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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第一二八二話、遅きに失する


 ムンドゥス帝国のスーパーエースであるエレミア・アグノスは、空中戦では無敵であったのかもしれない。

 しかし戦争におけるスーパーエースの活躍が戦況を動かす要因として決定的なものではないことは、ここでも証明されてしまう。


 紅蓮艦隊の戦闘機隊は、圧倒的多数の日本軍戦闘機との交戦した。その隙に、第三、第四艦隊ほか日本軍の攻撃隊は紅蓮艦隊とその周りの本営艦隊戦闘群に襲いかかった。


 下村 太一郎中佐らベテラン攻撃機隊指揮官に率いられた流星改二が、次々に四式対艦誘導弾を投下する。

 これら誘導弾は、ムンドゥス帝国艦の高角砲の射程範囲ギリギリのところで発射され、煙を引いて飛んでいく。


 艦攻の接近を阻もうと狙っている間に、誘導弾が連続で飛び、迎撃の機会が遅れる。もっとも、飛来する誘導弾を正面から撃ち落とすのは非常に難しい。的が小さい上に、艦艇が小型であるほど波によって船体が上下し、当てるのがさらに困難になるからだ。


 実際、ムンドゥス帝国の防空担当士官の多くが、高角砲で誘導弾を撃墜することを深く考えていない。

 当たればラッキーであるが、まず当たらない。照準さえ合っていれば正確に撃ち抜ける光弾砲や、弾をばらまける機関砲や機銃のほうがまだ可能性が高い。……裏を返せば、これらでも撃墜が難しいということでもあるのだが。


 誘導弾は潜水艦との戦闘で手薄になった外周の警戒線をたやすく抜けた。残っている駆逐艦にも誘導弾が飛んできて、被弾、そして爆発する。

 脆い駆逐艦が一撃で、ガクリと動けなくなる中、より陣形の中心にある巡洋艦、そして戦艦に誘導弾が吸い込まれる。


 途中で撃ち落とされる誘導弾もあったが、完璧なシャットアウトは不可能であった。防御シールドは無意味だった。シールドの範囲を見越して、転移しシールドをすり抜ける四式対艦誘導弾は、次々にムンドゥス帝国艦に命中した。


 航空機は、水上艦に勝る。かつては航空機では重装甲の戦艦は撃沈できないなどと言われたが、もはやそれは妄言の類と一笑に付されるだろう。

 本営艦隊のプロートン級、オリクトⅢ級戦艦が、艦橋を破壊され、あるいは喫水線付近に撃ち込まれた誘導弾によって浸水、速度低下をしていく。

 プラクスⅢ級重巡洋艦も、砲戦であれば強力な戦闘艦であったが、航空機の対艦誘導弾の前には、二、三発で大破。その能力を喪失してしまう。


 連合艦隊の攻撃は先制の一打として、ムンドゥス帝国艦隊に突き刺さった。そして間髪を入れず、海氷飛行場群――基地航空隊も第二波として加わる。

 英米ジェット戦闘機に護衛された双発爆撃機隊が殺到したのである。



  ・  ・  ・



 事ここに至り、ムンドゥス帝国総参謀長、カサルティリオは、艦隊の『ウルブス・ムンドゥス』までの後退を命じた。

 最初、指揮を執っていたプレボス・メラン中将に、その声は聞こえなかった。メランが意趣返しに無視をしているかのように見えたか、ミィ・ルナサ参謀長が司令長官に声をかけた。


「閣下!」

「何だ?」

「総参謀長より、後退命令です」


 ルナサが言うが、メランは一言。


「遅い!」


 カサルティリオに聞こえただろうその声。それは偽りない本音だった。ここまで艦隊が受けた被害は、決して小さくない。

 しかしメランは通信ステーションの方を見た。


「紅蓮艦隊各艦ならびに各戦闘群に、転移でのウルブス・ムンドゥスへの退却命令!」


 通信参謀が敬礼で答え、メランはさらに続けた。


「戦闘機隊には戦場を離脱し、南西方向へ迎えと伝えろ。――航海参謀! 戦闘機隊の収容計画を策定!」


 矢継ぎ早に命令を飛び、司令塔内は忙しくなった。ルナサは、こちらに背を向けて海図台を見下ろしているカサルティリオを一瞥した。

 その肩は震えていた。とうとう泣きだしてしまったのだろうが、それをこちらに見せないようにしているのだろう。


 参謀長は一瞬同情したものの、きっとメランは同情など欠片もしないだろうと思った。ここまで拡大した被害、本来避けられたはずの損害に対して、おそらく文句を並べ立てるに違いない。彼にはその権利がある。

 はっきりした物言いの指揮官である。それを今しないのは、単に艦隊指揮で忙しいからだ。


 かくて、日本海軍の空母航空隊が攻撃を終えて、基地航空隊による突撃が始まる直前、ムンドゥス帝国艦隊は魔法陣型転移ゲートを発動させ、離脱にかかった。

 だが、この時、転移離脱できたのは紅蓮艦隊と第8戦闘群だけだった。

 何故なら、第5、第6戦闘群は、転移ゲート艦を日本軍の攻撃ですでに撃沈されていたため、転移ができなかったのだ。



  ・  ・  ・



「今さら撤退だと!?」


 第6戦闘群司令官、クレヴォー中将は歯を剥き出した。


「何故、もっと早く撤退の指示が出なかったのか……!」


 ゲート艦が失われる前なら、いや転移奇襲をかけた際に敵艦隊に退避を許した時点で引き返せば、艦隊が半壊するほどの損害を受けることはなかった。


「総参謀長自ら出てきて、この始末か!」


 やはり司令部で全体の戦略を練る人間が、前線に出張って戦術指揮など執るものではないのだ。

 ある程度時間的制約はあるにしろ、安全な後方で作戦を練られると違い、前線はその場その場で判断を下さねばならない。

 だから総参謀長の判断は遅いのだ。


「紅蓮艦隊旗艦に通信。我、ゲート艦喪失にて転移退避不能!」

「司令!」


 参謀長が司令塔の一角、友軍艦隊の方向を指さした。


「転移ゲートが……!」

「なっ――」


 紅蓮艦隊の方角で魔法陣型ゲートの光が見えた。起きたことにクレヴォーの顔が憤怒に染まった。


「あの総参謀長、オレたちを見捨ててさっさと逃げやがった!」

『敵、第二波接近! 千を超えています!』


 地球軍航空隊の増援が戦場に到着した。第一波を何とか生き残ったと思った矢先の海氷飛行場航空隊の襲来。

 転移で逃げた紅蓮艦隊と第8戦闘群には攻撃ができなかったが、残る第5、第6戦闘群に爆撃機が押し寄せる。対艦誘導弾を容赦なく放ち、これらの艦隊に引導を渡すのであった。

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