鄴城(ぎょうじょう)の天牢の底から、田豊(でんほう)の首(頭脳)を、私たちの本当の籠へ回収して連れていくのですわ
「龍よ。袁本初という男は、もはや老子(俺)が命を懸けて付き従うに値する老闆(経営者)ではないな」文丑がその書類をひったくって一瞥し、ゴミのように地面へと投げ捨てると、手にした大刀を床へ向かって轟然と突き立てた。その声は沙啞(嗄れて)いたが、悶雷の如き確固たる響きを宿らせていた。「この天下の諸侯どもがこれから先、いかにして泥仕合を演じようが、そんなことは老子の知ったことではない。だが今日から、この山に残された七千を超える河北の弟兄たちの命、そして俺たち文丑のこの首のすべては、この絶望の泥沼の中にあって、お前の弾くその算盤(計算)のデータだけに全幅の信頼を預ける(全指望)。お前がどこへ向かって刀を振るえと言うのなら、老子は断じて振り返りはせんぞ」、
私は手を軽く振り、彼ら中枢の人間を一処へと集まらせた。手にした一本の鉄条(鉄の棒)を以て、つい先ほど張義の手によって精密に作り上げられたばかりの最新の沙盤(ジオラマ模型)の泥の上に、シンプルな九州(天下)の形状をなぞり、長江と黄河の二大河川を素早く採掘(描画)していった。そうして、長江の中流と下流が交錯する地政学的な一角の山脈を指し示しながら、静かに言い放った。
「天下の大勢は今まさに風起雲涌(激動)のなかにありますが、世に並びいる大多数の諸侯や謀士(軍師)たちは、全員が一つの致命的な経営ミス(エラー)を犯しています。――彼らの眼は、常に青州、冀州、荊州、徐州、益州、揚州、あるいは江東といった巨大な大郡(巨大市場)の利権だけに囚われ、そこで血で血を洗う奪い合いを繰り返している。しかし彼らは、その戦火の真ん中にありながら、三つの州の境界を跨ぎ、連綿と数千里にわたってそびえ立つ『巨大な地理的死角(脆弱性)』の存在を、端から完全に失念(忘却)しているのです。……それこそが、大別山脈にございますわ」
居並ぶ武将たちはただ唖然としてその言葉に耳を傾けていたが、張義、顧墨、老陳の三人は、その地政学的ロジックの凄まじさに何度も激しく首を縦に振った。文丑は最初こそ唖然としていたが、次いで、その熊の如き巨瞳の奥に深い確信の光を宿らせ、重々しく頭を縦に振った。
「私たちの手元にあるリソースは人単勢孤(弱小)であり、正面突破の他の選択肢は存在しません。この広漠たる山脈の土地こそが、私たちが誰の目を惹くこともなく、独自の防衛インフラを拡大(開荒)させていくための、最高峰の聖地となります」私は金威が差し出してくれた熱い茶を一口すすり、冷徹に言葉を区切った。「――しかしながら、大別山へと私たちの全資産(七千人の命)を移動させる前に、私たちは必ず、一処の絶対の清算を完了させねばなりません」
全員の視線が、一斉に私の顔面へと集中した。私は手元の木机を、静かに、しかし確固たる力でトントンと叩いた。
「鄴城の天牢の底から、田豊の首(頭脳)を、私たちの本当の籠へ回収して連れていくのですわ」




