↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三国破産清算人:官渡の泥濘から這い上がる、猛将文醜と戦場不良債権の処理記録  作者: 倦犬Kenken


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/64

倉亭(そうてい)死守について

「龍(りゅう)よ、今日中軍の主帳から知らせが届いた。袁本初(えんほんしょ)は黄河の畔に各部隊を召集し、倉亭(そうてい)まで退いて死守する構えだ」


深夜、文丑(ぶんしゅう)は営帳(テント)の中に座り、その神色には依然として落莫たる影が差していたが、彼が身に纏う古い甲冑の銅釦(留め具)は、今日すべて私たちの回収隊が溶かした廃鉄を以て頑強に補強されたものだった。ここしばらくの静養の日々と、全営の兵士たちが私に向ける日ごとに高まる狂熱的な視線は、この朴実な戦神をして、潜移黙化(知らぬ間)のうちに私をこの泥舟の不可欠な掌舵人(舵取り)の一人として認めさせるに至っていた。


私は彼の左腕に敷かれていた薬布を静かに解きながら、冷徹な声で低く囁いた。


「将軍。袁本初はあれほど優れた手札(物量)を握りながら、官渡をひとたび突かれれば一触即潰の泥沼に変えてしまいました。いまさら倉亭へ赴いたところで、それは単に面子(メンツ)を死守して苟延残喘(生き長らえる)を演じるに過ぎません。戦うべき時に戦わず、戦うべきでない時に戦う。これこそは兵家の大忌(最大の悪手)にございます。しかし彼が令を下した以上、私たちはただ付き従い、手下としての最低限の義務を果たせば良いのです。天が崩れ落ちるというのなら、ただそれを見送るまで。私たちの手元にある鉄炉の火を絶やさず、全営の弟兄(兄弟たち)の履物の裏に鉄釘を打ち、輜重車(輸送車)の車軸に鉄輪を嵌めておきさえすれば、いざ撤退の刻が訪れたとき、私たちは誰よりも安定して走り、頑強に立ち塞がることができます。いまの私たちにできることは、ただそれだけでございますよ」


文丑は、袁紹に対して一ミリの容赦もない私のこの冷酷な評価を聞き、いささか困惑したようにその口元を歪めると、沙啞(嗄れた)声を響かせて低く笑った。


「お前という奴は……、真にあの四世三公の男の骨の髄までを見透かしているな。その通りだ、実のない虚名など争う必要はあるまい。俺のこの数千の命をお前に丸ごと委ねるが、お前ほどの城府(知恵)があっても、この天の大勢の前には回天の力(抗う術)などなからうな。ただ惜しむらくは、俺のこの七、八千の連中は、いまやハードウェア(装備)こそ補填されたが、その心気(覇気)が未だ完全には回復しきっていない。未だ真の精兵とは呼び難いのが現状だ」


私は、前世にいた頃からずっと脳裏で燻っていた一つの疑惑を、ここでようやく彼に発問(問いかける)する打席(機会)を手に入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。