金でやはり自由を得られないのか、ならせめて…
「……まさか、貴様の仕業(理由)だというのか?」彼は言葉を一度区切り、自嘲の色彩を以て眼を閉じた。「老夫とて、内心で奇異とは思っていたのだ。本初の器量を以てすれば、大敗を喫したという報を耳にしたその瞬間、羞憤(恥じ入り)のあまりに真っ先に使者をこの牢へ送り、老夫のこの首(頭部)を跳ねさせているはずだった。それが、二ヶ月もの時間を待たされてなお、老夫の元に届いたものはこの遅すぎる活命(永らえられた命)であった。貴様が、その背後で何ごとかの手腕(小細工)を施していたというのか?」
私は直截には答えず、ただ彼の眼光を真っ向から受け止め、その口元に冷徹にして温和な一抹の微笑(微笑み)を浮かべて見せた。
その後、私は一字一字を噛み締めるようにして、彼に向けて低く言い放った。
「先生の身に宿るその通天の知恵は、本来であれば天下の蒼生(民草)を救い出すために使われるべき大いなる資産にございます。これほどの経天緯地(天下を動かす)の経世の頭脳を、あのような無能な蠢夫や庸才(凡俗ども)の引き起こす内耗(足の引っ張り合い)のなかにあって、白白(無駄)に消滅(精算)させてなるものですか」
私の言葉を聞き終えた瞬間、田豊のあの頑固にして剛直を以て天下に知られた面顔(顔)のうえに、あろうことか破天荒(前代未聞)なまでの深い沈思(思索)の影が落ちた。彼はゆっくりと沈吟(黙り込み)して言葉を発さず、その枯槁(枯れた)した無骨な手は、床の枯草のなかで僅かにぎゅっと握り締められていた。最高峰の聡明な頭脳を持つ彼であるならば、私の浮かべた微笑み、そして此時の鄴城高層の放つ詭異(奇妙)なまでの平穏な空気のデータから、一つの真実を完全に理解(精算)していた。
――目の前に立ち並ぶ、この一介の卑微(格下)に見える若き千夫長が、自分の感知し得ぬ背後において想像を絶する莫大な資産(賄賂)を動かし、審配や郭図の毒辣な讒言の下から、自らの命を力任せに買い戻して(贖い出して)おいてくれたのだ、という事実を。
私は牢房のなかに長居をしようとはしなかった。点到即止(必要なことだけを告げて退く)ことこそが、最高峰の公関(交渉)の手腕であるからだ。




