第2話 女神様のお願いは、ちょっと重すぎる
「貴方は、すでに死んでいるのです」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
死んでいる……死?
「……えっと、俺、死んだんですか?」
「はい」
「……そっか」
いや、そっかじゃないだろ。
頭では理解したつもりでも、どうにも実感が湧かない。
さっきまで普通に配達していたはずなのに。いったい、何があったんだろう。
「……ということは、ここは死後の世界なんですか?」
「いいえ、そうではありません。ここは時空の狭間。通常の世界とは異なる時間が流れている場所です」
「……へえ」
説明を聞いても、正直よく分からない。
俺がどう反応すればいいのか困っていると、女神セレスティアは静かに口を開いた。
「ナギ。貴方には、これから別の世界に転生していただきます」
「……転生?」
「ええ。そして、そこである一人の少女を救ってほしいのです」
「少女……?」
いきなりそんなことを言われても、困る。
そもそも俺、人を救うような立派な人間じゃないんだけど。
「その少女の名前は、リリアーヌ・ヴァレンシュタイン。いずれ世界を救う宿命を背負った者です」
リリアーヌ・ヴァレンシュタイン。
初めて聞く名前だ。
もちろん、どんな人なのかも知らない。
「……その子を救えばいいんですか?」
「はい」
「いや、でも俺、普通の人間だし……これといった特技もないんですけど。そんな大事なこと、俺にできるんですかね?」
完全に人選ミスだと思う。
できれば、もう少し別の人を選んでほしい。
「その点は心配いりません。私が貴方に力を授けましょう」
「……力?」
「これから貴方が向かう世界には、魔法と剣が存在します。そこで生きていくために、私の加護を授けるのです」
セレスティアが指を一本立てた。
「一つは、相手の動きを先読みする力。もう一つは、貴方の筋力を大幅に強化する力です」
「……先読みと、筋力強化?」
「ええ。剣を扱う際にも、きっと役に立つでしょう」
まるでゲームみたいだ。
そういう世界に憧れたことがないわけじゃない。だけど、実際に自分が行くとなると話は別だ。
「……ちなみに、その力があれば、俺でもなんとかなるんですか?」
「もちろん、加護があれば何もかも解決する、というわけではありません。貴方自身の努力も必要になります」
「……ですよねぇ」
そんなに甘い話はないらしい。
まあ、何の努力もせずに生きていけるほど、世の中は都合よくできていないか。
「それに、貴方にしか頼めない事情もあるのです」
セレスティアの表情が、少しだけ真剣になった。
「本当なら、私自身がその少女を救えればよいのですが……世界の管理者である私には、直接介入できないという制約があります」
「……女神様でも、できないことがあるんですね」
「ええ。私も万能ではありませんから」
そう言いながら、セレスティアは少し残念そうに目を伏せた。
女神様にも、いろいろ事情があるらしい。
それにしても、俺にしか頼めない、か。
そんなことを言われても、あまり自信はないんだけど。
「……まあ、前の世界でも、これといってやりたいことがあったわけじゃないですし。新しい世界で暮らすのも、悪くないのかもしれませんね」
どうせ帰れないのなら、いつまでも悩んでいても仕方がない。
それに、魔法や剣がある世界というのは、少しだけ興味がある。
……危ない目に遭うのは、できれば遠慮したいけど。
「ふふ。そう言ってくれると思っていました」
セレスティアは、ほっとしたように微笑んだ。
「それでは、さっそく転生していただきましょう」
「えっ、もうですか?」
「時間がありませんので」
「……あの、もう少し説明とか――」
「細かいことは、新しい世界で暮らしながら学んでください。まずはリリアーヌを探すこと。そして、彼女を救うこと。頼みましたよ」
「……うーん。いきなり大役ですねぇ」
もう少しこう、ゆっくり新生活を始めるわけにはいかないんだろうか。
そう思ったものの、女神様はすでに話を終えた様子だった。
セレスティアはどこからともなく杖を取り出すと、ゆっくりと振りかざした。
「それでは、ナギ。貴方の新しい人生に、女神の加護を」
次の瞬間、不思議な光が全身を包み込む。
「あ、ちょっ……!」
待って。
心の準備が、まだ――。
そんな言葉を口にする間もなく、俺の意識は再び遠のいていった。




