第一二八一話、二日目の第一次攻撃隊
ムンドゥス帝国艦隊が明け方の夜襲をかけてきた時、連合艦隊司令部は、この攻撃の種類を見極めようとした。
最初は補給しているタイミングを狙った一撃離脱と思われた。だが転移によって続々と艦隊を送り込み、その規模が大きくなるのを見て、これが本格的な攻撃であるのではと思い始めた。
帝国艦隊がサイパンやグアムへ攻撃の矛先を向けてきたのを見やり、これまでの都市戦艦を守る戦いではなく、攻勢に出たと判断した。
「第一次攻撃隊は、マリアナ諸島にきた敵にぶつける!」
連合艦隊司令長官、小沢 治三郎中将は命じた。第三艦隊旗艦『出雲』から発せられた命令により、朝となったら『ウルブス・ムンドゥス』周辺の敵艦隊排除のために出撃準備を進めていた攻撃隊が順次、発艦させた。
第三艦隊ならびに第四艦隊空母群その他含めて、約100隻の空母から攻撃隊が飛び立った。その数はおよそ3500機。それらが数百機ずつ、紅蓮艦隊と三つの戦闘群に迫った。
ムンドゥス帝国側も、プロトヴォロス型航空戦艦から直掩の戦闘機を出して迎撃する。
しかしその数は約500機。一個艦隊規模の戦いであれば充分な数だが、さすがにこれだけの数は捌ききれない。
それでもクレックス戦闘機が果敢に日本軍攻撃隊に挑みかかれば、直掩につく陣風戦闘機がその上から覆い被さる。
20ミリ光弾機銃六門の猛射。そしてロケットのような加速は、新鋭のクレックス戦闘機をもってしても苦戦は免れない。
「新型と言っても――!」
六〇一海軍航空隊の鳥井 武志大尉は、レティクルの中に収めた敵機をすれ違いざまに切り捨てた。
「やり方は同じだ」
相手が何だろうと、敵機を見据えて突っ込み、機銃弾を浴びせる。衝突するのではないかというほど肉薄――しなくても弾道が真っ直ぐで光弾は当てやすいが、20ミリや12.7ミリの実弾で敵機を撃ち落としていた頃から戦っているベテランである鳥井からすれば、以前ならば絶対に当たらない銃撃でも、ほぼ命中させることができた。
弾道を予測し、必中の距離まで肉薄していたパイロットからすれば、光弾機銃は鬼に金棒であった。
しかし敵もさるもの。細長い三角形の機体は俊敏だ。胴体の20ミリ機関砲6門に加えて、必殺の光弾砲が瞬けば、標的となった陣風が粉微塵に吹き飛んだ。
敵もまた腕利きだ。赤いボディに灰色のストライプの入った機体は、紫の艦隊とは別のエリートであることを感じさせる。
だが――
味方攻撃隊に向かうクレックスを下方から上に上がった鳥井機が、その背後に回り込む。
「エントマほど、怖くはない!」
零戦で、高速機であったエントマ戦闘機と戦っていた頃。まだ自分も新人だったとはいえ、その姿を見ただけで恐怖を感じたエントマと比べれば、新型であろうともクレックスに恐れの感情はない。
性能が隔絶し、まともに戦えなかったあの頃とは、乗っている機も違う。烈風にしろ陣風にしろ、零戦とエントマに感じたものをクレックス戦闘機相手には感じないのである。
後ろにつかれたことに気づいたクレックスがダイブする。しかし陣風の速度からは振り切るのは困難だ。
「落ちろ!」
20ミリ光弾機銃が唸る。実弾系に比べて撃てる弾数が違うので、多少強引でも連続射撃ができる。
しかし敵機も逃げる。フラフラと右へ左へと躱す。地球のレシプロ機、ジェット機と違う挙動で飛ぶので、微妙に当てづらい。
気持ちの悪い飛び方をする!
鳥井が新たに射撃すれば、胴体の出っ張り――おそらくコクピット部分に猛連射の光弾機銃が命中。煙を引いてスピンし、そのまま海へと落ちていった。
あいつはもういい――鳥井は回避機動をとりつつ素早く周囲を確認する。無人機は随伴している。敵機よりも味方が多く、大半が追い回している状況だ。攻撃機に近づかせなければ、護衛の任は果たせる。
と、そこに味方の機が視界に入った。同じ中隊の有人機――しかし次の瞬間、片翼が吹き飛び、火を噴いて墜落していく。あの機体番号は――
「蜂須賀!」
よくも!――ただでさえ少ない有人機。それもこの決戦の場でやられるとは。鳥井の中で怒りが湧き上がる。蜂須賀機をやったクレックス戦闘機に追いすがる。が、すぐにとんでもない違和感をおぼえた。色が違う。
「こいつ――!」
空を泳いでいる。何故、そう感じたのかわからない。だが息を吸うように機銃や光弾砲が瞬くと、まるで吸い込まれるように陣風が撃ち抜かれ、そして爆散した。
周りは日本機だらけだというのに、隙間をぬってすり抜けていく。乗っているのは恐ろしく腕の立つパイロットだ。
「何者だ……? こいつ」
・ ・ ・
紅蓮艦隊、直掩戦闘機隊隊長であるエレミア・アグノス中佐は、クレックス戦闘機を操り、マリアナ諸島の空と飛んでいた。
相手は日本軍。多数の航空機が艦隊に迫っているので、それを撃ち落としてこいという任務だ。
物事はシンプルであるべきだ。エレミアは操縦球を操作し、クレックスを変幻自在に動かす。
大西洋艦隊から、皇帝親衛軍紫星艦隊へ。その後、新型機開発プランに招聘され、クレックス戦闘機の開発、テストに協力した。戦場を望み、配置は紅蓮艦隊の戦闘機となったが、あまり出番がなかったが、ここにきてきちんと決戦に参加することができた。
久しぶりの空中戦。彼女は空を泳ぎ、向かってくる日本機を迎撃した。新型――陣風との高速戦闘。勘で相手のコースが読めるエレミアが機関砲を撃ち込むと、敵機は銃弾の弾幕に飛び込み、墜落する。
「うーん、これもハズレ」
日本軍と言っても無人機ばかりではないか。エレミアはガッカリするのである。自動コアの動きを予測するのは簡単すぎて手応えがない。
「どこかに腕利きはいないかしら」
向かってくる敵戦闘機。こちらは攻撃機も撃墜しなくてはならないが、これだけ多いと部下たちは敵攻撃機を狙うどころではない。
「ま、あたしが敵機を撃ち落としていけば、そのうち味方も攻撃できるでしょう」
空中戦の隙間をぬっていくエレミア機。彼女が通る前をよぎった日本機はことごとくが火を噴いて墜落していった。




