第一二九一話、空母部隊、消滅の危機
紅蓮艦隊の戦闘機隊を収容する小部隊に、本営艦隊の空母部隊を付けて、回収ポイントを航空部隊の陣地にするという考えは、総参謀長カサルティリオの発案だった。
一度、残存戦力を集めて、反撃してくるだろう地球艦隊に対して、どの程度の戦力があるのか正確に把握しようとしたのである。
特別転移砲艦『ワガブンドゥス』を地球艦隊の奇襲部隊が沈めてしまったが、逆にいえば敵の目はそちらに向いている。さらに第2戦闘群を送ったために、敵もそれに対応せねばならない。
空母部隊の集結と戦力把握のため、敵の目も一時的に引き離せるタイミングと言えた。
マリアナへの奇襲に失敗し、各部隊の編成がガタガタである現状、いち早く対抗戦力を掌握しなければならない。
カサルティリオはまだこの戦いを諦めていなかったし、それはムンドゥス帝国兵の大半も意識するところであった。
が、地球艦隊――正確には、日本海軍第五艦隊の神明 龍造少将は、その動きを読んでいた。
回収の空母4隻に、第五艦隊の『大和』『武蔵』に率いられた艦隊が出現。艦載機を出して攻撃隊を呼び込むと、攻撃に移った。
結果、遮蔽で潜んで集結させていた空母機動部隊が、衝突事故も同然にあぶり出されることになる。
何故なら、回収空母と第五艦隊の間に、遮蔽機動部隊が潜んでいたからだ。突撃する第五艦隊の針路上に空母とその護衛艦隊がいて、さらに『大和』が対遮蔽装置を作動させたことで、透明の衣が引き剥がされてしまった。
「これは大漁ですな!」
第五艦隊参謀長、神 重徳大佐はこれ以上ないほど顔を綻ばせた。
目の前に姿を現したリトス級大型空母やアルクトス級中型空母が、慌てふためいて逃走を図る。すでにそれらは転移砲の射程内。射的の的状態であった。
「第五艦隊、全艦へ。正面の敵機動部隊に対して砲撃始め!」
神明は命じた。
すでに展開した航空隊は、攻撃に向かっていたが第五艦隊各艦も、逃げまどう敵空母とそれを守ろうとする護衛部隊に対して、砲を撃ち込んだ。
「睨んだ通りの展開ですな。……しかし、よくわかりましたね」
神が神妙な様子で尋ねた。
「回収の空母部隊だけでなく、敵の大機動部隊がここにいると」
「例の不明艦を沈めた時、妙に食いつきがよかったからな」
神明たちは、特別転移艦『ワガブンドゥス』という名前は知らなかったが、それを救援するには過剰なほどの艦隊をムンドゥス帝国は送ってきた。
「まるで、さも全軍で飛び込んできたかの勢いだったが、我々の任務は、敵の漸減であって、撃滅ではない」
もちろん叩けるなら全滅もさせるが、正面から挑んで勝ち目の低い相手と馬鹿正直に戦うことはない。
小沢長官からは、地球艦隊本隊が戦線復帰するまで時間を稼ぎつつ、残存戦力一掃のための準備を進めるよう言われている。
その点で言えば、神明が叩くべきは、多数の水上艦艇ではなく、航空戦力を有する空母である。
駆けつけた第2戦闘群にも空母が30隻近くはいた。だがあちらは戦艦『蝦夷』を中心とする水中攻撃隊と潜水艦部隊が、待ち伏せついでに痛打している。
神明としては、小沢の指示通り、ムンドゥス帝国軍から空母を削ぎ落とすことに注力するだけであった。
『大和』『武蔵』の46センチ砲が、大型空母を打ち砕き、暴風戦闘爆撃機、暁星艦攻、そして五式艦攻の爆撃で、飛行甲板に並べられていた艦載機ごと空母を炎上させる。
いち早く飛び上がったエントマ戦闘機は、陣風艦戦、暴風、紫電改三が銃撃し、はたき落としていく。
航空機と水上艦の合わせ技は、本営艦隊空母部隊に大打撃を与えていった。
・ ・ ・
紅蓮艦隊旗艦『アストラペーⅡ』、その司令塔で、カサルティリオ総参謀長は猛り狂っていた。
「回収ポイントに敵だとォ……!」
地球艦隊の反撃、つまり回収ポイントを特定されて攻撃をされる可能性は、カサルティリオも予想していた。
問題は、その襲撃があまりに早かったこと。地球艦隊の空母部隊なり海氷飛行場航空隊なりが、攻撃の準備を行い、向かってくるとしても最低1時間から2時間は後のはずだった。
それがどうだ? 十分もしないうちに攻撃隊と艦隊が殴り込んできたというではないか。まるで待ち伏せされていたかのように。
理解ができなかった。どうしてそんなに早く攻撃を仕掛けられたのか。日本軍の見えない偵察機が至るところにいて通報は仕方ないが、それでも艦隊が現れるなど電光石火が過ぎる。
カサルティリオは愕然とするのである。報告は続く。
「空母部隊は、敵の攻勢を受けて戦力を半壊させつつあるとのこと、至急救援を求めてきていますが……」
「馬鹿者め!」
総参謀長は吠えた。
「何故、さっさと転移で逃げてこないのだ!? 有力な敵が現れたら、転移で逃げる! 私はそう指示したはずだぞ!」
報告にきた通信士官に怒鳴っても仕方ないのに――紅蓮艦隊司令長官、プレボス・メラン中将は、哀れみの目を向ける。
高圧的で冷静沈着な総参謀長が、ボロボロに崩れていく様は、滑稽ですらあったが、それが上官として存在するのは、鬱陶しくてたまらない。取り乱した総参謀長の阿呆な指示で死ぬかもしれないともなれば、なおのことである。
――他人事で済ませられる間は、見ていて楽しいのだが。
実のところ、カサルティリオの指揮ぶりについては、判断が遅いことを除けば、そう悪いものではないとメランは思った。前線において、判断の遅れが致命傷になるという点は、ここでは突っ込まないことにするが。
――真に恐ろしいのは、地球人の判断力の速さか。
双方が正解を導き出しているのであれば、後は速い方が勝つ。そういうものである。
「判断が遅い」
メランは呟いた。カサルティリオも起きてしまったことで喚くより、速やかに適切な命令を出すべきであった。
――このままでは、あの女のせいで負けるぞ、我が軍は。
そしてここで、司令塔内に警報が鳴り響く。
『転移ゲートの反応! 艦隊が出現! これは――地球艦隊です!』
来た。補給中だった地球艦隊がついに前線に戻ってきたのだ。




