第一二五九話、超大型戦艦・防衛網
ワーム砲の破壊は、第四艦隊に大きな被害を与えたが果たされた。
その報告はただちに通信で飛ばされ全艦隊に知れ渡る。
「ようし! 敵旗艦に突撃するぞッ! 全艦、針路変更!」
アメリカ太平洋艦隊を率いるウィリアム・ハルゼーは旗艦『ニュージャージー』の司令塔で叫んだ。
「エンペラーのケツを吹っ飛ばしに行くぞ!」
本営艦隊の間に飛び込み、ワーム砲から回避していたアメリカ艦隊は、ただちに敵都市戦艦『ウルブス・ムンドゥス』へとその艦首を向けた。
近距離での乱戦で、損傷した艦が多数を占めている。
18インチ砲搭載のアリゾナ級戦艦『ネヴァダ』『オクラホマ』が炎上しながらも、『ニュージャージー』に追従する。
後は乱戦の影響でてんでバラバラだった。護衛のクリーブランド級『フィラデルフィア』がついに洋上停止し、しかし残存する15.2センチ砲で、敵巡洋艦へ撃ち返す。フレッチャー級駆逐艦が、『ニュージャージー』の前を行き露払いを行う。
一方、日本海軍第一艦隊もまた、その針路を変えて、都市戦艦へ向かう。
「動ける戦艦は? 何隻残っているか?」
第一艦隊司令長官、新堂 儀一中将が尋ねると、倉橋参謀長が魔核制御室とリンクしたプロットボードから振り返った。
「16隻! 16隻が追従可能です!」
第一艦隊には、戦艦が50隻あった。敵プロートン級戦艦改装の改播磨型大型戦艦が半数以上を占め、量産戦艦であるオリクト級改装戦艦が残りを構成していたが、それらもここまでの連戦で半数以上が沈み、また脱落していた。
いや――
「むしろ全力発揮可能な戦艦が16隻も残っていると見るべきか」
「長官――」
「むろん、敵総旗艦に突撃だ」
艦砲射撃を仕掛け、皇帝の動く帝都を灰燼に変えてやる。それで戦争は終わりだ。
しかし地球艦隊の動きに、ムンドゥス帝国本営艦隊もまた果敢な動きを見せる。近距離での撃ち合いから、急に移動を始めた敵艦に追従すべく速度を上げる。
大破したプラクス級重巡洋艦が、ノロノロと日本艦隊の針路上を横断する。さながら壁のように。
そこで旗艦『相模』の前を行く第十一巡洋艦戦隊の重巡洋艦『伊吹』が増速すると、転移砲の砲撃をしながら防御障壁を全開にして、敵重巡洋艦の艦首方向から押し出すようにぶつかった。
シールドに弾かれ、敵巡洋艦が道を開けると、戦艦『相模』はその前を突っ切った。さらにその後を『播磨』『伊予』『飛騨』が続く。
重巡から軽巡洋艦に艦種変更になった『青葉』に率いられた第一水雷戦隊がその脇を固める。側面から流れてきた魚雷に吹き飛ばされる駆逐艦があったが、僚艦の仇とばかりに反撃し、追尾する敵快速艦を阻む。
敵艦隊を抜けて、開けた中央から一気に『ウルブス・ムンドゥス』との距離を詰めようとする米艦隊と日本艦隊。
しかし、そこへ多数の砲弾が、それぞれの艦隊に降り注いだ。
「なんだ……?」
突然の水柱が、『相模』の左舷方向を進む改播磨型戦艦を覆い尽くした。敵の一目標に対する一斉砲撃か?
「『陸前』大破!」
水柱で壁になったそこから、浮かぶ廃墟と化した戦艦がのっそりと姿を表した。艦橋がなくなり、もうもうと煙を垂れ流し、複数の被弾で甲板がボコボコに抉られ、燃えている。
「ヴァイタルパートは貫かれておらんようですが……」
倉橋参謀長が呻くように言えば、新堂は双眼鏡を覗き込む。あれだけ叩かれれば、轟沈しないだけで戦闘力は喪失したといっていい。
「陸前をやったのは……あれか」
双眼鏡に、都市戦艦に比べたら小さいが、他の艦艇より遥かに巨大な戦艦の姿を捉えた。
レマルゴス級超大型戦艦。全長600メートルを超える50万トン級戦艦。かつて鹵獲したレマルゴスは、大戦艦『富士』として使用されたが、それと同型の戦艦が、『ウルブス・ムンドゥス』の周りに複数、存在していた。
「艦隊の番人と言ったところか」
「主砲100門の大武装の戦艦ですな」
倉橋が苦虫を噛み潰したような顔になる。
「あれの集中砲火は厄介です。狙われれば、『陸前』のように……」
「狙われれば厄介だが、こちらでも倒せない敵ではない」
新堂は冷静に告げた。
「あの戦艦の主砲は16インチ砲だ。その防御力も対16インチ砲対策だ。播磨型の51センチ――20インチ砲であればその主要装甲は撃ち抜ける」
弾薬庫の防御も抜ければ、その多数の砲が誘爆のもととなるだろう。
「では、転移砲がある我々は、狙いさえつけられれば、超戦艦を沈めるのはさほど難しくない、と」
倉橋は顔を引きつらせる。
「その間に撃たれたら、逆に狙われた艦がおしまいですな」
「転移で距離を詰められれば楽だったのだが……」
「直進型転移は、こちらは装備していませんからね」
第四艦隊の艦艇ならば、むしろ可能だったのだが、それらはすでに大被害を受けて、後退している。
「敵艦隊に紛れて動けば、あの100門の集中射を回避できたかもしれません」
「あいにくと、そう都合よくは出来ていない」
新堂は皮肉げに返した。
「逆戻りするわけにもいかないのでな」
だが――と第一艦隊司令長官は言う。
「小沢長官の第三艦隊に具申して、夜間攻撃隊にあれを叩いてもらうというのはどうだろう? 転移誘導弾なら、全身弾薬庫であるあの超戦艦を沈められるのではないか?」
「なるほど。しかし、今から間に合いますでしょうか? こちらの砲撃の射程に入るほうが早いかもしれません」
「即応できるように、大なり小なり飛ばしているはずだ。なに、あの巨艦を黙らせるのに大規模な航空隊はいらない。やるだけやってみよう。――通信参謀!」
新堂は、通信参謀に小沢連合艦隊司令長官への支援要請の件を伝えさせる。それが終わると、再び視線を海上に向けて、ふと気づく。
――そういえば、我が軍の『富士』はどこに配備されたのだろう?
足が遅くて艦隊に随伴できないから突撃する主力からは外されたのだが……。




