↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三国破産清算人:官渡の泥濘から這い上がる、猛将文丑と戦場不良債権の処理記録  作者: 倦犬Kenken


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/63

完全に帰心(参画)を果たすその決定的な刻(きっかけ)を、静かに、しかし確固たる計算を以て待ち続けている

帳が押し開かれ、満頭(頭の全体)を花白に染めた田豊が、老陳の手を借りてゆっくりと馬車からその足を降ろした。彼の身体は相変わらず消痩(痩せこけて)てはいたが、此時はすでに清潔な布衣(衣服)へと着替えを済ませていた。その深邃なる眼眸が、この大乱の廃墟のなかにありながらも、号令はどこまでも厳明であり、一人一人の瞳のなかに鋭利な戦闘力を宿らせた「七千人の左軍」の建制(組織インフラ)を一瞥したその刹那、彼の眼の奥底には、隠しきれない驚訝(驚き)の色彩が鮮烈に閃いたのである。


私は文醜のあの大いなる中軍主帳のすぐ傍らに、田豊のために単独で一間の、相対的に独立した広々として乾燥した営帳(オフィス)を厳格に設定してやった。その内部には、張義が附近の県衙の遺物からディグ(回収)してきた大量の簡牘(木簡)や竹帛(古文書)を美しく並べただけでなく、さらに心が細やかで実務のこなせる五人の老兵を配した「伍長(護衛隊)」の編制を直々に割り振り、名正言順に、彼の日常における衣食住の管理と安全の護衛(セキュリティ)を完全に司らせたのである。


田豊は、私たちの構築したこの要塞(キャンプ)のなかに完全に定住(入住)した。

彼は、文醜という名のこの往時における河北の上将に対しては、未だ名士特有の清高(プライド)を崩さず、その態度は付かず離れず(不鹹不淡)の冷淡さを維持していた。しかしながら、名義の上では左軍の副主将であり、実質的な最高責任者(掌舵人)であるこの私に対しては、その態度に僅かながらの客気(敬意と礼儀)を滲ませるようになっていた。


毎朝の清晨、あるいは深夜の刻、私たち中枢の人間が中軍の大幕に集まり、沙盤(ジオラマ)の泥を囲みながら軍需物資の出納を精算し、中原の地政学の走向を反復推演(シミュレーション)していると、田豊は時折、その両手を背中で倒背(組みながら)、緩やかな足取りで大営の中へと歩み入り、防線の外囲(外側)に静かに直立して、私たちの会話(データ)に耳を傾けていた。


しかし、彼はただの一度も自らの口を開いて発言(介入)をしようとはしなかった。ただ、その蒼老でありながらも恐るべき鋭利さを宿らせた二つの瞳を、天下の地政学のすべてを極限まで精算し尽くしたあの沙盤のデータの上へ、そして沙盤の南西の隅に位置する、鉄条を以て深く重々しく刻み付けられたあの「大別山(たいべつざん)」脈の陰影の上へと、死物狂いでロック(凝視)し続けているのだった。


彼は、私たちという組織を仔細に観察(監査)していた。そして私たちもまた、この北方第一の大脳が、自らの意志を以て我が籠のなかへと完全に帰心(参画)を果たすその決定的な刻(きっかけ)を、静かに、しかし確固たる計算を以て待ち続けているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。