第1話 女神様、ハンバーガーを食べてみる
ふと目が覚めるとそこは真っ白な空間だった。
周りを見渡しても終わりのない白。
そして目の前に、腰まで届く美しい金髪の女性がいた。
透き通った青い瞳に、整った顔立ち。まるで物語に出てくる女神様みたいな人だった。
「……ようやく来ましたね、ナギ。
貴方に救って欲しい人がいるのです」
*
高校を卒業してから、特にやりたいことも見つからなかった俺は、配達の仕事を始めた。
いわゆるフードデリバリーってやつだ。
自転車で街を走り回って、注文された料理を届ける。体を動かすのは嫌いじゃないし、必要以上に人と話さなくてもいい。俺にはそれなりに合っていた。
「さて、今日もひと仕事しますか」
俺はスマホで注文を確認し、自転車を走らせた。
今日の配達品は、いつものファストフード店『マルドナルド』。
店で商品を受け取り、袋の中身を確認する。ハンバーガーとポテト、オレンジジュース。よし、間違いない。
あとは届けるだけ。
そう思って配達先の住所を確認した俺は、思わず眉をひそめた。
「……ん?なんだこれ」
画面には、見覚えのない長いカタカナの住所が表示されていた。
こんな場所、地図に載ってたっけ?
とりあえず地図アプリを開いてみる。けれど、現在地を示すマークがぐるぐると回るばかりで、目的地は表示されない。
「うわぁ……これ、どうすればいいんだよ」
キャンセルするべきだろうか。
そう思って画面を操作した、そのときだった。
「……あれ?」
急に頭が重くなった。
視界がぐらりと傾き、足元がふらつく。
まずい。
地面が近づいてくるのを見ながら、俺の意識は真っ暗になった。
*
「……ん」
目を開けると、そこは真っ白な空間だった。
上半身を起こし、周囲を見回す。
壁も、天井も、床も、全部が白い。どこまでも続いているように見えるのに、まぶしくはない。
困っていると、目の前に一人の女性が立っていることに気づいた。
長い金髪に、透き通った青い瞳。白い衣をまとった姿は、現実離れするほど美しい。
……こんな美人、今まで会ったことないぞ。
「……えっと、どちら様ですか?」
「私は女神セレスティア。ようやく来ましたね、ナギ」
「……女神様?」
思わず聞き返した。
女神様。女神様って言った?
「……すみません。人違いじゃないですか? 俺、そんな大層な人間じゃないと思うんですけど」
「ナギは貴方のことでしょう。ハンバーガー、ちゃんと受け取りましたよ。一度食べてみたいと思っていたのです」
セレスティアは腕に抱えていた紙袋を持ち上げた。
「……え?」
紙袋のロゴを見て、俺は目を丸くした。
それ、さっきのハンバーガーの袋じゃないか。
「もしかして……さっきの住所って」
「ええ、ここです。ずっと気になっていたのです。人間たちが、あんなにもおいしそうに食べているものが」
セレスティアは嬉しそうに紙袋を開けた。
中からハンバーガーを取り出し、包み紙を丁寧に剥がす。
そして、一口。
「……っ!」
青い瞳がぱっと輝いた。
「おお、おいしい……!この香ばしいパンに、肉の旨味……!それに、このソースが絶妙ですね。なるほど、人間たちが夢中になるわけです」
俺が呆然と眺めていると、セレスティアはあっという間に最後の一口を食べ終え、満足そうに息をついた。
「はぁ……素晴らしいです。これは、忘れられない味になりそうです」
「……それは、よかったです」
なんだろう。
女神様を相手にしているはずなのに、拍子抜けだ。
「えーっと、配達も終わりましたし……俺、そろそろ帰ってもいいですか?」
おずおずと尋ねると、セレスティアはにっこりと微笑んだ。
「残念ですが、それはできません」
「えっと……それって、どういう意味ですか?」
セレスティアは、先ほどまでの楽しそうな表情を変えずにこう言った。
「貴方は、この世界に来た時点で――すでに死んでいるのです」
初投稿作品です。
まずは3話まで一気に投稿しますので読んでいただけると嬉しいです。




