです」
新島は背筋を伸ばした。
「あくまで単体では止められたところで意味はありませんが、転移の干渉ができるようになれば、時間制限が消えます」
さらに言えば、こちらが一刻も早い司令部制圧、もしくは転移装置の破壊を目指して攻撃を集中しているので、守備隊の注意もそちらに向いている。これらは敵からしても時間制限内は絶対に死守しなければならないから、それ以外の場所への対処はおざなりになる可能性が高い。
どの道この都市戦艦『ウルブス・ムンドゥス』は自爆するのだから。最重要区画さえ守れれば、他はいくら壊れても気にしない。
「我が稲妻師団や陸軍は、司令部か転移装置を狙い戦力を総動員するだろう。……そこに我々が駆けつける意味は?」
「ここが艦内であることを考えれば、すでに戦力の渋滞が起きているのではないでしょうか?」
限られたスペースに兵が集まったところで、一度に戦える戦力は限られる。それならば、司令部ないし転移装置攻略部隊の支援くらいしかできないだろう。他から向かってくる守備隊の側面攻撃を阻止するために、通路に防御陣地を形成するなどなど。
現部隊は、ある程度の独自行動が許される。敵戦力のかく乱を仕掛け、主力部隊を援護できるなら、大抵の行動は正当化できる。
「作戦補助だ。敵へのかく乱のため、各所で破壊行動に出る」
遠木は真顔で告げた。
「……その破壊リストの中に、転移ガード装置も加えておこう」
司令部制圧、転移装置の停止か破壊、それが成し遂げられればそれに越したことはない。だが何事にも保険は必要であった。
・ ・ ・
日本本土を目指す都市戦艦『ウルブス・ムンドゥス』。その転移予想地点の一つで、地球軍の偵察機は、都市戦艦ならびに皇帝旗艦『ヘーゲモニアー』を発見した。
水上打撃艦隊が壊滅し、残る空母機動艦隊を率いる連合艦隊司令長官の小沢 治三郎中将は、次の転移を勝負と見て、攻撃隊の編成、対艦誘導弾の調整を命じた。
『ヘーゲモニアー』は、都市戦艦の転移に随伴する。その予想があればこそ、今は攻撃隊を出さず、転移にチャージ時間を必要とする『ウルブス・ムンドゥス』が移動するまで待った。
一回の転移で移動できる範囲から、次の転移場所を予想。先回りした哨戒空母、護衛空母から偵察機を出して、いつ転移しても早期発見ができるよう態勢を整えた。
そして、その時はきた。
ウルブス・ムンドゥスの転移。予想どおり、『ヘーゲモニアー』も転移し、その近くに現れた。
都市戦艦の転移の発光は遠方からも確認できた。展開していた偵察機が駆けつけ、目標の発見を通報した。
「よし、攻撃隊、発艦せよ!」
地球艦隊、空母機動艦隊の旗艦『出雲』から、小沢の命令が発せられた。
『大鶴』、『赤城』、『翔鶴』、『翠鷹』などなど多数の日本空母から陣風戦闘機、流星改二艦上攻撃機が飛び立つ。
エセックス級空母『レキシントン』『イントレピッド』『エンタープライズ』などからもF8Fベアキャット、F4Uコルセアなどに続き、アヴェンジャー、シーウルフ雷撃機が出る。
さらに海氷飛行場からも、無人仕様の攻撃隊が発進。これらも、『ウルブス・ムンドゥス』ならびに『ヘーゲモニアー』へと飛んでいく。
多数の航空機はすべて自動コアを搭載した無人機である。圧倒的多数の航空機での飽和攻撃。しかしその過程で、恐るべき防空能力を持った『ヘーゲモニアー』がどれだけ航空機を返り討ちにするか、まったく予想できなかった。
数千もの攻撃機を送り出して、戦闘機を残して全滅してしまうのではないか――そんな嫌な予感すらする攻撃である。
それを思わせるのは、地球艦隊の主力水上打撃艦隊を二つ、ほぼ無傷で撃退してみせたこともあって、底知れぬ強さを持つが故であった。
有人の偵察機が、遠距離から島のような巨大な都市戦艦と、その傍らを航行する『ヘーゲモニアー』を監視する。
攻撃隊の一斉攻撃が、皇帝旗艦に突き刺さるのか。どのような攻撃で、航空隊が破壊されるか、それをつぶさに観測するために。
機動艦隊では、航空隊が成果をあげるのを祈りつつ、時間を潰した。
旗艦である航空戦艦『出雲』の防空艦橋に上がった小沢は、静かに攻撃隊が消えた空を見つめた。




