第5話 偶然の出会い
朝、目を覚ました俺は、家族と一緒に食卓を囲んでいた。
テーブルに並んでいるのは、硬いパンとスープ。スープには、ほとんど具材が入っていなかった。
うーん、前世のおいしいご飯が恋しい……。
「ナギ、ちゃんと食べなさいよ。まだ体が本調子じゃないんだからね」
母さんが心配そうに声をかけてくる。
「うん。ありがとう、母さん」
スープを口に運びながら、俺はふと思った。
この家は、あまり裕福ではないらしい。
元のナギの記憶によると、父さんも母さんも畑仕事をしている。それでも、暮らしにはあまり余裕がないようだ。
三日も眠り続けた俺を、家族はずっと心配してくれていた。
少しでも家計の足しになるなら、俺も働いたほうがいいだろう。
「……今日は街まで行ってみるよ」
思わず口にすると、母さんが驚いたように顔を上げた。
「あんた、まだ体が本調子じゃないだろう? もう少しベッドで休んだらどうだい」
「いや、大丈夫だよ。少し体を動かさないと」
前世のような配達の仕事はないだろうけど、街に行けば何か見つかるかもしれない。
それに、女神様のお願いも気になる。
あの様子だと、何か事情があるみたいだったし、情報収集もしてみよう。
朝ごはんを食べて早々に、俺は荷物をまとめて出発した。
荷物といっても、水筒くらいしかないけど。
どうやら、俺が暮らしているインガ村から街までは、徒歩で二時間ほどかかるらしい。
道中、何度か馬車とすれ違った。乗せてもらえたら楽なんだろうけど、今の俺にはそんな余裕はない。大人しく歩いて向かうことにした。
ようやく街にたどり着くと、そこにはまるで中世ヨーロッパのような光景が広がっていた。
市場には大勢の人が行き交い、あちこちから威勢のいい呼び声が聞こえてくる。
華やかなドレスを着た女性や、スーツにハットを合わせた男性の姿もあった。身なりからして、身分の高い人たちなのだろう。
俺は物珍しさにキョロキョロしながら、市場の中を進んでいった。
そのときだった。
「きゃっ!」
向かいから歩いてきた少女と、うっかりぶつかってしまった。
「あ、ごめん。大丈夫?」
少女が落とした荷物を拾い、手渡す。
地味なパッチワークのワンピースに、深くかぶった白い帽子。顔はよく見えない。
「ええ、ありがとう」
荷物を受け取った少女が顔を上げた。
その瞬間、目が合った。
若葉を思わせる、澄んだ黄緑色の瞳だった。
少女はさらりと銀髪をかき上げる。
その仕草に、思わずドキッとしてしまった。
「どうしましたか?」
じっと見つめてしまっていたらしい。少女の声に、ハッと我に返った。
「いや、なんでもないです……」
慌てて目をそらすと、少女は不思議そうに首をかしげた。
「そう。あなた、この街は初めて?」
「えっ、どうしてわかるの?」
思わず聞き返すと、少女はくすっと笑った。
「だって、さっきからキョロキョロしているんだもの」
そう言って、少女は市場の一角を指さした。
「あそこの果物屋は新鮮でおすすめよ。よかったら行ってみなさい」
「あ、ありがとう……」
俺がお礼を言うと、少女は小さく微笑み、そのまま人混みの中へと歩いていった。
……あー、びっくりした。
初対面の相手とあんなに話したのは久しぶりかもしれない。
それにしても、とても綺麗な人だったな……。




