第一二九九話、皇帝の剣
突然の爆発が起きた。
第一戦艦群の戦艦『ロードアイランド』『オレゴン』『デラウェア』が爆発し、破片と共に自身の水柱の中に消えた。
太平洋艦隊、そして第一戦艦群指揮官であるウィリアム・ハルゼー大将は旗艦『ニュージャージー』の司令塔から、それを目撃した。
「何だ!? 何が起こった!?』
攻撃された。それは本能でわかった。だが問題は何にやられたかだ。皇帝自らが乗っているという大型戦艦が信じられない高速で向かってくる。その最中に起きた爆発だった。
「敵戦艦、なおも接近!」
「クソッタレ! あの野郎の転移砲か!」
そうとしか思えなかった。しかしオリクトⅢ改装の主力戦艦がまるでボール紙のようにいとも容易く破壊された。やはり転移砲は恐ろしい武器だ。
「こちらの射程は?」
転移砲には少し遠い。であれば、転移を解除し、より遠距離から撃てる通常砲撃に切り替えるべきか。
命中率は大幅に下がるが、敵は単艦。さらにいえば敵戦艦の大きさからすれば、散布界で砲弾がばらけたところで、余裕で砲弾がどこかに命中するのではないかとも思えるのだ。
――いや、それでは敵の防御スクリーンを抜けない!
皇帝坐乗艦となれば、防御も重視されているだろう。防御シールドは当然装備されているだろうし、そうなれば転移砲に比べると格段に効果は下がる。
やはりここは、間もなく転移砲の射程に入るのを待ち、シールドを抜ける攻撃をするべきだ。
「戦艦戦隊、転移砲の射程に入りました! 砲撃できます!」
敵旗艦が早すぎて、さっさと射程に飛び込んでくれた。ハルゼーは声を張り上げた。
「ようし! 砲撃開始だ! 単艦で艦隊に挑む迂闊さを、エンペラーに教えてやれ!」
アメリカ艦隊はそれぞれ砲を向ける。真っ直ぐ突っ込んでくるなら、狙いをつけるのもさほど難しくはない。
……はずだったのだが。
「敵艦、変針!」
さながらもモーターボートのように機敏に切り返し、敵戦艦――『ヘーゲモニアー』は曲がった。だがその大きさは大型戦艦であるところが恐ろしい。
考えてみるといい。アリゾナ級やモンタナ級といった280メートルの戦艦より、さらに100メートルも長い巨艦が、アイオワ級の倍の速度で水上を滑っているのだ。これはとても恐ろしいことだ。
時速138キロで戦艦が走っているなど、目にしても信じられない。
「クソッ、速いぞ! 狙いをつけられるのか!?」
あっという間に横へ横へと移動する『ヘーゲモニアー』。真っ直ぐ向かってくる分には狙いはつけやすいのだが、横方向へ動いているとなると、敵が砲口からどんどん逃げてしまうため砲塔の旋回が必要になる。そして問題は、戦艦主砲の旋回で、あの敵戦艦の高速力に追従できるかどうか。
ハルゼーが嫌な予感をおぼえる中、視界の中の敵戦艦、その側舷の円がいくつか光った。タイヤのわけがないと思っていた――そもそも大きさがおかしい――が、どうやら武装だったようだった。
次の瞬間、またもアメリカ艦が爆発した。
「重巡『ボストン』、爆沈!」
「大型巡洋艦『ウンゼン』も爆発!」
赤い光は五つ。そして5隻の米、日艦が吹き飛んだ。第一戦艦戦闘群の艦艇が、ただの一撃で葬られていく。
――防御シールドを搭載しているのだぞ……!
敵の攻撃は、シールドをすり抜けている。防御無効の新兵器でなければ、転移砲の一種だろう。
そうこうしていると今度は『ヘーゲモニアー』の主砲、艦首3基、艦尾3基が青い光を発した。その瞬間、戦艦『イリノイ』が艦尾を吹き飛ばされ、大破した。
戦艦『ニュージャージー』の右舷を併走していた英軽巡洋艦『スウィフトシェア』が爆沈。さらに『スウィフトシェア』の艦首を掠めたらしい攻撃が『ニュージャージー』の艦首に被弾、そして大爆発が起きた。
「喰らったぁ!」
ハルゼーが叫ぶ。ガーニー参謀長が衝撃をこらえて踏みとどまるが、次に始まったのは沈降しはじめる『ニュージャージー』であった。
アイオワ級戦艦『ニュージャージー』の艦首が消滅し、艦は勢いを失い、さらに破壊された隔壁から流入した海水によって艦のバランスが大きく崩れたのだ。
アメリカ太平洋艦隊の旗艦として数々の戦いを経験してきた歴戦の『ニュージャージー』の命運はここに尽きようとしていた。
・ ・ ・
「はっはっはっ! 圧倒的だな、『ヘーゲモニアー』は!」
ムンドゥス皇帝はご満悦であった。自慢の切り札である皇帝旗艦は、最新の装備に身を固めた帝国最強の戦艦であった。
新兵器である転移加速砲に加え、艦両舷に装備された転移熱線砲は、地球艦の防御を突き抜け、ほぼ一撃で撃沈、もしくは戦闘力を喪失させた。
「少し大人げないかな、この性能差は」
ムンドゥスが司令部幕僚らを見やる。そこにはカサルティリオ総参謀長はいない。しかし司令部の参謀らはいる。
「首席参謀」
「はっ。確かに性能面では、皇帝陛下の旗艦に勝るものなどございません」
アエイ首席参謀は、直立不動のまま告げた。
「数の差で地球側が圧倒していますが、立ち回り次第では、単艦無双もあり得ましょう」
「だ、そうだが、ミール艦長」
皇帝は、『ヘーゲモニアー』艦長のミール少将へと視線をやる。ミールもまた生真面目に向き直り、小さく礼の姿勢をとった。
「はい、陛下。ご期待に添えるよう、全力を尽くします」
『新たな敵艦隊が接近!』
戦術ステーションからの報告が飛び込む。
『艦種識別、日本艦複数を含む戦艦艦隊です!』
「ほう、てっきり『ウルブス・ムンドゥス』を追いかけると思ったが……」
ムンドゥス皇帝は考え深げな顔になる。東京に迫る危機。自国の帝都が破壊されるかもしれないとあれば、速やかにこれを阻止しようとするものだが。
「まあよい。正面の艦隊だけでは不足であった。日本艦隊には積もる恨みもある。部下の敵討ちといこうではないか」




