第一二九二話、地球艦隊の逆襲
日本の連合艦隊、アメリカ太平洋艦隊、そしてイギリス、ドイツ艦隊は、弾薬、燃料の補給を終えて前線に復帰した。
目の前には、ムンドゥス帝国艦隊――紅蓮艦隊ならびに本営艦隊第一群、その他戦闘群の残存艦隊がいる。
「戦闘配置!」
アメリカ艦隊旗艦、戦艦『ニュージャージー』。ウィリアム・ハルゼー大将は、ただちに命じた。
「ムンドゥス野郎どもの艦隊をここで全て海底に送ってやる!」
グアム級、雲仙型大型巡洋艦が先陣を切る中、アイオワ級戦艦もその快速で追走する。
それと併走するは地球艦隊第二戦艦群。日本軍第一艦隊司令長官であり、第二戦艦群を預かる新堂 儀一中将の部隊は、播磨型、アリゾナ級、さらに英独に提供されたプロートン級モデルの18インチ砲搭載戦艦からなる。
その打撃力は、地球艦隊一と言っても過言ではない。これらは最大速度29ノット前後で波を突き抜け進む。
ハルゼー率いる高速戦闘艦隊は、速度30ノットを超える巡洋艦部隊に高速戦艦を加えた編成であり、アイオワ級の他、改造オリクト級戦艦を中心としている。双方が同時にスタートすれば、速度差でハルゼー艦隊の方が前に出ることになるが、ムンドゥス帝国艦隊の位置からすれば、致命的な差は出ないであろう。
地球軍の主要戦力をほぼ投入した艦隊である。敵都市戦艦『ウルブス・ムンドゥス』の周りに残っている敵艦隊と最後の決戦であった。
「オザワの艦隊は攻撃隊を出したか?」
「アイ、サー。確認します」
通信参謀が首肯した。
地球軍空母戦闘群――連合艦隊司令長官、小沢 治三郎中将が指揮する艦隊には、日、米、英、独空母およそ170隻がある。
「攻撃隊を発艦させよ」
小沢の命令を受けて、各空母から本日二度目の攻撃隊が飛行甲板から滑り出す。マリアナを襲撃した敵戦闘群二つを葬った後である。それ故、第一次攻撃隊ではなく、第二次攻撃隊なのであった。
『大鶴』『紅鶴』ほか、リトス級大型空母改装の大鶴型空母を始め、不死鳥の如く何度も復活した『赤城』や『飛龍』、歴戦の翔鶴型、蒼鷹型といった空母から、陣風艦戦、流星改二艦攻が飛び上がる。
アメリカ海軍の標準型空母であるエセックス級からも、F8Fベアキャット、F4Uコルセア、SB2Cヘルダイバー、TBYシーウルフ雷撃機が空へと舞い上がる。
英独も、アルクトス級中型空母モデルの量産空母から攻撃隊を出し、その数はたちまち数千機に膨れ上がった。
「敵は空母部隊を切り離している」
小沢は旗艦『出雲』から、空を埋め尽くす友軍航空隊を見上げる。
「これだけの機が攻撃を叩きつければ、ただでは済むまい」
「一挙撃滅」
草鹿 龍之介連合艦隊参謀長は言った。
「この一太刀で、決着がつきましょう」
「そうあってもらいたいものだ」
我々には、都市戦艦の上陸、制圧支援という仕上げが残っているのだ。
・ ・ ・
『地球艦隊、接近!』
ムンドゥス帝国紅蓮艦隊、旗艦『アストラペーⅡ』。プレボス・メラン中将は表情を引き締めた。
ついに地球艦隊が昨日の戦いの消耗から回復し、戻ってきた。昨晩から、ムンドゥス帝国軍は、敵の補給中を狙って小細工を仕掛けたが、終わってみればそのことごとくが失敗に終わった。
むしろ自軍を消耗させただけであり、最初から正面からぶつかった方がマシであると言えた。
所詮は愚痴だ。結果論だ。こうなるとあの時点でわかっていたなら別だが、メランとて奇襲がハマれば絶対的に有利になったことは認めている。
「悪い方の予感というのは当たるものだ」
独りごちたところで、メランは背筋を伸ばして、前線に出てきたカサルティリオ総参謀長を見た。
嫌味な態度にならないよう、すこぶる真面目に言う。
「敵が向かってきます。交戦致しますか?」
何か策があるのかを確認するが、カサルティリオに他の小細工は持ち合わせていなかった。
「正面から蛮族を打ち破る! 本営艦隊にも指令! 敵艦隊を撃滅せよ!」
方針は定まった。どう戦うかは、艦隊司令長官の仕事だ。メランは戦術モニターを見やる。
レーダー情報、さらに警戒機からの報告で、地球艦隊の兵力は判明している。
戦艦90隻、大型巡洋艦18隻、重巡洋艦77、軽巡洋艦105隻、駆逐艦およそ250隻。
こちらは紅蓮艦隊、本営艦隊第1、第8戦闘群であり、その数はやや数が少ないがほぼ互角といってよい。ここで第2戦闘群をを合流させれば、敵を数で上回ることができるだろう。
正面からの決戦であれば、まだ勝機はある。
カサルティリオの命令を受けて、ムンドゥス帝国艦隊は動き出す。『アストラペーⅡ』に本営艦隊、第1、第8戦闘群指揮官からの通信が入り、即席に作戦会議が開かれ、簡単な作戦のすり合わせが素早く行われる。
向かってくる二つの地球艦隊に対して、第1、第8戦闘群がそれぞれを受け持ち、紅蓮艦隊が敵艦隊の側面に回り込む――それだけの確認であったが、それに合わせてムンドゥス帝国艦隊は動きだした。
だが、艦隊機動に移ったところで、対空レーダーが騒がしくなる。
『敵機、大編隊! 急速に近づく! その数、二千、いや三千を超えます!』
地球側航空隊の到来。それはそうだろう、とメランは思う。こちらは航空戦力をズタズタにされている。一方、地球側は、航空機の数こそ減少しているものの、その空母機動部隊は昨日の戦いからほぼ手つかず。海氷飛行場を多少削ったが、今日の戦いでも空母航空隊は打撃戦力の中核として機能するはずである。
メランは、カサルティリオを見なかった。ここまで航空戦力を失わせた彼女を見てしまえば、恨み言が止まらなくなりそうだったからだ。
今は個人の恨みに思考を占めるべきではない。いかに敵に立ち向かい、打ち倒すかを考えることが将たる者の務めであるのだから。




