第一二六七話、最後の一撃
『ゴッドウィン・オースティン』の転移加速砲の砲撃は、主砲三基で、接近する日本戦艦三隻を、一瞬のうちに葬った。
その僚艦である『アンナプルナ』もまた三基の主砲でそれぞれ一隻ずつを狙い、こちらも三隻を轟沈させた。
八隻が進んでいた日本戦艦のうち六隻が瞬時に溶けた。もしこれが側面を向いて、同航戦か反航戦であったなら、第九艦隊の『薩摩』のように艦首か艦尾を失うだけで、すくなくとも一撃轟沈はしなかったかもしれない。
だが正面を向いて突撃していたことで、艦首から貫いてきた加速弾がそこにあるものを全て破壊し艦尾まで突き抜けた。内張りシールドがない艦艇では、こうもあっさり沈んでしまうのだ。
八隻のうち両側の六隻が沈み、中央にいた二隻は残った。第四艦隊旗艦である『かが』は、中央にいたことで生き残った。
「長官!」
平林 孝三参謀長は声を上げた。
「残っているのは本艦と『土佐』のみです!」
「……」
その瞬間、佐々山久雄中将は、1分以内に自分の命運が尽きるのを察した。
転移離脱を使うか? そうすればこの危機を脱することはできる。だがそれはできなかった。
何故ならば、彼は艦隊司令長官だからだ。唯一の僚艦となった『土佐』は無人艦で、これが沈んでも戦死者はでない。
が、率いてきた巡洋艦、駆逐艦の中には有人艦もあって、それらを捨て置いて指揮官が一時とはいえ離脱しては士気に関わる。せめて事情説明をする時間があれば別なのだろうが、おそらくあと1分も経たないうちに次の砲撃がきて、「かが」も吹き飛ぶだろう。
全艦離脱をする手ならば、間に合うだろうが、窮地の飛行場や味方護衛部隊を守るためにきて、早々に逃げ出すわけにもいかない。
佐々山は、臆病者になれなかった。
この残されたわずかな時間でできることは、敵超戦艦の戦闘力ないし航行能力にダメージを与えて、海氷飛行場群への攻撃を中止させることだ。それが果たされるためならば、本望というものだ。
しかし。
――すまんな。
『かが』に乗る乗組員たち。共に異世界に行き、苦楽を共にした参謀たちも助からない。転移室を使えば、平林ら参謀たちは助かるかもしれない。が、今この瞬間も『かが』を動かしている人員を捨て置いて、幕僚だけ逃げるということは、周りはもちろん本人たちも許さないだろう。
そうこうしているうちに『かが』、そして『土佐』が、艦首の主砲を放った。砲撃の間隔から、おそらくこれが最後となるだろう主砲射撃。それぞれ四門しか向けられなかったのが悔やまれる。だがそれも仕方がない。戦艦の変針には時間がかかる。全門を振り向ける前に、おそらく敵艦のほうが発砲しているに違いない。転移砲の類いであれば、もはや外さない距離だ。一発も撃てないより、たとえ四発でも撃ち込むのである。
ゴッドウィン・オースティン級戦艦の艦後部に転移砲弾が命中する。
元の大和原案、ちょう構想のままであるならば、あの艦の後部に戦艦級の主砲の直撃に耐えられる装甲はない。ヴァイタルパートの外だ。しかし裏を返せば、さほど重要ではない部分でもあり、そこに直撃したとして致命傷にはなりにくいとも言える。
だが、本当にそうなのか? 頭でっかちな日本海軍の設計が元になっているのだ。そもそもあの艦の設計自体、実用性もなにもない机上の空論の域から出ていない。何か、思わぬ災厄を引き起こす可能性もなくはない。
――最後は神頼み。出たとこ勝負か。
苦笑する佐々山。それにしても、敵戦艦の主砲がまだ撃ってこないが、発射間隔がかなり長いのではないか。
そんなことを思ったその時、光が瞬き、『かが』の艦体がひしゃげ、そして吹き飛んだ。
艦首から艦尾まで、一直線に転移加速砲弾が貫通し、遅れて大爆発を起こした。
佐々山 久雄中将以下、第四艦隊司令部は、全員戦死だった。
・ ・ ・
「敵戦艦、撃沈! 僚艦も残る1隻を撃沈しました!」
紫光艦隊旗艦、『ゴッドウィン・オースティン』の司令塔。皇帝親衛軍長官、ササ大将は、向かってきた戦艦8隻が全滅したのを見届けた。
『艦長、艦はどうだ?』
「最後の被弾が余計でした」
ラングー艦長は顔をしかめた。
「爆発でプロペラシャフト二本が歪んだようです。速度25ノット、いえ22ノットにまで低下しました」
『シールドを抜けられるとこんなものか』
弾薬庫や機関室には内張りシールドがある。だが艦を推進させるためのプロペラや舵は水面の下であると共に内張りの範囲外。魚雷でもなければそこにダメージがいくわけがないと考えていたら、艦尾内の爆発で推進軸が損傷することになるとは、何とも不運なことであった。
「艦尾側にも浸水がありまして、応急修理で埋めるまでは速度はさらに落ちるでしょう」
『外板の破損は?』
「魔核再生で、短時間で埋めるくらいはすぐに。プロペラシャフトの方は、一時的に後退してやりませんと」
少なくとも、戦いながら再生させられる部位ではない。
『艦隊には、海氷飛行場群への攻撃を継続させつつ、本艦は応急再生のため一時離脱。処置が完了次第、艦隊に合流する――』
ササがアンドラス参謀長を見れば、彼も頷いた。
「それがよろしいかと」
『では――』
言いかけた時、爆発の閃光が司令塔の窓から入ってきた。轟音、大爆発。それも近い。
「『アンナプルナ』被弾!」
ゴッドウィン・オースティン級戦艦の二番艦だった。それが艦尾から蹴飛ばされるようにつんのめったかと思うと爆発しながら沈みだした。
『もう1隻いた戦艦の最後の一撃か……?』
敵戦艦――『土佐』の41センチ転移砲弾の仕業か。そう考えたササだったが、それにしては爆発までのラグがあったことが引っかかった。
違和感と不吉な予感。そしてそれは的中する。ゴッドウィン・オースティン級超戦艦が、突然、下からの衝撃に襲われた。まさに後ろから蹴り飛ばされるような勢いだった。
『まさか……。海中から!』
そのまさかだった。海中から忍び寄り、35.6センチ連装転移砲10門を撃ち込んだその艦は、日本海軍初の超弩級戦艦『扶桑』だった。




