袁紹中軍
酒楼を出た私は戦馬の背へと跨がり、顧墨や老陳を連れて、さらに一歩踏み込んで審配の邸宅へと足を運ぼうとしていた。その刹那、街道の向こう側から突如として、数百人規模の軍丁(兵士たち)が津波の如くに湧き起こってきた。
彼らは誰もが神色を激しく慌張(狼狽)させ、ただ往来の人間を力任せに駆逐(排除)することだけに血を走らせ、周囲の顔を仔細に見つめる余裕すら失っていた。その一人が、私の身に纏う千夫長(大隊長)の軍服を目にするや、息を切らせて慌ただしく叫んだ。
「主公(袁紹)のお出ましだ! 急ぎ隊列を整え、お迎えせよ!」
私が眼を凝らして前方を張望(凝視)すれば、袁紹の率いる中軍の主力が、まさに鄴城の主街道を厳然と進軍してくるところであった。私が馬から降りて拝礼の陣脚を整えようとしたその瞬間、戦馬の上の袁紹が、すでにこちらの姿をその視界に捉えていた。彼は遥か遠方から鞭を振り、大声を掛けた。
「――そこにいるのは、文醜の副将ではないか?」
私は大急ぎで下馬し、泥土の上に膝を突いて臣下の礼(行礼)を捧げた。
袁紹は一体如何なる因果か、本日の情緒(機嫌)はすこぶる良好であるように見えた。彼は馬のたづなを引き締めると、上座から私を一瞥した。
「貴様、何の実務があってこの鄴城の地へ至ったのだ? 文醜は同行しているのか?」
私は脳裏の算盤を神速で弾き、臨機一動(機転を利かせて)の嘘をその場に滑り込ませた。
「報告申し上げます、主公。不肖の身、本日はかつて私に学問を授けてくださった授業の恩師(先生)に拝謁するため、この地を訪れた次第にございます」




