97.秋風と、次の設計図。
秋も深まり始めた、とある休日の午後。
赤樫亭の裏庭にある工房では、いつもとは少し違う光景が広がっていた。
大きな作業台を囲んでいるのは、恒一とロイド、そして革職人のノーラだ。
ちなみに、本日の先生役はノーラである。
「はい、二人とも。まずは型紙を革に写すところからね。慌てなくていいから、ずれないように押さえて」
「了解」
「おう」
恒一とロイドが揃って返事をすると、ノーラは楽しそうに笑った。
「ふふ、なんだか本当に弟子が二人できたみたい」
「今日は実際、弟子みたいなもんだろ」
「そうそう。よろしくお願いします、先生」
「もう、コーイチまで! そんなに改まらなくていいってば」
そう言いながらも、ノーラはまんざらでもなさそうだった。
作るのは、一枚の革を折り畳んで形にする、小さなコインケースだ。縫い合わせる必要がなく、革を切る、磨く、金具を取り付けるといった基本的な作業を一通り体験できるらしい。
実のところ、恒一にとっては以前から少し興味のあったものでもある。
初めてノーラが突撃してきた……もとい、彼女に出会った時ふと思い出した、日本にいた頃の記憶。ホームセンターのクラフトコーナーで、初心者向けの革細工キットを見かけたことがあった。
キーケースや小銭入れなどが作れるそれは必要な材料と道具が一式になっていて、いつか作ってみたいと思いながら、結局手を出さずじまいだったのだ。
それが今や異世界の工房で、本職の革職人から直接教わっているのである。
つくづく、人生何があるか分からないものだ。
「コーイチ、何笑ってんだ?」
「いや、ちょっと昔のことを思い出してさ。実はこういうの、一度やってみたかったんだよ」
「へえ。じゃあ今日は念願叶ったってわけね」
「そうなるな。しかも現役本職の先生付きだ」
「あはは、それなら尚更失敗させられないね!」
ノーラはそう言って、二人の手元を覗き込んだ。
作業台には、あらかじめ用意された型紙と革、それに見慣れない形の刃物や金具が並んでいる。
恒一はもう一度型紙を革の上に置き、位置や写し忘れが無いかを確かめた。
「……これ、革のどの辺りを使ってもいいのか?」
「んー、今回ならできればこっちの少しコシがあるほうかな。同じ一枚でも、場所によって伸びやすさが違うの。ほら、ここ触ってみて」
ノーラが示した部分を軽く指で摘まむと、確かに手触りが少し違った。
「……あ、本当だ。こっちの方がちょっと硬め? でもしっかりしてる」
「でしょ? 小物ならそこまで神経質にならなくてもいいけど、折り目が付くところは気にしておくといいよ」
「なるほどなあ」
隣ではロイドも革を指で押し、感触を確かめていた。
「木なら木目を見るところだが、革にも革の癖ってのがあるんだな」
「もちろん。元は生き物の皮だもの。全部同じにはならないよ」
「そりゃそうか」
「でも、ロイドならそういうの、すぐ分かるようになると思うな。素材を見て、どこに使うか考えるのは慣れてるでしょ?」
「ははっ、そう言われると気が楽だな」
木工と革細工。
扱う素材は違っても、職人が考えることには共通する部分があるらしい。
そんな話をしながら型紙を写し終えると、いよいよ革を切り出す作業に入った。
「刃は寝かせすぎないでね。無理に一度で切ろうとしなくていいから」
「……おお、思ったより抵抗があるな」
「でしょう? だから、刃を動かす方に集中して。革を引っ張っちゃ駄目だよ」
ノーラの手本では、刃が滑るように進んでいた。
ところが、自分でやってみるとなかなか同じようにはいかない。一見厚手の布のように見えて、その実ザックリとした手応えが伝わってくる。もっとも、これも木材同様、種類によって違う訳だが。
