第7話 初めての加護、そして銀髪の少女
ええい、こうなったら出たとこ勝負だ!
「おいおい、こっちは今お楽しみなんだから、邪魔しないでくれる?」
男の一人が、ニヤニヤしながら俺を睨みつけた。
相手は三人。こっちは丸腰。
どう考えても、勝ち目なんてない。
次の瞬間、男が拳を振り上げた。
「うおっ!?」
――まずい、殴られる!
その瞬間だった。
キィン!
頭の中で、何かが鋭く響いた。
(右から……ストレートが来る!)
なぜそう分かったのか、自分でも分からない。
けれど、考えるより先に体が動いていた。
俺は紙一重で拳をかわし、そのまま男の懐へと飛び込む。
ガラ空きになった腹。
俺は夢中で拳を叩き込んだ。
ゴンッ!!
鈍い衝撃が拳に伝わる。
「ぐっ……!」
男の体がくの字に折れ、そのまま後ろへ吹き飛んだ。
ドサッ
男は地面に倒れ、動かなくなった。
ハア、ハア……。
息が乱れる。心臓がうるさいくらいに鳴っている。
い、今の……俺がやったのか?
女神様の言葉が脳裏によみがえった。
『一つは、相手の動きを先読みする力。もう一つは、貴方の筋力を大幅に強化する力です』
――まさか。
これが、女神様の言っていた加護なのか……!
「なんだ、こいつ……今、一撃で……」
残った男たちの顔から、笑みが消えていた。
けれど、それも一瞬だった。
「くそっ! おい、二人でやるぞ!」
「おう!」
二人の男が、左右に分かれて俺を挟み込む。
……え?
ちょっと待って。
さっきのは、たまたまかもしれないんだぞ?
「お、おい、話し合おうぜ……?」
我ながら情けない声が出た。
当然、男たちは聞く耳を持たない。
「ぶっ潰してやる!」
左右から、拳が迫る。
――どっちだ!?
キィン!
再び、頭の中で鋭い音が響いた。
(右は顔、左は腹……!)
二人の拳が、ほとんど同時に迫ってくる。
考えている暇はなかった。
俺はとっさに腰を落とし、二人の拳の軌道から逃れる。
ブンッ!
拳が頭上をかすめた。
そのまま二人の勢いがぶつかり合い――
「うおっ!?」
「ぐあっ!」
ドシャッ!!
二人の男がバランスを崩して揉み合うように倒れ込む。
い、今だ!
「逃げるぞ!」
俺は少女のもとへ駆け寄ると、その手をつかんだ。
「えっ……!?」
「ごめん、ちょっと走る!」
返事を待つ余裕なんてない。
俺は少女を連れて、路地裏から一気に飛び出した。
背後から怒鳴り声が聞こえた気がしたが、振り返る余裕はなかった。
走れ、走れ、走れ!
足がもつれそうになる。
息が苦しい。
脇腹もじんじんと痛む。
それでも、俺は少女の手を離さず走り続けた。
どれくらい走っただろう。
ようやく人通りの多い大通りに出たところで、俺は足を止めた。
「ハァ……ハァ……。ここまで来れば、大丈夫か……?」
膝に手をつき、必死に呼吸を整える。
さすがに、もう追ってはこないよな……?
「……えっと」
少女の声が聞こえた。
「あっ……!」
そこで初めて、俺は自分が少女の手を握りっぱなしだったことに気づいた。
慌てて手を離す。
「ご、ごめん! その、逃げるのに必死で……!」
なんで俺、こんなに焦ってるんだ!?
「ううん、大丈夫よ。助けてくれたこと、感謝するわ」
少女は穏やかに微笑んだ。
ようやく息が落ち着いてきた俺は、改めて少女の顔を見た。
……あれ?
この銀髪、見覚えがある。
「もしかして、朝、市場で会った……?」
「あら、覚えていてくれたのね。私はリリアーヌ・ヴァレンシュタイン。貴方の名前は?」




