文丑と黄皮とわたし
「朝っぱらから、お前たちは何をしている? 衆を集めて喧嘩(騒動)を起こし、軍棍でも喰らいたいのか?」
文丑の声は沙啞(嗄れて)いたが、まるで悶雷(地鳴りのする雷)の如くに私たちの耳元で爆発した。
さっきまで不可一世(傲慢)を誇っていた黄皮は、一瞬で顔面を惨白(真っ青に)に変え、撲通その場に膝を突いて平伏し、狂ったように頭を泥の中に打ち付け始めた。
老陳の二つの眼が滴溜溜(ずる賢く)と何度か巡った。彼は頭の中で何ごとかの道理(打算)を完全に弾き終えたらしく、泥のなかを連滾帯爬(這う這うの体)で文丑の足元へと駆け寄っていった。そうして、小隊長がいかに私を嫉妬し、いかに配給を克扣(中抜き)して嫌がらせを繰り返し、さらには私が千辛万苦の末に救い出してきた傷兵たちの隊伍を強引に解体しようとしたかという経緯を、大げさな言葉を交えながら、しかし一文字たりとも嘘のない事実のままに一気呵成に稟報(報告)し去ったのである。
文丑はそれを聞き終えると、鷹隼(鷹)の如き鋭い眼光を、じはじわと私の身体の上へと移動させてきた。私の前腕の上に滲んでいる血汚の鞭痕(鞭の傷)を見つめ、そして私の背後に立ち並ぶ、衣衫襤褸(襤褸を纏い)ながらもその瞳のなかに何物にも動かせぬ堅毅な光を宿らせた五十、六十の兵士たちを一瞥した。この高傲(誇り高き)なる戦神は、静かに一つ大きな息を吐き出すと、頭を巡らせて、地面で小刻みに震え上がっている黄皮を居高臨下に蔑みながら、冷徹に言い放った。
「良いだろう。袁本初が俺を不要と呼び、大行台(上層部)が俺を累贅(足手まとい)と見なすのであれば、俺の麾下に残された七、八千の弟兄たちの元にも、ちょうど形な収屍隊(回収兵)が必要だったところだ。――龍よ、お前はその五十、六十の連中を引き連れて、今日中に俺の中軍大幕(本陣)のすぐ隣へと引越し(移動)を済ませるが良い」
さらに文丑は、戦馬から降りようともせず、ただ手にした馬鞭の先で冷淡にその小隊長を指し示した。
「戻ったら、あの伍長から副千夫長(副千人隊長)に成り上がったばかりの男に、私から挨拶があったと伝えておけ。龍とこの五十、六十の命は、この文丑が直々に貰い受けた、とな」
その言葉をその場に投げ捨てるや、文丑は馬頭を反転させ、狂風の如き激しい馬蹄の響きのなかに、悠然と去っていった。
泥水のなかに膝を突いたままの黄皮は、文丑の背中が迷霧の彼方へと完全に消滅するまで、ただ力なく床へとへたり込んでいることしかできなかった。




