第3話 目覚めた青年と幼馴染
「うっ……」
窓から差し込む夕日の眩しさに、俺は目を覚ました。
体のあちこちが痛い。
起き上がろうとすると、ギシギシと固いベッドが軋んだ。
「……ここは?」
上半身を起こして辺りを見回す。
そこは、四畳ほどの狭い部屋だった。
家具はほとんどなく、薄暗い室内を照らしているのは、窓から差し込む夕日の光だけだった。
……いったい、何があったんだ?
ぼんやりと考えていると、突然、勢いよくドアが開いた。
「ナギ……!」
中年の女性が駆け寄ってきて、俺を強く抱きしめた。
突然のことに、体が固まる。
「あんた、川に落ちてから丸三日も寝込んで、目が覚めなかったんだよ! 母さんも父さんも、どれだけ心配したと思ってるんだい!」
女性の声を聞いているうちに、頭の中に知らないはずの記憶が浮かび始めた。
川に流されたこと。
村の人たちに助けられたこと。
そして、この女性が自分の母親であること。
……そうか。
この記憶は、この体の持ち主のものなんだ。
名前は、俺と同じナギ。
どうやら俺は、川に流されて意識を失った青年の体に、魂ごと入り込んでしまったらしい。
「……ごめんなさい、母さん」
髪を後ろでまとめた母さんは、目元に少し疲れが見えた。
それでも、俺の顔を見ると、安心したように表情を緩めた。
俺は、なんとか声を絞り出した。
*
母さんに連れられてリビングへ向かうと、そこには父さんがいた。
父さんは短く刈った髪に、日に焼けた顔をしていた。
普段から口数が少ないのか、俺を見ても多くは語らなかった。ただ、その目の下には濃いクマができていた。
……ずいぶん疲れた顔をしているな。
俺が寝込んでいた三日間、ほとんど眠れなかったのだろうか。
父さんは俺の顔を見ると、ほっとしたように表情を緩めた。
「おお……意識が戻ったのか。まだ無理をするんじゃないぞ」
「……はい、父さん」
そう答えながら、俺は少しだけ胸が苦しくなった。
この人たちにとって、俺は大切な息子なんだ。
だけど、俺にとっては……まだ、知らない人たちだった。
「ナギ、そういえば隣の家のミレイちゃんが、何度もお見舞いに来てくれたんだよ。今度会ったら、ちゃんとお礼を言いな」
母さんの言葉に、俺は首をかしげた。
ミレイ?
頭の中を探ると、少しずつ記憶が浮かんでくる。
ミレイ。隣の家に住む、俺より一つ年下の幼なじみらしい。
いったい、どんな子なんだろう。
そう考えていた、そのときだった。
ドンドンッ!
古びた玄関のドアが、勢いよく叩かれた。
「ナギ!」
返事をする間もなく、一人の少女が駆け込んでくる。
栗色の髪は緩やかに波打ち、後ろで一つに編み込まれていた。走ってきたせいか、頬はほんのり赤い。
「ナギ! 目が覚めたの!?」
少女は俺の姿を見るなり、ほっとしたように表情を緩めた。
「よかったぁ……! 本当に、心配したんだからね!」
そう言いながら、俺の顔を覗き込んでくる。
近づいた拍子に、ふわりと甘く爽やかな香りが鼻をくすぐった。
金木犀のような、どこか懐かしい香りだった。
「どこか痛いところはない? 頭は? ちゃんと歩ける? 気分が悪くなったりしてない?」
「え、えっと……大丈夫だよ」
「本当に?」
少女は俺の顔をじっと見つめ、心配そうに体のあちこちを確かめようとする。
そのたびに、柔らかな胸元が近づいてきて、俺は思わず目のやり場に困った。
……いや、落ち着け。相手は心配してくれているだけだ。
「うん。本当に大丈夫。心配してくれてありがとう」
俺がそう答えると、少女はようやく安心したように息を吐いた。
「……よかった」
その笑顔を見て、俺は少しだけドキッとした。
……この子が、ミレイか。
記憶の中にある幼なじみと、目の前にいる少女。
同じ人物のはずなのに、俺にはまだ、どこか不思議な存在に思えた。
序盤で強キャラ幼馴染の登場です。はあー、お節介な幼馴染に身の回りのお世話されたい。モーニングコールとかされたい。
次回からは、しばらく週2回のペースで投稿します。




