第一二九八話、旋風! ヘーゲモニアー
『地球軍攻撃機、接近!』
ムンドゥス帝国皇帝坐乗艦『ヘーゲモニアー』の司令塔に響く対空士官の声。艦長のミール少将が振り返ると、玉座のムンドゥス皇帝は頷いた。
「対空防御」
「対空防御! 転移高角砲、同機関砲、各個に応戦始め! ショックウェーブ砲、準備!」
艦長の指示が飛び、ただちに『ヘーゲモニアー』の艦橋周りの球形対空砲座群が、短砲身の砲門を上空へ向ける。
艦体がやや海上より浮いていて、弾むように波をかきわけ、猛スピードで疾走する『ヘーゲモニアー』だが、航空機の速度からは逃れられない。
かたやリパブリック P-47サンダーボルト戦闘機がロケット弾を叩きつけるべく、高速ダイブ。
その反対側からはヴォート F4Uコルセアが狙いをつけるべく配置につく。
だが突然、サンダーボルト、そしてコルセアが火だるまと化した。
対空転移砲。
球形砲塔は、滑らかな旋回・俯仰で、向かってくる敵性航空機に素早い照準をつける。そして発射。照準先に砲や機関銃弾が瞬間移動し、航空機を機首から破壊した。
曳光弾などはない。だからパイロットは回避運動をとる間もなく、突然機体を撃ち抜かれて、やられてしまう。
エンジンを含めて機首も頑丈、正面から銃弾を受けても、簡単にはやられないことに定評があるサンダーボルトだが、さすがに機関銃弾の連続被弾、もしくは光弾の直撃には耐えられず、バラバラとなる。
『ヘーゲモニアー』に接近する航空機は、瞬く間に撃墜された。花火のように鮮やかに燃え、あるいはジュラルミンの破片を撒き散らして墜落する敵機を見やり、ムンドゥス皇帝は余裕の表情である。
都市戦艦『ウルブス・ムンドゥス』に装備された転移方式の対空砲の威力は、ここでもきちんと役割を果たしていた。
『「ウルブス・ムンドゥス」第一次転移!』
戦術モニターに表示されていた、全長12キロメートルの都市戦艦が消えた。日本に向けて、爆弾と化した都市戦艦が行動を開始したのだ。
初期の転移装置故、転移にエネルギーを必要とし、それがチャージできるまでに約1時間を必要とする。転移可能範囲から、7回の転移で目標の日本、東京湾へと到着予定である。
「乗り込んだ地球軍の兵があれを止めるのが先か。あるいは爆発が先か。さて、どちらになるだろうな」
ムンドゥス皇帝は独りごちた。司令塔内の戦術ステーションから声が上がる。
『左舷9時の方向より、複数の高速移動体! 敵の誘導弾の模様!』
どうやら艦隊出現に備えて、対艦誘導弾を搭載した攻撃機が飛んでいたようだった。実際、海氷飛行場から飛び立っていた日本海軍の銀河陸上爆撃機が13機がいて、距離10キロほど離れた場所から対艦誘導弾を投下した。
これらは高速で『ヘーゲモニアー』に飛行。搭載されている自動コアによって誘導され、目標に迫った。
さらにボーファイターが戦闘機の速度で飛び、流星艦上攻撃機が低空から誘導弾を撃ち込んだ。
「艦長。ショックウェーブ砲を用意。タイミングは任せる」
ムンドゥス皇帝の指示に、ミール艦長は背筋を伸ばした。
「はっ!」
高速接近する誘導弾。正面から見ると、ゴマ粒のように小さいそれを対空砲で撃ち落とすのは簡単ではない。
照準合致、即発砲で撃墜できる転移対空砲は、従来のそれよりも誘導弾の撃墜率は高いだろう。しかし複数の方向から、多数を打ち込まれた場合、対空砲の数から全てを墜とせるかは非常に怪しいものがあった。
だが、『ヘーゲモニアー』には、対空防御の切り札。ショックウェーブ砲がある。
『敵弾、ショックウェーブ砲の射程内! さらに後続の敵機も攻撃範囲に入りました!』
「よろしい。ショックウェーブ砲、発射っ!」
ミールは命じた。
次の瞬間、左舷側球形砲塔のうちの二基が、目視困難な衝撃波を発射した。それは飛来する誘導弾に正面からぶつかると、衝突に等しい衝撃で先端を潰し、信管を作動させて爆発させた。
点ではなく、面を制圧する兵器だった。
日本海軍が使用する障壁弾同様、見えない壁が隙間なく、誘導弾を止め、そして破壊した。
討ち漏らしはない。そしてこれが障壁弾と異なるのは、衝撃波が前へ進み続けることにあった。
空中で静止する壁である障壁弾と違い、前進する衝撃波の壁はその方向から迫る誘導弾をすべて破壊すると共に、後続しロケット弾を見舞おうとしたボーファイターやコルセアといった接近する機体にも命中、正面から叩き潰したのである。
対空防御のみならず、接近する敵編隊すら撃破する。ムンドゥス帝国技術陣が開発した彼らの究極対空システムであった。
「ふふふ、これで地球軍も、我が艦に航空機が無力であることを思い知ったであろう」
ムンドゥス皇帝は肘掛けに肘をつきながら笑みをこぼした。転移対空砲とショックウェーブ砲という矛。さらに『ヘーゲモニアー』には皇帝坐乗艦として多重防御システム、遮蔽装備といった防御装備も充実している。
生半可な航空攻撃など、自殺に等しい。
『水上レーダーに反応あり! 地球艦隊、北方より近づく!』
都市戦艦『ウルブス・ムンドゥス』の周りにいた地球艦隊が、戦場を疾走する『ヘーゲモニアー』にかかってきたのだ。
皇帝坐乗と聞いて、ここで撃沈しようというのであろう。そうでなければ前線に出張った甲斐がないというものである。ムンドゥス皇帝は不敵に笑う。
「メインディッシュの到着だ」
「はっ」
「地球人も、この皇帝旗艦の力を思い知ることになるだろう。艦長、敵艦隊に突撃せよ!」
エーワンゲリウム機関を用いた浮遊システムを、海上高速航行に応用した『ヘーゲモニアー』は、速度75ノットで、地球艦隊へ直進した。
「天球観測、開始。転移加速砲を見舞え。遠慮はいらん。片っ端から撃沈せよ」
転移砲の弱点である、長距離砲撃を可能とする観測と、直接転移で弾道を気にすることなく射撃できるムンドゥス式転移砲の合わせ技である。
地球側転移砲の射程より、一歩手前から『ヘーゲモニアー』は攻撃位置についた。
『アルファ、ベータ、ガンマ各砲、敵戦艦に照準よし』
「発射!」
ヘーゲモニアー艦首に並ぶ三基の球形主砲塔の砲口が瞬いた。




