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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第一二八九話、空中戦の果て


 海面を滑るように飛行する青いクレックス戦闘機。それを追尾する紫電改三。両翼の20ミリ光弾機銃が、曳光弾さながら光を纏う弾を吐き出すが、クレックス戦闘機は横にスライドして、それを躱す。


「くそっ!」


 気持ち悪い回避をする。宮内 桜大尉は吐き捨てる。横滑りなんてレベルではないスライド。それも真横に近いズレは、航空機の概念がおかしくなる。


「ふざけ――っ!?」


 追尾しようとしたら、紫電改三が青いクレックスと激突するような軌道をとっていった。


「こなくそっ!」


 とっさに操縦桿を引き、敵機の上と飛び越えた。一瞬でも遅れたら衝突して双方果てていた。


「あたしに引かせたなっ!」


 後ろを一瞥する宮内。右――いない! 左――!


 スライドしながら、紫電改三の後方に占位する敵機。フルブーストで斜め上昇。加速勝負でマ式を利用する異世界帝国機が有利。

 エンジンが焼きつくことは冷却金属パーツを用いた新型誉エンジンでは解消されている。本来なら無茶な機動をしてもエンジンが壊れることはないのが幸い。それでなかったら今ので詰みだった。


 後方からピタリと追いすがる青いクレックス。一度貼り付いたら簡単には離れない。


 ――こいつの恐ろしいところは、おそろく照準が早いことだ。


 コンマ数秒でも射線に入った、もしくは入ると見たら引き金だか発射ボタンか知らないが撃ち込んでくる。

 機体をズラす。光弾が後ろから追い越した。


 ――ほらな……!


 恐ろしく早い。そして躊躇がない。


「また――!」


 宮内は機体を急上昇させた。光弾がギリギリのところを抜けていったが、宮内は空戦フラップをマニュアル操作で用いて紫電改三を短いループを描かせた。

 そして敵機の後ろへ回り込んだ。敵も紫電改三を追おうと上昇しはじめていたが、その挙動はワンテンポ遅かった。


「喰らえよ、こん畜生!」


 レティクルに捉えられるのは僅かな間、コンマ数秒に意識を集中――するところだが、宮内の思考は冷めていた。

 青いクレックス戦闘機はバレルロールを描く。紫電改三はそれを追う。光弾機銃がはなたれる。だがそれらも寸でのところで届かない。


 タイミングが早いのだ。照準さえ正確かなら弾道を気にすることなくほぼ必中の光弾が当たらないというのは、パイロットが早いか遅いかのどちらか。


 ――あるいは予測を読み違えているか、感覚が微妙にズレてる。


 飛行針路を先読みできないようでは、機銃を当てるのは困難。照準器いっぱいになるまで肉薄すれば話は別だが、ここまで高速化した戦闘でそこまで肉薄できるような格闘戦などほぼ起こらない。


 ――つーか、起こっているじゃねえか!


 独り突っ込みをよそに宮内は、次こそはと光弾機銃を敵機に叩き込んだ。その瞬間、クレックス戦闘機は見えない壁にをついて方向転換したような機動をとった。

 そしてそれを追えば、機体が衝突するように敢えて速度を落として誘い込んだ。


「だあらっしゃぁぁーっ!」


 宮内はその瞬間、機体をかすかに上昇させつつロールさせ、左の主翼を青いクレックスにぶつけてやった。


「わかってんだよ、この野郎め!」


 アドレナリンが弾けまくり、宮内のテンションもだいぶ仕上がっていた。パイロットとしてあるまじき、ぶつかっても構わないムーブをしてくる青いクレックス。パイロットの本能はこれを回避したがるものだが、宮内はそれをねじ伏せ、わざとぶつけてやった。


「あたしはそこまで優しくねえんだよっ!」


 ざまあみろと叫びたい――実質叫んでいるような宮内は、一瞬の暴れ馬状態だった紫電改三を立て直し、敵機を目で追う。左翼三分の一が吹っ飛んだが、まだ飛べる。


「敵機は――!?」


 フラフラと青いクレックスは飛んでいる。


「うん……?」


 コクピットらしき部分に紫電改三の翼の破片が刺さっているように見えた。もしかして――



  ・  ・  ・



「……ついにやったな」


 エレミア・アグノス中佐は、なくなった右手と腹に突き刺さっている金属の破片を見下ろした。

 出血だ。内臓もグチャグチャだろう。これは死んだな、とエレミアは思った。


「教官からは、言われていたわね」


 そういう飛び方をしたら死ぬぞ、と。自分から衝突コースで行けば、いつかそうなるとは思っていた。だがやめられなかった。この空戦機動は自殺するだけと他人が認めなくても、それをやってのける自分の力量に絶対の自信があったのだ。


 だが、その時はきたのだ。

 戦闘機同士の戦いで、ついに命を落とす時が。戦って死ぬならば本望だ。元よりその覚悟で戦場を飛んだのだ。

 身寄りはない。家族もない。空をこよなく愛し、空中戦こそ人生。それ以外のことには関心が薄い。


「ハンデはあったかな……」


 20ミリは6丁全て弾切れ。残った武器は光弾砲のみだったが。やれる限りはやった。

 コツコツ積み上げた撃墜数は493機。多くの異世界の空を制してきた彼女のスコアだが、もしこのままムンドゥス帝国がなくなったら、この記録はどこにも残らず消えてしまうのではないか。そう考え、はたとなる。


「今日は……何機落としたっけ……?」


 うろ覚えだが、ひょっとしたら500機を超えているのではないか。考えようとして、ついに機体は海面に激突し、クレックス戦闘機を潰し破壊した。



  ・  ・  ・



「畜生、見送る余裕くらいくれっての……!」


 宮内は声を荒らげる。青いクレックス戦闘機の最期――超絶腕利きの戦闘機乗りを見送りたかったのだが、機体はガタついているし、敵機が向かってくるわで、宮内は忙しかった。

 よくもここまでの空戦で邪魔が入らなかったものだが、スーパーエースの撃墜に頭にきたか、他のクレックス戦闘機が上方から宮内機を狙って急降下してきた。


「くそがっ。こりゃマズいかも――」

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