恒一は慎重に刃を進め、曲線部分でいったん手を止めた。
「ここ、難しいな」
「ちょっとずつ向きを変えれば大丈夫。焦らないことだよ」
横から覗き込んだノーラが、軽く頷く。
ロイドの方はというと、刃物の扱いに慣れているだけあって、直線部分は実に綺麗だった。
が、しかし。
「ロイド、そこはもう少しゆっくり」
「……あ。くそっ、曲がりすぎた」
「ふふ、油断したわね。木みたいに後から削って直すのは難しいんだからね?」
「分かってるって。……いや、分かってなかったっつー事だな」
少しだけ悔しそうなロイドに、恒一は思わず笑ってしまった。
「珍しいな、ロイドが刃物の扱いで苦戦するなんて」
「うるせえ。お前だってそこの縁、ちょっと波打ってるぞ」
「……んあ、本当だ」
「あはは、まぁ二人とも初めてなんだから。それくらい普通だよ」
ノーラは笑いながら、それぞれの切り口を確認してくれた。多少の歪みはあるものの、どちらも十分に使える範囲らしい。
次は、切り出した革の裏側と縁を整える作業だった。
「こっちの裏側がトコ面。切ったところがコバって呼ぶよ。どっちもそのままだと毛羽立ったりするから、磨いて整えるの」
「へえ……」
ノーラは少量の仕上げ剤を塗り、つるっとした板状の道具で革の裏側を擦ってみせた。
何度か往復させるうちに、表面の毛羽立ちが抑えられて滑らかになっていく。
「おお……あっという間だな」
「面白いでしょ?」
「うん。こんなに変わるんだな」
「革細工って、こういう仕上げで結構差が出るんだよ。あとは使う脂やワックスでも、艶の出かたや革自体の柔らかさが変わったりもするわよ」
「へえぇ……」
今度は二人も、それぞれの革を磨いてみる。力を入れすぎず、同じところを何度も丁寧に。
地味な作業ではあるが、少しずつ見た目も手触りも変わっていくのが面白い。
ロイドなど、途中からすっかり無言になっていた。
「……ロイド、随分真剣だな」
「ん? ああ。こういう仕上げ、嫌いじゃねえんだよ」
「木を磨くのと似てる?」
「似てるところもあるな。けど、力の掛け方が違う。……面白えな」
「ふふふ、気に入ってもらえて何より」
ノーラも嬉しそうだ。
その後はコバの角を軽く落とし、こちらは丸みを帯びた溝のある道具で磨く。満足いくまで磨いたら、折り目を付ける位置を確認し、ホックボタンの金具を取り付ければ完成だ。
「じゃあ、ここに穴を開けて、ホックを付けるよ。位置がずれると閉じた時に歪むから、先に折って確かめてね」
「なるほど。先に完成した形を確認するわけか」
「そういうこと。はいコーイチ、そこ押さえてて」
「はいよ」
穴を開け、金具を通し、専用の打ち具で固定する。コンコン、と小気味よい音がしばらくの間工房に響いた。
そうして、小一時間後。
「……よし、できた!」
パチン、とホックボタンを留める音が完成を告げた。恒一は手の中の小さな革製品を、しげしげと眺める。
立体的に折り畳まれた革は、ホックと金具でしっかり留まり、開けば小銭を入れるための空間が現れる。
切り口には少しだけ不揃いな部分が残っているものの、それもまた味だ。初めて作ったにしては悪くない出来だと思う。
「おお、ちゃんと入れるスペースになってる」
「当たり前でしょ。ちゃんと作ったんだから」
ノーラがくすくす笑う隣では、ロイドも自分の作品をしげしげと眺め、開いたり閉じたりを繰り返す。
「へえ。思ったよりしっかりしてるな」
「ロイドのも綺麗にできたね。最初にちょっと切りすぎたけど、案外そこまで目立たないでしょ?」
「だな」
恒一は完成したコインケースを掌に載せ、思わず頬を緩めた。小さなものだが、自分の手で作ったというだけで、妙に愛着が湧いてくる。
