「文」という破れた戦旗
袁紹軍の全軍には、およそ四、五の収屍大隊が存在し、それを一人の収屍千夫長(千人隊長)が総括していた。
その下には大隊長、中隊長、小隊長、そして伍長といった分層構造の階級(組織図)が敷かれている。
私が所属する左軍収屍大隊は、総勢で三百人あまり。その全員が、卑微でありながら同時に狂気を孕んだ亡命之徒(ならず者)の集まりだった。この、どこにも逃げ道(退路)のない絶望的な軍営にあって、死人の身体に残された一口の冷や飯や、まだ破れていない一枚の衣服を奪い合うため、兵卒たちは毎日、頭から血を流して殴り合いの喧嘩を繰り広げていた。
私は一丁の武芸も持ち合わせてはいない。ただ前世で培った危険に対する野生の直感と、清算人としての城府(老獪な計算)だけを頼りに、死人の山のなかを連滾帯爬(這う這うの体)で進みながら、密かに活命の火種(生き残るチャンス)を探し続けていた。指を折って数えてみれば、この不運極まる最底辺の収屍兵の肉体に乗り移ってから、すでに十日あまりが経過している。
さらに悪いことに、我らが小隊長の黄皮は、陰険にして毒辣な悪党だった。彼は五十人ほどの底辺を管理しており、ある意味では我々の生殺与奪の権を握っている。彼は、私が彼に対して一切頭を下げず、阿わ(おもねる)うとしないその不遜な態度を激しく厭悪(嫌悪)しており、事あるごとに公報私仇(私怨による嫌がらせ)を働き、戦場を捜索するたびに私を最も危険な最前線へと放り込んできた。
何度か、どこからともなく飛来した冷箭(流れ矢)が私の耳元を鋭く掠めていき、そのたびに私は凍りついた死馬の腹の下へと死に物狂いに身を隠すことで、かろうじて一命を拾い上げていた。
毎夜、私は恐怖と全身の傷痛のために深い眠りにつくことすらできず、配給される夥食(飯)にいたっては、砂の混じった一碗の薄い泥粥という、あまりに哀れなものだった。
隊のなかには、もう一人「老陳」と呼ばれる老練な老兵がいた。彼は骨の髄まで油滑(ずる賢い)な男で、常に周囲のすべてを冷徹に傍観していた。他人の死屍を踏みつけてでもいつでも逃亡する準備を整えている彼は、私のような新兵を百倍もあざ笑い、そればかりか、私がいつ息絶えるかを今か今かと待ち構え、その瞬間に私の足元からあのボロ靴と衣服を真っ先に剥ぎ取ろうと、すでに私の体格を暗暗(裏で)値踏みしているかのようだった。
(……ふん、従業員福祉の横領に、職場における悪質な霸凌か。この手口、前世のブラック企業で嫌というほど見届けてきた。無能な管理職がこれほど露骨に底辺の命を絞り出し始めるということは、この会社の気運(寿命)がすでに崩壊の臨界点に達している証拠だ)
私は口元の血痕を拭い、心の中でそんな無聊比較を弾きながら呟いた。
「私が死ぬ前に、何か精算できる仕事はあるか?」
転機は、転生してから十三日目の黄昏に、突如として激しく降臨した。
そこは、曹操軍による奇襲を受けた直後であり、鼻を突く硝煙と血生臭い匂いが充満する、見渡す限りの荒涼とした河灘(河原)だった。暴雨がようやく初歇(降り止み)した天辺には、惨烈なまでに紅い晩霞(夕焼け)がへばりつき、地表を埋め尽くす死水(血の池)を、まるで冥府の如き悍ましい色彩へと照り返していた。
黄皮は皮鞭を振り回しながら、兵卒たちに捜索の速度を上げるよう狂ったように催促している。私は一本の重い粗木棒(木の棒)を手に提げ、足首まで浸かる粘り気のある爛泥の中に、深一脚浅一脚(一歩ごとに足を取られながら)と足を進めていた。
地勢の低い一処の水溜まりを通り過ぎようとしたその時、私は突如として足取りを止めた。
前世において、破産清算人として培われてきた「優良資産」に対する病的なまでの鋭敏な直感が、私の眼光を、戦馬の蹄によって文字通りズタズタに踏み荒らされた前方の乱石堆(岩場)へと、死に物狂いに釘付けにさせたのだ。
そこには、百錬の精鋼で鍛え上げられた重甲を纏った、明らかに袁紹軍の中枢を護衛する精鋭の侍衛たちの死屍が、数十具も横七縦八に転がっていた。そして、それらの死屍のまさに対中(中心)において、大火によって半分以上が焼き焦げ、大腿ほどの太さを持った一本の黒色の大纛(総大将の軍旗)が、半ば折れ曲がったまま泥濘の中に斜めに突き刺さっていた。焦黒の断旗の表面には、肉眼を以て、金線で刺繍され、今は他人の血によって黒ずんだ一文字の暴烈な大字が、はっきりと認識できた。
――「文」。




