第一二六四話、加速砲の威力
「敵一番艦の、艦首側砲塔を破壊!」
ムンドゥス帝国紫光艦隊旗艦、『ゴッドウィン・オースティン』の司令塔。もたらされた報告に親衛軍長官ササ大将は、かすかに首をかしげ、アンドラス参謀長は目を見開いた。
「誘爆しませんでしたね」
『やはり威力過剰だったか』
仮面で素顔はわからないが、声にはかすかな驚きがあった。
今回の戦いのためにゴッドウィン・オースティン級超戦艦の主砲は、新型の転移加速砲に換装されていた。
この転移方式は、いわゆる地球側――日本海軍がもちいる砲身を通過する際に転移させるものとなっている。
新装備である加速砲――砲弾を従来よりもさらに加速させ、高初速、高貫通力を発揮させる――の効果を高めるために必要だったからだ。
加速砲の使用には膨大なエネルギーが必要のため、現状、艦載砲として運用できるのは大型戦艦のみ。しかもまだようやく実戦配備されたばかりの代物で、細々とした問題もある。
だが威力に関しては、凄まじいの一言であった。何せ命中した敵艦を砲塔ごと艦首をごっそり抉りとってしまったのだから。
「あまりに威力があり過ぎて、誘爆する前に砲塔が吹っ飛んでしまった……ということですか」
アンドラス参謀長は、どこか呆れの混じった顔つきになった。
「これは、従来の転移砲のほうがよかったのでは……?」
それならばあの日本戦艦は、今頃、弾薬庫を誘爆させて轟沈していたのではないか。
『どうかな。従来の転移砲は、内張りのシールドに対して効果が低い。もちろん当たり所にもよるのだが、一発轟沈とはいかない』
そもそも軍艦が、砲弾の一、二発で沈むということは、よほどのラッキーなことであり、本来はそうそうにあるものではない。
本来は、という言い方をしたのは、転移砲が使用され、爆発した場合致命的な被害をもたらすヴァイタルパート内への直接攻撃が可能になった結果、装甲の厚さも関係なく敵を破壊できるようになったからである。
つまり、本来そうそうあるはずのない一発轟沈が乱立するようになったのである。
『この新型が当たりか外れかは、この戦いを生き延び、検証して結論を出せばよい。今は、目の前の任務を遂行するとしよう』
一発撃った感触で、大体の使い方はわかった。
その間にも主砲の第二射が行われる。ササは、加速砲の発射の間隔がやや長いのが気になった。
次の発射までのおよそ1分かかっている。技術部の連中の言葉では、当たれば敵は一発で沈むので、多少次弾発砲が遅くても問題ないと言っていたが……。
『試射した段階で、この威力は連中もわかっていただろうに』
ササは呟く。狙いは、敵一番艦――戦艦『薩摩』の艦尾側砲塔二基とその周りをごっそり削り取った。しかし、やはり弾薬庫の誘爆はない。
ササは、艦長のラングー少将を見た。
『どうか、艦長?』
「やはり、一発目はまぐれではなかったようです」
たっぷりの口髭を生やしたラングー艦長は振り返った。
「敵はナガト級かその改造型と思われますが、この程度であれば、加速砲の出力を下げてもよいでしょうな。その分、発射間隔を短くできますし」
『任せる。せいぜい技術部の連中に実戦の結果というものを見せてやるとしよう』
「了解であります。……あー」
ラングー艦長は日本艦を見やり、声を落とした。
先頭の『薩摩』は主砲を失い、もはや浮かぶ的状態。砲塔誘爆を狙って撃った結果なので、『ゴッドウィン・オースティン』の砲手の腕前を賞賛すべきであるが、砲の威力は有り過ぎた。
僚艦は、後続していた長門型2隻を、こちらも洋上のスクラップに変えていた。三番艦――『陸奥』は命中した箇所が喫水に近かったためか浸水が止まらず傾斜しつつあった。
「敵戦艦は無力化しました。あれにトドメは必要でしょうか?」
艦長は、格は落ちるがまた交戦中の巡洋艦、駆逐艦部隊が相手をしている敵艦隊を攻撃すべきと暗に言う。無力化した敵に時間を割いて、味方の被害を増やすのも馬鹿らしい。
ササとしても、今回の襲撃の目標は、地球側海氷飛行場を使用できなくすることにある。大事でないなら、敵艦など放置してもよい。
『艦長、味方を支援してやりたまえ』
静かにササは命じた。ラングーは敬礼し、指揮に戻った。
だが――
突然、『ゴッドウィン・オースティン』に衝撃が走った。致命的ではないが爆発音もした。艦長は叫ぶ。
「何事だ!?」
「攻撃を受けました! 艦体右舷第4、第5区画に命中!」
シールドを抜けてきた。転移砲による攻撃か。
「攻撃を仕掛けてきた敵に対して反撃だ! 敵はどこから撃っている!?」
「不明です! レーダー、見張り所ともに該当する敵を確認できず!」
「何だと……。狙撃を仕掛けているつもりか?」
『艦長。対遮蔽装置を使用せよ』
ササは告げた。
『彼らが奇襲を警戒して対遮蔽を使っているかと思っていたが、もしかしたら『誰』も使っていなくて、隠れている奴がいるかもしれない』
盲点といえば盲点。襲撃に備えて対遮蔽装置を使っているはずだ、という思い込み。『ゴッドウィン・オースティン』は、紫色のランプを発光させつつ対遮蔽装置を発動させる。
すると、隠れていたそれが姿を現す。地球側の北欧の海防戦艦を改装したような小型巨砲の艦艇と、もう一隻――
「まさか……そんな――!」
ラングー艦長が驚き、そしてアンドラス参謀長も声を上ずらせた。
「馬鹿な……、何故こんなところに」
レマルゴス級超大型戦艦――全長600メートルの大戦艦。ここにいるはずのないそれが海氷飛行場を背にぬっと現れた。
それは日本海軍が回収した超大型戦艦。その名は『富士』。