それに、木工とは違う道具の使い方や仕上げ方を知れたのも楽しかった。
「ありがとう、ノーラ。すごく面白かったよ」
「どういたしまして。二人とも楽しそうだったし、教えた甲斐があったよ」
「俺も勉強になった。革を扱うのも、なかなか奥が深いな」
「でしょ? まだまだ色んなやり方があるから、興味があったらまた教えるよ」
「ああ、ぜひお願いしたいな」
そう言ってから、ふと思う。一つ完成したばかりだというのに、気持ちはもう早速「今度は何を作ってみよう」である。
そんな自分に気付き、少し笑ってしまった。
◇◇◇
作業台の上を片付け始めた頃には、窓から差し込む日差しも随分と傾いていた。
昼間は過ごしやすかったものの、日が陰ると空気がひんやりしてくる。
「……おっと、ちょっと冷えてきたな」
恒一が何気なく両手を擦ると、ロイドも窓の方へ目を向けた。
「ああ。ここ最近、夕方になると急に冷えるよな」
「朝も結構寒くなってきたよね。あたしもそろそろ、厚手の上着を出さなきゃな」
ノーラはそう言って、肩を軽く竦めた。
工房の窓の外では、裏庭の木々が秋色に染まり始めている。グラナード山地へ出掛けた頃にも秋の気配はあったが、王都でも季節は着実に進んでいるらしい。
「そういえば、ここって冬はかなり寒くなるのか?」
「そりゃ寒いぞ。母屋と違って、こっちは人がずっといるわけじゃねえからな」
ロイドは工房の中を見回した。
「窓も付けたし、前よりは随分使いやすくなったけどよ。冬場に長く作業するなら、暖房は考えた方がいいな」
「暖房か……」
「ストーブを置くなら、場所も決めといた方がいいぞ。木屑も出るし、火の扱いには気を付けねえとな」
「ああ、確かに」
恒一は作業台の周囲に目を向けた。
木材や端材、工具の置き場所。工房としては随分使いやすくなったものの、火を使うとなれば配置にも気を配る必要がある。
「革も火には気を付けないとね。あんまり近くに置いちゃ駄目だよ」
「そうだな。……となると、置き場所を考えるのも一仕事か」
恒一は小さく唸った。冬の寒さを凌ぐためとはいえ、狭い工房にストーブを置けば、その分だけ作業スペースも減ってしまう。
それに、夏になれば今度は暑さが問題になるだろう。
「うーん……こういう時、エアコンがあればなあ」
ぽつりと零した言葉に、ノーラが首を傾げた。
「えあこん?」
「あ、ああ。えーと、故郷にあった道具でさ。部屋を涼しくしたり、暖かくしたりできるんだ」
「へえ! そんな便利なものがあるの?」
「うん。夏は冷たい風が出て、冬は暖かい風が出るんだよ」
「それはいいな。工房にも欲しいくらいだ」
ロイドが感心したように頷く。
「ただ、こっちで同じものを作るのは難しいだろうなあ。俺も仕組みまでは詳しくないし」
恒一は苦笑した。
エアコン、電子レンジ、冷蔵庫に炊飯器。当たり前のように身の回りにあった日本の家電は便利な道具ではあったが、そもそもエンジニアでもない限り内部の仕組みを詳しく知っているわけではない。
それを差し引いても、電気も冷媒もないこの世界で、同じものを作れるとは思えなかった。
――と、そんな事を考えていたその時である。
「……何それ何それ!」
工房の入口から聞き慣れた声が飛んできた。
振り向けば、いつの間にかアステルが顔を覗かせていた。その後ろにはオルビスの姿もある。
「お。アステル、オルビス。いつの間に来たんだ?」
「今さっき! そしたらなぁんかまた面白そうな話してるじゃーん?」
「すまない、邪魔だったか?」
「いや、ちょうど終わったところだよ」
恒一が答えると、アステルは嬉しそうに工房へ入ってくる。
「んで、エアコンって何? 暖かい風も冷たい風も出るだって?」
