田豊の妙論
明白であった。私の前世における組織管理の眼界と、歴史の走向に対する冷徹な先見の明(データ把握)の凄まじさが、この河北第一の智者の魂を完全に震撼(調伏)させたのだ。
しかしながら、居並ぶ頭領たちがこの大別山の壮大なロードマップの余韻に浸るよりも早く、営帳の外から中軍の伝令兵が放つ激しい急な馬蹄の響きが地鳴りの如くに伝わってきた。
鄴城の袁紹大営から直々に発給され、鮮血の如き硃紅(朱色)の大印が捺された、正式な朝廷の任官状(辞令)が、私の公机の前へと丁重に呈遞(提出)されたのである。
伝令兵は、袁紹の降した最新の人事(任命)を大声を張り上げて宣読した。
「――左軍副主将、中軍千夫長を務める龍を、同時に全軍の『回収千夫長(收尸千夫長)』に任命する。全権を以て、袁氏の麾下にある各州、すべての戦場における死体回収、戦後清算、および負傷損耗に関する事務の全体を総轄せよ」
この最高の中軍の人事(命令)が放たれた瞬間、大幕の一角で静かに首を縦に振っていた田豊の面色が、驟然(突如として)大変貌を遂げた。さっきまでの賛許(納得)の首振りは、この一瞬において、突兀(激しい)たる拒絶の首振りに変わっていたのである。
数ヶ月のあいだ完全に沈黙を守り続けていた北方第一の大脳は、この刻、袁紹の降したこの荒唐無稽な詔書によって、その体内に宿る知略の火(智略之火)を一瞬にして文字通り爆発(点燃)させた。彼は猛然と一歩前へと踏み出すと、その両手を背中で倒背(組みながら)、私を見据えて、一字一字が剃刀の刃の如くに鋭利な、生々しい一条の妙算(逆説的な大精算)を響かせた。
「龍副主将! あなたが先ほど沙盤の上で弾いてみせたあの大別山の割拠図は、戦略地縁のロジックにおいて、確かにこれ以上ない絶妙の生路(活路)にございます。天下の大勢は、未来において必ずや曹、劉、孫の三足鼎立(三国時代)の死局へと突入し、あなた方の数千の兵馬があの大別山の天険に隠匿(開荒)したならば、確かに左右のパワーバランスを握る『第四の勢力』として、従容(優雅)に生き残る権利を手にするでしょう」
田豊の声は沙啞(嗄れて)いたが、此時はさながら引き抜かれた鉄剣の如き鋭さを放ち、机の上の任命書へと真っ直ぐに指し示された。




