第一二七五話、リサイクルの効率化
地球艦隊の補給作業は迅速に進められていた。
もっともまずは、航空戦から始まるという想定だったので、艦隊の補給完了は昼前までに終わればいいという考えで作業が行われていた。
とにもかくにも、廃墟となった都市戦艦『ウルブス・ムンドゥス』の周りの護衛艦隊を撃滅しないことには、上陸作戦はおぼつかない。
まずは空襲で敵を漸減し、補給が終わった後の水上艦艇でトドメを刺す、という流れであった。
一方で、余裕のある空母部隊では、夜間出撃した機の整備や修理が進行していたが、明け方に出撃する攻撃隊の準備については、概ね終わっていた。
それもこれも夜のうちに整備と補給を済ませた整備員と作業用整備ゴーレムが徹夜で作業していたおかげではあるのだが。
航空関係の補給は、水上部隊が『ウルブス・ムンドゥス』への肉薄、艦砲射撃を行っている頃にはすでに終わっていた。
だから現在の補給作業は、上陸支援と敵護衛艦隊を叩く水上部隊を中心に実施されていた。
そして、これとは別に、もう一つの修理、再生作業を行っている部隊があった。
航空隊の再編により空となった海氷飛行場44号、46号を中心としたそこには、ムンドゥス帝国から回収した星形桟橋が無数に展開し、そこに地球艦隊とは別に艦隊が存在していた。
魔技研の坂上 吾郎博士は、その様子を海氷飛行場44号の司令塔から眺めていた。昨日は、決戦兵器と目された海氷島の浮遊成功に歓喜したものだが、その策は都市戦艦の超兵器によって阻まれた。
それは残念ではあったが、だからといってお役御免というわけではなく、裏方として手伝えることは手伝うためにここにいた。
とはいっても、坂上にできることなどほとんどなかったが。
「で、実際のところ、どうなんだね、志下君」
「まあ、割と上手くいっているのではないですか」
志下 有造船大佐は淡々と答えた。
「搭載魔核は、きちんと指定のポイントへ戻ってきていますし」
「自動で戻ってくる沈没艦か」
坂上は呆れ顔になる。
「自分で家に帰ってくる忠犬のようではないか。回収艦いらずと言ったところか」
この海域に存在する艦艇の大半は、昨日、敵本営艦隊の南側より突入し、隊列を乱した無人艦隊の所属である。
艦隊内でジグザグ運用をやらかすことで、衝突事故を多発させた一発も撃たない艦隊。これら無人艦は、当然、本営艦隊から攻撃を受けて全艦が撃沈された。
鹵獲艦艇をそのまま送り出したから、異世界人たちにとっては自軍の艦艇を攻撃して沈めるという光景は、精神的にくるものがあっただろうが、放っておけば味方に被害が出るのでやむを得ないというところだっただろう。
使い捨て上等の回収艦の突撃かく乱戦法だったが、魔技研はこれらに細工を施した。
すなわち、自艦の沈没を感知したら、設置された転移離脱装置を発動させ、所定のポイントに戻ってこいという命令だ。艦を制御する魔核はその命令に従い、沈没状態から転移した。
転移ポイントは、異世界氷を水没させたプール状の海面。ここに沈没艦が乗り上げることで、排水と浮揚できるレベルの再生が行われていた。その後、星形桟橋に移動させられ、新たな魔核を搭載、古い魔核は改装と再生のエネルギーとして強制再生に利用された。
この新しい魔核に設定された改装図に従い、再生した無人沈没艦は、日本海軍の量産艦モデルの艦上構造物に変化し、武装も光弾砲系のものに換装された。
……つまり、砲弾の用意、装填が不要な光弾砲で統一することで、弾薬生産の負担が発生しないようにしたのである。
「砲弾は主力に回すので手一杯。無人の使い捨て艦に回す余裕はないというわけだ」
坂上が皮肉げに言えば、やはり志下は感情に乏しい声で答えた。
「光弾砲は、動力設備を砲塔に詰め込めば済みますから。その分、砲弾が選べませんから、他の艦隊と比べると、決め手には欠けますが」
「一式障壁弾が使えない。対空方面は、ちょっと落ちるね」
「とはいえ弾道はほぼ真っ直ぐですから、対空性能が低いわけではない」
志下は、星形桟橋から出航する無人戦艦を目で追う。鹵獲時そのままだったムンドゥス帝国のオリクト級が、地球側主力戦艦へと姿を変えている様は、やはりフネは艦橋や艦上構造物なのだな、という感想をいだかせる。
坂上は腕を組む。
「もう一つ前に戦闘があれば、今戦っている各国海軍の艦艇にも、この沈没からの自動回収のシステムが積めたかもしれないな」
「今さら言っても仕方のないことです。実際、全部のフネが戻ってきているわけではない……」
魔核の設置場所を攻撃によって吹き飛ばされ、制御不能となり、そのまま沈没した艦艇も少なくない。
「確かに回収の手間が大幅に省けるのは事実でしょうが、それで人死にが避けられるわけではありません」
「助かる命もあっただろう。それも事実だ」
そう言って、しかし坂上は首を横に振る。
「今さらだな。本当に」
「ええ、今さらです」
昨日の戦いで、多くの死傷者が出た。無人艦が増えても、有人の艦艇はあって、そこに人は乗り組んでいた。
その時、司令塔に警報が鳴り響いた。坂上は、とっさに異世界帝国艦隊による海氷飛行場群への奇襲攻撃を思い出した。
「敵か?」
「どうでしょうか」
志下は振り返り、管制士官や通信士を見た。
「何の警報かね?」
「グアムの補給拠点より艦隊転移の合図です」
通信士が顔を上げた。
「敵襲があった模様です」