「ああ。故郷で使ってた道具なんだけどな」
「へえ」
アステルは作業台に両手をついて、興味津々といった様子で身を乗り出した。
「それって、一つの機構から両方出るのか?」
「そうだよ。切り替えて使うんだ」
「良いな、便利そ……ぅん?」
そこで、アステルがぱちりと瞬きをした。
「……ちょっと待て。冷たい風と、暖かい風?」
「うん」
「それを、一つの機構で?」
「そうだけど……」
恒一が首を傾げる。
するとアステルは、少しの間その顔を見つめていたかと思うと、ふっと口元を緩めた。
「……っはは! コーイチらしいな!」
「えっ、何が?」
「いやいや、何でもない。……でも、それ結構無茶言ってるぞ?」
「え、そうなの?」
「だってさ、冷たい風なら風と水、暖かい風なら風と炎だろ? 三つの属性を使って、しかも複合術式を二種類切り替えるってことじゃん」
「ああ……魔導機構で考えるとそうだな」
言われてみれば、確かにそうだ。
今まで作ってきた魔導機構は、風の魔石を使ったものが中心だった。
ガロンの倉庫の循環機構も、ノーラの工房の換気機構も、基本的には風属性だけで動いている。
換気機構には風量の強弱切り替えを付けたが、それも同じ属性の術式回路で出力を切り替えているだけだ。
ところが、今回の話は違う。
「……なるほど。魔法で考えると、思ってたより難しいんだな」
「そりゃね。正直出来なくはないよ? けど、俺だってそんな複雑なのは作ったことないし」
アステルは肩を竦めた。
その横で、オルビスも静かに頷く。
「付け加えるなら、水と炎は相反する属性だ。同時に使うわけではないにしろ、属性が増えれば、それぞれの術式の扱いも考える必要がある。単純な強弱の切り替えとは違ってくるだろうな」
「だよなあ……」
恒一は腕を組んだ。
日本では当たり前に使っていた道具だが、こちらの技術で再現しようとすると、随分と勝手が違うらしい。
それでも、冬の寒さと夏の暑さを何とかしたいという気持ちは変わらない。
……いや、待てよ。
「……あれ?」
「ん?」
「別に、風が出なくてもいいのか」
思わず呟くと、アステルが首を傾げた。
「どういうこと?」
「いや、欲しいのは冷たい“風”とか暖かい“風”じゃなくて、工房の室内温度を調節する機能ってことなんだよ。あったかい方で言えばストーブな」
「ああ、なるほど?」
「それで思い出したんだけどさ。グラナード山地で野営した時、オルビスが魔石を使ってワイバーンの肉を冷やしてただろ?」
「ああ、冷やしたな」
「あの時、水の魔石で簡単な冷却の術式を使ってたんだよな? それと、応用でテントの中の温度も調節できる……みたいな話ってしてなかったっけ?」
恒一がそう尋ねると、アステルは一瞬考え、それから頷いた。
「ああ、話してた話してた! 夏は水の魔石で涼しくして、冬は炎の魔石で暖めるやつな。うん、旅先でたまにやるやる」
「そう、それ」
恒一は頷いた。
「その聞いたテント内の温度の話、複合じゃなくて単一属性の魔石でってことだったんだよね?」
「ああ、冒険者が覚えているくらいだからな。そこまで複雑なものではないぞ」
オルビスが答える。
「なら、もしかしてこの工房くらいの広さなら、風まで使って温風や冷風を送るほどではなさそう?」
「そうだな……」
オルビスは工房の中をゆっくりと見回した。
「魔石の質にもよるが、それなりの出力が出せるものを使えば、一定の室温を維持するくらいはできるだろう。まぁ流石にテントに比べたらかなり広いし、魔石の魔力を効率よく使うという点においても、簡易術式ではアレだがな」
「おお」
恒一の顔が明るくなる。
