第一二六二話、明日のための飛行場潰し
『貴様たちに明日などない』
仮面の指揮官、紫光艦隊のササ大将は、旗艦『ゴッドウィン・オースティン』の司令塔で呟いた。
ようやく探り出した地球軍の海氷飛行場群。これに対して、帝国親衛軍の紫光艦隊は襲撃を仕掛けたのだ。
『明日以降、基地航空隊は使わせん』
マーシャル諸島の友軍の海氷飛行場は封じられている。航空機の支援でハンデを抱えたムンドゥス帝国軍だが、地球側にも同じ目にあってもらう。
夜のうちに、多数の爆撃機を抱える海氷飛行場群を叩いて、戦況を有利に持ち込むのだ。
ゴッドウィン・オースティン級戦艦は50センチ四連装砲を振り向けると、海上に浮かぶ海氷飛行場へ特殊砲弾を撃ち込む。
その一撃は、たちまちのうちに巨大な異世界氷の構造物を溶かしていく。
『テシス大将の置き土産だ』
特殊解氷弾――異世界氷の発明者であるヴォルク・テシスが開発した特殊砲弾は、氷の飛行場をたちまちのうちに消滅させる。
あの帝国の勇将を失ったのは、ムンドゥス皇帝にとっても大きな痛手だろう。親衛軍にとっても惜しい人物を亡くした。
「閣下」
通信参謀が報告した。
「ゲラーン隊が、補給中の敵艦隊を発見。これを攻撃しております」
『うむ』
地球軍は後方ということで、補給拠点としても活用していたということだ。彼らは基地航空隊の航続距離の範囲で、海氷飛行場群を展開させており、こちらが基地航空隊が活用できないことで安全を確保していた。
だがムンドゥス帝国側が、その一方的なアウトレンジをいつまでも許しておくわけがなかった。
「ここに補給拠点を置いていたのは、護衛戦力の節約といったところでしょうか」
アンドラス参謀長が言った。司令官席から、ササは首を動かす。
『そうだろうな。使える艦艇は、極力前線に回したいはずだ。護衛戦力は、最低限であろう』
地球人は、決戦を挑んでいるのだ。本音を言えば、海氷飛行場に護衛を置かずに、『ウルブス・ムンドゥス』攻撃に注ぎ込みたいはずだ。
そうしないのは、艦隊運動に支障がある旧式艦艇や小型艦艇ばかりだからであろう。つまりは、主力艦隊級の紫光艦隊の相手が務まるはずがない弱敵ということになる。
「海氷飛行場よりエネルギー反応! 転移ゲート使用の前兆あり!」
オペレーターが叫び、アンドラスは口元を緩めた。
「予想通り、敵飛行場は転移で逃げるつもりのようです」
『それはマーシャル諸島で散々見た』
ササは仮面の奥で不敵に笑った。
地球人が海氷飛行場群を転移で飛ばして、襲撃から逃げ回っていたことは記憶に新しい。
「ですが、個々に転移しないのは意外でした」
アンドラスは素直な感想を口にする。
「マーシャル諸島では、転移ゲートの使用は観測されていませんでしたが……」
『おそらく日本軍が、個々の転移装置を出し渋ったか、あるいは地球各国軍への配備が間に合わなかったのだろう』
個々の艦艇に装備するとなれば、転移装置の数も膨大な数があり、装備の工事も必要となる。しかし魔法陣型転移ゲートであれば、個々の装備がなくても一括で転移できる。
『多国籍軍というのは、そういうものだろう』
「……ガード、外してありますが」
アンドラスは皮肉げな笑みを浮かべた。
「長官は、これを読んでいらしたのですね?」
『ああ。我々も一緒に連れていってもらおう』
魔法陣型転移ゲートの光が広がる。残存する海氷飛行場とその護衛艦艇、補給部隊を巻き込み、それぞれ転移する。至近距離にまで踏み込んでいた紫光艦隊もろとも。
・ ・ ・
第一海氷飛行場群は、第二海氷飛行場群のすぐそばに転移した。
そこにはドイツ艦隊が補給を受けていて、さらに一緒に転移してきた紫光艦隊が攻撃を開始した。
海氷飛行場に解氷弾が着弾し、また一つその巨体をたちまち蒸発させられる。搭載されていた双発爆撃機の銀河やボーファイターが落下し海へ没する。
慌てたのは第二海氷飛行場群とそこにいたドイツ艦隊である。ドイツ海軍のハインツ・ヴェヒター少将は、第一海氷飛行場群と共に転移してきたイギリス艦隊――フィリップ・リンドン少将と連絡を取っていた。
『転移ゲートを使ったら、敵艦隊までついてきた!』
敵は、日本軍が言うところのシベリア送り戦法を警戒して、転移ガードを装備している。こちらの転移に巻き込まれないように対策しているのだ。
だが今回に限って、敵はガードをせず、そのまま転移してきた。
「敵がガードをしていないのであれば、転移で飛ばすことも……」
『いや、ガードがないのはこちらも同じだ。こう懐に飛び込まれている以上、我々も飛ばされることになる!』
その結果が、第二海氷飛行場群のとばっちり被害である。第一海氷飛行場群が転移しなければ受けるはずがなかった損害が発生している。
「とりあえず、全軍宛てに第二海氷飛行場群が敵の襲撃を受けていることを通知した! 懐に飛び込まれ、敵も転移でついてくるために離脱不可能と」
『救援が来るのか?』
リンドンが尋ねるが、ヴェヒターは唸る。
「正直、主力は前線に忙殺されているのだ。補給中の艦艇を急ぎ、戦闘状態に移行させているが、護衛艦艇で何とかするしかないのではないか」
『すまんが、私の艦隊は敵戦艦に潰されて、もうほぼ無力だ。そちらは?』
「『カイゼリン』と『シャルンホルスト』が補給艦から離れたが……それだけでは」
敵艦隊は、戦艦、巡洋艦多数と一個艦隊規模だ。とても少数の主力級やその他護衛艦艇で何とかなるものではない。
「提督、救援です!」
通信士官が駆け込んできた。
「日本軍第9艦隊が、転移にて急行しました!」