部屋全体に風を送り出す必要がなければ、複雑な複合術式を使わずに済むかもしれない。
「なるほどな。そう考えると、随分話が変わるぞ」
アステルは口元に手を当てつつ、少しだけ考え込む。
「水と炎だって、同時に使ったり頻繁に切り替えるんじゃないんだろ? だったらノーラんとこのみたいな切り替え回路は最初からいらないって事だ」
「あー、そうだな?」
涼しくしたいのは夏、暖かくしたいのは冬。なるほど、使うのは全く別々のタイミングだ。
「加熱の術式と冷却の術式を別々に作って、んで邪魔になんないように一個の箱に入れとけば良いだけじゃん? それなら俺でも何とかできそうだ」
アステルが楽しそうに笑った。
「それに、魔石ならまだまだいっぱいあるしな!」
「ああ、あるな」
「……そういやそうだったね……」
恒一は思わず遠い目になった。
以前アステルが採ってきた、高純度の魔石。
彼が“ちょこっとばかし”張り切って狩ってきた様々な属性や大きさのものが、大きめの革袋二つにぎっしりと詰まっていた光景を思い出す。
結局、あれは売らずに、そのままオルビスが預かってくれているのだった。
……改めて考えると、随分と贅沢な材料の使い方になりそうである。今更な気がせんでもないが。
「しかしコーイチ、よく覚えていたな」
「ん?」
「テント内の温度の話だ。あの時、もののついでに少し話しただけだっただろう?」
「ああ。面白いと思ったからさ」
「ふむ……」
オルビスは少し感心したように恒一を見た。
「ホント、俺なんか言われるまで忘れてたのに」
「そうか?」
「そうだって。コーイチって、そういうの本当によく覚えてるよな」
「お前は大雑把過ぎると思うが」
「ちょっとお兄ちゃん?!」
いつもの兄弟の様子に笑いつつも、恒一は少し首を傾げていた。
先日も似たようなことを言われたが、特別なことをしたつもりはないのだ。ただ、興味を持った話だったから覚えていただけ。
「……ま、比較的覚えやすいって言ってたし、何かに使えるかもしれないなぁとは思ってたけどな」
「はは、んでちゃーんと今実際に使おうとしてるわけだ。優秀じゃん!」
そんなやり取りをしていれば、片付けをしながら聞いていたロイドが「しっかしまぁ……」と呟いた。
「そんなことまで魔石でできんのか。魔導灯や、この前みたいに獲物を冷やすのもそうだけど、便利なもんなんだな。あちこちで重宝されるわけだ」
「使い方次第ってところかな。俺達も普段は野営で使うくらいだし。でも、術式さえ覚えれば誰でも安定して使えるってのは強いと思うぞ」
「良いわねぇ。それができたら、冬でもここで作業しやすくなるね。うちやガロンさんのとこの機構みたいに高いところに付けるなら、ストーブを置く場所も考えなくて良いし」
「だよな~。木屑は燃えやすいから、直接火を使わずに済むなら助かる。親父も食いつくんじゃねぇか?」
「それに夏も涼しくできるんでしょ? いいなあ」
ノーラは少し羨ましそうに笑った。
確かに、暑さ寒さを気にせず作業できるというのは、職人にとってありがたいことだろう。
「……よし。じゃあ、まずはどんな形にするか考えてみようかな」
恒一は作業台の上を見回した。
先ほどまで革細工の道具が並んでいた場所は、すっかり片付いている。その隅には、今日作ったばかりの小さなコインケースが二つ。
「……本当に、次から次へと作るものが増えるな」
「いいじゃん、退屈しなくてさ。一つ終わったらまた次に行きたくなる。冒険と一緒だよ」
作業台に肘をついて、アステルが笑った。
窓の外では、秋の風が庭木の枝を揺らしている。
冬が来るまで、あとどれくらいだろう。
だが少なくとも、この工房で作業する人間は、寒さに邪魔されずに済みそうである。




